魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


細工は上々

「……そろそろ本題といこうか。当然、わかっているだろう?お前達の異常性についてだ」

 

 

治癒が終わり、椅子に座り直したガハルドが抜き身の刃のような鋭さを放ち始め、ソウジ達との謁見の時間を取った最大の理由に切り込んだ。

 

 

「お前達が大迷宮の攻略者であり、南雲ハジメはそこで得た力で魔人族の軍を一蹴し、二ヶ月かかる道程を僅か二日足らずで走破するといったアーティファクトを創り出せる……空山ソウジは勇者達、神の使徒の一同を手玉にした魔物を何の苦もなく抹殺する力を得たと……それは真か?」

 

「「ああ」」

 

「そして、そのアーティファクトを王国や帝国に提供する意思がなく、その力を貸す気がないというのも?」

 

「「ああ」」

 

「ふん、個人でそれだけの力を独占するなぞ……許されると思っているのか?」

 

「誰の許しがいるんだ?許されなかったとして、何が出来るんだ?」

 

「それとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()と一緒に、オレ達に喧嘩を売るとでも言うのか?」

 

 

言外に隠れている連中の存在に気づいていると伝えるソウジ。隠れている連中から微かに動揺する気配が伝わってくるが、ガハルドが覇気を強めたことで気配を薄めていく。なので、扉の外の一人に、ピンポイントで全力の殺気をぶつけておく。

 

バタッ

 

扉の外からそんな音が聞こえてくる。その音に天之河達は頭に?を浮かべて困惑し、八重樫とリリアーナはソウジの言葉の意味を理解したことで顔を青ざめさせ、隠れている連中は先程より明らかに動揺した気配が伝わってくる。

 

 

「はっはっは!完全にバレてやがるな。止めだ止め。今やり合えば皆殺しにされちまうな!こいつらは正真正銘の化け物共だ!」

 

 

ガハルドは豪快に笑いながら覇気を収め、周囲の皇帝の部下も剣呑な空気を収めていく。

 

 

「なんで、そんなに楽しそうなんだ?」

 

「俺は“帝国”の頭だぞ?強い奴を見て、心が踊らなきゃ嘘ってもんだろ?」

 

 

ハジメが呆れながらぶつけた疑問に、ガハルドは実力至上主義の帝国人らしい返事で返していく。

そして、ガハルドがハジメとソウジにアタランテ達の内誰か一人寄越せと言ったので、変態のティオを迷わず差し出そうとする。ガハルドはティオの変態ぶりにドン引きし、この話はなかったことにして気を取り直していく。

 

 

「俺としては、そちらの兎人族が気になるんだが?俺の気当たりにも動じないその気構え、最近捕まえた玩具を思いおこさせるんだが、そこのところどうよ?」

 

「玩具なんて言われてもな……」

 

「何の話をしているんだ?」

 

「心当たりがないと?実は、何匹か()()いてな。女と子供なんだが、後で見てみるか?」

 

「興味ないな」

 

 

ガハルドのはったりにハジメはばっさりと返し、ソウジは興味がないと言わんばかりに紅茶を飲む。

 

 

「ほぉ。そいつらは超一流レベルの特殊なショートソードや装備を持っていたんだがな?それに興味はないか、()()()()()()?」

 

「ないな」

 

「……昨日、地下牢から脱獄した奴等がいてな。この帝城へ易々と侵入し、牢屋の入り口を音もなく切り裂いて脱出する、そんな真似ができるアーティファクトや()()な魔法を使える奴は知らないか、()()()()()?」

 

「知らん」

 

「……はぁ……ならいい。神についてどう思う?」

 

「興味ないな」

 

「……何を差し出せば、お前達は帝国につく?」

 

「元の世界に帰る方法。それが叶えば元の世界でお前達を応援してやる」

 

「あ~、もう、わかった。ったく、愛想のねぇガキ共だ」

 

 

ガハルドはガリガリと頭を掻きながら悪態をつく。この会話でハジメとソウジのスタンスが、リリアーナとの昨日の会合で知り得た通りだと理解したからだ。同時にハウリア族と関係があり、脱獄の手引きをしたことも。

そこで時間が来たのか、護衛の一人がガハルドに耳打ちすると、ガハルドはおもむろに席を立った。

 

 

「まぁ、最低限、知りたいことが知れたからよしとしよう。ああ、そうだ。今夜、リリアーナ姫の息子との婚約も兼ねた歓迎パーティーを開く。帝国が誇る歌姫も出席するから、是非、参加してくれ。“勇者”や“神の使徒”の祝福は、真実を知らなければ外聞がいいからな。頼んだぞ?形だけの勇者君?」

 

 

ガハルドは爆弾発言を残して、不敵な笑みを浮かべながら挑発的にハジメとソウジを睨み、その後、颯爽と部屋から去っていった。

ガハルドが去った後、我に返った天之河がリリアーナに婚約の事を詰問すると、同盟国の関係強化の為の結婚だと決然とした表情で明かした。

 

 

「……リリィはその人の事が好きなのか?」

 

「好き嫌いの話ではありません。国同士の繋がりのための結婚で、仕方がないことなのです。ただ、皇太子様には既に幾人もの愛人がいらっしゃるので、その方達の機嫌を損ねることにならないか胃の痛いところですが……」

 

「な、なんでそんな平然としているんだよ!好きでもない、そんな相手との結婚なんておかしいだろ!」

 

 

リリアーナの言葉に、天之河は納得がいかずにしつこく食い下がり、尚も言い募ろうとする天之河を八重樫が止めにかかる。

そんな中、ハジメとソウジは席を立ち、何事もなかったかのように部屋を出ていこうとするも、天之河が突っかかり始めていく。

 

 

「おい!南雲!空山!お前達は、何とも思わないのか!?」

 

「はぁ?何で俺が姫さんの婚約をどうこう思うんだよ?」

 

「“政治”の話にド素人が口を挟んでどうすんだ?第一、オレ達にはやる事がある。下手な事して邪魔したら、容赦なくブチのめすからな?」

 

 

それだけ言って、ハジメとソウジはアタランテ達を引き連れてさっさと部屋から出ていく。その後、お付きのメイドに部屋へと案内され、そのメイドを追い返した後、一時中断していた、“錬成”や“糸”を利用して何処にでも入り込め、足に毒を仕込んだ蜘蛛型偵察ゴーレム“アラクネ”とニフテリーザの設置を再開していく。

アラクネとニフテリーザの設置目的は、制圧作戦のための監視カメラの為である。無論、ハウリア族達が侵入する際は、彼等自身が族専用監視カメラを設置し直すことになっている。

 

 

「トラップの位置はどう?」

 

「……今のところ情報通りだ。何でトラップの位置、その種類を事細かに知っているのか疑問なんだが」

 

「……本人に聞いても、“付き人で使用人ですから♪”とにこやかに返すだけだろうな」

 

「……ん」

 

「だろうな」

 

 

今回、情報提供した人物の顔を脳裏に思い浮かべる。その人物は直接的に手を貸すことはしないが、情報提供といった()()()()()()()()()を行うことを、とある条件を提示して自ら申し出たのだ。

 

 

「しかも理由を聞いたら、『知っても知らなくても大差のない情報を与えて、ちょっとした我儘を通せるなら、お安いものです』でしたし……」

 

「ああいう者は敵に回すと厄介なタイプじゃのう。あの二人が敵に回ると、制圧は著しく困難になるじゃろうて」

 

「ですが、今回はそのお二方は敵に回さなくて済みそうですね」

 

「……確かにな。……ハジメ、連絡が来たから少し中断する」

 

「……ああ、わかった」

 

 

ハジメが頷いたのを尻目に、ソウジはニフテリーザの操作を中断し、自身に届いてきた“念話”に応じていく。

 

 

“お~い、聞こえるかぁ~?”

 

 

素の口調で通信してくるアリアに、ソウジは淡々と返し始めていく。

 

 

“……聞こえてるぞ歌姫”

 

“おお、マジでお前の声が脳内に聞こえてきた!本当に便利だな!この“念話石”ってのは!”

 

“……メイドから話は聞いてんだろ?”

 

“もうちょっと会話を楽しみてぇってのに……今日のパーティーはスッゲェ嵐になるんだろ?取り敢えず、アタシには煙でもかけてくれりゃあ、寝たふりして不干渉でいてやるから、あいつらにそう伝えておけよ?”

 

“……本当にいいのか?下手すりゃ国への反逆だぞ?”

 

“別に構わねぇよ。皇帝の求婚と皇太子の愛人勧誘が本当にしつこくてウゼェから、その余裕がなくなれば最高だからな!!父上と母上も、今日のパーティーには不参加だしな!”

 

 

通信越しでもドヤ顔しているのが容易にわかるアリアの声色に、ソウジは思わず苦笑してしまう。

 

 

“あ~、でも、あの皇太子、リリアーナ王女と結婚するんだったな?マジで大丈夫かな?あの王女”

 

“……どういう意味だ?”

 

“アタシが殴り飛ばした時、あのクソ太子は『絶対、リリアーナ共々、苦痛と絶望、快楽で屈服させてやる』とかほざいてやがったからよ。まぁ、金○蹴っ飛ばして以降は黙りになったけどな!”

 

 

本当に面倒な情報ばかり提供するアリアにソウジは嘆息し、ハジメに“念話”を繋げる。

 

 

“……どうしたソウジ?”

 

“歌姫から面倒な情報が来た。念の為、ハイリヒの姫さんの様子を確認してくれ”

 

“姫さん?姫さんなら、設置の道中で帝国の皇子らしき野郎に襲われているところに遭遇したぞ?それで、そいつの息子を毒で再起不能にしてやったが?”

 

“……色々な意味で不要だったな”

 

“?……ああ、そういう事か”

 

“そういう事だ”

 

 

ソウジはそう言ってハジメとの“念話”を切る。それを皮切りに黙っていたアリアの声が再び聞こえ始める。

 

 

“あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!あのクソ太子の息子が死んだか!!マジで最高だな!!あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!”

 

 

声からして、完全に笑い転げているようである。相当嫌われているなぁと思いつつ、ソウジはそろそろ会話を打ち切ろうとする。

 

 

“それじゃ、そろそろ切らせてもらうぞ”

 

“あっははははははッ!!!!……ああ、わかったよ。それじゃ、パーティー会場で会おうぜ”

 

 

その言葉を最後にアリアからの通信が切れる。ソウジはハウリア族達に先の会話を伝えた後、ニフテリーザの設置を再開していくのであった。

 

 

 

 




「それと、歓迎パーティーで将来の側室、皇后候補として雫、歌姫―――」

ズドドドドドドドドドドドドッ!!ズドンッ!!ドゴォオオンッ!!!!

パラ、パラ、パラ……ガラッ……

「「「「「…………」」」」」

「だから、いい加減諦めてください」

「「へ、陛下ぁあああああああああああああああ―――ッ!?」」

空中コンボの後、止めの空中回し蹴りを喰らい、壁を貫通しながら颯爽とその場から消えた皇帝の図。

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