日がすっかり落ち、辺りが暗闇に包まれ、歓迎パーティーが帝城で開催される中―――
―――HQ、こちらアルファ。Cポイント制圧完了
―――HQ、こちらデルタ。奴隷の監視用兵舎への爆弾の設置完了。次の設置場所へ向かう
―――HQ、こちらベータ。D2ポイントの制圧完了
―――HQ、こちらチャーリー。全兵舎への睡眠薬散布完了
―――HQ、こちらエコー。皇子、皇太孫並びに皇女二名確保
その煌びやかなパーティー会場で、ソウジは営業スマイルで話しかけてくる帝国貴族と会話しつつ、次々と入ってくるハウリア達の報告を聞いていた。
パーティーが開催されるまでの間に、主な魔法トラップはソウジ達の手によって気付かれることなく解除済みだ。ハウリア達には魔法トラップを探査できるゴーグル型アーティファクト“フェアグラス”を配備しているので、残りの魔法トラップの回避は可能となっている。
さらに、“高速魔力回復”による魔力タンクと“魔力放射”のコンボで持ち主の魔力の有無に関係なく使えるアーティファクトをハジメが開発し、ステータスプレートの血の認証機能も盛り込んだ、使用者しか使えない“改良版念話石”もハウリア達に配備済みだ。これによって、ハウリア達は綿密な連携を取ることが可能となっており、帝城制圧は着々と進んでいた。勿論、この魔力タンクはフェアグラスとハウリア達に渡したゲートキー、ゲートホールにも組み込んである。
そして、“高速魔力回復”、“魔力放射”、さらに“魔力操作”を主軸として組み込んで作り上げた、着用者の直接の魔力操作を可能とするライダースーツ型アーティファクト“レンジャースーツ”、“魔衝波”と“風爪”、“魔法剣術:限定複合魔法”に“再生魔法”を組み込んだ新たな二刀小太刀“衝牙兎丸”をカム専用装備として贈呈してある。レンジャースーツは本人の魔法資質に左右されるので、魔力を持たない者にはアーティファクトが普通に使えるようになるくらいだ。ちなみに、このレンジャースーツは見た目が不評だった為(理由は“恥ずかしい”だけ)、お蔵入りになっていたアーティファクトである。
そんな事が裏で起きているとは知らない帝国の武官と文官達はパーティーを楽しみ、武官達は積極的にソウジ達に話しかけていく。何せ、“神の使徒”にして“勇者一行”。世間一般では【オルクス大迷宮】(ダミー)の攻略階層を破竹の勢いで更新した強者なのだ。“強さ”が基準の帝国人である彼等からすれば何とも興味をそそる存在であり、個人的な繋がりを持ちたいという下心も満載である。
もっとも、ハジメとソウジに話しかけている武官達は、それだけでなく、パーティーが始まってから傍を離れない美貌の女性陣にも強い興味があるようだが。
ジークリンデはエンパイアラインの青いロングドレスに身を包んでおり、彼女の二つの梨が見事に強調され、チラチラと視線を泳がす男性陣が続出している。
皿に盛った料理を上品に食べているアタランテは、スレンダーラインの翠のセミロングドレスを纏っており、無駄のないスラリとした体型に見事にマッチしていた。本人のクールな美貌と合わさって見惚れる者が続出する始末である。
ちなみに、恋人のドレス姿を見たソウジはユエの純白のドレス姿を見たハジメ同様、理性が飛んで濃厚なキスをかまし続ける事件が起きたが、詳しい話は割愛させていただく。
とにかく、想い人の心を奪いたいという原動力から、完全に主役より目立つほど着飾っているアタランテ達に、帝国の貴族達は興味深々なのである。
ちなみに、パーティーが始まってから演奏に合わせて歌っているアリアは、赤いミニスカートドレスを纏っている。普段はサイドテールに纏めている髪をおろし、少し大人っぽくなっている。
―――HQ、こちらデルタ。全ポイントの爆弾の設置完了
―――HQ、こちらインディア。Mポイント制圧完了
ハウリア達も順調に帝城落としの準備が進んでいる中、会場の入り口から黒いウェディングドレスを纏ったリリアーナと苦虫を噛み潰したような表情の皇太子―――バイアス・D・ヘルシャーが入場してくる。
リリアーナとバイアスの挨拶回りとダンスタイムでも、リリアーナは義務的な感じでバイアスと踊り、一曲終わるとさっさと挨拶回り進んでしまう始末であった。
―――HQ、こちらロメオ。Pポイント制圧完了
―――HQ、こちらタンゴ。Rポイント制圧完了
「……リリィらしくないね。いつもなら、内心を悟らせるような態度は取らないのに……」
「……まぁ、あんなことがあったんだ。姫さんも色々思うだろうな」
「……あんなこと?」
ハジメの呟きに、ユエ達が首を傾げてハジメを見、ソウジは同意するように肩を竦める。そんなソウジの態度を見たワインレッドのロングドレスを着た八重樫が胡乱な眼差しと共に話しかける。
「空山君。絶対、何か知っているでしょ?一体、南雲君はリリィに何をしたの?」
「……ハジメは姫さんに何もしてない。皇太子に性的に襲われそうになった姫さんを仕込み中に助けただけだ」
「……ナンデスッテ?」
「ハジメくん!?どういう事か説明して!」
八重樫と香織を筆頭に、驚愕の眼差しを一同はハジメとソウジに向けている。
最初はアタランテ達をダンスに誘おうとした男連中がいたのだが、現在はハジメとソウジの“威圧”で追い払っていたので、周囲はアタランテ達と八重樫だけだ。
天之河と谷口はダンスの最中、坂上はひたすら食っている。
「……ユエ、一曲踊らないか?」
「んっ……喜んで」
説明を求められたハジメはユエをダンスに誘って、その場から逃げていった。なので、説明要求の視線がソウジに集中していく。
ソウジは周りの視線が踊り始めたハジメとユエに向いた事を確認し、本当に面倒そうな表情で自身が知る限りのことを話していく。
「……歌姫から皇太子がどういう奴か言っていたからな。それでハジメに姫さんの様子を確認してくれと言ったら、毒で皇太子を気絶させ、奴の息子を再起不能にしたと言っていた。これ以上の事は知らん」
「……一応、リリィの危機を南雲君が助けたってことね」
「ああ。ハジメは香織の友人、という理由で助けただけだろうがな」
「それはソウジくんも同様だよ。わざわざハジメくんにリリィの様子を確認するよう言っていたし」
「知ってて黙ってたのが後でバレたら、絶対に面倒になるからだ。それ以上でもそれ以下でもない」
憮然と返すソウジに香織は苦笑しつつ、そのままシアとティオの二番手争いへと参加していく。説明要求から解放されたソウジは、そのままアタランテをダンスに誘おうとしたところで、声が掛けられる。
「空山ソウジ様、私と一曲どうですか?」
そう言って手を差し出してきたのはアリアだった。
「歌姫……もう歌わなくていいのかよ?」
「私もパーティーは楽しみたいものです。この後の
正直、アタランテと踊りたかったのだが、アタランテも仕方ないといった感じで苦笑したので、本当にできた恋人だとソウジは思いつつ、アリアの手を取って、ダンスに興じていく。
向こうではリリアーナがハジメをダンスに誘い、見事にスルーされて興奮したティオの耳をジークリンデが引っ張り、その痛みに変態がさらに興奮し、従者が疲れたように溜め息を吐いて耳を引っ張って連れていく光景は無視である。
アリアは立場上、ダンスに嗜みがあり、ソウジは先のノインツェーンとの戦いで強化された“瞬光II”を利用し、踊りを観察していたことでそれなりに様になっていた。
「……なぁ、歌姫」
「なんでしょうか?」
公の場からなのか、それとも、素の口調を知らない天之河達がいるからなのか、相変わらずの猫かぶりな口調のアリアに、ソウジは少しだけ気になっていたこと聞くことにする。
「何で歌姫なんかやってんだ?わざわざ口調まで誤魔化して」
「歌うのが気持ちいいからですよ。やりたいことをやれるというのは気持ちのいいものでしょう?後、この口調なのは“歌姫”としての印象からですよ。本国はまだしも、他国の方々は知りませんからね。もっとも、フィアとの勝負で負けた事が一番の理由ですが」
アリアはチラリと、料理やワインを運んでいる人間モードのフィアに視線を送った。対するフィアは相変わらずのにこやかな笑みだ。
「本当に仲が良いんだな。帝国は亜人奴隷が常識なのにな」
「亜人奴隷は“弱者”故の結果です。奴隷が嫌で対等になりたいのでしたら、“強者”とならればなりません。フィアは“強者”なのですから、対等に扱うのが私の常識です。ちなみに、私は“弱者”を傍に置く趣味はありません」
言外に、ウチに奴隷という“弱者”はいないと伝えるアリアに、ソウジは思わず苦笑してしまう。
―――HQ、こちらヴィクター。Sポイント制圧完了
―――HQ、こちらイクスレイ。Yポイント制圧完了
「もっとも、今日はその“弱者”から“強者”となった者達が国に牙を向くでしょうが。“強者”とふんぞり返っていた彼等がどんな気分となるのか、楽しみです」
「……本当に帝国の人間なのかと疑わしくなるな」
「喧嘩は殴り殴られです。国が殴ったのですから国が殴られるのは当然の道理ですよ。もし、私と私の家族に本格的に危害を加えれば、全力で反撃させてもらいますが」
「……訂正。お前は立派な帝国の人間だわ」
「フフッ、そうですか」
そうして、曲が終わり、ソウジとアリアは互いに一礼し、それぞれの場所へと戻っていく。
……ハジメはジト目で迎えられ、ソウジはブリザードが見えるにこやかな笑顔で迎えられたが。
―――HQ、こちらズールー。Zポイント制圧完了
―――全隊へ通達。こちらHQ、全ての配置が完了した。カウントダウンを開始します
ハウリア達の準備が全て終わり、カウントダウンに突入する。同時にガハルドが壇上に上がり、スピーチを始めていく。
「さて、まずは、このパーティーに集まってもらったことを感謝させてもらおう。色々とサプライズがあって実に面白い催しとなった」
ガハルドは意味ありげな視線をハジメとソウジに向けるが、本人達は当然知らんふり。それに対してガハルドは益々面白げな表情となる。
同時に念話石から決然とした声が響く。
―――全隊へ。こちらアルファワン。これより我等は、迫害の歴史に終止符を打ち、この世界の歴史に名を刻む。地獄へ落ちるか未来へ進むかの運命の交差点だ。全てはこの一戦にかかっている。遠慮容赦、情けは一切無用。我等の爪牙を奴等に見せつけてやろう
―――十、九……
―――ボス、教官。この戦場へ導いて下さったこと、感謝します。そして、貴女の助力にも
―――礼は不要ですよ。感謝しているのでしたら、無事に成功させて、
―――五、四……
―――もちろんだ……諸君、気合いを入れろ!ゆくぞ!!!
―――「「「「「「「「「「「おうっ!!!」」」」」」」」」」」
―――二、一……
「―――この婚姻により人間族の結束はより強固となった!我等、人間族に栄光あれ!」
「「「「「「「「「「栄光あれ!!」」」」」」」」」」
―――ゼロ。ご武運を
その瞬間、会場から全ての光が消え失せ、闇へと呑み込まれた。
「おや?もう品切れですかな?」
「こっちも完食されていますな……」
「というより、とある場所を中心に料理が消えていっているような……?」
「……♪」
「アタランテさんはあんなに食べているのに、太らな―――ぐふっ!?」
「鈴!?しっかりして!後、空山君と南雲君も何で料理を容器に詰めているの!?」
「急いで料理を作って下さい!予想より料理がなくなっていっています!」
「十人前、只今出来上がりました!」
「フィアさん!今すぐ厨房を手伝って下さい!」
「ふふっ、承りました」
約一名の大食いと約二名のお持ち帰りにより、戦場となる厨房の図。
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