魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


皇帝に牙を向く

「なんだ!?なにが起こった!?」

 

「いやぁ!なんなの一体!?」

 

 

一瞬で五感の一つを奪われた帝国貴族達の混乱と動揺の声を聞きながら、ソウジ達はリリアーナを羽交い締めにして瞬時に回収したハジメと共に会場の隅っこへと集まっていく。ハジメの隣では、ブルブルと震えている()()()シアがくっついている。

 

 

「狼狽えるな!魔法で光をっがぁ!?」

 

「どうしたっギャァ!?」

 

「何が起こっあぐっ!?」

 

「あれ……急に、眠……く……」

 

 

比較的冷静だった者が指示を出しながら魔法で光球を作り出そうとするも、直後に悲鳴と共に倒れる音が響き、一人だけそんな声と共に倒れる音が響く。同時に、混乱する貴族達が次々と悲鳴を上げていく。

 

 

「落ち着けぇ!貴様等それでも帝国の軍人かぁ!」

 

 

異様な光景に場が再び混乱に陥る中、ガハルドの覇気に満ちた声が暗闇の中で響き渡る。その声で帝国貴族達の精神は強制的に建て直されたが……

 

ヒュ!ヒュ!ヒュ!

 

 

「っ!?ちぃっ!」

 

 

そのガハルドに目掛けて、クロスボウから放たれた無数の矢が四方八方から襲いかかった。絶妙にタイミングをずらし、実に嫌らしい位置を狙って正確無比に間断なく飛来してくる矢を、ガハルドは儀礼剣で捌くも、防戦一方に追い込まれる。それでも、真っ暗闇の中で風切り音だけで矢の位置を掴むのは流石であるが。

そして、ガハルドの喝と、ガハルドが襲撃されていることから冷静さを取り戻した者達が灯りの火球を作り出すことに成功し、衛兵を大声で呼ぼうとするも―――

 

 

「ッ!?何っげぶっ!?」

 

 

背後からの黒装束に身を包んだハウリア族の漆黒の小太刀の一閃によって、首が一瞬で刈り取られ、火球を作り出していた者達の頭が宙を飛んだ。

 

 

「ひぃぃっ!?」

 

「だ、誰かぁ!助けてっああっ!?」

 

 

火球が消え、辺りは再び暗闇に包まれるも、火球が消滅する寸前に垣間見えた、ウサミミを生やした黒装束の首を飛ばす光景を目の当たりにしたことで、令嬢と文官、前線を退いた軍の将校達は無様に腰を抜かし、何も出来ないまま、ハウリア達に手足の腱を切られて倒れ伏していく。

それでも、護身用の懐剣で襲撃を凌いだ猛者達が仲間の気配を頼りに陣形を組みだし、背中合わせとなって中央に据えた術者を守っていく。

 

ガハルドの方も、近くにいた者達が陣形を組んでガハルドの背後を守り出したことで余裕ができ、矢を片手間に叩き落としながら詠唱を始めていく。

とんでもない詠唱速度で瞬く間に作り出された十近い火球。それは一瞬で会場に広がり、始源の輝きで闇を照らしていくも―――

 

 

「なんだ?これは……」

 

 

目の前に転がってきた金属塊―――閃光手榴弾にガハルドの側近を務める男が訝しんで正体を確かめようと接近していく。

 

 

「よせ!近づくなっ!」

 

 

猛烈に嫌な予感がしたガハルドが咄嗟に静止の声をかけるも無意味。閃光手榴弾は側近が飛び退こうとした瞬間に強烈な光と莫大な音を放ち、五感の二つを一気に奪っていった。

 

 

「がぁあ!?」

 

「ぅうう!」

 

「目がぁ!?」

 

 

視力を一時的に失い、聴覚も失った彼等にハウリア達は容赦なく手足の腱を切り裂き、詠唱封じの為に舌まで裂かれ、大きな魔術を行使しようとした者は首を飛ばされていく。

だが、ガハルドだけは目と耳を潰された状態にも関わらず、極限まで気配を殺したハウリア族二人の斬撃を凌いだのである。

 

その事実にガハルドに襲いかかったハウリア族二人は目を見開くも、すぐに動揺を殺してガハルドに再び襲いかかろうとする。

それより早く、ガハルドは震脚による衝撃とともに横殴りの斬撃を正確にハウリア族二人に叩き込み、小太刀で防いだハウリア族二人を弾き飛ばす。

 

 

「!」

 

 

直後、ガハルドは直感で背後に振り返り、襲いかかってきた斬撃を儀礼剣で受け止める。

その斬撃―――衝牙兎丸で襲いかかったカムは直ぐ様もう片方の衝牙兎丸の柄尻を衝牙兎丸の峰へと叩き付ける。

直後、衝牙兎丸から凄まじい衝撃波が炸裂し、受け止めていた儀礼剣を真っ二つに粉砕した。

 

 

「なにぃッ!?」

 

 

衝撃波によって吹き飛ばされたガハルドは驚愕の声を上げる。その隙を狙うようにクロスボウの矢が次々と飛来していく。

 

 

「散らせぇ!“風壁”!」

 

 

ガハルドは二言で発動した風の防壁で飛来していた矢を防ぐが、漆黒の小太刀を持つハウリア族達がガハルドへと肉薄していく。

丸腰となったガハルドに小太刀の一閃が容赦なく襲いかかるも―――

 

ギンギンギン!

 

 

「「!?」」

 

 

ガハルドは隠し持っていた、二振りの()()()()()()()()()()()()()で襲いかかってきた斬撃を全て捌いたのだ。

 

 

「撃ち抜けぇ!“炎弾”!」

 

 

捕まった際に押収された自分達の武器を携帯していたことに驚く暇も与えず、ガハルドは小太刀を構えたまま、二言の詠唱で“炎弾”を一度に十も作り出し、“風壁”で感じ取った矢の射線に向かって一気に掃射した。

 

 

「爆ぜろぉ、“炎弾”!」

 

 

天井から援護していたハウリア達は、炎弾を回避する為に既にその場から離脱していたが、炎弾の大爆発による衝撃と熱波で足場が完全に崩れ落ちてしまい、次の狙撃ポイントへの移動時間が僅かに出来てしまう。その隙をガハルドは逃さない。

 

 

「舞い踊る風よ!我が意思を疾く運べ、“風音”!」

 

 

ガハルドは連絡・諜報用の風系統の補助魔法“風音”を発動し、ハウリア達の微妙な風切り音に身を委ね、躊躇うことなく踏み込んで斬撃を繰り出していく。

ガハルドの実力を身を持って実感したハウリア達は、口元に凄惨な笑みを浮かべ、濃密な殺気を噴き出していく。そして、凄まじい連携でガハルドに襲いかかっていく。

 

 

「ククク、いい殺気を放つじゃねぇか!ハウリアぁ!」

 

 

四方八方からのヒット&アウェイを基本とし、絶技といって過言ではない連携攻撃による鋭い一閃と突きが殺到する。その斬撃をあっさりと使いこなした二刀の小太刀で弾きながら、ガハルドは楽しげに叫ぶ。

ハウリア達は、ガハルドの叫びを無視して、ひたすらに殺気を高めていく。

 

 

「どうした?ビビって声も出せねぇのか!?」

 

 

魔法によって少しだけ聴力が回復しているガハルドの叫びに、カムが無機質な声でポツリと返す。

 

 

「戦場に言葉は無粋。喋る暇があるなら切り抜けてみろ」

 

「上等ぉ!」

 

 

衝牙兎丸の風の刃を紙一重でかわしながらガハルドは楽しげに返す。

暗闇に火花が舞い散り、激しさを増す剣戟は嵐の如く。しかし、双方の刃は互いの体に届かない。

倒れている者達は、何故、外から誰も駆けつけないのかと苛立つ。会場の外は九割がハウリア達に制圧され、残りの一割は、現在、こっそりと会場から抜け出した()()()シアが足止めして、蹂躙しているからである。

 

元々、シアが足止めに参加するのは予定していなかったのだが、グリッドの存在からシア自身が落とし前をつける為に計画を少し変更したのである。

そうとは知らない彼等は、兵士達に苛立ちを向けながらも、自分達の王の勝利を祈る。

だが、その祈りは裏切られる事となる。

 

 

「っ!?なんだっ?体が……」

 

 

ガハルドが突如ふらつき始め、急速にその動きを鈍らせた。ハウリア達は「待っていましたぁ!」と言わんばかりに四方八方から飛びかかっていく。

ガハルドは何とか弾き返そうとするも、絶妙なタイミングで放たれた矢がガハルドの脹ら脛を深々と貫いた。

 

 

「ぐぁ!」

 

 

ガクンと膝を折るガハルドに、二刀の衝牙兎丸を逆手に構えたカムが肉薄する。そして―――

 

 

「がぁ!」

 

 

二刀、六閃。

独楽のように回転しながら振るった衝牙兎丸はガハルドの手足の腱を的確に捉えて切断し、戦闘中に確かめていた、隠し持っていた魔法陣とアーティファクトを破壊、または弾き飛ばした。

 

手足の腱を切られたガハルドは小太刀を床に落とし、その体をゆっくりと傾かせ、ドシャッと音を響かせてうつ伏せに倒れこんだ。

ヘルシャー帝国皇帝の敗北。

その事実がパーティー会場を支配し、暗闇と静寂が辺りを漂っていく。

 

 

「ふん、魔物用の麻痺毒を盛ってここまで保つとはな」

 

「くそ……最初からそれが狙いだったか」

 

 

衣服に仕込まれた残りの魔法陣とアーティファクトを全て取り除かれ、ハウリア族が施した薬で視力と聴力が回復した死に体となったガハルドが、カムのタネ明かしに悪態をつく。

そんなガハルドに、ハウリア族の装備の一つであるフラッシュライトのようなものが向けられ、スポットライトのようにガハルドの頭上から光を降り注がせた。

 

 

『どどどどど、どういうことですか!?こここ、これは!?にゃにゃにゃ、にゃぐもさん、しょにゃやみゃさん!?いいい、一体ぃ!!』

 

 

ガハルドの倒れ伏す姿に、口元をハジメに防がれているリリアーナは動揺を露にハジメとソウジに問いかけるもハジメはスルー。ソウジも当然スルーして、顔をしかめている勇者(笑)パーティーを見張っている。もし、感情任せにカム達を邪魔しようものなら、その瞬間に斬撃を飛ばす心算である。

 

最も、それを察している八重樫が冷や汗を流して天乃河とソウジを交互に視線を向けているので、いざとなったら真っ先に八重樫が静止するだろうが。

そんな中、スポットライトがガハルドの直ぐ近くに当たる。

 

そこで腕を組んで佇んでいるのは、レンジャースーツの上に黒のバトルベストとズボン、ロングブーツを纏い、腰の後ろに衝牙兎丸を交差するように携帯し、身体にピッタリとフィットした、レンジャースーツごしで鍛え抜かれた筋肉が存在感を放つ、ハチマキまでした、どこぞの特殊部隊の男のような格好をしたカムであった。

 

 

 




「フッ……ボスが作ったこのスーツの使用権は私のものだ」

「流石、族長だぜ……」

「だが、いいのか?多分、“キモい”という感想が周りからきかねないぞ?」

「心配無用ですよ教官」

……数分後。

「どうだ?ハウリア族の諸君」

「流石族長!格好いいです!!」

「見事なアクセントです、族長!」

「なら、このブーツとベストを追加しよう」

「「「「おおおおおおおおおっ!!!!」」」」

「流石ボス!!わかってらっしゃる!!」

(業が深いな……やっぱ……)

中二病の深刻さを深々と感じるソウジの図。

「…………(シクシクシクシク)」

「……シア、強く生きて」

「大丈夫ですよシア様。……慣れますから」

「全然大丈夫じゃないですぅ!!!」
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