魔王の剣   作:厄介な猫さん

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解禁されたドラマCDの変態……流石としか言えませんね
てな訳でどうぞ


テロリスト・ハウリア

「さて、ガハルド・D・ヘルシャーよ。生かされている理由はわかっているな?」

 

「ふん、要求があるんだろ?言ってみろよ」

 

「……減点だ。立場を弁えろ、ガハルド」

 

 

ガハルドの横暴な態度に、カムは機械のような声色で返した直後、別の場所にスポットライトが当てられる。そこにいた、手足の腱を切られ、詠唱封じのために口元も裂かれた男が、スポットライトの外から伸びてきた腕に髪を掴まれて膝立ちにされ、首が斬りとばされた。

 

 

「テメェ!」

 

「減点」

 

 

ガハルドが怒声を上げるも、カムは機械じみた淡々とした声を発するだけ。そして、再び別の場所にスポットライトが当てられ、同じように首が刈り取られる。

 

 

「ベスタぁ!お前ら、調子に―――」

 

「減点」

 

 

首を飛ばされた男が側近だったからか、ガハルドは男の名前を叫び、悪態を吐こうとするも、淡々とした声色と刈り取られる首で返される。

 

 

「…………」

 

 

ガハルドはギリギリと歯ぎしりして押し黙り、人を殺せそうな眼光でカムを睨み付ける。そんな眼光をカムは柳に風と受け流し、淡々とガハルドに話しかける。

 

 

「そうだ。今の自分の状況を理解しろ。判断は素早く、言葉は慎重に選べ。この会場で生き残っている者達、この場にいない者達、全ての命はお前の言動と決断にかかっている」

 

 

その言葉と同時に、スポットライトの外から伸びてきた手が素早くガハルドの首に、細め鎖と先端に紅い宝石がついたネックレスかけられる。

 

 

「それは“誓約の首輪”。貴様が口にした誓約を、命を持って遵守させるアーティファクトだ。一度発動すれば、貴様と、貴様に連なる魂を持つ者は生涯身に着けていなければ死ぬ。当然、誓約を違えてもな」

 

 

言外に、皇帝の人間は確保して、同じアーティファクトが掛けられていると伝えるカム。ガハルドもそれを察して苦虫を万匹くらい噛み潰したような表情となっている。

 

 

「誓約……だと?」

 

「誓約の内容は四つ。一つ、現奴隷の解放。二つ、樹海への不可侵、不干渉の確約。三つ、亜人族の奴隷化・迫害化の禁止。四つ、その法定化と法の遵守。わかったら、“ヘルシャーを代表してここに誓う”と言え。それで発動する」

 

「断れば?」

 

「今日を持って帝室は終わり。要求を呑むか、我等ハウリア族が滅びるまで首刈りの暗殺劇が続き、帝国の夜に安全の二文字はなくなる」

 

「帝国を舐めるな。俺達が死んでも、そう簡単に瓦解しない。確実に万軍を率いて樹海へ進行し、今度こそフェアベルゲンを滅ぼすだろう。今なら、まだ間に合う。奴らの力を借りたのだとしても、短時間で帝城を落とした手腕と、先の戦闘……やはり貴様等を失うのは惜しい。奴隷が不満なら、あいつの提示した取引に加え、俺直属の部隊として優遇してやってもいいぞ?」

 

「信じるに値しないな。貴様等が今まで亜人にしてきた所業を思えばな。それこそ“誓約”してもらわれば」

 

「だったら、戦争だ。俺は絶対、誓約なんぞ口にしない」

 

 

どうだ?と言わんばかりに口元を歪め、カムに挑発的な視線を送るガハルドに、カムはどこまでも機械的に接する。

 

 

「そうか。……減点だ」

 

 

カムが再度そう発した直後、スポットライトの光が当たり、そこにいたバイアスが照らし出される。

 

 

「離せぇ!俺を誰だと思ってやがる!この薄汚い獣風情がァ!皆殺しだぁぐぇ―――」

 

 

バイアスは喚き立てるも、途中で首が刈り取られ、あっさりと亡き者となった。

 

 

「あれがお前の後釜か……全く酷いものだな」

 

「……言った筈だ。皆殺しにされても、俺は誓約を口にしないと。怒り狂った帝国に押し潰されろ」

 

「息子が死んでその態度か。まぁ、皇帝の座すら実力で決め、その為なら身内同士の殺し合いを推奨するお前に、愛情など皆無なのだろうな」

 

「わかっているなら、無駄なことはやめるんだな」

 

 

どこまでも強気なガハルドに、カムはやはり淡々と接する。

 

 

「本当に誓約はしないか?これからも亜人を苦しめ、我等ハウリア族を追い続けるか?多くの犠牲を出してでも?」

 

「くどい」

 

「そうか……なら、仕方ない。“デルタへ。こちらアルファワン、ポイントB3に繋げろ”」

 

 

カムの突然の意味不明な言葉に、ガハルドは訝しげな表情となる。しかし、その直後に響き渡った、腹の底に響くような大爆発の轟音に顔色が焦燥に変わる。

 

 

「っ。なんだ、今の音は!?」

 

「大したことではない。奴隷の監視用兵舎を爆破しただけだ」

 

「爆破、だと?……!?まさか!」

 

「ふむ、中に何人かいたか……取り敢えず数百単位の兵士が死んだ。ガハルド、お前のせいでな」

 

「貴様のやったことだろうが!」

 

「いいや、お前が殺ったのだ、ガハルド。お前の決断が兵士の命を奪った。()()()()()()()()()()()誓約をしないと決断したお前がな」

 

 

カムのその言葉に、ガハルドはそれだけで人を殺せる程、凄まじい殺気が伴った眼光でカムを睨み付ける。当然、カムは全く怯まず、靡かない。

 

 

「“デルタへ。こちらアルファワン、ポイントH2に繋げろ”」

 

「おい!ハウリアっ!」

 

 

カムが再びガハルドのわからない言葉を呟き、再び何処かを爆破する気だと察したガハルドは制止の声を上げるも虚しく、二度目の轟音が響く。

 

 

「……どこを爆破した?」

 

「治療院だ」

 

「なっ!?」

 

 

帝城ではなく帝都にある治療院が爆破されたことに顔色が再び変わるガハルド。対してカムは相変わらずの淡々とした声色で言葉を返していく。

 

 

「安心しろ。爆破したのは軍の治療院。死んだのは兵士と軍医だけだ。……もっとも、一般の治療院、宿、媚館、住宅街、仮設住宅区にも仕掛けは施してある。爆破してほしいリクエストはあるか?」

 

「堕ちるとこまで堕ちたかハウリア!一般人に手を出してんじゃねぇ!」

 

「亜人というだけで迫害してきたお前達が何を言っているのだ?第一、樹海を焼いておいてそれはないだろう。加えて、言った筈だ。“全ての命はお前の言動と決断にかかっている”とな」

 

 

若干、呆れ気味に出されたカムの正論に、最初から帝都の民が人質に取られていたのだと悟ったガハルドは、歯をくいしばってカムを鬼の形相で睨み付ける。そして、カムは容赦なく命令を下す。

 

 

「“デルタ、次はポイントA2とT1だ”」

 

「まてっ!」

 

 

ガハルドは止めようと声を上げるも、二つの轟音が同時に響き渡る。帝城に続く跳ね橋と帝都の軍の詰所が爆破されたのだが、そうとは知らないガハルドは帝都の民が建物ごと爆破されたと思っているのか、歯ぎしりしている。

カムはレンジャースーツを通して指輪型の遠隔爆破装置を操作しているのだが、短時間ゆえに、事細かに操作できるほど完全には使いこなせてはいない。それをハウリア族の爆弾設置部隊が持つ中継装置で、遠隔爆破装置と起爆する爆弾を繋げる事で簡単な遠隔爆破を可能としているのだ。

 

 

「誓約しないなら、帝都に仕掛けた全ての爆弾を発動させ、貴様等帝室とこの場の重鎮達への手向けとしてやろう。数千人規模の民が死出旅に付き合うのだ。実に、悪くない最後だろう?」

 

 

言っていることが完全にテロリストである。その仕込み人二人に視線が集まるが、当人達はどこ吹く風である。

 

 

「…………」

 

 

容赦のない要求に、ガハルドは冷や汗を流しながら苦みばしった表情で沈黙を続けていく。必死に妙案を出そうするガハルドにカムは容赦せず、返答が遅いと言わんばかりに命令を下す。

 

 

「“デルタへ。こちらアルファワン、ポイントA8に”」

 

「まてっ!」

 

 

ガハルが慌てて制止の声をかける。そして、苛立ちと悔しさを発散するように数度頭を打ち付け、吹っ切ったように顔を上げた。

 

 

「がぁーー、ちくしょうが!わかった!俺の負けだ!お前達の要求を呑むから、これ以上爆破するな!」

 

「そうか。では、誓約の言葉を」

 

「ハァ……くそ、すまんな、お前等。今回ばかりは俺達の完敗だ。……帝国は強さこそ至上。ハウリア族はそれを“帝城を落とす”ことで示し、民の命を握って証明した。故に、“ヘルシャーを代表してここに誓う!全ての亜人奴隷を解放する!ハルツィナ樹海に一切干渉しない!亜人の奴隷化と迫害を今、この時より禁止する!これを破った者は、厳罰に処す、新たな法として制定する!”文句がある奴は俺の所に来い!俺に勝てば、あとは好きにしろ!」

 

 

実に実力至上主義らしい宣言をするガハルド。亜人族との関わりがなくなるだけというのもあるが、一番の理由は直接の戦闘で敗北したのが一番の理由である。

 

 

「ふむ、正しく発動したようだな。ヘルシャーの血を絶やしたくなければ、誓約は違えないことだ」

 

 

カムのその言葉と共に、皇太孫を含めた皇帝の一族達にスポットライトが降り注ぐ。その誰もが首もとに“誓約の首輪”をかけられている。

 

 

「明日に誓約の内容を正式に公表し、帝都にいる奴隷は明日中に全て解放しろ」

 

「明日中だと?一体、帝都にどれだけの奴隷がいると思って……」

 

「やらなければ爆破する」

 

「わかったよ!やりゃあいいんだろう、くそったれ!」

 

「解放した奴隷は樹海へ向かわせる。その際、貴様はフェアベルゲンまで同行し、長老衆の前で誓約を直接復唱しろ。無論、我等が無事に送り返す」

 

「わかったよ、くそっ。お前等が脱獄した時から何となく嫌な予感はしてたんだ。それが、ここまでいいようにやられるとはな。…………なぁ、何か恨みでもあったのかよ、南雲ハジメに空山ソウジ」

 

 

ガハルドはハジメとソウジがいるであろう場所を睨むも、闇の中にいる二人は壁にもたれて欠伸をして観客のスタンスを貫いている。

その姿は見えなくとも、答える気がないと理解したガハルドは盛大に舌打ちし、狸寝入りを続行し続けているアリアがいるであろう場所を睨む。どうやら、アリアも今回の件に関わっていた事に少なからず気づいたようである。

 

 

「ガハルド、警告しておこう。確かに我等は、恩人達から助力を得たが、その力は既に我等専用として掌握してある。やろうと思えば、いつでも帝城内の情報を探れるし侵入も出来る。寝首を掻くことなど容易い」

 

「専用かよ。てめぇのその格好といい、武器といい、どんな原理で本来魔力のない亜人にアーティファクトを使わせてんだか……」

 

 

先の戦闘でのアーティファクト由来であろう攻撃を思い出しながら、ガハルドは悪態をつく。

 

 

「案ずるな、ガハルド。ハウリア族以外の亜人族にアーティファクトが渡ることはない。もし、今回のことでフェアベルゲンが調子に乗り、帝国を攻めようものなら、我等ハウリア族は容赦なくその愚か者に刃を振るう」

 

「……そうかい。よーくわかったよ。お前達が樹海の連中の隠し玉でも何でもなく、“同族”の為に動いていたことがな。それより、いい加減解放しやがれ。直ぐにでも動かなきゃ、明日中に間に合わねぇからな」

 

「……いいだろう。我等ハウリア族はいつでも貴様等を見ていることを、ゆめゆめ忘れるなよ?」

 

 

その言葉を最後に全てのスポットライトが消え、ハウリア達は撤退していく。

 

 

―――ボス、教官。こちらアルファワン。全隊撤退します。数々のご助力、感謝のしようもありません

 

―――シアのためだ。気にするな

 

―――それよりわかっているな?本当の戦いはここからだという事は

 

―――勿論です。元より、戦い続ける覚悟は出来ています。この道が、新生ハウリア族が歩むと決めた道ですから

 

―――そうか

 

―――覚悟があるならこれ以上は野暮だな。最後に一つだけ言っておく

 

 

そのままハジメとソウジはハウリア達に、雑じり気のない純粋な称賛を贈った。

 

 

―――「「見事だったぞ!全ハウリアの諸君!」」

 

―――オォオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 

念話石から全ハウリア族の勝利の雄叫びが届いてくる。

この夜、亜人族最弱の種族であった兎人族が、初めて巨大な敵に一矢報い、勝利を得た瞬間であった。

 

 

 




(ポイントA8ってどこなのよ?)

(皇帝の秘密の部屋だそうだ。そこには公にできない皇帝の秘密……というよりお気に入りの宝が大量にあると歌姫が言っていた)

(……どんな宝なのよ?)

(筋肉を強調する気味悪い自身の彫像とか、大金叩いて購入したアーティファクトとか、そんな類いのものばかりだそうだ)

気づかずに間一髪だった皇帝の図。

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