魔王の剣   作:厄介な猫さん

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とりあえず更新
てな訳でどうぞ


語らいと血の味

「つまりユエは三百歳以上という事か?」

 

「リアルロリバアサンか……」

 

「……マナー違反。それとソウジは後でボコる」

 

 

話を聞いた南雲とソウジの第一声に、ユエは非難を込めたジト目で南雲を見、次いで怒りをその目に灯してソウジを睨む。

ソウジ達は現在、南雲の拠点にいる。あの部屋にユエは居たくなかったようで、ソウジは理由を聞いてみたところ、ユエが言う前に南雲がその理由を話した。

ユエは長い間あの部屋に身動き出来ない状態で幽閉されていたそうだ。確かにそんな場所には居たくもないし見たくもないだろう。納得したソウジは素直にあの部屋の使用を諦め、例のサソリの死骸を南雲の拠点まで運ぶ事にした。

その間に軽く自己紹介した。ユエという名前は南雲から貰った名前だという事も聞いた。

 

 

「吸血鬼って、そんなに長生きするのか?」

 

「確か読んだ本に書かれていた記憶が確かなら、寿命は二百前後の筈だが……」

 

「……私が特別。“再生”でずっとこの姿……」

 

 

ユエはそのまま自分の事を語っていく。

話を聞いた限りではユエの叔父が欲に目が眩んで、王位に就いたユエを始末しようとしたそうだが、“再生”の固有魔法により首を落としても殺しきれなかったのであの場所に幽閉されたそうだ。突然裏切られたショックで頭が混乱している間に幽閉されたので、どうやって連れてこられたのかは覚えていないとの事。

ユエもこの辺りや地上への脱出の道はわからないが、この迷宮は反逆者と呼ばれる神代時代に神に挑んだ神の眷族の一人が作ったとの事。その最深部に反逆者の住まう場所があるとも言われており、そこなら地上への道があるかもしれないと。

そしてエリクシール石は“神結晶”と呼ばれる伝説の鉱物で、神結晶から零れた水は“神水”と言う飲み続けている限り寿命が尽きないという伝説の霊水という事も教えてくれた。

 

 

「これ、そんなにすごい物だったのか……」

 

「これがなけりゃ、とっくにくたばってたからな……」

 

 

互いの神結晶を手に慨願深げに見つめるソウジと南雲。

 

 

「にしても……」

 

 

ソウジはチラリと南雲に目を向ける。白髪、隻腕、目付き、性格……

 

 

「変わったなぁ、南雲。見事なまでに」

 

「……お前もだろ。てかその右足、どこの青○だ」

 

「……黙れ中二病患者。今すぐ氷漬けにするぞ?」

 

「中二病言うな。今すぐレールガンで風穴を開けてやろうか?」

 

「ああ?」

 

「やるか?」

 

「「…………」」

 

 

互いにガンを飛ばし合って睨み合うも……

 

 

「……止めるか。これ以上は互いの心が深く傷つくだけだろうし」

 

「……そうだな」

 

 

お互いのメンタルの為に素直に引き下がった。少しの間沈黙が支配するも、南雲が再び口を開く。

 

 

「……てっきり死んだと思っていた」

 

「……何を根拠に?」

 

「奈落から落ちたあの日、爪熊がお前の凍った足をくわえて現れたからな……」

 

「……ああ。あの時、氷牛に凍らされた右足か。てか、爪熊ってなんだ?」

 

「会ってないのか?爪が異様に長い白い熊なんだが……お前の言う氷牛は?」

 

「全身の殆どが氷で覆われたバッファローだ」

 

 

そんな感じで話し合っていると。

 

 

「……二人はどうしてここにいるの?」

 

 

ユエが会話に割り込んできた。純粋な疑問と、またかやの外になりたくなかったからであろう質問に二人は律儀に答えていく。

この世界に召喚された事。クラスメイトの誰かに奈落へ落とされた事。ユエと出会うまでの出来事を二人はポツポツと語っていと·······

 

 

「……ぐす…………二人共…………つらい……」

 

 

話を聞き終えたユエは二人のために泣いていた。そんなユエを南雲が苦笑いと共にユエの頭を撫でる。

 

 

「気にするなよ。もうどうでもいいことだ」

 

「だな。あいつらの元へわざわざ戻ろうとも思わない。生存を伝えるべきかは若干迷ったがな」

 

 

あの苦労人の顔が浮かんできたが、数秒も留まらず頭の隅へと消える。

 

 

「ここから出たらあいつらの元へ行くのか?」

 

「さっきも言っただろ。わざわざあいつらの元へ戻る気はないと。そんな事に時間を割くより、家族がいる元の世界へ早く帰る方法を探すのが重要だ。軽蔑するなら軽蔑すればいい」

 

「別に。俺も似たようなものだし、さっさと故郷に帰りたいからな」

 

「……しばらくは一緒に行動する事になりそうだな。帰る手段が見つかればとっととこんな世界からはおさらばするつもりだし」

 

「そうか……色々変わっちまったが……故郷に……家に帰りたいからな……」

 

 

二人がそれぞれの想いを馳せていると、いつの間にか沈んだ表情で顔を俯かせていたユエからポツリと言葉が洩れる。

 

 

「……いいな…………私には、帰る場所……ないから……」

 

「「…………」」

 

 

そんなユエに南雲はカリカリと頭を掻き、ソウジは視線を泳がせた。そして、南雲は再度、ユエの頭を撫でつつある提案をする。

 

 

「……ならユエも来るか?」

 

「え?」

 

「まあ、帰る場所がないなら一緒に来ればいい、というのは定石だな。帰ってからの面倒事は帰ってから考えたらいいし……」

 

「……いいの?」

 

 

理解が追い付いたユエの言葉に、南雲が苦笑いしながら頷いて答える。その答えに今までの無表情が嘘のように、ユエは微笑んだ。そんなユエの笑顔に南雲は見とれてしまい、すぐに顔を反らす。

そんな二人の様子にソウジは苦笑しながら立ち上がり、南雲曰くあの扉の前にいたサイクロプスと例のサソリの肉を南雲が用意した鉄串へと刺し、“放炎”を使って焼き始める。

現在南雲はドンナーと名付けた拳銃よりもさらに威力を繰り出す対物ライフルと、ソウジが作った氷の刀を参考に、ソウジに渡す金属製の刀を作成している。刀の方は、氷ではやはり心許ないからという、南雲の配慮からだ。ちなみに素材は例のサソリの外殻である。

あの後、南雲が例のサソリの外殻を調べてみたところ、“鉱物系鑑定”という技能でその正体が一発でわかり、シュタル鉱石という魔力を注いだ分だけ硬くなる鉱石だそうだ。

南雲がその鉱石に錬成を使ったらあっさりと形を変えたので、ソウジも南雲共々その場で崩れ落ちたが。

思い出したら思わず目から汗が出そうになったのを堪え、ソウジは肉だけのバーベキューの串のように魔物の肉を焼いていき……

 

 

「メシができたぞ……って、そういえばユエの分はどうすんだ?」

 

 

持ち手になる部分を“凍鎧”を使って冷やした時点でソウジはその事に気付いた。

いくら“再生”という固有魔法をユエが持っているとはいえ、あんな激痛を進んで与えようとは思わない。

南雲もそれに思い至り、作業の手を止め、どうしようかと頭を悩ませていると。

 

 

「……大丈夫。食事はいらない…………美味しい血があるから」

 

 

ユエはそう言って南雲の方を向き舌舐めずりをする。

 

 

「……え?」

 

「……ハジメの血……何種類もの野菜や肉をじっくりコトコト煮込んだ、濃厚なスープのような熟成の味……」

 

「……」

 

「……だから、美味……」

 

「……勘弁してくれ」

 

 

ユエはそのままハジメの首筋に噛み付き、吸血していった。

 

 

「……お盛んなことで……」

 

 

そんな二人の様子をソウジは半目で眺めながら、神水片手にモグモグと焼いた肉を食っていった。

 

 

その後、ソウジもユエに腕から吸血され、ユエ曰く、「ソウジはさっぱりとした熟成スープの味」という評価を貰った。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

その頃……

 

 

「……泥棒猫め」

 

「香織!?後ろに般若がいるわよ!?」

 

「大丈夫だよ雫ちゃん。フフフ……」

 

(ああ、もう!空山君、何とかしなさい!!って、あれ?何で彼に?)

 

 

親友の放つ雰囲気に、苦労人は何故か友人に怨みを飛ばし、その事に苦労人は疑問を浮かべ内心で首を傾げていた。

 

 

 




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