魔王の剣   作:厄介な猫さん

110 / 157
てなわけでどうぞ


後始末と見返し

「くそっ、最後は放置かよ。……誰か、光を……って、今は誰も出来ねぇか……って、ゴラァ!!南雲ハジメに空山ソウジ!どうせ無傷なんだろ!いつまでも知らんぷりしてないで、この状況を早く何とかしろ!!」

 

 

足止めから帰還した本物のシアを抱き締めてモフモフしているハジメと、それを腕を組んで見守っているソウジに、暗闇で転がり回っているガハルドが怒声を上げる。ちなみに、リリアーナは足止めから戻って来たシアがハジメに抱きついた瞬間、ハジメに脇にポイされたので、お馴染みとなった嘆きを呟きながら恋人に捨てられた女の如く崩れ落ちた姿勢でめそめそしている。

 

 

「はいはいっと……」

 

 

ソウジはそう言いながら、“宝物庫”から発光する鉱石を取り出して天井に飛ばす。光石は、天井付近で浮遊すると一気に闇夜を払い、昼間と変わらない明るさで凄惨となっているパーティー会場を照らす。

 

おびただしい量の血が飛び散り、無数の生首が転がっており、首が飛んでいない者も手足の腱を切られて床に這いつくばっている。……約一名は狸寝入りを敢行し続けているが。

だが、明らかに無傷なソウジ達と勇者一行の方が明らかに浮いており、最後まで戦っていた者達は射殺す程に憎しみの籠った目で睨んできている。完全にグルと判断しているようである。

 

 

「おいこら、南雲ハジメ。この状況で兎人族の女を愛でるとか、どんだけ図太い神経してんだよ」

 

「いや、ほら。シアがさっきの襲撃で怯えちまったからな。だって、シアはか弱いウサギだし」

 

「それにしても本当に恐ろしい連中だったなぁ。暗闇だった上に、かなりの手練れだったから、自己防衛に徹しなければいけなかったからな」

 

 

ハジメとソウジのふざけた台詞に、ガハルド達は額に青筋を浮かべ、凶悪な眼差しを向ける。

 

 

「いけしゃあしゃあと……とにかく、無傷なのには変わりはねぇだろ。お前達に害意がないなら、治療するなり人を呼ぶなりしてくれてもいいだろ?」

 

「そうは言っても、お前の部下達が治療した瞬間に襲いかかってきそうなんだが?」

 

「その場合、そのまま殺ることになるぞ?“敵”となった奴に容赦する気はオレ達にはないからな」

 

「チィ!おい、お前ら!そいつらに絶対に手を出すなよ!たとえ、クソ生意気で、確実にハウリア族とグルで、いい女ばっかり侍らしているいけすかねぇクソガキ共でも無駄死には許さねぇぞ!」

 

 

罵倒混じりのガハルドの生き残れ命令に、ハジメとソウジは若干イラッとするも、取り敢えず、ガハルドが死ぬ気で止めるだろうと判断し、ハジメが香織に治療を頼む。

 

 

「任せて……“聖典”!」

 

 

詠唱なし。魔方陣なし。魔法名だけで即時発動した回復系最上級魔法の光の波動が、瞬く間に傷ついた者達を全員治療した。

 

 

「回復まで化け物クラスとか……やってられねぇな」

 

 

ガハルドが香織の回復魔法の技量に、どこか疲れた表情でぼやく。そうしている内に、戦闘可能な者がガハルドの周囲に固まり、ハジメとソウジに向けて警戒心丸出しの険しい表情を向ける。

 

 

「だからよせっての。反撃くらったらマジで全滅すんぞ」

 

「しかし、陛下!」

 

「あいつらは明らかに手引きを……皇太子殿下まで殺られて放っておけません!」

 

「このままでは帝国の威信が地に落ちますぞ!」

 

 

面倒そうに嗜めるガハルドに部下達が次々と言い募る。

 

 

「貴様等!絶対にタダでは―――」

 

 

ガハルドの部下の一人が懐剣を片手に、ソウジ達に向かって一歩踏み込んだ―――その瞬間。

 

ズパァアアアアアアアアアンッ!!!

 

そんな凄まじい音が響くと共に、一筋の風が一歩踏み込んだ部下の横すれすれを吹き抜ける。一同はブリキ人形のように首を動かし、そちらへと目を向けると、風が吹き抜けた床に斬線が刻まれており、その斬線は向こうの壁に大きく出来上がった、天井に届く程の斬線と一つに繋がっていた。

その壁と床に刻まれた線を視界に収めた者達は再びブリキ人形のように首を動かし、その発生源へ目を向けると、絶天空山を居合の要領で振り抜いていたソウジがいた。

 

 

「こいつは警告だから人は避けたが……このまま襲おうってんなら、わかってるよな?」

 

 

絶天空山の切っ先を正面に向け、徐々に殺気と威圧感を高めていくソウジに、ガハルドの周囲に集まっていた部下達は足を震わせ始めていく。最初に踏み込んできたガハルドの部下は腰を抜かして見事に震えている。

 

彼等の何人かは、以前、ガハルドと天之河の模擬戦を見ていた。そこでガハルドは天之河が“子供”だと見抜き、完全に興味を失せており、彼等も大した実力は持ってないと判断した。その為、基準対象が微妙だったため“あるいは”と考えていたのだが、ソウジの実力の一端を目の当たりにし、その考えはとんでもない間違いだと悟ったのだ。

 

 

「もうわかっただろ。あいつらは正真正銘の化け物どもだ。万軍を歯牙にもかけず滅ぼせる、その影すら踏めない程に強い……そういう手合いなんだよ。奴らに従えとは言わねぇが、これ以上、実力差に駄々を捏ねるような無様を晒すな!力こそ至上と掲げる帝国人ならな!!そして、それはハウリア族に対しても同じだ!奴等は力をつけ、この帝国に挑みやがったんだ。俺達が弱く間抜けだったから、ここまでいいようにやられたんだ。勿論このまま済ますつもりはねぇし、奴等もそう思っていないだろう。……だが、まずは認めろ。俺達は敗けたんだ。敗者は勝者に従う。それが帝国のルールだ!まだ文句があるなら奴等がしたように、俺を力で屈服させ、従わせてみせろ!!」

 

 

ガハルドの怒声がパーティー会場に木霊する。最後まで戦い抜いたガハルドの言葉は、主である以上に重く、これ以上の反論出ない程、威厳に満ちていた。

 

 

(……そろそろ、アタシをこの場から連れていってくれよな。暇でマジで眠くなってきた)

 

 

そんな中、歌姫は本気で眠りそうになっていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

事態の収拾が図られ、誓約を果たす為の段取りが決められた緊急会議が終わり、急ピッチで亜人に対する法律が決まっていく中の、とある場所にて。

 

 

「…………」

 

 

書類が大量に積み上げられた机の前で、アーク・リートは無言で書類を片っ端から片付けていた。

ハウリア族の逃亡を見逃した時点で、帝国に手酷い損害が出る可能性は予測していた。予測していたのだが……

 

 

「……間違いなく、娘達も一枚噛んでいただろうな……」

 

 

アークは頭痛を覚えながら誰にも聞こえないようにボソリと呟き、次々と送られてくる書類を処理していく。

今回の件で小言を言おうとしても、娘は絶対に聞き流すだろう。しつこくしようものなら、床の杭にされるのは目に見えている。

皇帝陛下の求婚を娘が断った時も、皇帝陛下に失礼だと何度も苦言した結果、文字通り、一撃で沈められてしまったのだから……

 

 

「……だが、娘の嫁ぎ先が現れたのは本当に僥倖だった」

 

 

娘は「アタシより強い奴としか結婚しない」と公言しており、娘を“強者”にする為に幼少から鍛え上げた結果、“強者”の資質を見いだした彼女共々、私より遥かに強くなってしまったのだ。

その為、娘から聞いた空山ソウジの存在と、娘が照れ臭そうに話す様から、娘が彼に惚れているのだと察し、娘の将来の不安が大きく軽減された。

ただ……

 

 

「……彼には既に特別な人がいるようだが……」

 

 

彼と初めて顔を合わせた時、部屋の外にいた緑髪の少女が彼の特別な人なのだろう。だが、一夫多妻でも問題はない。娘が独身で終わらずに済んだのだからな。

さぁ、頑張って書類を片付けようか。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――帝城落としの翌日のフェアベルゲンにて。

 

 

「―――この装置が記録した映像からわかっただろうが、奴隷となった亜人族達は本日解放される。故に、彼等の受け入れ態勢を急いで整えろ」

 

 

一足先にゲートを使ってフェアベルゲンに帰還したカムが、アルフレリック達長老衆に不躾な態度でそう伝える。隣には、音声付き記録映像をディスプレイ画面として投射する筐型のアーティファクトを手に持つ、人間モードのフィアが佇んでいる。

 

 

「……まさか、本当に同胞達が戻ってくると……」

 

 

アルフレリックは信じられないといった様子で呟く。先程見せられた映像には、帝国のトップが手足の腱を斬られて床に倒れ伏し、大声で亜人解放と奴隷の禁止、樹海への不干渉、それらの法廷化を宣言していたのだ。それも、自身の命を盾にされて。

この映像は、“幻露”で隠れたフィアがハジメから拝借したアーティファクトで撮影したもので、カム達との間でかわした“ちょっとした手伝い”の一つである。

 

 

「ふん、本当に同胞達が帰ってくるのか?そこの忌み子の人間を招き入れた最弱の兎人族風情がやってのけたと?この映像とやらも、でまかせではないのか?」

 

 

だが、長年の価値観から虎人族の長老、ゼルが侮蔑の言葉を投げつける。対してカムは無言を貫き、フィアはにこやかな笑みを保ったまま、件のアーティファクトをその場に下ろす。

 

 

「ん?何か言ったらどうだ?それとも、事実だから―――」

 

「あら、随分と馬鹿な人がいるのですね」

 

 

ゼルが更に侮蔑の言葉をぶつけようとした矢先、フィアがにこやかに笑みを保ったまま、ゼルに向かって罵倒の言葉を浴びせた。

 

 

「……何だと?もう一度言ってみろ」

 

「聞こえなかったのですか?ああ、馬鹿ですから聞き逃したのですね。それとも、脳みその中まで筋肉で出来ているから、彼等の実力と功績をお忘れになっているのですかね?長老の座に就いている割には、相当なお馬鹿さんなのですね♪」

 

 

これでもかと言わんばかに毒を吐くフィア。その言葉にゼルは顔を真っ赤に染め、わなわなと身体を震わせていく。

 

 

「あら?どうしたのですか?ひょっとして図星だったのですか?」

 

「調子に乗るなよ、人間風情が!!」

 

 

ゼルが怒りを露に立ち上がり、フィアに向かって突進していく。

一瞬で距離を詰め、その豪腕をフィアの顔に振り下ろされる。ゼルの拳はフィアの顔面に迫っていき―――

 

すかっ

 

そのまま、()()()フィアをすり抜け、拳は虚しく宙を切った。

 

 

「!?」

 

 

まさかの光景に、ゼルが驚愕に目を向いていると、突然足を引っかけられてバランスを崩され、そのまま頭を足蹴にされて床に叩き付けられ、首筋に大鎌がピタリと添えられた。

 

 

「その程度では何度やっても同じですよ。まだ理解できないようでしたら、その身体にはっきりと刻んで差し上げましょうか?後、下手に動けば容赦なく首を飛ばしますので」

 

 

ゼルの頭を踏みつけながら、()()()()()()()()()()()本来の姿のフィアが先程と同じ声色で話しかける。……威圧感と殺気を放ちながら。

フィアの放つ威圧感と殺気、首筋に当てられた大鎌から、ゼルは冷や汗を流して動きを止める。アルフレリック達も、フィアの今の姿に目を見開いて驚き、威圧感と殺気からゼル同様に冷や汗を流している。

 

 

「そなたは、やっぱり……」

 

「ええ。昔、この国の掟によって追放された狐人族の忌み子ですよ。この場合、お久しぶりと言うべきでしょうか?長老方?」

 

 

アルフレリックの言葉をあっさりと肯定し、相変わらずのにこやかな笑みを向けるフィア。だが、今はそのにこやかな笑顔が―――とても恐い。

 

 

「さて、脳みそまで筋肉な虎さんを含めた皆さん。かつて、追放した忌み子が逞しくなった姿を見て、どんな気持ちですか?」

 

「ぐ、ぐぬぬぬ……」

 

 

頭を踏みつけられているゼルは、冷や汗を流しながら悔しげな呻き声を洩らす。

 

 

「後、後ろにはお気をつけを。私の分身と肉食兎さん達がいますので♪」

 

 

フィアのその言葉に、長老達はまさか!?と急いで背後へと振り返った瞬間、大鎌と小太刀が挟み込むように首へと突き付けられた。同時に苛烈な殺意が部屋の中を支配していく。

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

 

ハウリア族は一体どこに潜んでいたのか?とか、本当にあの時追放した忌み子なのか?とか、そんな疑問を吹き飛ばす程、激烈な殺意と首筋の刃に、全長老が冷や汗をこれでもかと言わんばかりに大量に流していく。

 

 

「わ、わかった。お前達の言葉と先の映像を信じよう。他の者達も異論はないな?」

 

 

アルフレリックの言葉に、頭を踏みつけられているゼル以外はコクコクと頷いて同意の意を示す。

こうして、フェアベルゲンは急遽、奴隷から解放された同胞達の受け入れ体制を整えていくのであった。

 

 

 




「ほら、これでいいだろ?」

「……駄目だな。嫌々感が原稿全体から滲み出ている。こんな原稿では誰も従わないぞ。やり直し」

「俺の書いた原稿が!?」

「嘆く暇があるなら一時間以内で作り直せ。次ボツだったら、俺が用意した原稿を読んでもらうぞ」

「このクソガキ……いや、悪魔共が!!」

目の前で原稿を燃やされ、書き直しを要求される皇帝の図。

感想お待ちしてます

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。