魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


運搬と戦場

亜人奴隷解放は勇者(笑)と香織の演出、「“豊穣の女神”を遣わした“エヒト様”からの“神託”」という発表で、暴動は起きる事なくすんなり通った。これに対し、用意された原稿を片手にガハルドは「お前達はクソガキでも悪魔でもない……魔王だ!!」と発案者たるハジメとソウジに告げ、天之河達が深く同意したのは言うまでもない。そして、この報告を受けた愛子先生が頭を抱えたのも言うまでもない。

 

ちなみに、香織は最初は羞恥で悶えていたが、いざ演説を始めるとノリノリで銀翼をはためかせて“神の使徒”を演じ、念話を使って帝国の民に、ハジメが用意した原稿の台詞で語りかけ、彼等の心を掴んでいった。

 

 

“ついでに……三百歳オーバーのエセロリ吸血姫に、ハジメくんの正妻は天然ピチピチ女子高生の香織さんが相応しい……と言ってやるのです”

 

「使徒様!?それは一体どういう意味なのですか!?」

 

“そして……体の一部が【グリューエン大火山】である金髪エセ少女に、ナイスバディな香織さんの方が魅力的だ……と言ってやるのです”

 

「だから使徒様!本当にどういう意味なのですか!?」

 

 

……用意した原稿に書いておらず、亜人族にも全く関係ない、自身の欲望満載の言葉を語りかけた話は割愛させて頂く。演説が終わった後の三人のキャットファイトも、割愛させて頂く。

 

そして、フェルニルに急遽取り付けた外付けの籠に奴隷から解放された亜人族全員を乗せ、フェアベルゲンに向かって飛行中である。ハウリア達を一足先に帰らせたゲートホールで移動させなかったのは、先の演説を後押しする“演出”のためである。

 

流石に数千人も乗せた状態での飛行なので、その魔力消費量が半端ではない。その為、ハジメとソウジは二人がかりで分担してフェルニルを動かしていた。

 

 

「フェルニル上部に取り付けているソーラーパネルモドキは、焼け石に水であまり役に立っていないな……」

 

「もっと改良しないと駄目だな……」

 

 

ブリッジのベンチシートで気怠そうにふんぞり返っているように見えるハジメとソウジは、今後の改良プランを交わしながら、魔力運用の訓練も兼ねてフェルニルを操作していく。……一見、本当にだらけ切っているように見えるが。

 

そんなハジメの傍にはユエ、シア、香織の三人が、ソウジの傍にはアタランテ、ジークリンデの二人が侍っていた。ティオはハジメの足元で痙攣して白目を向いているが、ハジメに気持ち悪いダイブを決行してハジメ本人に足技で絞め落とされただけなので問題は一切ない。

そんなハーレム野郎共にしか見えない光景に、文句を言う人物はいるわけで。

 

 

「おいおい、随分な態度だなぁ、え?」

 

「……空山君……もう少し自重してもいいと思うわよ?」

 

「うらやま……ふしだらですよ、南雲さん」

 

 

フェアベルゲンの長老衆に宣誓するために同乗したガハルド、それを見届ける為に同乗したリリアーナ、お馴染みの八重樫が声を掛ける。勿論、天之河、坂上、谷口の三人もいる。

アリアはハイリヒ王国とヘルシャー帝国の橋渡し的な役割を理由に、王国に設置してあるゲートホールで先に王国に送ってある。

 

 

「あ~、艦内探検は終わったか?」

 

「おう、本当にとんでもないし最高に面白いな!南雲ハジメ。言い値を払うから、俺用に一機用意してくれよ。小さいのでいいからよ?」

 

 

対面のベンチシートにドカッと座り、好奇心で輝く瞳をハジメに向けるガハルド。リリアーナがハジメ側に、八重樫がソウジ側に座ってもその意味に気づかない程、ガハルドはフェルニルを気に入ったようである。

当然、ハジメはバッサリと断っていくもガハルドはしつこく食い下がっていく。

 

 

「なら、俺の娘はどうだ?年も丁度いいし、気位はちょっと高いが見た目は上玉だ。お前のハーレムに加えてやるからいいだろ?」

 

「「「「「ダメ(ですぅ)(じゃ)!!」」」」」

 

「……そういうことだ」

 

「チッ、見せつけやがって……」

 

 

ハジメの返答より早い女性陣の却下に、ガハルドはやさぐれたように舌打ちする。それならばと言わんばかりに、ガハルドはソウジに視線を向けた瞬間―――

 

 

「「…………」」

 

 

アタランテとジークリンデの絶対零度の睨みがガハルドに突き刺さった。

 

 

「ケッ、こっちも駄目かよ……ん?雫、今、お前も俺を睨まなかったか?」

 

 

ガハルドは不意に気づいたように八重樫に視線を向けた。それに釣られて他のメンバーも八重樫に目を向けるも、当の本人は困惑していた。

 

 

「へ?私が陛下を睨んでいたのですか?え?え?本当に?」

 

「……あー、いや、いい。俺の勘違いだったみたいだ」

 

 

八重樫の無自覚な感情に気づいたガハルドはどこか疲れたように返しつつ、ソウジに「絶対に雫に手を出すなよ?」と視線で伝え、その視線にソウジは呆れた眼差しで返す。

その後、ガハルドはリリアーナをハジメへの感情でからかい、例の結婚話も白紙撤回になった事も明かしつつ、再び交渉していく。

当然、ハジメはにべもなく却下していく。

 

 

「本当に欲しいものはないのか?人間、いつだって何かを欲して―――」

 

「オレ達の欲しいものは既に腕の中にある。“ずっと手放さない”ことに精一杯でそんな余裕はない」

 

 

ソウジが右隣に座っているアタランテを抱き寄せ、ガハルドの言葉を遮ってバッサリと返す。

 

 

「ああ。“もっと欲しい”なんて考えている余裕なんざ、きっと、一生ない」

 

 

ハジメもユエとシアを抱き寄せて、ソウジの言葉に同意する。

 

 

「……あ~、あ~、そうかいそうかい。最後まで言わせろよな、クソ」

 

 

その返答と光景に交渉は完全に不可能だと悟ったガハルドは、うざったそうな表情をして立ち上がり、ブリッジを出ていった。

対面の席に残った天之河、坂上は目の前のハーレムに目を泳がせ、谷口は変な声を上げている。

そして、ソウジの左に座っていたジークリンデからも声が上がる。

 

 

「私もその“腕の中”におられますか?ソウジ様」

 

 

ジークリンデのその言葉に、ソウジは若干困ったような顔をして思わずアタランテに視線を向ける。アタランテは微笑んで肩を竦めたので、ソウジは本当にできた恋人だと思いつつ、ジークリンデを抱き寄せる事でジークリンデに応えた。

 

 

「……ふふっ、ありがとうございます」

 

 

ジークリンデが微笑んでお礼を言っていると―――

 

 

「「叩いて直す!(のじゃ!)」」

 

 

微笑みを浮かべながら、香織とティオはユエを見下ろしていた。凄まじい怒気?闘気?みたいな何かを溢れさせて。

 

 

「……やめて。本気でやったら勝てるわけないでしょ?」

 

 

対するユエは口元に笑みを浮かべて香織とティオを挑発。当然、二人はヒートアップする。

 

 

「「上等だよ!(じゃ!)」」

 

「ちょっ、ちょっと三人とも!いきなり喧嘩なんて……南雲君!止めなさいよ!」

 

「無理。怠い」

 

「じゃあ、空山君!」

 

「じゃあ、ってなんだよ?後、これは日常茶飯事でコミュニケーションの一種だから無視していいぞ」

 

「これが日常茶飯事でコミュニケーション!?」

 

 

ソウジの明かした事実に、八重樫は驚愕の視線を向ける。そして、普通に巻き込まれていく。

 

 

「雫ちゃん!前衛お願い!」

 

「え!?」

 

「さぁ、共に参ろうぞお姫様!そっちの鈴共々、防御は任せたぞ!」

 

「私も!?」

 

「鈴までさりげなく!?」

 

「……シア、前衛は任せる」

 

「はいですぅ!」

 

「では、私達はユエとシアに加勢しよう」

 

「人数的に四対五……それが妥当かと」

 

「ジーク!?どうしてそちらにつくのじゃ!?」

 

「では、皆で例の部屋へ行きましょう。彼処なら十分な広さがありますから」

 

「無視しおった!?じゃが、これはこれで……ハァハァ」

 

 

そんな訳で、女性陣は修練部屋へ向けて戦意十分な雰囲気(一部を除く)でブリッジから出ていった。

 

 

「本当、元気だな~」

 

「そうだな~……修練部屋の光景を映像に出しておくか?」

 

「ああ、頼む」

 

 

何とも気だるげなやり取りで水晶ディスプレイから修練部屋の映像が映し出される。少しして、アタランテ達が入室し、艦内放送(ピンポイント版)で見ている事を伝えると。

 

 

『……ん。わかった。……香織達……特に香織をボコるところをしっかりと見ててね、ハジメ』

 

『ハジメくん!私がユエに勝ったらギュ~してね!』

 

 

特に反対意見は出ず、あっさりと了承された。

そんな訳で、女の戦い(?)が始まったのだが……

 

ドゴォン!ドゴォン!ズガァン!バキィン!ドォオオン!

 

 

『轟天爆砕!ですぅ!』

 

『……その程度?』

 

『避けきれるか?』

 

『人数はそちらが上ですが、戦力はこちらの方が上のようですね』

 

『甘いよ、ユエ!分解、最大出力!!』

 

『妾の全力、見事耐えてみせよ!』

 

『何なのよ!?この戦場!』

 

『おうじょ……おうじょなのに……扱いが本当に……』

 

『うわぁああああん!!鈴の張った結界がガラスのように砕かれていくよぉ!』

 

 

ハンマーに取り付けられた猛回転するドリルが、何重にも張られた障壁をガラスを砕くように粉砕し、雷の龍と銀の砲撃が真っ向からぶつかり合う。上から降り注ぐ爆発する翠の矢を剣士が必死にかわし続け、黒と水色のブレスが炸裂する光景に天之河と坂上は本当に大丈夫なのかと心配になってくる。

 

 

「戯れてんな~」

 

「楽しんでるようで何よりだなぁ~」

 

 

それに対し、ハジメとソウジの感想はそれだけだった。

 

 

「……なんていうか……」

 

「やっぱり、とんでもねぇな……」

 

 

そんなハジメとソウジに、天之河と坂上は呆れ半分感心半分の眼差しを向ける。どうやら、男として少し感じるものがあったようだ。

 

ちなみに、この映像は運搬中の亜人族達にも暇潰しになるだろうと見せており、その凄まじい光景に亜人族達が現実逃避したのは言うまでもない。修練部屋に皇帝がいたような気がしたのは……きっと気のせいだろう。

 

そして、勝負が引き分けとなってアタランテ達がブリッジに帰還(一部、疲れきった表情となって)したタイミングで、ようやく樹海が前方に見え始めた。

 

 

「とりあえず、どこに着地する?」

 

「フェアベルゲンの広場でいいんじゃね?外から歩くのも、ゲートで一人一人転移させるのも面倒だし」

 

「じゃあ、それで」

 

 

何とも大雑把な判断で着地場所を決め、ハジメとソウジはフェルニルをフェアベルゲンの上空に向かって移動させていった。

 

 

 




「本当に面白いな、この部屋は!やっぱりもう一度……ん?」

「分解分解!」

「……む。香織め、分解能力が上がっておる」

「練習したから当然だよ―――“縛光刃”!(分解付与バージョン)」

「ちょっと!?どうして集中的に私を狙うの!?」

「偶然だ―――“雷雨”」

「絶対わざとでしょぉおおおおおおおおお―――ッ!!」

「喰らいやがれ!ですぅ」

「ちょっとは手加減してくださ~い!!」

「何でこんな目にぃ!」

「ゆくぞジーク―――“嵐帝”!!」

「もちろんですティオ様―――“虚波”!!」

「うぎゃああああああああああああ―――ッ!?」

見事に巻き込まれた皇帝の図。

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