魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


傍若無人な兎と区切りを付けた毒狐

案内された広間では、長老衆が奥に座り、その対面にカムを含めた幾人かのハウリア族が、その右側にガハルドを挟んでソウジ達が座っていた。勿論、例の誓約をガハルドが長老衆の前で公言する為だ。

 

 

「しかし、よく一人でのこのこと来れたものだな。まさか、生きて帰れると思っているのか?」

 

 

ガハルドの誓約の公言が終わり、ゼルが憎々しげに睨む。敵地でありながら、不遜な態度を崩さないガハルドが気にくわないようである。

 

 

「思っているに決まっているだろう。まさか、本気で俺を殺せると思っているのか?だとしたら、お前達の頭はとんだ阿呆だな」

 

「なんだと、きさまっ!?」

 

 

激昂してゼルが立ち上がった瞬間、フィアの持つ大鎌の腹がゼルの頭に叩きつけられ、力づくで抑えられる。

 

 

「皇帝陛下がここにいるのはハウリア族の功績と誓約の効力の証明の為で、それ以上でも以下でもありません。既に周知の事実に目くじらを立てられては、あなた方の頭が本当に阿呆だと証明することになりますが?」

 

「ぐぐぐ……」

 

「ゼルよ。気持ちはわかるが彼女の言う通りだ。ここでガハルドを殺せば、ハウリア族が身命を賭した意味がなくなってしまう。ここは抑えてくれ」

 

「くっ……」

 

 

アルフレリックに宥められ、ゼルは悔しそうに顔を歪め、ドスンッ!と席へと座り直す。

ガハルドはそんなゼルを鼻で笑う。長老や側近達が殺意を宿した眼差しでガハルドを睨み、それにガハルドが挑発的に笑っていると。

 

 

「ガハルド。お前の役目は終わった。だからさっさと帰れ」

 

「あ?」

 

 

立ち上がったソウジの言葉に、ガハルドが疑問の声を上げていると、同じく立ち上がったハジメがゲートを目の前で起動する。それだけで、ガハルドは理解した。理解してしまった。

 

 

「おい!まさか、本当にこのまま送り帰す気か!?ちょっと待て!せっかく、フェアベルゲンまで来たんだから色々知りたいことが……って、また引き摺るんじゃねぇよ、空山ソウジ!俺は皇帝だぞ!」

 

 

ソウジに首根っこを引っ掴まれたガハルドはジタバタ暴れるも、人外の膂力には勝てず、容赦なくハジメが開いたゲートの向こう側に放り投げられていった。

 

 

「覚えてろよぉ!そ―――」

 

 

ガハルドの文句も最後まで紡がれず、ハジメが問答無用でゲートを閉じた。本当に哀れである。

長老達が露骨に睨んでくるのを無視し、ハジメとソウジはここにいる意味はないので出ていこうとするも、アルフレリックが二人を引き留める。

 

 

「待ってくれ。まだ、報いる方法が決まっていない。もう少しだけ付き合ってくれないか」

 

「いや、なんもいらねぇから」

 

「阿呆共の視線も鬱陶しいし、このままおさらばしたいんだが?」

 

「そう言うな。これだけ大恩を受けて、何もしなければ亜人族はとんだ恥知らずになってしまう。せめて、今夜の寝床や料理くらいは振る舞わせて欲しい」

 

 

アルフレリックの言葉に、ハジメとソウジは仕方ないといった感じで深く溜め息を吐き、元の場所に座り直す。

それを確認したアルフレリックはカムに向き直り、まずは先の襲撃の功績からフェアベルゲンの追放処分を取り消し、自由にフェアベルゲンに訪れて欲しいと告げる。

 

 

「そして、此度の功績に対しては、ハウリア族の族長のカム。そなたに新たな長老の座を用意することで報いの一つとして提案したい。どうだろうか?」

 

 

アルフレリックのその言葉に他の長老達は互いに頷き合って、賛成の意を示す。だが、アルフレリックの言葉は他の長老ではなく、どちらこというとカム本人に聞いているような口振りだ。

そして、そのカムはというと。

 

 

「もちろん、断る」

 

 

ばっさりとアルフレリックの提案を断っていた。

 

 

「……念のため、理由を聞いていいか?」

 

 

最高である筈の恩返しを蹴った事に長老達の目が点となる中、アルフレリックだけは、カムのその返答が予想出来ていたようで、頭痛を堪えるようにして尋ねた。

 

 

「理由はとっくにわかっているだろう?」

 

「……やはり、あの映像の言葉は本気だったのだな」

 

「そうだ。我等が決起を決意したのは、あくまで同族である兎人族の未来のためで、亜人族全体を助けたのはもののついでだ。はっきりと言えば、他の亜人族は“どうでもいい”のだよ」

 

 

淡々と語るカムに、アルフレリック、ついでに狐人族長老のルア以外の長老が、信じられないものを見るような目を向ける。

 

 

「故に、我等ハウリア族は決してお前達の味方ではない。あの映像で告げた通り、調子に乗るようなら……ハウリア族の刃は貴様達自身に向くと思え」

 

「わ、我等は同胞ではないか!同じ亜人族に刃を向ける等、まるで狂人ではないか!」

 

「兎人族を蔑んでいたのはお前達も変わらんだろう。力を得た途端、都合よく親しげにされても、正直虫酸が走るがどうでもいい。我等の刃は全て、兎人族の未来のために振るわれる。その事実だけを胸に刻んでおけばいい」

 

 

言い切ったカムの表情は清々しく、後ろに控えるハウリア族もいい笑顔だ。ハジメとソウジに周りからジト目が送られてくるが、本人達はスルーしている。

そんな中、アルフレリックは疲れた表情でカムに新たな提案を話しかける。

 

 

「なら、お前さん達を“一種族にしてフェアベルゲンと対等である”という“同盟種族”として認めるのはどうだ?当然、長老会議への参加資格を有してな」

 

「ほほう~。悪くはないな」

 

 

その新たな提案に、あくまで同盟種族、もしくは外部機関的な立場がベストだと考えていたカムはニヤリと笑う。

当然、その提案に反発の声が上がる。

 

 

「アルフレリック!それでは、ハウリア族をあまりにも優遇し過ぎだぞ!」

 

「だが、ゼルよ。彼等は、一部族だけで成したのだぞ?フェアベルゲンの総力で挑んでも成しえないであろうことを、だ。対等と認めるには十分であろう?それに、このままではハウリア族と縁が切れてしまう可能性が大いにある。同盟という形をとれば、追放してしまった彼等とも、また縁を繋げるのだ。ならば、この程度なら過剰とは言えまいよ」

 

 

アルフレリックのその言葉に、ゼルを始めとした長老達は他の良案を出そうと必死に頭を捻っていく。そんな中、ルアがフィアに向かって話しかける。

 

 

「フィア。良かったら僕の下で働かないかい?もし、働いてくれるなら、僕の右腕として迎え入れるんだけど」

 

「あら?魔力を持った存在は忌むべき魔物や他種族と同じで、国に置いておくべきではない存在なのでは?」

 

「あ~……それなんだけどねぇ……」

 

 

フィアの質問にルアが歯切れ悪くしていると、アルフレリックが代わりに答えた。

 

 

「実は、魔力を有した同胞に関しては、例外として受け入れるべきだと先の襲撃後の長老会議で検討されていたのだ。そして、今回のハウリア族の功績も合わせれば、魔力を有した同胞の受け入れは可決されるであろう。国全体が、神経質になりすぎていた点も否めないからな」

 

 

その言葉に、側近達が驚いたように目を見開いた。魔物は見つけ次第、できる限り殲滅するのが国の規律であり、過去に魔物をわざと逃がした人物が追放処分を受けるくらいに、魔物は忌み嫌われている。その為、魔物と同等の力を持った同族を受け入れる等、普通はあり得ないことだ。

つまり、今回、シアを匿っていたハウリア族の功績は、それだけ大きいものであったのだろう。

 

 

「そういう訳なんだけど……どうかな?」

 

「そうですねぇ……全狐人族の耳と尻尾の毛をきれいさっぱり刈り取り、土下座するなら考えなくもないですね♪」

 

 

フィアのその返答に、ルアか四つん這いとなって崩れ落ちた。どう見ても、損しかない要求であり、仮に実行しても「考えた結果、お断りします♪」という姿がありありと脳裏に描かれるからだ。

 

 

「第一、私はお嬢様の“使用人”です。“奴隷”ではなく、正式に働いていますので悪しからず。もし、アリアお嬢様を悪く仰るようでしたら……切り刻みますので」

 

 

最後だけ底冷えする低い声で告げたにこやかな笑顔のフィアに、ルアを始めとした長老達は冷や汗を流してコクコクと頷いた。

結局、ハウリア族への報いはカムの提案を呑むこととなり、その後、カムが自分達の土地まで勝手に決め、ソウジ達は大樹に向かえる日が来るまで、フェアベルゲンに滞在することとなった。

そして、存在をすっかり忘れられていたリリアーナは、近衛騎士共々、ハジメにゲートに放り込まれて王国に帰還することとなった……

 

 

「おうじょ、なのにぃ~……」

 

 

お馴染みとなった台詞を残して……

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

夜中。

未だ、町中の喧騒がちらほらと聞こえる中、ソウジは割り当てたれた部屋でアタランテに膝枕されてくつろいでいた。二人がかりで動かしていたとはいえ、数千人を一度に運ぶのはやはり骨が折れたようである。傍にはジークリンデが座っている。

 

 

「失礼します。疲労回復に効くお茶をお持ちしましたが、どうでしょうか?」

 

 

そんな中、フィアがソウジ達の部屋へと入って来る。手に持つトレーには、三つのティーカップと一つのティーポットが載っている。

 

 

「せっかくですから頂きましょう。ソウジ様とアタランテ様は?」

 

「私も頂こう……ソウジは?」

 

「……オレも貰うか」

 

 

ソウジはそう言ってむくり、と起き上がり、軽く背伸びをする。その間にフィアは慣れた手つきでカップにお茶を注ぎ、部屋のテーブルに置く。

ソウジ、アタランテ、ジークリンデはテーブルに置かれたカップをそれぞれの手に持ち、湯気が漂うお茶を一口飲む。

 

 

「……旨いな」

 

「ああ」

 

「本当に美味しいですね」

 

「お誉めに預かり光栄です」

 

 

ソウジ達の素直な所感に、フィアは慇懃に一礼して受け取る。暫しお茶を楽しんでいき、ソウジは今回、フィアがした取引について聞いてみる事にする。

 

 

「……なぁ、どうして“ちょっとした手伝いをする褒賞として、長老衆達に見返す機会を用意して欲しい”とカム達に交渉したんだ?」

 

「そうですねぇ……一言で言えば“過去に区切りを付けたかった”からですね。私は家族にさえ見捨てられ、帝国で種族は違えど本当の家族のように過ごせました。それでも、追放されたあの時は本当に辛かったので、心のどこかに靄がかかっていたのですよ。あの時は余計ないざこざを起こして皆様方に迷惑をかけるわけにはいきませんでしたので」

 

「成る程、だから今回の取引を持ちかけたんだな。比較的迷惑がかからず、連中に見返せる最高のタイミングを掴むために」

 

「ええ。既に私を捨てた家族には平手打ちと共に別れを告げました。本当は見捨てたくなかった。掟だったから仕方がなかったと言っていましたが、薄っぺらい言葉にしか聞こえません。本当に大切なら、あの時、私と一緒にフェアベルゲンから出ていった筈ですので。最後まで家族を見捨てなかったハウリア族のように」

 

「……シアが羨ましいのか?」

 

 

ソウジのその言葉に、フィアは優しげな笑みで頷く。

 

 

「正直、少し……いえ、かなり羨ましいと思っています。ですが、旦那様に買われ、あらゆる技術を仕込まれ、アリアお嬢様と過ごした時間は私の宝物です。ですから、物思いはすれど本気で願ったりは致しません」

 

「そうか……」

 

 

フィアの答えに、本当に強いなと、ソウジは思わず感心してしまう。アタランテとジークリンデも優しげな眼差しでフィアを見つめている。

 

 

「……そんな目で見つめないで下さい。少し……恥ずかしくなりますので」

 

 

その眼差しにフィアは照れ臭そうに頬を少しだけ赤く染め、そっぽを向いてしまう。

そんなフィアの以外な一面を見たソウジ達は、ニヤニヤしながら見守ろうと……

 

 

「止めてもらわなければ……ソウジ様は愛撫の練習をしていた事を、アタランテ様はユエ様の進めで秘密の日記を付けている事を、ジークリンデさんはソウジ様の妾を目指していることを大多数の前で暴露しますよ?」

 

「「「!?!?!?」」」

 

 

……して、フィアが放った爆弾に一斉に目を大きく見開いた。

 

 

「な、何でその事を知っているんだ!?」

 

「一体どうやって……ッ!?」

 

「どうして知っていらっしゃるのですか!?誰にも明かしていませんのに!」

 

「もちろん、使用人ですので♪」

 

 

問い詰めるソウジ達に、フィアはいつものにこやかな笑顔でお馴染みの台詞で答える。

そうして、ソウジ達の部屋は賑やかな時間で流れるのであった。

 

 

 




「わたくしが皆様をお部屋に案内しますね」

「さりげなく手を握ろうとするな」

「代わりに私が握って上げますよぉ」

ギリギリギリギリッ!!

「あああ~~!!そんなに力を込めないでぇ~~!!」

シアに潰さんばかりに手を握られるアルテナの図。

(この感覚……気持ち、いい……!)

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