大樹への道が開ける周期が訪れ、シアとハウリア族を先頭に、ソウジ達は濃霧の中を進んでいく。
道中、樹海の魔物が霧に紛れて奇襲を仕掛けており、それらの対処は初挑戦の勇者パーティーとフィア、ノイントの肉体を使いこなす為に参加している香織に任せている。
「おらぁ!」
坂上は魔物の攻撃をわざと“金剛”を張った体で受け止めて捕まえ、籠手型のアーティファクトでなら使えるまでに会得した、某坊さんの破壊技を叩き込み―――
「“天絶・爆”!」
谷口は先日受け取ったアーティファクトで会得したバリアバーストで、襲いかかってきた魔物達を吹き飛ばし―――
「ふ―――っ」
フィアはお得意の幻影で逆に魔物をおちょくって、大鎌でバッサリと両断し―――
「こうやって……こう!」
香織は銀羽をホーミングミサイルのように飛ばし、魔物を容赦なく分解・消滅させ、それぞれが魔物を撃退していた。
「…………」
「……龍太郎はともかく、鈴も先日の特訓だけで見違えたわね。凄く戦いやすいし」
その光景を天之河は複雑な表情で見つめ、八重樫は素直に称賛していた。
「あはは……あれは本当に地獄だったよ。全身をあちこち叩かれてすごく痛かったし……最後の二十本の全方位からの波状攻撃と空山くんが投げてくるゴムボールの嵐は本当にキツかったよ」
「帰って来た時、鈴の体のあちこちが赤く腫れているのを見た時は本当に驚いたわよ。特訓中は最低限の治療しかしなかったようだし。……『そうした方が必死になって取り組むだろ』という言い分には理解するけど」
八重樫はそう言ってジト目でソウジを睨む。対するソウジはどこ吹く風で無視している。
八重樫はソウジのその態度にイラッとして、四皇空雲の鞘の突きをソウジの額に目掛けて放つ。当然、ソウジは片手白刃取りで防ぐ。
「……随分暴力的だな」
「空山君にだけは言われたくないわよ。……確か、樹海で得られる神代魔法は“昇華魔法”という名称だったわね?」
八重樫が渋々といった様子で引き下がりながらの質問に、ソウジは頷いて肯定する。
「ああ。“解放者”のミレディ・ライセンが吐いた情報だから間違いない。効果までは聞いていないが、名称からして上昇系の魔法だろう。以前来た時は条件を満たしてなかったから挑めなかったがな」
「条件……四つの大迷宮の証と再生魔法ね?」
「そうだ。【グリューエン大火山】と【メルジーネ海底遺跡】の攻略が絶対条件である以上、難易度は他の大迷宮と比べて高く設定されている筈だ。少なくとも、単純な力比べだけではないだろうな。最後の“紡がれた絆の道標”が何なのかは不明のままだからな」
「そう……」
ソウジの言葉を受けて難しい顔をする八重樫。そんな八重樫に天之河が話しかける。
「大丈夫だ、雫。空山や南雲だって大迷宮をクリアできたんだから、俺達だって頑張ればクリアできる筈だ。そうすれば、空山と南雲と同じくらい、いや、二人よりもっと強くなれる筈だ!」
「だな!絶対、クリアしてやろうぜ!」
「うん!」
奈落に落ちる前のハジメとソウジを基準にして、天之河はグッと握り拳を作った。坂上と谷口も気合いは十分のようである。
「みなさ~ん、着きましたよぉ~」
そうこうしている内に大樹に辿り着いたようで、先頭を歩いていたシアが肩越しに振り返って伝える。再び訪れた大樹はやはり枯れたままだ。
「それじゃあ、さっさと試すか」
ハジメはそう言って、“宝物庫”から今まで攻略した大迷宮の証を取り出し、根元にある石板へと向かっていく。
ソウジは枯れた大樹の姿に呆けている天之河達に鋭い視線を送って意識を今へと戻させてから、カム達ハウリア族に向き直る。
「カム、何が起こるかわからない以上、ハウリア族はここから離れておけ」
「了解です、教官。ボス共々、ご武運を」
カムは少し残念そうにしながらも、他のハウリア族と一緒にビシッと敬礼を決め、ソウジの指示に従って散開した。
それを確認し、石板の後ろに回り込んでいたハジメが【神山】以外の大迷宮の証を窪みへとはめ込んでいく。最後の【メルジーネのコイン】をはめ終えると、はめ込んでいく度に放つ輝きが大きくなっていた石板の輝きが地面を這って大樹に向かい、大樹そのものを盛大に輝かせ、大樹の幹に七角形の紋様を浮かび上がらせる。
「……次は、再生」
ユエがそう呟き、その紋様に手を当て、再生魔法を行使する。
パァアアアアア!!
その直後、今までの比でない光が大樹を包み込み、ユエが触れている紋様を中心に大樹が瑞々しくなっていき、一気に生い茂っていく。
そして、大樹の正面の幹が裂けるように左右に分かれ、数十人が優に入れる大きな洞が出来上がった。
ソウジ達は顔を見合わせて頷き合い、躊躇うことなくその洞中へと足を踏み入れる。どうやら、四つ以上迷宮を攻略していないメンバーがいても大丈夫だったようだ。
ただ、洞の中は特に何もなく、ただ大きな空間がドーム状に広がっていただけであるが。
「行き止まりなのか?」
天之河が訝しそうに呟いた直後、洞の入り口が逆再生するように閉じ始めた。
「な!?入り口が!」
「騒ぐな!」
思わず慌てる天之河にソウジ一喝して黙らせる。入り口が完全に閉じ暗闇に包まれた洞の中で、今度は足元に大きな魔方陣が出現して強烈な光を発していく。
「うわっ!?」
「なんなのっ!?」
「だから騒ぐな!」
「転移系の魔方陣だ!転移先で呆けるなよ!!」
ソウジの一喝とハジメの注意が木霊した直後、彼等の視界は暗転した。
――――――――――――――――――――――――
再び光を取り戻した一同の視界に映ったのは、頭上濃霧で覆われた、木々の生い茂る樹海であった。
「みんな、無事か?」
天之河が軽く頭を振りながら周囲の状況を確認し、仲間の安否を確認する中、ハジメとソウジの二人だけは明らかに苛立っていた。
「南雲、空山、ここが本当に大迷宮なんだよな?……どっちに向かえばいいんだ?」
「……探すしかないだろうな」
「だが、その前に―――」
ソウジはそう呟いた直後、残像さえ残さない挙動で一気にその場を駆け、その先にいたアタランテを義足で足蹴にして押し倒した。
前触れのない突然のソウジの行動に、ハジメ以外が唖然とする中、ソウジは抜刀した絶天空山の切っ先を信じられないといった表情をするアタランテの姿をした
「ソウジ、一体なっ」
「黙れ偽物」
ソウジは底冷えする声色でそう呟き、義足の刃を展開してその偽物に突き刺す。刺されたにも関わらず、そこからは血が一切流れておらず、明らかに“人”ではなかった。
「アタランテの声でオレの名前を呼ぶな。次言えば、手足の端から少しずつ斬るぞ。……アタランテをどこにやった?」
「…………」
ソウジの詰問に、偽物は表情をストンと落として無機質な雰囲気で無言を貫く。“威圧”と殺気をぶつけているにも関わらず、偽物はノインツェーン以上の人形さで全く微動だにしなかった。
「答える気は……いや、答える機能がないのか知らんが、もういい。死ね」
ヒュパッ!
ソウジは絶天空山を振るい、偽物の首を飛ばした。その光景に事の経緯を見守っていた天之河達は思わず口を覆うが、偽物の首と胴体は、一拍おいてドロリと溶け出すと、赤錆色のスライムのようなものとなってそのまま地面のシミとなった。
ドパァアアンッ!!
直後、銃声が響き渡り、ユエ、ティオ、坂上の頭部が赤錆色のスライムとなって弾け飛ぶ。頭部を吹き飛ばされた三人は、先程のアタランテの偽物と同じように、赤錆色のスライムへと戻り、地面に吸い込まれていった。
「チッ。いきなりやってくれたな、大迷宮……」
偽物をクイック・ドロウで撃ち抜いたハジメは、ドンナーをホルスターに仕舞いながら悪態を吐く。
「ハジメさん、ソウジさん……ユエさん達は……」
「転移の際、別の場所に飛ばされたと見るべきだろうな。あの時、僅かだが神代魔法を取得する時の記憶を探られる感覚があった。あのスライムに記憶を植え付けて成り済まさせ、隙を見て背後から襲う魂胆だったんだろうよ。選ばれた理由は、判別がつきにくいと判断したんだろうな」
シアの質問に、ソウジが不機嫌そうな表情で推測を交えて答える。
「成程。ユエ様は基本無口、もしくはハジメ様との惚気話。アタランテ様はご飯の話題とソウジ様との惚気話。ティオ様は変態発言。坂上様は脳筋発言と、分かりやすい特徴をお持ちですからね」
「……それを聞いて凄く納得したわ」
「うん……指摘されると、早々に疑問に思わない面子だよね」
「全く否定できないところが悲しいですね……」
「確かに……脳筋発言をされたら、本物の龍太郎との見分けがつけられない……ッ!」
決して間違っていない、むしろ当たっているフィアの指摘に、ハジメとソウジ以外は物凄く納得していた。
「そういえば、二人はどうやって気がついたの?鈴には全然見分けがつかなかったのに」
「どうやってって……見た瞬間、“オレのアタランテじゃない”と確信したとしか言い様がない」
「俺もだな。目の前のこいつは“俺のユエじゃない”と一目でわかったからな」
「「「「「「「…………」」」」」」」
谷口の疑問に対する、ある意味惚気とも言えるハジメとソウジの回答に、にこやかな笑みのフィア以外は見事に脱力した。
「……じゃあ、龍太郎くんとティオさんは?」
「魔眼石で注意して見た結果だ。魔眼石なら違和感を見抜けるから、俺とソウジがいる限り心配無用だ」
ハジメの返答に、勇者パーティーがどこか呆れたような眼差しをハジメとソウジに向けていると、シアが何を思いついたのか、もじもじしつつ期待を含めた眼差しをハジメへと向ける。
「あの……私でも、見た瞬間に気づいてくれますか?ハジメさん」
「!」
「!ソウジ様。私はどうでしょうか?」
シアの問い掛けに香織が反応して、視線で問い掛け、ジークリンデもソウジに問い掛ける。
何となく、周りの視線がハジメとソウジに集まる中……
「見た瞬間は無理じゃないか?」
「さぁ?どうだろうな」
空気を無視してあっさりと答えた。
シアと香織、ジークリンデがジト目になるが、どこ吹く風といった様子でハジメとソウジは樹海の奥へスタスタと歩き始めていく。
「あら?シア様とジークリンデさんなら分かると、目が物語っていたのは気のせいだったのでしょうか?」
だが、後ろからの爆弾発言に、ハジメとソウジの歩みはピタッと止まった。そして、ハジメとソウジにしては珍しく、若干冷や汗を流して後ろへ振り返ると……
「……ねぇ、ハジメくん。どうしてシアだけなの?私はまだハジメくんの“大切”以上じゃないのかな?」
ハイライトが消えた香織さんの背後に、刀を肩に担いだ般若さんが見事に現れていました。
「か、カオリン落ち着いて!」
「ほ、本当に俺が知る香織なのか……?」
「だ、大丈夫よ香織!まだこれからだから!」
その香織を谷口、天之河、八重樫の三人が必死に鎮めようと慌てふためく。内心で、本当は香織に気を使っていた事を知って二人に謝罪していた。
「もう、ハジメさんったら!ツンデレなんですから!」
「ふふふ……一目で気づくくらいには大切に想われているのですね……うふふ」
シアとジークリンデはその爆弾発言に頬を赤め、照れ臭そうにしており役に立ちそうにない。
そして、この騒動の元凶―――ニコニコしているフィアに向かって、ハジメはゴム弾を放ち、ソウジはゴムボールを投げ、制裁を加えようとするも。
すかっ
ゴム弾とゴムボールはすり抜け、そのまま明後日の方へと消えていった。
「残念。幻影です♪」
フィアの楽しげな声が聞こえた瞬間、そちらに向かってゴム弾とゴムボールを放つも、またしても幻影だったため不発。しかも、感知技能だけでなく、ご丁寧に魔眼石の感知まで誤魔化している徹底ぶりだ。
最初から色々な問題が浮上した一行は、十数分後にようやく樹海の中へと足を踏み入れるのであった。
「あの二人がおちょくられるなんて……」
「フィアさんの天職は“幻術師”でしたよね?」
「確かその筈です。彼女の固有魔法からしてぴったりな天職ですね」
「お誉めに預かり光栄です」
「「そこかぁ!!」」
「ふごぉ!?」
「残念。それはなんちゃって勇者様に投影した幻影です♪」
メイドにおちょくられる一行の図。
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