魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


実力の差

ブゥヴヴヴヴ!!!

 

まるで扇風機を最大で動かしているような、そんな音が樹海に響く。それは一つ二つではない。おびたただしい数の羽音が、それ自体が攻撃になりそうな騒音を撒き散らしていた。

 

 

「キモいよぉ~、“天絶・時爆ぅ”!」

 

 

谷口は羽音の元凶である、幼児サイズのスズメバチ型の魔物の大群の姿に生理的な嫌悪感を抱いて泣きべそをかきながらも、幾枚もの障壁を展開する。

蜂型の魔物がマシンガンの如く掃射する尾の毒針は、谷口の展開したシールドを一瞬で破壊するも―――

 

ドォオオンッ!!

 

破壊された瞬間にシールドは爆発。橙色の波紋を作って後続の毒針の威力を減少、もしくは障壁を破壊した毒針の軌道を変え、何とか襲いかかる毒針の弾幕を凌いでいる。

 

“天絶・時爆”。障壁が破壊、もしくはヒビが入った瞬間に爆発して衝撃波を撒き散らす、谷口が編み出した自動爆破の防御魔法だ。編み出した理由は、先日の特訓で“天絶・爆”が効果を発揮する前に破壊、通過されておもいっきり叩かれたからである。

 

無論、それだけでなく、シールドの展開する角度も変えることで、爆破による毒針の軌道変更が容易にできるように工夫もなされている。

 

 

「うぅ~、シズシズは十時の方向の連携を崩して!光輝くんは連携が崩れた隙を狙って強烈な一撃を叩き込んで!その後は一時の方向をお願い!“天絶・爆ぅ”!」

 

 

谷口は半泣きでありながらもちゃんと周りを見ており、八重樫と天之河に指示を送る。同時に、蜂型の魔物の大群の間にバリアバーストを放つ。今放ったバリアバーストは行動阻害重視で威力は二の次であったが、進行に障害を与えるには十分であった。

 

 

「奔れ、“雷華”!燃え刻め、“爪閃・烈火”!」

 

 

八重樫が四皇空雲の能力を出し惜しみなく使い、宙に咲いた雷の華が、赤く染まった風の刃が、爆発で動きが鈍った蜂型の魔物を屠っていく。

 

 

「“天翔閃”!」

 

 

八重樫が作った隙を狙い、天之河はお得意の“天翔閃”を叩き込み、蜂型の魔物を葬る。

今のところ、何とか対抗できているが、視界を埋め尽くす蜂型の魔物の大群は、一向に減った様子がなかった。

 

 

「くそぉ!まるで魔人族の魔物みたいだ!」

 

「逆だ。連中の魔物が大迷宮の魔物に近いんだよ」

 

 

必死に聖剣を振るう天之河の悪態に、体長三メートルはあるクワガタ型の魔物を一瞬で両断しながらソウジがツッコミを入れる。

 

 

「ソウジの言う通りだ。おそらく、大迷宮の魔物のほとんどは変成魔法で強化されて配置したんだろうな」

 

「おりゃあっ!ですぅ」

 

 

ハジメもソウジのツッコミに同意しつつ、体長二メートルはあるカマキリ型の魔物を瞬殺し、シアも三メートルはある巨大なアリ型の魔物をドリュッケンの一撃で地面ごと爆砕して屍の山を築いている。

 

 

「はぁっ!」

 

「分解!」

 

 

ジークリンデはお得意のブレスで幼児サイズのセミ型の魔物を片っ端から凍結して屠り、香織も負けずに銀羽を飛ばして蜂型とセミ型の魔物を分解・撃墜していく。

 

 

「情け容赦は無用です♪」

 

 

そんな中、フィアは全長一メートルはある大筒を肩に担ぎ、その空洞を体長四メートルはあるダンゴムシ型の魔物の群れに向ける。

 

バシュゥウウウウ~、ドゴォオオオン!!

 

直後、その大筒から何かが発射され、その何かがダンゴムシ型の魔物にぶつかった瞬間、盛大に爆発してダンゴムシ型の魔物を吹き飛ばした。

“幻露”の新たな派生技能である、物体の幻影を生み出す“幻創(げんそう)”。それによって、ハジメから聞いた簡易的な“ロケットランチャー”の幻影を生み出し、“顕幻”で実体を持たせ、自身の魔力による爆発でダンゴムシを屠っているのである。

 

フィアは大迷宮初挑戦にも関わらず、自身の固有魔法をフルに使ってソウジ達に負けず劣らずの活躍をしていた。本当に只者でないメイドである。

その光景が視界に入った天之河は、改めて実力差を感じて悔しそうに歯噛みする。

 

 

「守護の光よ、呑み込み爆ぜ続けよ!“天絶・連爆ぅ”!」

 

 

谷口が詠唱すると、幾枚もの輝くシールドが展開され、一斉に爆発。さらに、砕け散って辺りに飛んだシールドの破片が爆発し、爆発を繰り返していく。

“天絶・連爆”。連続爆破を起こす谷口のオリジナル魔法。爆発する度に威力は弱くなるが、連携の妨害には十分である。

 

 

「蒼き焔よ!風の刃と混じりて飛び刻め!“飛蒼華刃(ひそうかじん)”!」

 

 

谷口の“天絶・連爆”で動きが止まった蜂型の魔物達に、八重樫は“飛蒼華刃”―――ソウジの“蒼牙爪”の別名称版を抜刀術の構えから放つ。放たれた蒼き炎の飛ぶ斬撃は直線上の蜂型の魔物を次々と両断して飛び進んでいく。

先日の特訓の成果を見せる谷口と、四皇空雲の能力を十全に使いこなしている八重樫は蜂型の魔物相手に遅れをとっていない。

 

しかし、どちらも殲滅力が足りず、数が強みの蜂型の魔物に戦局が徐々に押され始めていることに、それに気づいている谷口はと八重樫の表情は苦々しかった。それでも、強烈な一撃を放てる天之河がいることから、まだ戦況を保てられ、その間に打開策を考えようとしたところで、天之河が動いた。

 

 

「刃の如き意志よ、光に宿りて敵を切り裂け!“光刃”!」

 

「!待って、光輝くん!」

 

 

聖剣に光の刃を宿らせた天之河の姿に、谷口が咄嗟に静止の声をかけるも既に遅く。天之河は二メートル程の巨大な光の刃を振りかぶり、体を独楽のように回転させながら一気に振り抜き周囲の蜂型の魔物をまとめて切り飛ばした。

一見、天之河の行動は最善のように見えるが、この状況で隙の多いモーションは完全に悪手だった。

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

その証拠に、技後硬直を蜂型の魔物に狙われて殺到され、体当たりで後方へ大きくひっくり返ってしまったのだから。

 

 

「光輝くん!」

 

「光輝!」

 

 

谷口と八重樫は天之河に向かって声をかけるも、今も尚迫り来る蜂型の魔物の対処に手一杯のため、天之河の援護に迎えない。

その天之河は、聖なる鎧のおかげで毒針は通さなかったが、大量に押し寄せてきた蜂型の魔物によって窮地を迎えていた。

 

 

「うぉおおおお!!」

 

 

天之河は雄叫びを上げて聖剣を振るうが、一度晒してしまった隙を立て直させてもらえず、聖剣を掻い潜って背後に周りこんだ蜂型の魔物に背中から組み付かれ、凶悪な顎で首筋を噛み千切ろうとする。

 

 

「ッ!?」

 

 

天之河が声にならない悲鳴を上げた、その直後。

 

ヒュパッ!

 

風切り音が一つ鳴り、蜂型の魔物の首と胴体が離れていった。

 

「動くなよ、天之河」

 

 

ハジメのそんな声が耳に届くと同時に銃声が鳴り響き、紅く輝く光の槍は、群れを成して迫っていた魔物達を後方まで貫いて絶命させ、更に弾丸同士がぶつかって微妙に角度が変わって、より効率的に敵を撃ち抜いていく。

 

 

「“残空閃(ざんくうせん)”」

 

 

ソウジがそう呟きながら、弾丸が飛び交い、天之河達に迫り来る魔物の群れを納刀された絶天空山を振るって駆け抜けていく。

ソウジが駆け抜けた後には、両断された魔物達と、まるで不可視の刃が存在するかのように、ずり落ちていく魔物の死骸が出来上がる。

 

“残空閃”。再生魔法を利用した、斬撃を再生して残す技。今回は絶天空山の鞘に付与されている“風爪”の“三爪”も複合し、一度の剣閃で複数の剣閃を同時に走らせる“連閃”も同時に繰り出すことで無慈悲の斬撃の壁を繰り出したのである。

ハジメも計算され尽くした射角でドンナー・シュラークを乱れ撃ち、放たれた弾丸は不可視の刃を避け、もしくはぶつかって角度を変え、更に敵を撃ち抜いていく。

 

……全ての片がつくのに、一分もかからなかった。まさに秒殺。

自分達が苦労した魔物を瞬く間に殲滅したハジメとソウジに天之河達が呆然とする中、そのハジメとソウジから衝撃的な言葉が飛び出てくる。

 

 

「ちっ、喰っても意味なさそうだな……」

 

「だな。喰っても固有魔法は得られそうにないな……」

 

「へ?喰う!?何で魔物を食べようとするの!?」

 

 

谷口のドン引きしながら驚愕した質問に、ハジメが何てことのないように答える。

 

 

「言ってなかったか?自分と同等以上の魔物を喰うと、その魔物の固有魔法を自分の物に出来ることがあるんだよ。言っとくが真似するなよ?まず間違いなく死ぬから」

 

「空山君が言っていた奈落での経験ね……確か、二人は例の秘薬で耐えたのよね?」

 

「ああ。あの時も言ったが、今ある神水は手持ちの分だけだからな。香織の治癒魔法をずっとかけて貰えれば耐えられるかもしれないが、わざわざそんなギャンブルに挑む必要はないだろ。魔物の肉を喰ったのだって、生き残る為に必要な事だっただけだし」

 

「やるわけないでしょ……」

 

 

ソウジの釘指しに、八重樫は頭痛を堪える仕草で頭を振って否定する。

 

 

「えっと、結局食べないの?」

 

「ああ。この辺の奴等じゃ雑魚すぎるからな」

 

「……そっかぁ~。二人にとって、この魔物は雑魚なんだぁ~。よく思い出したら、空山くんのあの特訓と比べたらマシだった気がするから当然だよねぇ~、アハハ」

 

「鈴、壊れてないで戻ってきなさい」

 

 

ハジメの返答と先日のソウジの特訓を思い出して、若干壊れ気味に乾いた笑い声を上げる谷口を、八重樫が肩を揺すって正気に戻そうとする。

 

 

「…………」

 

 

そんな中、天之河だけは魔物の死骸をギュッと拳を握りながら見つめていた。自分が危うく死にそうになる程の強敵を、ハジメとソウジがまるで何の価値もない路傍の石の如き評価を下す姿を見て、その隔絶した実力差を嫌というほど感じているのだ。加えて、八重樫と谷口の奮戦する姿に焦りを覚えて動き、結果的に足を引っ張ってしまったこともそれに拍車を掛けている。

そんな天之河に、意外にもハジメが声をかける。

 

 

「……天之河」

 

「っ。なんだよ?南雲」

 

「今お前の幼馴染みを探し出すことだけ考えとけ。あれこれ悩むのは、やることやった後で十分だろ」

 

「……言われなくてもわかっているさ」

 

 

ハジメの言葉に天之河は憮然と返し、気を引き締め直す。その様子を、ソウジはチラリと見やり、すぐに視線を戻した。

今、天之河が感じている感情……劣等感や焦燥感、強さへの嫉妬。以前、ハジメとソウジも感じた感情であることが手に取るようにわかる。

 

ハジメは元々の性分から、ソウジは鍛練することで割り切っていたが、そんな経験を一度もしなかった天之河が割り切れるかどうか……正直、どうでもいいことだ。

そうこうしている内に、ジークリンデ達も魔物を片付け終わって戻ってきたので、一行ははぐれた仲間を探して樹海の奥へと進んでいくのであった。

 

 

 




「そんじゃ、出発するか」

「ユエにティオ、アタランテなら大丈夫だとは思うが、少しでも早く合流できるに越したことはないからな」

「坂上は……無謀な特攻をしでかしているだろうが、まぁ、何とかなるだろう」

「ちょっと空山君!無謀な特攻って何!?龍太郎に本当に何を施したのよ!?」

「確か、防御しながら相手の懐に潜り込んで、強烈な一撃を叩き込む特訓……だったよね?」

「脳筋を悪化させる特訓を施すんじゃないわよ!!」

「大丈夫だ。“重金剛”や“金剛”の上位版、“剛金剛”を会得しているから早々にくたばりはしないだろう」

坂上の特訓の具体的な内容を知り、頭を抱える雫の図。

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