魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


魔物?違う、愛しの人だ

ズパァアアアンッ!!ドゴォオオオオオンッ!!ズゥウウウウン!!

 

樹海の中に地を揺らす程の轟音が幾度となく響き渡る。轟音が響き渡る度に、蒼い爆炎が盛大に立ち上ぼり、樹海の樹々が灰燼に帰す、もしくは燃えながら斬り倒されていき、破壊が際限なく振り撒かれていく。

 

 

「…………」

 

 

その破壊を振り撒いている張本人であるソウジは、能面のような表情で両手の絶天空山を振るい、“蒼牙天翔”を更に強力にした一撃―――“蒼牙號天翔(そうがごうてんしょう)”を左右交互に放ちながら、焼け爛れた跡地をズンズンと進軍している。

 

 

「ソ、ソウジ様、もう十分では……」

 

 

そんなソウジに、ジークリンデが制止の声をかけるも……

 

 

「……あ゛?」

 

「すみません、何でもありません」

 

 

能面でありながら血走った目で振り返ったソウジに、ジークリンデは前言撤回してすごすごと引き下がった。

 

 

「あ、あの、ハジメさん。ソウジさんに何か……」

 

「う、うん。あの魔物はもう死んじゃってるから……」

 

 

シアと香織がソウジを止めてもらうよう、ハジメに頼もうとするも……

 

 

「あ゛ぁ゛?」

 

「「いえ、何でもないです」」

 

 

額に青筋を浮かべ、今にも目の前の破壊に参加しそうな程の怒気に染まっているハジメに、シアと香織は綺麗にハモってすごすごと引き下がった。

 

 

「……シズシズぅ、空山くんを止めてよぉ~。シズシズは空山くんの師匠なんだからぁ~」

 

「無茶言わないで、鈴。今の空山君を止めるのは無理だから。彼と南雲君が怒るのも当然だし……」

 

「ああ……俺も命が惜しい……」

 

 

谷口が震えて八重樫に抱きつき、その隣にいる天之河はガクガク震えて目の前の光景を見守っていた。

 

 

「落ち着くまで放置しましょう。休憩がてらにお茶でもどうでしょうか?」

 

「フィアさん、この状況でお茶を飲める度胸はないわ」

 

 

フィアの空気を読まない提案に、八重樫は頭痛を堪えるように額に手を当てて断る。

ソウジが静かに怒り狂っている理由。それは、猿型の魔物がやってはいけない事を仕出かしたからである。

猿型の魔物が、樹々を足場に縦横無尽に飛び回って、ソウジ達を襲撃した際、勇者パーティーは谷口の奮闘によって少し苦戦するくらいで退け、ソウジ達に至っては敵ではなかった。

 

その時点で猿型の魔物は、最優先対象をハジメとソウジに変更し、人質を取ろうとするも、その考えを逆に利用されて瞬殺されていった。

そこで撤退すればよかったのだが、猿型の魔物は中途半端に知恵が回り、転移陣の情報を受け取っていたことから、彼等は、彼等にとっての最悪な選択をしてしまったのだ。

 

その選択とは、固有魔法“擬態”―――赤錆色のスライムと同じ魔法で、最も危険な敵達が、最も大切にしている者達に擬態し、激しく動揺させる最低な方法を選択したのだ。

猿型の魔物達は、固有魔法であられもない格好で傷だらけとなった姿に擬態した同胞二匹を、茂みから引き摺って最も危険な敵達の前に姿を現そうとした。

 

その猿型の魔物に引き摺られ、擬態した同胞の顔が茂みから出た瞬間、彼等は灰燼に帰した。

理由は単純。最愛の顔を見た瞬間に、ソウジがブチ切れて“蒼牙號天翔”をブッパしたからである。

ここで漸く、猿型の魔物達は敵わない相手だと悟って撤退しようとするも、時既に遅し。

 

ソウジは“蒼牙號天翔”を連続で放ちながら、三十本以上の紅雪まで飛ばし、猿型の魔物の徹底駆除に動き出したのである。

既に周囲三百メートルが完全に焼け野原と化し、その周りの二百メートルは樹々が倒壊している。このまま続けば、樹海は全て焼け野原となるだろう。

 

 

「ジークリンデさん頑張って!今、空山君を止められるのは貴女だけだから!」

 

「しかし……」

 

「しかしじゃないわ!諦めたらそこで終わりよ!」

 

「でしたら、()()で止めましょうか」

 

 

相変わらずのにこやかな笑みを浮かべるフィアの言葉に、八重樫がピタリと止まった。

 

 

「……え?三人?まさか……」

 

「はい。私とジークリンデさん、雫様の三人でソウジ様の怒りを鎮めましょう」

 

「どうして!?」

 

「人を焚き付けて危険地帯へ行かせ、一人安全圏にいるのどうかと。安心して下さい。私もお供致しますので♪」

 

「嫌よ!今の空山君に近寄りたくないわ!!……あっ」

 

 

八重樫は思わず本音を溢してしまった。その瞬間、ジークリンデとフィアよって両脇をがっちりとホールドされた。

 

 

「では、三人で行きましょうか」

 

「ふふ。これぞ、運命共同体というやつですね」

 

「嫌よ!お願いだから離してぇ!」

 

 

本気で懇願する八重樫に構わず、ジークリンデとフィアがソウジに向かって歩み始める。八重樫は天之河と谷口に助けを求めて顔を向けるも、二人はサッと顔を反らした。

その事実に、八重樫は出荷される豚のような心境になった瞬間、ソウジの動きが唐突に止まった。

 

 

「……え?」

 

「ソウジ様?」

 

「あら……?」

 

 

ジークリンデ達は何の前触れもなく動きを止めたソウジに首を傾げるも、当の本人は虚空をじっと見つめている。

ソウジはそのまま絶天空山を納刀すると、とある方向の茂みに向かって歩を進め始めた。

 

 

「そ、空山君!どうしたのよ急に!?」

 

 

八重樫の質問にも答えず、ソウジは何の迷いもなくとその茂みへと向かっていく。同時に駆除に飛ばしていた紅雪も戻ってきており、ソウジの謎の行動に一同は揃って首を傾げている。

そして、ソウジが向き合っていた茂みから紅雪が顔を出し、その直ぐ後に、直径一メートル位はある翠色のスライムが紅雪の後を着いてきたかのように飛び出した。

 

 

「ま、魔物!?」

 

 

茂みから現れたスライムに多くが身構える中、そのスライムはポヨンポヨンと跳ねながら、ソウジの下へと近づいていく。

そのソウジはと言うと、先程までの血走った目ではなく明らかに目元が緩んでおり、その場で片膝をついてしゃがんでそのスライムを待っている。

 

 

「空山!そのスライムは俺ぶが!?」

 

 

天之河がスライムに向かって聖剣を構えた瞬間、紅雪・模擬に顔面をおもいっきり叩かれて地面に沈められた。

 

 

「ちょっと、空山君!何で光輝を攻撃したの!?」

 

「恋人を守って何が悪い」

 

「「「「「……え?」」」」」

 

 

八重樫の詰問にあっさりと返したソウジの言葉に、八重樫、谷口、鼻を押さえながら身体を起こした天之河、シア、香織から間の抜けた声が洩れる。

 

 

「……やはりそのスライムは」

 

「アタランテ様だったのですね。ソウジ様の態度からもしやとお思いしましたが」

 

 

ジークリンデとフィアはソウジの態度から予測出来ていたようで、あっさりとソウジの言葉を受け止めていた。

そのスライムはというと、辿り着いたソウジの足下でポヨンポヨンと跳ねている。

 

 

「……なるほど。転移して気づいた瞬間にその姿になっていたのか」

 

ポヨンッ

 

「しかも、装備も失い、魔法も使えなくなっているのか」

 

ポヨンッ ポヨヨンッ

 

「実はクソ猿の駆除をしていてな。それで紅雪でお前を見つけたんだよ」

 

ポヨンッ ポヨンッ

 

「まぁ、恋人をダシにされて頭にきてな。クソ猿共はもう大方始末できた筈だ」

 

ポヨヨンッ ポヨンッ

 

「おそらく、これが“紡がれた絆の道標”なんだろうな。とりあえず、ダメ元で再生魔法をかけてみよう。……と、いうわけだ。香織、悪いが頼めるか?」

 

 

その瞬間、ハジメ以外がソウジにツッコミを入れた。

 

 

「「「「「「「いやいやいやいや、待て待て待て待て」」」」」」」

 

「ん?どうした?」

 

「明らかにおかしいでしょ!?どうして自然に意思疎通ができるのよ!!」

 

「これくらい、恋人同士なら普通だろ」

 

「いや、恋人同士でも普通は出来ないよ!明らかにおかしいよ!」

 

「……流石ですねソウジ様」

 

「……お茶をご用意致しましょうか?」

 

「……お願いしますですぅ」

 

「……うん。今はお茶を飲んでリフレッシュしたいよ……」

 

 

色々な意味で疲れたジークリンデ達はフィアの提案に素直に頷き、フィアはせっせとお茶の用意をしていく。

その間にアタランテ(スライムVer)に香織が再生魔法“絶象”を行使するも……

 

 

「…………」

 

「あれっ?何で!?」

 

 

アタランテの姿は元に戻らなかった。

 

 

「やっぱりダメだったか」

 

「?やっぱりって?」

 

「さっきも言ったが、これが“紡がれた絆の道標”なんだと思う。仲間をすり替え、そのすり替えた仲間の外見を魔物に変えて言葉での意思疏通が図れないようにして、仲間との“絆”を試す……この“前座”が終われば、元の姿に戻る筈だ」

 

「なるほど……それなら辻褄が合いますね」

 

「あれ?そういえばハジメさんは?」

 

 

シアが思い出したように、会話に一切参加していないハジメの姿を探し始める。そのハジメは言うと……

 

 

「……そうか、気が付いたらその姿になっていたのか」

 

「……グギャー」

 

 

身長百四十センチ程の小柄なゴブリンに酷似した魔物と普通に会話していた。

 

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

「……あの、ハジメさん。その魔物はひょっとして……」

 

 

シアが渇いた表情でハジメに質問すると……

 

 

「ユエに決まっているだろ」

 

 

何てことのない、むしろ当たり前のように言葉を返した。

 

 

「「「「「「「ですよねー」」」」」」」

 

「グギャ!」

 

 

ハジメの返答に、ソウジとアタランテ(スライムVer)以外が疲れた表情となる中、ユエ(ゴブリンVer)は嬉しげに鳴くのであった。

 

 

 




「本当にユエさんですか?」

「グギャ!」

「たしかに貧乳だけど、本当にユエかな?壁のように平たい胸だけど、私には魔物にしか見えないよ……」

「グギャー!!」

「……ッ!!!」

「ユエさんとアタランテさんですぅ!!」

香織の悪意にスクリューキックと体当たりをかますゴブリン(ユエ)とスライム(アタランテ)の姿に、二人だと確信したシアの図。

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