「……間違いなくティオ様ですね」
「……今度は私にもわかりますよ。あれがティオさんだって」
「うん……私もあれがティオだってわかるよ」
『……むしろ、あれがティオじゃなかったら大変』
『ああ。あれが他にいて堪るものか』
「ふふっ、業が深いのですね……」
「本当に重症だな……」
「満場一致で、あれがティオだな」
念話石で会話出来るようになったアタランテとユエ共々、どこか汚物を見るような目を前方に向けているソウジ達。
ユエとアタランテと合流してから三十分後の現在、彼等の目の前には一匹のゴブリンを寄ってたかって暴行しているゴブリンの集団がいるのだが……
「……どう見ても……恍惚としてる……わよね?」
「……あの顔は放送禁止レベルだよ」
「……南雲、俺は懐の広さではお前に勝てる気がしない」
「よせ、天之河。俺は変態を許容しているんじゃない。……諦めているだけなんだ……」
ドン引きしている八重樫達の言う通り、その暴行を受けているゴブリンは恍惚の表情を浮かべているのだ。どう見ても、あの変態以外あり得ないのである。
「……あいつはもう手遅れだ。残念だが諦めよう」
「……里にはティオ様は遠くへ旅立ったと伝えておきます。もう、あの頃の凛々しいティオ様は死んでしまわれたのです」
ハジメは哀しげな表情で頭を振り、ジークリンデは目尻に光るものを流しながら、そっと踵を返した。ソウジ達は何の躊躇いもなく追随し、ソウジは顔を俯けるジークリンデの背中を撫でて慰めている。天之河ですら、視線を彷徨わせてどうしたものかと迷っていると。
「グ?ギャギャ!」
その時、ゴブリンの一体がソウジ達の存在に気がついたように声を上げた。
当然、暴行を受けていたゴブリン(ティオ)もソウジ達の存在に気がつき、ガバッと顔を上げて大きく目を見開き、地面をカサカサするように高速移動してハジメに向かって突進していく。
「グギャギャギャ!!」
間違いなく「ご主人様ぁ~、会いたかったのじゃ~!」と言っているであろうゴブリン(ティオ)はルパ○ダイブのような姿勢で飛び上がり、一直線にハジメの胸に飛び込もうとする。
「寄るな、このド変態がっ!」
当然の如く、ハジメは罵りながら義手のアッパーカットで対応した。
メキョ!という鳴ってはいけない音を響かせながら、ゴブリン(ティオ)は四回転半の芸術的なバク宙を決めつつ、恍惚とした表情で傍の茂みに墜落した。
『……死んだ?』
「いえ、恍惚としていたので生きているでしょう」
『……相変わらずの変態』
ユエの呟きに、ジークリンデが死んだ魚のような目で否定し、それを聞いたユエも同じく死んだ目でゴブリン(ティオ)を見つめる。
そのゴブリン(ティオ)は体をビクンッビクンッ!と痙攣させてから意識を取り戻して起き上がり、興奮したように鳴き喚きながら両手で自分の頬を挟み、イヤンイヤンと身を捩らせて、ハジメをチラ見し始める。
思わずドンナーを抜きそうになったハジメを必死にシアが宥め、香織が代わりにゴブリン(ティオ)に念話石を手渡した。
『……どうじゃ、聞こえるか?ご主人様よ。再会して初めての言動が罵倒と拳だった我が愛しのご主人様よ』
「チッ。体はかわってもしぶとさまでは変わらねぇのか。そのまま果てればいいものを……」
『ッ!?あぁ、愛しのご主人様よ。その容赦の無さ、たまらんよぉ。ハァハァ』
本当に相変わらずのティオに、全員が汚物を見るような目となる中、ジークリンデが大の字に寝転がったティオの両脇を抱え、そのまま持ち上げた。
『む?ジークよ。どうして妾を持ち上げるのじゃ?』
ティオの疑問をジークリンデは無視し、ティオのすぐ傍に氷の檻を瞬く間に作り上げていく。そして、ティオをその中に降ろすと、入り口を完全に塞いで、ティオを氷の檻に閉じ込めた。
『っ!?まさかの監禁プレイ!?流石ジーク!よくわかって―――』
「では、皆さん行きましょうか」
興奮するティオをジークリンデは華麗に無視し、笑顔で踵を返して氷の檻から離れていく。ティオの行動にドン引きして固まっていたゴブリン達を瞬殺したソウジ達も、無言でジークリンデに追随する。
『監禁プレイだけでなく放置プレイも合わせるとはっ!……って、本当に置いていく気かえ!?妾が悪かったのじゃ~、お願いだから置いていかないでたもぉ~』
ティオは氷の檻からソウジ達に手を伸ばし、泣きが入った声で呼び掛けるのであった。
――――――――――――――――――――――――
最終的に、ティオを連れていくことにしたソウジ達は、未だに見つかっていない坂上を探すのだが……
「……ねぇ、雫ちゃん。あの魔物の動き、明らかに空手だよね」
「ええ。それに、拳の動きがどこぞの漫画の技に似ているのもね」
「……うん。間違いなくあれが龍太郎くんだよ」
「龍太郎……」
何とも言えない微妙な気分でジト目を前方に向けている天之河達。
ティオを氷の檻に閉じ込めたまま龍太郎を探して二十分後の現在、彼等の目の前にはオーガのような魔物同士が戦っていた。しかも、周りには血を吐いて地面に伏している複数のオーガが転がっている。
「グラァ!!」
今戦っている、あちこちが傷だらけになっているオーガが第二関節で握った拳を空手の動きで振るい、拳の第二関節がオーガの腹に当たった瞬間、拳を折って瞬時に二撃目を叩き込んだ。
どう見ても二重の○みである拳を喰らったオーガは盛大に血を吐き出し、他のオーガ同様に地面に沈んでいった。
「グゥウガァアアアアアアアアア!!」
岩のような拳を掲げ、勝利の雄叫びを上げるオーガ。どう見てもあの脳筋以外あり得なかった。
「……あれ、素でやってますよね?ドリュッケンで使える技を使ってますよね?」
「シア。あれは元々拳で使う技だ。むしろ、あっちが本家なんだ」
『流石ソウジだな。数日であそこまで鍛え上げるとは』
『……もう魔改造の域』
「……ソウジ様、もう少し自重を覚えましょうよ。手助けした私が言うのもなんですが」
「流石、負け兎だったハウリア族を魔改造しただけはありますね。ソウジ様」
『妾も罵倒されたいのぉ……後、そろそろ出してもらえんかのぉ?』
そう言って全員がソウジに向かってジト目を送る。その視線を一身に受けたソウジはサッと顔を反らして無視した。
「グゥ?グガ!」
そこでようやくオーガ(坂上)はソウジ達に気が付き、不敵に笑って手を振って存在をアピールし始める。八重樫達は何とも言えない気分で近寄り、香織が念話石(改良型)をオーガ(坂上)に手渡した。
『……お?これで話せるようになるのか?』
「……龍太郎?今のあんたはステータスが下がっている筈でしょ?どうして今倒れている魔物達と戦っていたの?」
あまりに呑気過ぎる坂上に、八重樫は人差し指を額に当てながら先の行動の理由を問い質す。
『皆を探していたら今転がっているオーガの集団にばったり遭遇してな。それでオーガの集団に襲われたから応戦してやったぜ!!』
「お馬鹿!戦う前に逃げなさいよ!死んだらどうするつもりなのよ!」
「そうだよ龍太郎くん!体だって結構ボロボロなんだよ!むしろ、この体でどうしてあそこまで動けたの!?」
坂上に回復魔法をかけている香織も、坂上の傷の具合からそんな詰問を飛ばすも。
『気合いだぜ!!』
やたら爽やかな笑顔であろう笑みと共に、脳筋発言が返ってきた。
『それに、空山の特訓と比べたらこれくらい、どうってことないぜ!!』
「……空山君?龍太郎の脳筋が悪化したことに対して弁明はあるかしら?」
「ない」
ソウジが即答したその瞬間、八重樫の身体から何か噴き出してはいけないものが溢れ始めた。
「……八重樫?」
「……空山君。龍太郎を鍛えたこと自体は悪いとは思わないわ。けどね……もう少し頭を使わせる事も教えるべきでしょ?」
「そうは言ってもな、この脳筋に頭脳戦はでき―――」
カッ
ソウジの言葉を遮るように、八重樫は四皇空雲の鞘の鐺を地面に突き立てた。
「言い訳無用。龍太郎共々、そこに正座しなさい空山君」
「……わかった」
『……おう』
八重樫の謎の迫力に押され、ソウジは坂上共々、正座で八重樫から小言を貰うこととなった。
「―――大体、空山君はスパルタ過ぎなのよ。短期間で鍛え上げようとするのは理解出来るけど、限度があるでしょう」
「人間必死になれば大概は出来るようになる。谷口も先日の特訓だけで実力は上がっただろ?」
「話をずらさない!」
『け、けどな雫。あいつらと殴りあったお陰で、本格的にコツが掴めたんだ。実際、こうして―――』
「時と場合を考えなさい、龍太郎」
『……おう』
「おう?」
『……すみませんでした』
「空山君は?」
「反省も後悔もない」
「少しは反省しなさい!!」
『のぅ、ジーク。そろそろ出してもらえんかの?少し肌寒く感じてきたんじゃが……』
「しばらく反省していて下さい」
『あぁん、つれないのぉジーク。ハァハァ』
「……やはり置いていきましょうか」
『…………』
ジークリンデの圧に、正座して大人しくなる変態の図。
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