魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


夢の終わり

放課後、ジークリンデ先生―――二人だけの時はジーク先生―――のティオ先生への愚痴を聞き終えたソウジは、アタランテと並んで帰路に着いていた。

 

 

「今日も騒がしい日常だったな」

 

「全くだよ……げっ」

 

 

アタランテの言葉に同意していたソウジだが、前方に捉えた帽子と眼鏡をかけた少女と女性の姿に、おもいっきり顔を顰めた。

 

 

「どうした……ってまた貴様らか」

 

「またとは何だよまたとは。天下のアイドルがせっかく会いに来たってのに」

 

「ふふっ、本当につれない態度ですね」

 

 

アタランテの辛辣な言葉に、変装して正体を隠しているアリアと、彼女のマネージャーであるフィアがいつも通りの反応をする。

 

 

「会う度にいつも本当に思うんだが……テレビやライブの時とキャラ違い過ぎだろ」

 

「イメージだよイメージ。こういうのは印象が大事だからな!」

 

「実際は私とのポーカーに負けて、淑女のイメージで売り出すことになっただけですが♪」

 

「思い出させるなよフィア!あの時、まんまと騙されたのが本当に屈辱なんだからよ!」

 

 

フィアの言葉にプンスカと怒りを露にするアリア。月に一度、こうして不意に会いに来る二人はアイドルとマネージャーというより、姉妹に近い関係である。

 

 

「嬢ちゃん達ぃ?これから僕達と遊ばない?」

 

 

と、その時、三人のガラの悪いチンピラがアタランテ達に話しかけてきていた。ソウジは見た限り、大したことはない連中なので、自然な流れで追い払おうと―――

 

ゴキッ! バキッ! ベキッ!

 

 

「「「あぎゃあああああああああああ―――ッ!?」」」

 

 

する前に、アタランテ、アリア、フィアが間接技を決めており、間接技を決められた連中は地面へと無様に転がっていた。

 

 

「ああくそ、こんなゴミ共のせいで冷めちまったじゃねぇか」

 

「仕方ありませんから私達はこれにて失礼しますね。またお会いましょう」

 

 

フィアはソウジとアタランテに優雅に一礼し、チンピラの横山で不機嫌なアリアを連れて帰っていくのであった。

 

 

(?何で俺は居合の構えをとろうとしていたんだ?剣術も剣道も一度もしたことも習ったこともねぇのに……)

 

 

ソウジは当たり前のようにとろうとしていた自身の不自然な行動に、胸中の違和感は更に膨れ上がるのだった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

夕方。

ソウジとアタランテは滝川書店の裏口から入り、店の手伝いの為に、従業員の服に裾を通して身だしなみを整えていると―――

 

 

「ソウジ。帰ってたのか」

 

「元気にしていた?ソウジ」

 

 

父親と母親が後ろから声をかけてきた。

 

 

「ただいま、父さん、母さん。俺はいつも通りだよ」

 

 

ソウジも久しぶりの両親の姿を視界に収め、若干口元を緩めて返事をする。

 

 

「ふっ、元気そうでなりよりだ。もしかしてそちらの女性が……」

 

「ああ。恋人のアタランテだ」

 

「そうなの。初めましてアタランテさん。貴女のことは既に息子から聞いているわ」

 

「私もソウジから聞いています。初めまして、お義父さん。お義母さん」

 

「あら、やだ。いきなりお義母さんだなんて……孫はいつ見れるかしら?」

 

「きっと二人に似た素敵な子だろうな。お祖父ちゃんになるのが今から楽しみだ!」

 

 

両親とアタランテが無事に打ち解け合っている姿に、ソウジは……何故か違和感を感じていた。

 

 

(……何でこんなに違和感が過るんだ?素敵な恋人がいて……父さんも母さんもいて……()()な家族にも無事に紹介できて……何が不満なんだよ?……あれ?俺はいつからこんなにも家族を大事に思うようになったんだ?)

 

 

次々と沸き上がってくる疑問に、ソウジは深く、深く、自分の記憶を探っていく。

 

 

(……俺が家族を大事に思うようになったのは―――)

 

 

―――父さんと母さんが殺されて、塞ぎこんだ自分を立ち直らせてくれた“家族”がいたから

 

 

「―――ッ!!」

 

 

その考えが脳裏を過った瞬間、ソウジは目を大きく見開く。そして、それを皮切りに次々と思い出される本当の記憶―――

 

 

―――だから、心配している家族の元に早く帰って安心させたい。それが俺の本音だ

 

―――オレの目標は家族の元へ帰る事…………そのためならどんな困難だろうが、理不尽だろうが、行く手を邪魔するなら斬り捨てるだけ……

 

―――愚問だな。オレはオレの望みのために進んで行く。もうその腹は決まっている。後は願いに向かって足を踏み出すだけだ

 

―――狩人少女。オレと一緒に来い

 

―――取り敢えず名前がないと色々不便だからな、お前の事を“アタランテ”と呼ぶ事にするが異論はないか?

 

―――なら、一緒に来ればいいだろ

 

―――ついでにオレの家族にも紹介してやる。この世界で出会った仲間としてな

 

―――そんなにしょげるな。そんなに気落ちしているとせっかくの料理が美味しくなくなるぞ

 

―――もちろん、オレもアタランテ、お前に対してハジメと同じ思いを抱いている

 

―――確かに仲の良い奴もいたが……あの日に戻ろうとは思わない。この“今”を否定したくないからな

 

 

「……こんな見せかけの世界に惑わされるとか、本当に情けないな、()()は」

 

 

ソウジは顔を俯かせ、拳をギリギリと強く握りしめる。それは自身の願いをすっかり忘れてしまっていた自分に対する、強い怒りだ。

 

 

「……ソウジ?」

 

「どうしたの?ソウジ」

 

「ソウジ。急に顔を俯けて―――」

 

「黙れよ、偽物ども」

 

 

心配げな表情で話しかけてきた両親とアタランテに、非常に冷めきった声色と睨みで遮ったソウジの姿は、日本にいた頃の姿ではない。灰髪バンダナ、腰に相棒たる刀を携えた、奈落の化け物となった姿だ。

 

 

「随分と質の悪い手を使ってきたもんだ……痛みや苦痛じゃなく、“理想の幸せ”で攻めてくるとか……この世界の女性は全員クセが強いのかよ?」

 

 

どうでもいい考察をしながら悪態を吐くソウジにアタランテ達が歩み寄ろうとするも、ソウジは一瞬で抜いた絶天空山の切っ先を突きつけて、明確な拒絶の意を示した。

 

 

「……どうしてだ、ソウジ」

 

「ここはソウジの理想の世界。両親も恋人も友達もいる、全てがソウジの理想を体現した世界なのよ?」

 

「ソウジ。ここにいればずっと幸せを享受し続けられる。皆がずっとお前の傍にいる。だから、ここにいてくれ」

 

「寝言も休み休み言え」

 

 

ソウジは付き合う価値もないと言わんばかりに鼻を鳴らし、八相の構えで絶天空山を構え、自身の技能をフルに使って純粋な魔力を刀身に込め始めていく。

 

 

「……どうして」

 

 

理想的な世界を真っ向から否定するソウジに、アタランテは疑問の声を上げる。対するソウジは魔力圧縮と集束を続けながら、鋭い目付きで偽物達を睨んで答えた。

 

 

「確かにこの世界はオレの理想だろう。……だがな、その理想も過去の辛い経験があってこそだ。それをなかったことにすることは、全てを真っ向から否定するのと同じだ。オレはそんなクソッタレな選択をするつもりはない!!」

 

 

ソウジは“限界突破”も行使し、膨大な量の蒼い魔力を刀身に全て宿す。そして、いつでも振り下ろせるように右足を下げ、肩に担ぐように絶天空山を振りかぶった。

 

 

「そうやって積み重ねた経験が、何が幸せなのかを、何が大事なのかをオレに教えてくれる!!望んだ未来を掴もうと足掻かせてくれる!!そんな最高が、理想だけの甘ったれに勝てるわけねぇだろうが!!」

 

 

刀身に宿った膨大な蒼い魔力が一気に解放される。解き放たれた魔力は莫大な光の超特大大剣となり、この世界の空間に突き刺さって亀裂を入れ始めていく。

 

 

「らぁあああああああああああああっ!!!!!」

 

 

ソウジはそれを裂帛の咆哮とともに振り下ろし、振り下ろされた特大大剣は理想世界に大きな傷痕と無数の亀裂を作っていき―――

 

パリィイイイイイイイン!!!

 

ガラスが砕け散るような音と共に、ダイヤモンドダストが舞うように世界が砕け散った。

 

 

「……合格だよ。甘く優しいだけのものに価値はない。与えられるだけじゃ意味がない。君の言う通り、辛い経験があってこそ、人は幸せを知ることが出来る。積み重ねて紡いだものが本当の幸せを君にもたらしてくれる。その気持ちをこれからも忘れないでね」

 

「ふん……当たり前だ」

 

 

急速に沈んでいく意識の中、誰のものでもない声音に、ソウジはぶっきらぼうに返すのであった。

 

 

 




「ああ、そうだ。最後に……“爆砕撃・猛双牙”」

「え?―――おぶふぅっ!?」

最後の八つ当たりで、“魔衝波”と“重力魔法”を複合させ、二振りの刀を同時に振り抜いて放つ、一直線に飛ぶ二重衝撃波を喰らわせたソウジの図。

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