魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


起床と訓練(魔改造)の賜物

背中と後頭部に当たる冷たく硬い感触と乾いた空気。それを感じて、僅かに微睡んでいたソウジの意識は急速に浮上した。

 

 

「っ……ここは……」

 

「起きたか、ソウジ」

 

 

頭を振りながら体を起こしたソウジの耳に、アタランテの声が届いてくる。

ソウジはそちらへ顔を向けると、元の姿に戻っていたアタランテが、添うようにソウジの近くにいた。ソウジはアタランテを視界に収めた瞬間、何の迷いもなくアタランテを抱きしめ、アタランテもそれに応えるように抱きしめ返した。

 

 

「……違和感がない。やはり、お前が一番だよ」

 

「ふふっ、私もだ」

 

 

そのままソウジとアタランテは互いに強く抱きしめ続ける。互いの存在を確かめ合うように。

 

 

「……どんな夢だった?」

 

「オレの両親が生きていて、召喚もされず、平和な日常でアタランテ達と過ごしていた。アタランテは?」

 

「世界中を皆で旅していた。綺麗なクソ神が出て、ソウジが挨拶した瞬間に夢だと確信した」

 

 

どうやら、アタランテの“理想の神様”は逆効果だったようだ。ハルツィナに同情すべきか、クソ神のゲス振りにうんざりすべきかは微妙なところである。

 

 

―――ゴホンッ!

 

「ソウジはどうだったのだ?」

 

「オレもアタランテが両親に挨拶したことで夢だと気づいた」

 

「ふふっ、どちらも同じだったか」

 

―――ウオッホン!

 

 

似た経緯で夢を振り切ったのだと互い知ったソウジとアタランテは自然に唇を重ね合わせ、静かに、だけど濃密にキスを堪能していく。

 

 

「……つまり、アタランテが一番乗りだったのか」

 

「ああ。二番目はハジメだ」

 

「そうか……」

 

―――ゴホッエッホン!

 

「そういえば、琥珀が光るとほぼ同時にソウジの体から魔力が溢れていたのだが、夢の中で何かあったのか?」

 

「……あー、夢の世界を力づくで壊していた時、そうなってたんだな……」

 

 

ソウジのバツの悪い返答に、アタランテは苦笑してしまう。そして、再び濃厚なキスをしようとして―――

 

 

「ウゴッツクエッェヘンゴホッガハッツトブエックショイッ!!!!!」

 

「―――ん?」

 

「―――む?」

 

 

先程から、何となく聞こえていたが無視していた異音が怪音となった為、ソウジとアタランテは若干苛立ちを見せて怪音の発生源に視線を巡らせると……

 

 

「うっく、ぐす、ひっく……」

 

「泣かないでくださいシア様。貴女は強い人です」

 

「ジークリンデさん……私は……いらない子なんですよぉ~……頑張って現実に戻ってきたのに……いきなり空気扱いで……ジークリンデさんのように強くないんですぅ~」

 

「私だってシア様がいなければ、同じように泣いていましたから。それにほら、漸く気づいてくれましたよ?」

 

 

ウサミミを萎れさせ、泣きべそを掻くシアと、そんなシアを慰めるジークリンデの姿があった。どうやら、二人も起きていたようだが、ソウジもアタランテも互いのことしか見ていなかったことで全く気づいていなかったのだ。

シアの方は同じく漸く気づいたハジメとユエに任せ、ソウジはジークリンデの宥めにかかる。

 

 

「……悪かったジーク。全く気づいてやれなくて」

 

「……本当に悪いと思っておられましたら、私も抱きしめてください」

 

 

案外ちゃっかりしているジークリンデにソウジは苦笑しつつ、ジークリンデをアタランテと同じように強く抱きしめる。アタランテは少し微笑みながらジークリンデに夢の内容を聞く。

 

 

「どんな夢だった?」

 

「変態ではないティオ様がいて、私はソウジ様の妾になっていました。ですが、これで本当にいいのかと、私の心が叫んでいたのです。そして、気がつけば、ティオ様を打っていました。貴女はドMだと教えるために」

 

「そ、そうか……」

 

 

どうやら、ジークリンデはティオを元に戻すことを完全に諦めたようである。だが……

 

 

「それに、今のティオ様はいきいきとしておられですしね。無理に元へと矯正するより、歯止めをかけた方がよろしいですからね」

 

「そうか……おかえり、ジーク」

 

 

ジークリンデの微笑みに、ソウジはある意味敵わないなと思いつつ、慈しむような表情でジークリンデの頭を撫でる。

その直後。

 

 

「ぬがぁー!ご主人様のお仕置きはそんなものではないわァーー!!一から出直してくるんじゃな!!」

 

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

 

そんなことを宣いながら空中に拳を振るうティオの姿に、同時に目覚めたらしいフィア共々、思わず無言となり蔑んだ眼差しを向けた。特に、ハジメとジークリンデはゴミを見るような眼差しである。

当然、変態は恍惚の表情で身震いした。

 

 

「ご主人様よぉ~、ただいま戻ったのじゃ~!愛でで!?」

 

 

ゴブリンの時と同じようにルパ○ダイブを決めようとしたティオだったが、顔面から見えない壁にぶつかったように止まり、そのままズルズルと地面へと落ちていった。

 

 

「……ティオ様」

 

「!?ジーク!?そうか、これはジークの空間魔法じゃな!?まさか妾とご主人様の愛の育みを遮るとは!しかも、その絶対零度の眼差し!!堪らんのぉ~!ハァハァ」

 

「死んでください」

 

「あひゃーっ!?」

 

 

あまりにも酷いティオの反応に、ジークリンデがティオに氷塊を落とし、氷塊の下敷きにする。対するティオは完全に悦んでいる。

 

 

「ご主人様よぉ~、ご主人様も妾に―――」

 

「……果てろ、変態」

 

「ッアバババババババババっ!!!!!」

 

 

本当に度しがたい変態振りを発揮するティオに、ハジメが“纏雷”で制裁を加える。……悦んでいるのが本当に不本意だが。

ソウジはひとまず変態を無視して、フィアに話しかけることにする。

 

 

「お前も無事に乗り越えられたんだな」

 

「はい。夢の中では、国に追放されたのではなく、一族と共に旅に出て、奴隷がいない帝国でお嬢様達と過ごしていました」

 

 

今までの話と周りの琥珀、自身の夢の内容からして、琥珀の中に閉じ込めた者を、その対象の過去の苦痛をなかったことにして、その上で今ある幸せを組み込んだ世界の夢の中に閉じ込めているのだろう。

その甘い理想世界を振り切って、現実を受け入れることがクリアの条件と見ていい。

過去に区切りをつけたとはいえ、シアが羨ましいと言ったフィアには、その夢は相当魅力的だった筈だ。にもかかわらず、自力で脱出できたフィアの強さに、ソウジは心の中で称賛した。

 

 

「後、夢の中では殿方の寵愛を受けていました♪」

 

 

その瞬間、空気が凍った。

 

 

「……ねぇ、フィアさん。一体誰の寵愛を受けていたの?」

 

「それは私も気になるですぅ」

 

「うむ。包み隠さず教えるのじゃ」

 

「……誤魔化しは許さない」

 

「ああ。一体誰の寵愛なのだ?」

 

「魂魄魔法がありますから、嘘は通用しませんよ?」

 

 

無事に脱出したらしい香織共々、女性陣はどこか蔑んだ眼差しでフィアに視線を送る。

 

 

「きゃ♪恐いですね♪」

 

 

そのフィアは両手で自身の頬を挟み、わざとらしく恥ずかしがりながらソウジをチラ見した。それで全てを察したハジメハーレムメンバーはあっさりと引き下がり、アタランテとジークリンデは瞳に焔を宿した。

 

 

「……どうやら、一度お前を絞める必要があるようだな」

 

「ええ。その挑発、受けてあげますよ」

 

 

アタランテはヤークトを構え、ジークリンデは手を振りかざす。完全に臨戦態勢となった二人にフィアは……

 

 

「まぁ、恐い♪」

 

 

微笑みを絶やさずにしれっと受け流していた。ソウジはその修羅場をスルーすることにしてハジメに話しかける。

 

 

「……とりあえず、オレらのメンバーは全員帰還できたな」

 

「そうだな。あいつらはどうする?」

 

「しばらくは自力で脱出できるまでは見守って、ある程度時間が来たら琥珀を破壊して助け出す方向でいいだろ」

 

「だな。そうでないと大迷宮に挑ませた意味がないしな」

 

 

そうして一応の方針を決め終え、ソウジ達は修羅場(狭い空間故に睨み合う程度で自重した)が収まったアタランテ達と共に食事をとりながら勇者パーティーの脱出を待つことにする。

そして、体感で一時間半くらい経った頃、琥珀の一つが輝き出した。

 

 

「あれ?あの琥珀は……」

 

「以外じゃのぉ。雫より先に乗り越えるとは」

 

 

ソウジ達の予想では八重樫が最初に脱出すると予想していたのだが、予想を裏切る展開にソウジ達は全員でその琥珀を注視する。やがて、琥珀が完全に溶け、地面に吸い込まれるように消え……

 

 

「YAHAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

 

 

両手を頭上に掲げて雄叫びを上げて体を起こした最初に戻って来た人物―――坂上の姿に、一同は坂上が理想世界から脱出できた理由を察した。察してしまった。

 

 

「……ソウジさん」

 

「……根幹は変わってないから大丈夫……のはずだ」

 

「……やはり魔改造」

 

「肉体だけでなく、精神も鍛え上げていたか」

 

「ハウリアの魔改造に協力した俺が言うのもなんだが、少しやり過ぎじゃないのか?」

 

「数日で大迷宮の試練を突破できる程とは……やはり、あの罵倒を受けてみたいのじゃ」

 

「ティオ様。お願いですから空気を読んで下さい」

 

「変わったね、龍太郎くん……」

 

「……ひとまず龍太郎様のお食事をご用意致しますね」

 

 

全員からジト目を送られて、その視線を一身に受けソウジが顔を明後日の方向に向ける中、坂上がこちらに気付いたように顔を向けた。

 

 

「おっ、わりぃ。待たせちまったか?」

 

「大丈夫ですよぉ。体感で一時間くらいですから」

 

「うん。それで龍太郎くん、どんな夢を見ていたの?」

 

 

魔改造の成果で生まれた微妙な空気を払拭する意味合いも含めて、香織は坂上に夢の内容を尋ねる。その瞬間、坂上は冷や汗を大量に流し始めた。

 

 

「い、言えねぇ!言ったら空山と南雲に殺されちまう!!」

 

 

それだけで坂上がどんな夢を見たのか全員が察した。その後……

 

 

「ここは……って、なんで龍太郎がボロボロになって転がっているの?」

 

「あはは……夢でもハジメくんとソウジくんの二人的にはアウトだったとだけ言っておくよ」

 

 

無事に自力で脱出した八重樫の最初の疑問に、香織は曖昧な笑顔で答えるのであった。

 

 

 




「…………」(トントントントンッ)

「…………」(スッ)

ヒュガッ

「……何をなさろうとしてましたか?」

「……よ、良かれと思って、鍋に食材を……」

「だとしても、無言で勝手に他人の調理に手を出していいものではありません。ユエ様だって、調理中に勝手に手を加えられますと、不快に感じるでしょう?」

「……はい。もうしません」

食材を勝手に投入しようとして、フィアに大鎌の投擲で止められ、お叱りを受けたユエの図。

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