魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


白スライムは焼却すべし

ハジメとソウジを諌めた直後、その異変はすぐに訪れた。

 

 

「……ん?雨か?」

 

 

突然、頭上から感じた水気に天之河は顔を顰める。

 

 

「ほんとだ。ポツポツ……ッ!?」

 

 

谷口も手をかざして天之河に同意しかけるも、途中で何かに気づいたように目を見開き、反射的に頭上を見上げた。天之河は谷口の反応に頭上に?を浮かべたが、すぐにその理由に気づいて総毛立った。

ここは天井が見える()()()()。そんな閉鎖された場所で雨が降る等、普通は有り得ないのである。

 

 

「ユエ!」

 

「……んっ、“聖絶”!」

 

 

ハジメがユエに呼び掛け、ユエは阿吽の呼吸で障壁を展開した。

 

ザァアアアアアアア

 

その直後、ドロリとした粘性の()()が土砂降りの雨のように降り注ぎ、ユエが張った障壁に弾かれて滑り落ちていく。

硫酸や何らかの毒性をもった液体を降らせるトラップか、()()()()()()なのかを確かめようとした矢先、答えは八重樫からもたらされた。

 

 

「空山君、周りがッ」

 

 

冷静に目を凝らして障壁の外を注視していた八重樫の視線の先には、樹々、草、地面、あらゆる場所から滲み出てくる乳白色の何かの姿があった。

 

 

「スライム型の魔物か?」

 

「魔眼石にすら感知されないとか、どんな隠密性だよ。クソ」

 

「南雲!足元からもッ!」

 

 

スライムの隠密性にハジメが舌打ちしていると、足元の地面から乳白色のスライムが滲み出てくる。“聖絶”は球状の障壁で地面の中まで展開可能だが、内側に潜んでいたスライムは範囲外であり、地面に潜んでいた乳白色スライムは内側からソウジ達を強襲した。

 

 

「このっ、“分解”!」

 

「おらぁ!」

 

 

香織は“分解”を発動して、自身の膝下まで呑み込んでいた乳白色スライムを細やかな粒子に分解して消し去り、坂上は籠手型アーティファクトと合わせた三重衝撃の拳を背後から覆い被さるように強襲した乳白色スライムに叩き込み、乳白色スライムを爆散させた。

 

 

「龍太郎!こっちにも飛び散って来ただろ!」

 

「掛かったじゃない!この脳筋!」

 

「お?すまん、すまん!」

 

「……咄嗟に障壁を張って良かったよぉ~」

 

 

坂上の豪快かつ傍迷惑な倒し方に天之河と八重樫が抗議の声を上げ、坂上が乳白色スライムに拳を叩き込んだ瞬間に嫌な予感を感じた谷口は咄嗟に障壁を張って被害を免れていた。

 

 

「……鈴。出来れば私達にも障壁を張って欲しかったんだけど」

 

「ごめんねシズシズ。咄嗟だったから鈴だけで手一杯だった、よ……」

 

「?どうしたのよ鈴?急、に……」

 

 

谷口の言葉が尻すぼみとなって黙りこくって視線を彷徨わせた事に八重樫は最初は訝しげな表情をするも、谷口の今の見た目を理解した瞬間、その理由を察した。察してしまった。

 

 

「~~~ッ!!!!」

 

 

その瞬間、八重樫の顔は真っ赤となり、キッと目付きを鋭くして、明後日の方向に顔を逸らしている天之河と坂上を睨み付けた。目尻に涙を浮かべて。

 

 

「光輝!龍太郎!見たでしょ!?」

 

「見、見てない!!ちょっとしか見てないぞ!!」

 

「ま、マジで悪かった!!」

 

 

天之河は弁明し、坂上は本気で謝るも八重樫の怒りは収まらない。その沸き上がった怒りをぶつけるように、八重樫は四皇空雲の“雷華”を上手に、全力で使って元凶たる憎き乳白色スライムを駆逐していく。

当然、他のメンバーも乳白色スライムの餌食となっており、無事なのは“纏雷”を使うハジメと、“放炎”を使うソウジくらいであった。

 

 

“もし、天之河と坂上がアタランテ達の今の姿を見ていたら、記憶が飛ぶまで殴り飛ばすか”

 

“だな。こいつらが大迷宮の魔物にしては弱い以上、視界を潰すわけにはいかないからな”

 

 

そんな物騒なことをハジメとソウジが念話でやりとりしている内に、障壁内の乳白色スライムはあっさりと掃討出来た。なので、ハジメは円月輪とクロスビットを、ソウジは紅雪を障壁の外に転送し、外の光景を確認していく。

 

 

「……完全にスライムの海だな」

 

「天井からもスライムが未だに豪雨の如く降り注いでいるし……結局、こうなるんだな。……ユエ、結界は頼むぞ。全部焼き滅ぼすから」

 

「んっ……任せて。……後、徹底的にやって」

 

 

乳白色スライムに怒り心頭のユエの言葉にハジメは強く頷くと同時に、“瞬光”を発動。クロスビット七機と円月輪二十七本を一気に上空に飛ばした。

ソウジも“瞬光II”を発動し、紅雪四十本、ニフテリーザ二十機を上空に飛ばし、ハジメが飛ばした二十本の円月輪をニフテリーザの足で掴み、そのまま飛行していく。

 

 

「……これから灼熱地獄が始まるんだな」

 

「……強く生きようぜ、光輝」

 

「おもいっきりやっちゃいないさい。空山君、南雲君」

 

「うん。今回は自重しなくていいよ」

 

 

八重樫達に背を向けて、障壁の隅で障壁とにらめっこしている天之河と坂上は遠い目をしながら呟き、八重樫と谷口は若干据わった目でGOサインを出した。アタランテ達もうんうんと頷いている。ちなみに体に付着していた乳白色スライムは香織の“分解”で既に処理済みだ。

 

 

「……スライムの雨が一向に弱まる気配を見せない。俺は先に天井をどうにかするから、ソウジは先にスライムの海の方を頼む」

 

「わかった」

 

 

ハジメの指示にソウジは軽く頷き、ソウジはハジメが“宝物庫”から取り出した爆弾を、空を飛び回るニフテリーザ達が掴んでいる円月輪に次々と投げ込んでいく。と、同時に“氷刻”で作った氷の短剣に、“魔法剣術:限定複合魔法”で適性を底上げした生成魔法で“遠隔操作”と“衝撃変換”を付与する。その爆弾モドキの短剣を作っては投げ、作っては投げと、爆弾と共に円月輪の中へと放り込んでいく。

 

ハジメも七本の円月輪を天井に突き刺してからアラクネを円月輪を通して大量に送り込み、“錬成”を駆使して天井の僅かな穴や隙間を埋めていく。その間もソウジは爆弾と爆弾モドキの短剣を放り投げ続けている。

 

 

「よし。壁は全部塞ぎ終えたぞ」

 

「なら、一気に殲滅だな」

 

「ああ。あんな汚ねぇスライム共は跡形もなく焼き尽くしてやんよ」

 

 

そんな互いに瞳をギラつかせるハジメとソウジの姿に……

 

 

「シズシズぅ。二人が怖いよぉ~。やっぱり自重させるべきだったよぉ~」

 

「……見ちゃだめよ、鈴。見なければ大丈夫よ。きっと……」

 

「……なぁ、光輝。もし、俺がテロリストになったら止めてくれよ?」

 

「龍太郎!?何でそんな言葉が出てくるんだ!?」

 

 

谷口はGOサインを出したことを後悔しながら八重樫に引っ付いて震え、八重樫は谷口を宥めながら目を逸らしていた。坂上は遠い目で呟き、天之河は坂上の変化に驚愕していた。

一方で……

 

 

「……ハジメ、素敵」

 

「ソウジ、また惚れてしまうではないか……」

 

「キュンキュンきますですぅ」

 

「はい。心が疼きますね」

 

「ご主人様ぁ……その眼を妾にぃ~」

 

「……ハジメくん……ゴクリ」

 

 

アタランテ達はウットリしていた。フィアもにこやかに笑ってソウジを見つめ続けている。どうやら、彼女達には魅力的に映っているようだ。

 

 

「香織は遠いところへ行ってしまったのね……」

 

 

そんな香織の姿に、八重樫は遠い目をして呟いた後、ソウジをチラ見する。すぐに凶悪な表情にドン引きして視線を逸らした。断じて、見惚れたのを誤魔化そうとか、そういった理由からではないのだ!!

ハジメは円月輪を操作してタールを空中から撒き散らし、ソウジは紅雪を四本一対で筒のような陣形を十陣取り、スライムの海に狙いを定める。

 

 

「紅雪・掃射陣形:迦具土(カグツチ)……放て」

 

 

ソウジがそう呟くと、筒のような陣形を取った全ての紅雪の内側から宿っていた蒼い光がスライムの海に向かって照射された。蒼い光が直撃した場所は蒼い炎が噴き上がっていく。蒼い炎はタールと爆弾に引火し、同時に魔力の遠隔操作で爆弾モドキの短剣も爆発させ、猛る炎と爆炎をどんどん立ち上らせ、轟音を次々と響かせていく。

 

“紅雪・掃射陣形:迦具土”。簡単に説明すると、ハジメのフュベリオンの小型の自力版である。殲滅力や持続力はフュベリオンと比べて大分劣るが、個人で使うにはかなり質の悪い攻撃手段である。ちなみに元ネタはG○シールド○ットのアサル○モードである。

ハジメもクロスビットの爆撃を開始し、凄まじい爆撃音を響かせながらスライムを容赦なく殲滅していく。

 

 

「……ある意味、神秘的だな」

 

「……炎って、こんなに綺麗だったんだな」

 

「……蒼い炎だけなら幻想的だけど、間近なのと轟音のせいで怖いよぉ~」

 

「……そうね鈴。本当にその通りね」

 

 

乳白色スライムの海から蒼い業火の海に変わった光景に、天之河と坂上は現実逃避して眺め、谷口は未だに八重樫に引っ付いており、八重樫は頑なにソウジから視線を外して谷口に同意していた。

やがて、乳白色周りからなくなり、タールの残りを燃料に蒼い炎が燃え盛っているだけとなった外の様子にハジメとソウジが呟く。

 

 

「……どうやら、スライムの海は焼き尽くせたようだな」

 

「だが、地面の下にまだ潜んでないとも限らないからな。総量がわからない以上、打てる手は全部打っておいた方がいい。ユエ、悪いが巨樹までの道を錬成する間、結界を維持しておいてくれ」

 

「……ん」

 

「なら、オレは紅雪とニフテリーザで周辺の警戒だな。出てきた瞬間にすぐに抹殺できるようにな」

 

「ああ、頼むぞ」

 

 

そうして、ハジメとソウジはそれぞれの作業に集中していく。アラクネが一斉に下降した際、八重樫が可愛らしい悲鳴を上げたのはスルーしていた。……何人かは口元をニヤつかせて。

ハジメとソウジはその場で胡座をかいて座り込み、他のメンバーもそれを見て僅かな休息に努めようとした。

 

 

……その直後、乳白色スライムの真髄が発揮されるとも知らず。

 

 

 




「…………」

「どうしたんですかアタランテさん?急に黙ってしまって」

「いや、スライムの時にソウジを呑み込んでいれば、ソウジをくまなく堪能出来ていたと少し後悔していてな」

「……ッ!!」

「大迷宮よ!やり直しを所望するのじゃ!!妾をスライムに!!」

「……んっ!!」

「私も!私も!!スライムになってハジメくんを隅々まで!!」

「…………」(ジェスチャーでカモーン)

『…………』

まさかのスライムコールに絶句するハルツィナさんの図。

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