ハジメは大量のアラクネで、巨樹までの道を急速に錬成していき、ソウジも紅雪とニフテリーザでスライムの残党がいないかを確認していると、ユエがハジメの背中にしがみついた。
「はぁはぁ……ハジメが、すごく……欲しい」
……息を荒げ、明らかに発情した状態で。
明らかに様子がおかしいユエにソウジは嫌な予感を感じ、視線を巡らせると、アタランテ以外は明らかに発情していた。
シアはユエに続くようにハジメに抱きつき、香織も四つん這いの体勢でハジメに近寄っている。ティオは何だかボーとしているが。
ジークリンデも何かに耐えるように両腕で自身の身体を抱き締めて震えており、フィアもトロンとした表情でその場にへたり込んでいる。
谷口は前かがみでジークリンデと同じ体勢で身悶えていた。八重樫は身悶えたあと、グッと唇を噛みつつ正座をして目を閉じて微動だにせず、発情に耐えようとしている。
坂上は虚ろな瞳で谷口に這い寄っており、天之河も血走った目で八重樫に近寄っている。何をしようとしているのかは明白だ。
「ちっ!これがあのスライムの本当の能力か!―――“縛光牢刃”!」
ソウジは舌打ちしながら、“縛光刃”と空間魔法を複合させた、光の刃で対象を空間ごと拘束する複合魔法“縛光牢刃”を飛ばし、まずは天之河の動きを封じ、その場で拘束する。次に坂上を拘束しようと―――
ズガァンッ!!
「……は?」
その直前で、谷口に接近していた坂上は地面に陥没する程自身の頭をおもいっきり叩きつけて、そのままピクリとも動かなくなった。その光景に、ソウジは思わず間抜けな声を出してしまう。多分だが、坂上は僅かに正気に戻り、意識をはっきりさせるために頭を地面に叩きつけて、その衝撃で正気に戻るどころか、逆に気絶してしまったのだろう。
谷口もそんな坂上を見てか、自身の腕に噛み付いて、襲いかかる発情に耐え始めていく。天之河だけは八重樫と香織の名前をうわ言のように呼んでジタバタともがいているが。
「無事か、ソウジ?どうやら、あのスライムの粘液は強力な媚薬だったみたいだな」
「ああ。どうやら、強烈な快楽で魔法の行使が満足に出来ないみたいだな。ユエが張った障壁が解けているからな」
「心配するな。私が張り直す。―――“聖絶”」
アタランテが魔法名を唱えてから少しして、新しい障壁がソウジ達を囲むように展開される。これで、万が一のスライムの追撃の心配がなくなった。
「この快楽が、“解放者”が用意した次の試練なんだろうな」
「そう見ていいだろう。毒耐性を持っていた私とソウジ、ハジメは大丈夫のようだが」
「だが、それだとティオが普通にしていた理由が……」
ソウジは一番あのスライムの被害を受けていた筈のティオに、視線を向けると―――
「妾はご主人様の下僕ぞ!この程度の快楽、ご主人様から与えられる痛みという名の快楽に比べれば生温いにも程があるわ!!」
「「…………」」
拳を天に掲げ、目を見開いてユエ、シア、香織に抱きつかれたハジメに力説していた。予想より遥かに酷かった
「流石ですねクラルスさん。オレ達の予想を遥かに越えてましたわ」
「クラルスさん。取り敢えず、それ以上近寄ら、いや、離れてもらえませんか?」
「後、私達に顔を向けないでくださいクラルスさん」
「!?敬語と族名のダブルコンボで他人扱いじゃと!?半端ない距離感!ま、マズイ、快楽に溺れそうじゃ……」
さっきまでの平然振りが嘘のように、急速に快楽に敗北しかけているティオ。そんなティオに目もくれず、ソウジとアタランテはジークリンデに歩み寄る。
「……ハァハァ……ソウジ様……」
「大丈夫か、ジーク?」
「大丈夫です。今、快楽に負けたら、竜人族の名折れです。……その上で、一つ、お願いを聞いて貰えないでしょうか?」
「なんだ?言ってみろ」
「抱きしめさせて下さい」
ジークリンデのお願いにソウジは少し困った顔をするも、仕方ないといった感じで肩を竦める。それを了承だと受け止めたジークリンデはソウジに抱きついていく。
同時に、ソウジの背中に柔らかな重みが加わった。
「ん?」
ソウジは訝しんで肩越しに振り返ると、若干トロンとしながらもいつもの表情を作っていたフィアの姿があった。
「申し訳有りませんが、こうさせて下さい。不思議と落ち着きますので……」
「……一応、神水かアタランテの再生魔法で戻せるが?」
「不要ですよ。この程度、自力で乗り越えなければ武者修行の意味が有りませんから」
「……そうか」
本当に芯が強いフィアに、ソウジは感嘆の息を吐く。
「……ソウジ。私も抱きしめていいか?」
「いいぜ」
そうして、ソウジは三人に抱きしめられ続ける。二人は耐えるように瞳を閉じ、一人は抱擁を楽しむように瞳を閉じて。
やがて、タールがなくなったことで蒼い炎が消え、ハジメの錬成によってメタリックな地面が周囲と巨樹までの道が十二分に完成した頃。
「ん?」
「あら?」
「?どうしたのだ?」
突然、瞳を開けてコテッと首を傾げたジークリンデとフィアに、アタランテが少し心配そうに尋ねる。ジークリンデとフィアは互いに顔を見合わせて、頷き合ったあと同じく少し心配そうにしていたソウジに視線を転じた。
「どうやら、無事に耐え切れたようです」
「はい。火山の噴火の如く湧き出ていた快楽が綺麗さっぱり消えました」
「……そうか。よく頑張ったな」
「ああ。本当に頑張ったな」
正気を失いかねないほどの媚薬効果を精神力だけで耐え切ったジークリンデとフィアに、ソウジとアタランテは素直に称賛を送る。称賛を受けたジークリンデとフィアは変わらずにソウジに抱きつき続けている。
「どうやら、お前達も自力で耐え切れたようだな?」
ソウジが視線を向けた先には、どこかげっそりした表情となっている八重樫と谷口の姿があり、二人は桃色空間から目を逸らしながら答えた。
「……まぁ、父から心を静める方法はみっちり叩き込まれていたからね」
「鈴も何とか耐えられたよ……歯形の跡が腕にくっきり残っちゃったけどね」
「……そうか。本当によく耐えたな。お前達も十分凄いぞ」
ソウジの率直な称賛に、谷口は曖昧な笑みを、八重樫は若干、照れくさそうにそっぽを向いて受け取った。
ちなみに、八重樫が耐え切れた理由は精神統一だけでなく、快楽責めが二度目だったというのもあるが、それは決して口にしない。色々な意味で思い出したくないからだ。
「あはは……龍太郎くんの自滅を見てなかったら、今頃、鈴は快楽に溺れていたよ」
「光輝が拘束されているのは私達を守るためかしら?ありがとう、空山君。正直、耐えるだけで手一杯だったから助かったわ」
「別にそれくらいは構わねぇよ。天之河は……快楽の苦痛に耐え切れず気絶したか。坂上はまだ気絶しているのか」
「そういえば、龍太郎が気絶しているのって……」
「自分で頭を地面に叩きつけて、そのまま意識を飛ばした」
「はぁ……ある意味龍太郎らしいわ……」
坂上の自滅に八重樫が呆れたように溜め息を吐いている間に、ソウジは天之河の拘束を解き、アタランテ達を引き剥がす。そして、坂上に近寄り……
「おら、起きろ」
「ごぶぅ!?」
容赦なく顔面を義足で蹴っ飛ばして、坂上の意識を強制的に覚醒させた。
「はっ!?俺は一体……」
「自分から頭を地面に叩きつけておきながら、何寝ぼけてんだ」
ソウジのその言葉で坂上は自身の行動を思い出したようで、凄まじくバツの悪そうな表情で顔を背けている。
「取り敢えず、全員向こうで着替えてこい。ハジメが簡易の更衣室を用意したからな」
“宝物庫”から天之河と坂上用の衣服(町で買った予備の服)を取り出して坂上に放り投げ、アタランテ達に移動を促す。女性陣はハジメが用意した簡易更衣室で着替え、坂上に起こされた天之河はソウジが用意した氷の壁の向こうで坂上と一緒に着替えていく。
ちなみに、ハジメと変態のやり取りはスルーした。一応、変態は本気で反省しているようだが。
そして、無事に着替え終わり、一行は巨樹へと目指すのだが……
「「「「…………」」」」
勇者パーティーの空気が凄まじく重かった。特に一番酷いのが天之河だ。
一人だけ快楽に屈し、性的に仲間を襲おうとしたのだから当然だろう。坂上もそんな天之河にかける言葉が見つからない上、自身も谷口に襲いかかりかけていたから十分に落ち込んでいる。八重樫と谷口もそんな二人にかける言葉が見つからないようだ。
「……空山、その、面倒を掛けた。止めてくれて感謝するよ」
俯いていた天之河が顔を上げ、バツが悪そうにソウジに視線を向けて礼を言う。その礼を受けたソウジは……
「ああ、たっぷりと感謝しろよ?そして、絶対に忘れずに必ず返せよ?踏み倒したら、地の果てまで追って返済させるから、覚悟しとけよ」
おもいっきり恩に着せた。それもどこぞのヤクザな商売の如く。その言葉を受けた天之河は、まるで知らずに多額の借金を背負わされた詐欺被害者のような表情で盛大に頬を引き攣らせた。
「大丈夫だ、光輝。その時は、俺も付き合うぜ」
「龍太郎……」
肩に手を置いて、そんな事を言ってくれる親友に、天之河は感謝の眼差しを向ける。
「ちなみに八重樫、お前もだからな?」
「私まで!?」
「もし踏み倒したら、オレの知るお前の黒歴史を大多数に広めてやるからそのつもりで」
「!?」
「シズシズ、御愁傷様だね……」
ソウジの常識をぶったぎる発言のおかげで、勇者パーティーの溝はある程度埋まり、ようやく辿り着いた巨樹の下で、今回も同じ展開で転移されるのであった。
「早く着替えますよぉ!」
「これは……ソウジの制服だな。…………」
「?どうしたの、アタランテ?急に黙っちゃったりして」
「いや……よく見ると、ソウジの制服に所々に染みが……」
「!」
「そういえば、ソウジが回収するまでは雫、お前が管理していたそうだな。まさか……」
「違うわよ!!まったく、違うわよ!!!!」
あらぬ誤解を掛けられて必死に否定する雫の図。※染みは涙の後でした。
「そういえば鈴。お主は腕に噛みついて耐えたようじゃな?」
「?そうだけど……」
「どうじゃ?痛みは甘美なものじゃったじゃろ?」
「痛いだけだよ!!」
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