魔王の剣   作:厄介な猫さん

129 / 171
てな訳でどうぞ


昇華と概念

「本当に、羨ましいですね……」

 

「大丈夫ですよ。チャンスは幾らでもありますから、気長にいけばいいですよ」

 

 

恋人繋ぎで戻ってきたソウジとアタランテに、ジークリンデは呆れと羨望を含ませた言葉と表情で出迎え、フィアはいつもの表情で余裕げに出迎えた。

 

 

「お前達は自力で戻れたか?」

 

「どうなんでしょう?途中で戻りはしましたが……」

 

「きっかけがソウジ様とアタランテ様のイチャイチャでしたからね。あちらもハジメ様とユエ様のイチャイチャに嫉妬して元に戻られましたし、自力と言ってよろしいかと」

 

「……そういうお前は?」

 

「ふふっ、もちろん―――」

 

 

そこでフィアの姿が霞みのように揺らめき、霧のように霧散して消えると同時に、恋人繋ぎとは反対の腕に柔らかい弾力が押し付けられた。

 

 

「お二人のイチャイチャ振りからですよ。こうしたいくらいに♪」

 

 

どうやらフィアは“幻露”を駆使して、ソウジの腕に自身の胸をおもいっきり当てて抱きついてきたようである。

 

 

「……貴様はエロ狐のようだな」

 

「あら?この程度でエロ評価とは……随分と器が小さいのですね?」

 

「むぅ……」

 

「もしこのまま唇を奪えば、一体どうなるでしょうかね?」

 

「だ、駄目ですよ!?まだ私だってしたことないのですから!!」

 

 

ジークリンデが慌ててフィアをソウジから引き剥がそうとするも、フィアの姿が再び揺らめいて消えてしまう。

また幻影で逃げたのかと、ソウジが肩を竦めた瞬間、唇に柔らかい感触を感じた。しかも息がしづらい。

 

 

「?……!?」

 

 

ソウジは最初こそ眉を顰めたが、とある可能性に至り、目を驚愕に見開かせる。

その可能性は大当たりであり、すぐにソウジのすぐ正面の景色が揺らめき、視界一杯にフィアの顔が現れた。

 

 

「「――――――」」

 

 

見事にソウジの唇を奪ったフィアに、アタランテとジークリンデは言葉を失い、フィアは満足そうにしてソウジから二、三歩離れた。

 

 

「ふふ、次はもっと私を感じさせて上げますよ?」

 

 

その瞬間、アタランテとジークリンデは謎のオーラを纏い、据わった目でフィアを睨みつけていた。

 

 

「……本当に貴様は油断も隙もないな」

 

「ええ。ここできついお灸を据えておくべきですね。ええ」

 

「まぁ、怖い♪」

 

 

そうして始まった三人の修羅場に、ソウジは我関せずと決めて無視することにし、天之河達に顔を向けた。

 

 

「お前達はどうだ?自力で戻れたのか?」

 

「…………」

 

「……最後までGを可愛いと思ってたから、多分厳しいかな?結構倒したんだけどね」

 

「……私は最後の方はGが気持ち悪いと思っていたけど……どうかしらね?」

 

「……そうか。それで、そこの脳筋はなんでぶっ倒れたままなんだ?魔眼石で見た限り、魔力を大分消耗しているようだが」

 

 

無言の天之河と自信の無さげな谷口、どこかどんよりとしている八重樫に、ソウジは坂上が未だに倒れたままの理由を問い質した。

 

 

「……龍太郎が肉壁になったんだけど、途中からGの攻撃が効かなくなったのよ。腐敗させる黒い霧を平然と受け止めたり、Gの体に風穴を開けたりしてたんだけど、途中でばったりと倒れたのよ」

 

 

ひとまず、坂上の魔力を魔晶石にストックしていた魔力を与えて回復させ、叩き起こして事情を本人に問い質すと、「よくわからない」だったので、脳天に手刀を叩き落としてから坂上のステータスプレートを確認すると、“神鉄”という技能が新たに追加されていることがわかった。

 

ステータスプレートの説明文を見る限り、“神鉄”の頑丈さは圧縮前のアザンチウム鉱石の約八倍のようである。その分、魔力の消費量が半端ではなく、倒れた原因はこれを使いすぎたことによる魔力枯渇と見ていい。

そして、肝心の元に戻れたのかどうかを問い質すと……

 

 

「……あー、どうなんだろうな?途中からGを殺すことしか考えていなかったぜ」

 

 

何とも微妙な答えが返ってきた。

そうこうしている内に、上から新たな枝通路が伸び、ソウジ達がG達に襲われた四本の枝通路が合流するポイントに引っ付いた。

 

ソウジ達は休憩もそこそこにその枝通路を登って先に進むことにする。ちなみに、ソウジの移動中は、アタランテはお姫様抱っこ、左右からジークリンデとフィアが抱きついての移動であったが。お姫様抱っこはアタランテの要望からだ。

そして、もうお馴染みの洞の転移陣で移動した先は……庭園だった。

 

 

「どうやらようやくゴールみたいだな?」

 

「場の雰囲気からそうだろうな」

 

 

学校の体育館程度の大きさがあり、可愛らしい水路と芝生のような地面、小さな白亜の建物、あちこちから突き出すように伸びている比較的小さな樹々、そして中央に一際大きな樹があり、その樹の枝に絡み付いている石板を視界に収めたハジメとソウジは互いに同意するように呟く。

 

 

「ご主人様達よ。どうやらここは大樹の天辺付近みたいじゃぞ?」

 

 

庭園の淵で眼下を覗き込んでいたティオの言葉に、ソウジ達も庭園の淵に足を運んで覗き込むと、確かに眼下には広大な雲海と見紛う濃霧の海が広がっていた。

 

 

「おいおい、おかしいだろ」

 

「オレ達がフェルニルで樹海の上を飛んで来た時は大樹はなか……」

 

 

ソウジはそこで自身の発言のおかしさに気づいて口を塞いだ。そう、フェルニルから大樹を確認できなかったことに今の今まで、()()()()()()()()()()()()ことに。

 

 

「……どうやら、隠蔽の魔法が働いていたようだな」

 

「……ん。闇系統にそういう魔法はある……魂魄魔法……もしくは空間魔法を使ってるかも」

 

 

同じく違和感に気づいたハジメ考察に、ユエが同意しながら魔法の種類を考察をする。どちらにせよ、本当にここがゴールと見て間違いないようである。

そのまま石板に向かって歩いていき、水路で囲まれた円上の小さな島に、ソウジ達降り立った途端、石板が輝き出して水路に若草色の魔力流れ込んだ。水路そのものが魔方陣となっていたようである。

 

いつものように記憶を精査され、神代魔法―――“昇華魔法”の知識が刻み込まれる。ソウジ達は慣れっこだが、約三名は初めての感覚に呻き声を短く上げたり顔を少し顰めたりしていたが。

そして、石板に絡みついていた樹がうねり、ぐねぐねと形を変えていき、その幹の真ん中に女性の顔を作り上げた。

 

 

「まずは、おめでとうと言わせてもらうわ。よく、数々の大迷宮とわたくしの、このリューティリス・ハルツィナの用意した試練を乗り越えたわね」

 

 

どうやら樹を媒体にした記録のようであり、リューティリスは今回の試練に対して謝罪と、試練を通して知ってもらいたかったものを伝える。

アタランテ達が樹を囲んで話を聞く中、ハジメは攻略の証を探してキョロキョロと周りに視線を送っている。ソウジは早く終われと考えて話を聞き流していた。しかし、それはリューティリスのある話によって吹き飛ぶこととなった。

 

 

「“昇華魔法”は、全ての“力”を最低でも一段進化させる。けれど、この魔法の真価は、もっと別のところにあるわ」

 

 

その瞬間、ハジメとソウジの視線がリューティリスに向けられる。“昇華魔法”は刻まれた知識から簡単に要約すると、副作用なしの限界突破のようなものだ。だが、リューティリスの言ったような知識は与えられた知識の中には一切ない。

 

 

「昇華魔法は、文字通り全ての“力”を昇華させる。それは神代魔法も例外じゃない。神代魔法は理の根幹に作用する強大な力。その全てが一段進化し、更に組み合わせることで神代魔法を超える魔法―――“概念魔法”に至るわ」

 

 

その後の記録体のリューティリス曰く、“概念魔法”はあらゆる概念をこの世に顕現、作用させる魔法とのことで、この魔法は理論ではなく極限の意志で生み出されるものらしく、全ての神代魔法を手に入れても容易に修得することは出来ないそうだ。

 

あの時、ミレディが望みを叶えたいなら全ての神代魔法を手に入れろと言っていたのは、この“概念魔法”のために必要なことだったからだろう。

その後、リューティリスは自分たちでさえ何十年かけても、三つしか生み出せなかったらしく、その内の一つ、攻略の証も兼ねたらしい懐中時計のようなものが石板の中から出てきた。

 

 

「名を“導越の羅針盤”―――“望んだ場所を指し示す”という概念が込められたアーティファクト。望めばどこでも、何でも、別の世界であっても、その場所へ導いてくれるわ」

 

「っ……」

 

 

導越の羅針盤を手に持ったハジメがリューティリスの言葉に息を呑み、ソウジも真剣な眼差しで導越の羅針盤を見つめる。

この羅針盤は神の居場所を探し出すために作り出されたものであろう。残りの二つは世界を越える概念と神殺しの概念である可能性は極めて高い。

 

だが、これがあれば、元の世界―――日本の場所もわかる筈。家族の下帰るための一手が手に入ったことに、ソウジの胸中は歓喜で沸き上がる。それを察してか、アタランテが微笑みながらソウジの手を優しく握り締める。

 

そして、リューティリスは最後に自分達の未来に幸多からんことを伝え、再び樹の中へと戻っていった。

その後、ハジメがユエに昇華魔法を使った空間魔法で世界を越えられるか聞くも、ユエは全ての知識を総動員した結果、不可能だと告げる。

 

ユエは本当に申し訳なさそうな表情だったが、ハジメは元からあわよくば程度の考えだったので、問題ないと告げながらユエの頭を優しく撫でていく。

ソウジはその光景を視界から外し、今回、大迷宮初挑戦であったフィアと勇者パーティーに視線を向けた。

 

 

「で、お前達の結果はどうだった?」

 

「無事に神代魔法を修得できました。アリアお嬢様から事前に聞いていたとはいえ、頭の中に知識を刻まれる感覚に思わず顔を顰めしまいましたが」

 

 

予想通り、フィアは無事に攻略を認められたようだ。戦闘能力も高く、試練も自力で乗り越えたのだから、当然の結果だと言える。

ソウジはフィアの返答に頷き、天之河達に視線を向けると……

 

 

「…………」

 

「……駄目だったよ」

 

 

天之河は顔を俯けて無言、谷口は肩を落として失敗報告をした。天之河はあれだけ失敗していたのだから当然と言え、谷口は後半こそ頑張ったが、最初の試練である夢の世界を受け入れ、最後の試練のGは最後まで愛しく感じていたから攻略を認められるには不十分だったのだろう。

そんな天之河と谷口の様子に、八重樫と坂上はどこか気まずげにしていた。

 

 

「……どうやら、八重樫と坂上は攻略を認められたようだな?」

 

「!……えっと、ええ、使えるわ」

 

「お、おう……頭の中に何か刻まれたような感じがしたから、使えるはずだ」

 

「ほ、本当か雫!龍太郎!」

 

「流石、シズシズだよ!龍太郎くんも凄いよ!」

 

 

八重樫は全ての試練を自力で乗り越えたのだから当然の結果ともいえ、坂上は少々微妙な部分もあったが、攻略を認めるには十分であったようだ。

八重樫と坂上が神代魔法を獲得していた事実に、谷口は素直に称賛し、天之河は笑顔で称賛しつつもどこか表情に影を落とす。

 

 

「取り敢えず、一旦フェアベルゲンに戻って少しゆっくりするか。今回の大迷宮の試練は精神的に疲れたからな」

 

「そうだな。互いに癒されたいからな」

 

「そうだな、アタランテ」

 

「わ、私も癒して差し上げます!!」

 

「皆様で夜のご奉仕ですか?でしたら、私も参加しましょうか?」

 

 

左右後ろをアタランテ達に囲まれ、ソウジはそのままユエ達に囲まれたハジメ共々、下に降りる転移陣へと歩いていく。

そんな甘い光景を、無理をして笑顔を浮かべる少年以外は明るい表情で追随していく。

こうして、七大迷宮【ハルツィナ樹海】、【大樹ウーア・アルト】の攻略は終わったのであった。

 

 

 




「あなた達に最大の経緯を表し、ひどく辛い試練を……」

「媚薬スライムはどんな意図で白にしたのですか?」

「どうしてG達を採用したのですか?」

「納得のいく説明をお願い致します。それはもう事細かく、嘘偽りなくすべてを」

「しかし、これもまた必要なこと。他の……」

「あー!!リューティリスさんが質問を無視してるですぅ!!」

「神罰之焔用意!!」

「断罪之光用意!!」

「……記録だからシア……さん達の質問には答えられないんじゃ……」

「リューティリスよ!命が惜しければ妾をスライムにするのじゃ!!」

「あー!!抜け駆けはズルいですぅ!!」

「……ん。スライム化は私が最優先」

「いえ、全員がスライム化が妥当ではないでしょうか。もちろん、ハジメ様とソウジ様は除いて」

「まだ諦めてなかったの!?」

「……不可能……です……」

「「「「「「「ちっ!!」」」」」」」

記録のリューティリスの返答に舌打ちする女性陣(八重樫、谷口除く)の図。

感想お待ちしてます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。