魔王の剣   作:厄介な猫さん

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今回は長め
てな訳でどうぞ


最奥と激闘

ドリアードモドキの一件から幾ばくか経過した頃、彼らは百層の手前へと到達していた。

百層手前ということもあり、拠点でハジメが装備の確認と補充を行い、ユエはハジメの作業を見つめている。そしてソウジは……

 

 

「…………」

 

 

……口から魂が抜け出ていた。ユエは機嫌が直ってからは、これでもかというくらいハジメとイチャイチャしているのだ。そんなリア充振りを目の当たりにすれば、ある意味多大なダメージである。

そういう時は素振りをして頭から追い出しているのだが、今回は余計な疲れを残さないよう身体を休めているのだ。その分、心にダメージを負っているが……

 

 

「ハジメ……いつもより慎重……」

 

「そりゃあそうだろう。次で百層みたいだし、何があってもおかしくないだろ」

 

 

現実に復帰したソウジがユエの疑問に律儀に答える。

 

 

「ああ。だから念のためにここで出来る限りの準備を済ませておこうとな」

 

 

ハジメもソウジの言葉に同意しながら手入れし終えた魔鋼南雲をソウジに向かって投げ、ソウジは左手で受け取り、僅かに鞘から抜いて刃の状態を確認する。

 

 

「何度見ても見事な刀身だよ。流石は錬成師だな」

 

「お前だって相当剣の腕は上がっているだろ。あれだけ使っているのに軽い手入れだけで済んでいるんだからな」

 

 

互いに褒め称えながらも、ハジメは作業の手を止めずに自身の装備を確認していく。そして、ハジメがすべての準備を終えたので三人はついに百層へと足を踏み入れた。

その階層は無数の巨大な柱に支えられた広大な空間であり、足を踏み入れた途端、その柱すべてが淡く輝きを放ち、三人は警戒しながら奥へ奥へと進んでいき、やがて十メートルはある巨大な扉を見つける。

 

 

「随分と立派な扉だな。もしかして……」

 

「……反逆者の住処?」

 

「だとしたらようやくゴールか?」

 

 

如何にもラスボス部屋といった感じの扉を前に、三人は緊張から額に汗をかいている。

 

 

「だったら最高だな。ようやく脱出の手がかりが掴めるんだからな」

 

「·····んっ!」

 

「絶対、何かしらの仕掛けがあるだろうから、いつでも攻撃できるように用意しとくか」

 

 

ハジメは不敵に笑い、ユエは覚悟を決めた目で扉を睨み、ソウジは魔鋼南雲を抜刀状態で肩に担ぎながら最後の柱の間を越える。

その瞬間、扉と彼らの間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れる。

 

 

「随分とでかいな。あの時の三倍くらいの大きさだな」

 

「ラスボスは部屋じゃなくて扉の前だったか……」

 

「……大丈夫……負けない……」

 

「そうだな」

 

 

そして赤黒い光を放つ魔法陣から体長三十メートル、六つの頭と長い首、まるでヒュドラのような魔物が現れた。

 

 

「「「「「「クルゥァアアアアアアアン!!」」」」」」

 

 

ヒュドラが不思議な絶叫を上げ、ソウジ達に壮絶な殺気を叩きつけると同時に、赤い紋様が刻まれた頭から炎の壁と呼べる規模の火炎放射を放ってくる。

三人は同時にその場から飛び退いて反撃を開始する。ソウジは“放炎”を纏った状態で“飛爪”を使い、熱を帯びた風の刃で青い紋様が刻まれた頭を深々と切り裂き、ハジメは電磁加速された弾丸で最初に仕掛けてきた頭を吹き飛ばす。しかし、白い紋様が刻まれた頭が叫ぶと、二つの頭に白い光が包み込み、逆再生したかのように青頭の傷は消え赤頭は元に戻った。

 

 

“あの白頭を狙うぞ!”

 

“了解ッ!”

 

“んっ!”

 

 

ハジメからの“念話”にソウジとユエは応じ、青頭からの氷の礫を回避しながら、ハジメはレールガン、ユエは“緋槍”、ソウジは“熱閃”で白頭を潰しにかかる。しかし、黄色い紋様が刻まれた頭が射線に割り込み、その頭を肥大化させて淡く輝き、その攻撃を無傷で防いだ。

 

 

「ちっ!盾役もいるのか」

 

「まったく、バランスが良すぎだろ」

 

 

ハジメは頭上に向かって“焼夷手榴弾”を投げ、同時にドンナーを連射し、ユエも“緋槍”を連発する。その間にソウジはヒュドラにへと肉薄していき、ハジメとユエの射線をくぐり抜け、炎を纏った状態の魔鋼南雲の斬撃をお見舞いしようとする。斬りつけようとしたその瞬間、強烈な不安感がソウジに襲いかかった。

 

 

「!?」

 

 

奈落に落ちたばかりの絶望と、家族を失った時の悲しみが突然頭に過った事で剣筋が乱れ、黄頭への最初の攻撃は浅い傷をつけるだけで終わってしまう。

 

 

「しぃ―――ッ!!」

 

 

だが、それは既に越えた過去であったのでソウジはすぐに呼吸を整え、今度は会心の一閃を黄頭にへと食らわせ、黄頭の頭を深々と切り裂く。そのままソウジは“空力”と“縮地”を用いてその場から離脱し、その直後、ハジメが投げた“焼夷手榴弾”が白頭の頭上で爆発する。白頭が苦痛に悶え、一気に畳み掛けようとしたその時。

 

 

「いやぁあああああ!!」

 

「「ユエ!?」」

 

 

突然のユエの絶叫にハジメは駆け寄ろうと、ソウジは黒い紋様が刻まれた頭を睨み付け近づこうとするも、邪魔するように赤頭と緑頭、青頭が炎弾と風刃、氷の礫を無数に放ってくる。

 

 

“ハジメ!あの黒頭を潰せ!あの頭がユエに精神系の魔法を放っている筈だ!!”

 

“わかった!!”

 

 

“念話”で軽くやり取りをし、ハジメが必死に攻撃をかわしながらドンナーを黒頭に向けて発砲し、黒頭を吹き飛ばし、ソウジは“飛爪”を連続で放ちヒュドラの注意をこちらにへと向ける。

ヒュドラの標的がソウジに完全に移り、攻撃をしかけてくる。ソウジは襲いかかる猛攻をかわし、切り裂いて防ぎ、合間に“飛爪”を飛ばし時に“熱閃”を放ってヒュドラの注意をこちらにへと向けさせ続ける。そうしている内にハジメからの“念話”が届く。

 

 

“ソウジ!シュラーゲンを使うから、そのままソイツの注意を引き続けてくれ!”

 

“それは構わないがユエは?”

 

“ユエはもう大丈夫だ”

 

“そうか”

 

 

ソウジはそれだけ言い、再びヒュドラとの戦いに集中していく。持ち直したユエも矢継ぎ早に魔法のトリガーを引き、属性攻撃を繰り出す三つの頭を容赦なく攻め立てていく。白頭が回復していくが回復してすぐに傷を負わせ続けているので、ヒュドラの目は完全にソウジとユエに向いている。

その間にハジメが“空力”と“縮地”で飛び上がり、取り出したシュラーゲンを脇に挟み白頭に照準を合わせ、引き金を引く。

 

ドガンッ!!

 

大砲を撃ったかのような凄まじい炸裂音が響き渡り、電磁加速されたフルメタルジャケットの赤い弾丸は容赦なく白頭と白頭を守ろうと射線に割って入った黄頭の頭を吹き飛ばした。その光景に残りの頭が思わずハジメにへと視線をむけてしまう。それが大きな隙となり、ユエの最上位魔法“天灼”を発動させ、残りの頭に絶大な威力の雷撃が叩き込まれる。

轟音と閃光が収まった先にあったのは頭を全て失い、胴体部分のみとなったヒュドラの残骸であった。ユエは魔力枯渇から座り込み、互いにサムズアップしていると、ヒュドラの残骸から音もなく七つ目の銀色に輝く頭が生えてきていた。

咄嗟にソウジはその頭に斬りかかりに行くも、銀頭から予備動作もなく極光を放ってきた。

 

 

「うおっ!?」

 

 

ソウジは咄嗟に“空力”で方向転換して飛ぶも、完全にはかわせず氷の義足が極光に半分程呑まれてしまい、その部分がキレイに消えていた。

ソウジは“凍鎧”で義足を元の状態に戻しながら着地すると。

 

 

「ハジメ!!」

 

 

ユエの悲痛な叫びが響き渡る。ソウジはすぐに声がした方へ目を向けると、見るも無惨な状態でハジメが倒れていた。先程の極光はユエに向かって放たれたもので、ハジメがその極光からユエを庇ったと悟ったソウジは、自身の迂闊さからガリッと歯噛みして、すぐに切り替えて“念話”でユエに指示を飛ばす。

 

 

“ユエ!すぐにハジメを連れて神水で治療するんだ!!オレがヤツを足止めする!!”

 

“わ、わかった……!”

 

 

ソウジの指示にユエは素直に従い、ハジメを抱えてその場から離脱していく。ヒュドラは逃がさないと言うように今度は直径十センチ程の光弾を無数に撃ちだしてきた。

 

 

「お前の相手はこっちだ!!」

 

 

ソウジはそう叫んで“飛爪”や“熱閃”をヒュドラに向けて繰り出すも、その悉くが光弾によって防がれ、逆に貫通してソウジにへと襲いかかってくる。だが、鬱陶しいと思ったのかヒュドラは狙いを完全にソウジにへと定め、光弾を集中的に撃ちだしていく。

ソウジはその光弾をギリギリでかわし、かわし切れないのは魔鋼南雲で弾いて防いでいくも、光弾を受ける度に魔鋼南雲は削れていっている上に、それでもかわし切れずに身体を掠めていっているのだ。神水を服用しても傷の治りが遅いのでこのままでは殺られてしまう可能性が高い。

 

 

(もっと早くよけ…………ヤツに通用する攻撃を…………)

 

 

ソウジは劣勢の戦いでも諦めずに神経を研ぎ澄ませて戦い続ける。全ては家族の元へと帰る為に。襲いかかる理不尽を切り裂く為に!!

その瞬間、光弾のスピードが緩やかに見え初め、ソウジの全身から蒼い炎が噴き上がり始める。

知覚機能を拡大し、同時に“天歩”の各技能を格段に上昇させる、“天歩”の最終派生技能(+瞬光)。

“放炎”の一部の技能を“蒼天”レベルの威力にへと上昇させる、“放炎”の最終派生技能(+蒼煌(そうおう))。

ソウジはこの瞬間にまた、“壁を越えた”のだ。

二つの最終派生技能に目覚めたソウジは緩やかに迫る光弾をかわし、蒼い炎を宿した“飛爪”をヒュドラに向けて飛ばす。その刃は光弾に削られながらもヒュドラにへと迫り、ヒュドラの首筋にへと直撃した。

 

 

「グルゥオオオオオオオ―――ッ!?」

 

「ちぃ、浅いか!」

 

 

ヒュドラが叫び苦しむ姿を無視し、首筋の浅い傷を見てソウジは舌打ちする。だが、あの銀頭に初めて手傷を追わせた。その事実から不敵に笑うと、ハジメがユエを抱き抱えた状態でソウジの隣にへと舞い降りてきた。

 

 

「待たせたなソウジ」

 

「まだボロボロみたいだな。そんなんでホントにいけるのかよ?」

 

「はっ!このままのうのうと寝ていられるかよ」

 

「そうか。一撃でも食らえばアウトだぞ?」

 

「全部かわせばいいだけの話だ……この戦い、勝つぞ!」

 

「んっ!」

 

「ああっ!!」

 

 

それを合図に銀頭から再び光弾が放たれるが、ソウジは勿論、ユエを抱き抱えたハジメも軽やかに光弾をかわしていく。ハジメもソウジの戦う姿を見て“瞬光”に目覚めており、両者は踊るように光弾を回避し、攻撃を仕掛けていく。

ハジメはドンナーを場所を変えながら撃ち続け、ソウジは光弾に威力を削がれながらも“蒼煌”状態の“熱閃”や先程の“飛爪”を飛ばしていく。ヒュドラはそれらの攻撃をかわすも所々掠めていっていくので、ついにヒュドラは苛立ちから厄介と定めたソウジに向かって極光を放つ。当然ソウジはあっさりとかわす。

その瞬間、ハジメは空中で回避しながら天井に仕掛けていた六つの手榴弾に向けてドンナーをほぼ同時に撃ち抜いて爆破し、大質量の塊をヒュドラに叩き落とした。

 

 

「ユエ!!」

 

「“蒼天”!!」

 

 

ハジメの合図でユエはすかさず“蒼天”をヒュドラに叩き込み、容赦なく燃やしていく。

 

 

「グゥルァアアアア!!!」

 

 

ヒュドラは断末魔の悲鳴を上げ、何とか逃げ出そうと必死に身体を動かそうとするも。

 

 

「コイツで終いだぁああああああッ!!!」

 

 

“火属性無効”により“蒼天”の炎が効かないソウジが、ヒュドラの首筋に目と鼻の先にまで接近し、“蒼煌”を纏った魔鋼南雲に重ねて“絶断”を発動させ、居合いの要領で駆け抜け様に一閃する。

この戦いで最高の一撃ともいえる一閃をまともに受けた銀頭は見事に首と胴体を両断され、その巨体もろとも力なく地面にへと沈んでいく。

オルクス大迷宮、最深部での戦いは彼らの勝利で幕を閉じた。

 

 

 




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