そしてアニメは般若までやりそうな程の進みっぷり
てな訳でどうぞ
鍛練も終わり、朝食も済ませたハジメとソウジは魔……ゲフンゲフン、強化のため、ユエとアタランテ達にも協力してもらいながら、既存のアーティファクトの強化と新規のアーティファクトの作成に取りかかっていた。
「谷口のアーティファクトはブレスレット型の強化より新規で作った方が早いな」
「なら、まずはどんな形状にするかだな。候補は……」
「それなら扇子とかどうだ?扇子なら形状と作りからかなりの種類の魔法が組み込めるからな」
「魔法主体なら、無理に武器の形状にしなくてもいいということか」
「……ん。それに似合いそう」
「なら谷口の武器は鉄扇をベースにして作る方向でいくか。坂上の籠手は重力魔法と空間魔法、魔衝波に嵐陣を組み込んだ破壊力重視の方向でどうだ?」
「変にあれこれつけるより、シンプルにした方が良いだろうな。後は魔力タンクのベルトも与えればいいだろ」
「確か、例の“神鉄”を長時間使うためのものだな?」
「ああ」
あれこれと議論しあいながらハジメとソウジはアーティファクトの作成と改造の手を緩めずに作業を続けていく。出来ればお昼までには基本的な武装を完成させておきたいからだ。
「オプション装備はどういった感じにすべきだと思う?」
「“空力”を付与した靴とかどうだ?三次元機動が出来る出来ないで戦闘の幅も変わってくるし」
「後は例の腕輪も追加すれば連中にもそう簡単に遅れはとらないだろうな。にしても……」
そう言いつつ、ハジメは聖剣を眺めて沁々と眺めて呟いた。
「この聖剣、本当に凄いな。キャパシティを余すことなく作られていて、もう改良の余地がない程に完成されているな」
「光輝くんの聖剣はそんなに凄かったの?」
「ああ。下手に根幹を弄ったら逆に弱くしそうにしちまう程にな。流石に時間経過で少しばかり機能が劣化しているが、錆を落とすだけでもかなりの強化が見込めるな」
「……修復だけ?」
「いや、外付けのオプションくらいなら取り付けられる。まぁ、魔改造という程にはならないけどな」
聖剣のポテンシャルに驚きながら、ハジメとソウジは聖剣を強化していった。
ちなみに、昼の森人族の変態騒動とバグウサギの桃色空間は割愛させて頂く。同時に―――
「今日という今日は許さないわ!大人しく!私に!タコ殴りに!されなさい!!空山君!!」
雑な扱いをされて怒り心頭となったサムライガールの甘え(物騒)も割愛されて頂く。
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お昼のアルテナのドM化とシアの特別化騒動が一先ず終息し、ハジメは引き続きアーティファクトの作成に取りかかり、ソウジは主武装を支給された天之河達の特訓の為にフェアベルゲンの外に来ていた。八重樫には休息を言い渡しているのでこの場にはいない。
「今日は強化を施した武器を模擬戦である程度慣れてもらう。いいな?」
「おう。いいぜ」
「う、うん」
「……ああ」
坂上と谷口は素直に頷き、天之河は少し間を開けて頷いたのでソウジは武装についての説明を始める。
「まずは簡単な説明からだ。強化した武器の共通事項は“起動状態”にすれば詠唱がなくともフルパワーで放てるようになり、魔力タンク機能で消費魔力も抑えられる。次は個々の説明だが、坂上の籠手は更に強烈な衝撃波を放つことが可能となり、重力魔法の追加で重い拳が放ち易くなった。勿論再生魔法も組み込んでいるから申し訳程度の回復効果もある。“複数同時発動”も組み合わせたから使いこなせれば四重衝撃も可能だ」
「……すげぇな」
改造された籠手を坂上は感嘆深げに呟く。そんな坂上にソウジは言葉を続けていく。
「まだ出来上がっていないが、お前にはバトルブーツも支給されるからな。完成したら後日説明するから頭に入れておけよ?後、お前の模擬戦の相手はメイドだ」
ソウジがそう告げると、傍で待機していたフィアが優雅に一礼する。もちろん、アタランテとジークリンデも一緒だ。
「では、本日
「おう。こちらこそ宜しく頼むぜ」
そうしてフィアと坂上はソウジ達から離れ、少しだけ開けた場所で模擬戦を始めていく。脳筋の坂上に搦め手が常套手段のフィアとの戦いはプラスになると踏んでの組み合わせだ。
ソウジは続いて、二つの檜扇状の鉄扇を持つ谷口に向き合って説明を始める。
「谷口のその新しく作った双鉄扇―――“天舞谷口”は鉄板一枚一枚に複数の魔法を組み込んである。それを“複合魔法”で自身の結界に組み込めるのは前に渡した腕輪で慣れているだろうが、今回は種類が豊富だ。その辺りは使い手の真価が問われる部分だからしっかりと使いこなしてみせろよ?」
「ほ……本当に凄いよ……」
「そして、閉じた状態では分解付与のライ○セイバーモドキを瞬時に展開できる。近接戦に持ち込まれても十分対応が出来るぞ」
このライ○セイバーモドキはハジメとソウジ、協力してもらった香織によって実現できたものだ。昇華魔法はソウジの中では一番“しっくり来て”おり、他者の力まで引き上げられる程、今まで修得した神代魔法の中で適正が高い。だからこそ、他人の固有魔法を数十分で鉱石に付与できたのだ。
「……鈴だけ凄いものを貰った気がするよ。近接も可能ということは剣術も同時に習うのかな?」
天舞谷口から刀身五十センチ程の橙色の光剣を展開した谷口は頬を引き攣らせながらソウジに質問するも、ソウジは軽く頭を振って否定した。
「ライ○セイバーモドキはあくまで追い払う為の迎撃用だ。近接に持ち込まれた際は光剣で受け止め、バリアバーストで吹き飛ばす……近接の基本戦術はこんなところになるだろう。あくまで一例だから無理に拘る必要はない」
「多芸は無芸の如く自滅しそうだよ……」
選択肢が多すぎる天舞谷口を手に、本人は不安げに呟くもソウジは何てことのないように言葉を続けていく。
「そうならない為の模擬戦だ。奴との対話(物理)するんだろ?」
「……うん」
谷口は変わらずにどこか不安げに呟く。このまま模擬戦をしても力がつくか怪しいので、ソウジは溜め息を一つ吐いてから少しハッパをかけることにした。
「お前は自分の意志で中村と会って対話(物理)することを望んだんだろ。何を話し合いたいかは自身の心に従えばいい。最も、そんな腑抜けだと一蹴されて終わるだろうが。そうなったら、オレやハジメは敵を瞬殺するからな」
「それは困るよ!そもそも対話に物騒なものをつけてない!?いや、そうなる可能性は高いんだけど!!」
ソウジの物騒な発言に谷口は大慌てで抗議する。この分なら何とかなりそうだ。
「困るならアタランテとジーク、二人を同時に相手してこい。お前の場合純粋な一対一にはならないからな」
「……本当に空山君は鬼だね。後、今日は宜しくお願い致します。アタランテお姉さま。ジークリンデさん」
谷口は文句を言いつつも、アタランテとジークリンデに一礼してから一緒に奥へ向かって進んでいく。
そして、ソウジは最後となった天之河に顔を向けて強化した聖剣について説明を始めていく。
「天之河の聖剣は元々が既に改良の余地がないほど完成されていたから、最初の共通事項と錆落とし、“魔衝波”、“風爪”、“嵐陣”、“纏雷”、“凍鎧”によるオプションの追加だけに留めた。下手に根幹を弄ると逆に弱くする危険があったからな」
「……そんなに凄い剣だったのか?」
「ああ。ハジメが同じものを作れるかと聞かれたら顔を顰めて悔しがるくらいにな」
「そうか……」
聖剣の元々のポテンシャルに天之河は複雑そうに呟く。
そんな天之河にソウジは改めて天之河の問題点を指摘する。本当の意味で強くするためにも。
「天之河。参加した以上は鍛えてやるが、お前に必要なのは力じゃなく
「……俺の世界を救うという考えは間違いだとでも言うつもりか?空山」
「アホか。オレが問題にしているのはそこじゃない。例え、望んだ結果にならなくても、自分がどれほど傷ついても最後まで貫こうという姿勢が一切ないことだ」
天之河の的外れな言い分をソウジはバッサリと切り捨てる。言葉を真摯に受け止められるかは、はっきり言えば無駄と断言できるレベルだが、それでも言っておかなければならないからだ。尻拭いするのが面倒であるゆえに。
「お前は、オルクスでも王国でも土壇場で躊躇い、それが状況を悪化させていた自覚はあるのか?」
「そ、それは俺の力不足―――」
「力不足がもたらした結果じゃない。現実を無視した自己満足な“正しさ”に縋った結果だ。もっと踏み込めば、“悪”になりたくないと目の前の選択から逃げた結果だ」
「…………」
「そして、一番タチが悪いのが、そんな状況を作った理由を力不足で片付けてたこと。周りを死なせかけたにも関わらず、真剣に向き合わずに自分を見つめ直さないことだ」
「なっ……」
ソウジの容赦ない指摘に天之河は言葉は失うも、ソウジは容赦なく言葉を続けていく。
「第一、オレとハジメが場にいなかったらどうなっていたのか、本当に分かっているのか?感謝しろとは言わないが、自身の非を正しく認めずに文句ばかり喚くようなら……お前は清水や檜山と本質が同じだと言わざるを得ないぞ」
清水にしろ檜山にしろ、どちらも己の行動の責任やもたらした結果を他者のせいにして逃げていた。オルクスの件に関してはメルドにも多少の非はあるが、メルドは自身の非を認めて皆に謝罪していた。中村の裏切りに関しては向こうが上手だったが、それでもオルクスの一件を本気で反省していればまた状況は違っていた筈だ。少なくとも、地べたを這いずってはいなかったと思えるくらいには。
「あの時も言ったが、“力”は己の続きにあるものだ。その力を振るうのは己の“意志”……そして、“覚悟”だ」
「……人を殺す覚悟をしろとでも言うつもりなのか?」
「最初に言ったがお前はそれ以前の問題だ。その都合のいい解釈で自身の一番の問題である意志の弱さから目を逸らしていることが、お前の最も優先して直すべき箇所だ」
「そ、そんなこと……」
「昨日の大迷宮で八重樫と坂上が攻略を認められたのは、そういった“意志の強さ”が十分にあったからだ。逆に言えば、いくら力があっても意志が弱ければ攻略は認められない。その事実からも目を逸らすな」
「っ……」
「迷ってもいい。悩んでもいい。だが、それから逃げるな。でないと―――お前は足踏みするだけだ」
「―――っ、ぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」
堪忍袋の尾が切れたのか、天之河は雄叫びを上げながら聖剣を振りかぶってソウジに“爆縮地”で突撃していく。
対するソウジは絶天空山を一刀だけ抜き、右肩に迫っていた聖剣を絶天空山で受け止め、天之河ごと後ろへと受け流していく。そのまま振り返り様に峰で天之河の頭部を叩いた。
「ぐあ!?」
「悪くはないが一撃だけで仕留めようとするのは浅慮だな。流されても次に繋げないとな」
いきなり襲いかかったことにはあえて突っ込まず、ソウジは天之河に指南し、模擬戦を改めて始めていった。
その後の模擬戦は天之河は惨敗、坂上は後先考えないフルパワーでフィアにかすり傷を負わせつつも完敗、谷口は最後まで両足で立ち続ける結果で終わった。
ちなみにフェアベルゲンの夜は―――
「ソウジ様。私はソウジ様の“大切”以上になれますか?」
「……あまり誘惑しないで欲しいな」
「フフ、そうですか」
「うふふ、私もその輪に入らなければ……」
「……歌姫に対してかなり不敬を働いていないか?」
「アリア様でしたら『なら、どっちが先に“特別”になるか勝負しようじゃねぇか』と笑って仰有りますから♪」
「……確かに言いそうだな」
「……ですね」
「帝国のメンタルぅ……」
「ですから、ソウジ様に私の―――」
「「「アウトだ(です)!」」」
中々に賑やかな夜であった。
「がぁあああああ!!」
ギンッ!ギンッ!キィインッ!!
(まるで獣だな。いや、脳筋もある意味獣だけど)
(俺は勇者なのに……!勇者、なのに……!いや、勇者なら特訓は真摯にやるべきだ!空山のように簡単に力を手に入れて好き勝手している奴らとは違うんだ!!あいつらみたいなオタクとは違うんだ!!)
(……今、失礼なことを考えたか?)
勇者(笑)のオタク扱いを察知したソウジの図。
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