魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


想いを胸に。大切は特別に

天之河達の主武装を(魔)改造した翌日。本日も特訓に打ち込んでいた。

 

 

「“天絶・散”!!」

 

 

谷口が周囲に障壁を瞬時に多数展開し、全方位から迫ってきていた空を飛ぶ刃―――紅雪の群れを受け止める。しかし、何本かは障壁の合間を掻い潜って、迫ってくる。

谷口は右の天舞谷口を閉じ、すぐさま光刃を展開。迫って来ていた一本の紅雪を辛うじて横へと流し―――

 

 

「爆!!」

 

 

最早十八番になりつつあるバリアバーストで紅雪を吹き飛ばしながら地面を転がってその場から離れていく。

 

 

「“聖絶・絶禍”!!」

 

 

左の天舞谷口から黒い球体が展開されて放たれ、紅雪の一本に着弾する。途端、その紅雪は押し潰されるように地面へと沈んだ。無論、それだけに終わらず、周囲にいた他の紅雪もその紅雪へと引き寄せられていく。

“聖絶・絶禍”。“聖絶”と天舞谷口に付与された重力魔法を複合させた、劣化版ブラックホールのような重力場を生み出す谷口オリジナルの結界魔法だ。

 

 

「昨日の特訓だけでそれだけ使いこなせるか……いや、今も使いこなそうと必死にやっているだけか」

 

 

紅雪を操作して仁王立ちしているソウジは素直に称賛の声を谷口に送る。今日の谷口の訓練はソウジが見ており、八重樫はアタランテ、坂上はジークリンデ、天之河はフィアが相手をしている。

ソウジが谷口の訓練を見ている理由は単純に谷口自身からの要望だ。中村との対話の為に少しでも早く天舞谷口を使いこなしたいと頭を下げて願い出たので、ソウジもその意を汲んで相手になっているのである。

 

ソウジは頃合いと見て、二刀の絶天空山を抜いて構え、()()()()()()()()()()()で谷口に肉薄し、右の絶天空山を振り下ろす。

その一撃を谷口は瞬時に展開した一枚の障壁で受け止める。そして、すぐにバリアバーストで爆発させるも、ソウジも瞬時に飛び下がっており、爆発からは逃れ、飛び散る障壁の欠片も左の絶天空山で悉く叩き落とした。

 

 

「良い反応だな」

 

「ううん。手加減されてるのにギリギリだからまだまだだよ―――“天絶・椋鳥(むくどり)”!!」

 

 

ソウジの称賛を謙虚に受け止めた谷口は新たに五十以上の障壁を展開する。その障壁は固定されておらず、宙に浮くようにフワフワと漂っている。

 

“天絶・椋鳥”。魔力操作の派生技能“遠隔操作”と重力魔法の複合により、展開した障壁を自由自在に動かせる谷口のオリジナル結界魔法だ。

もちろん、全てを同時に複雑に操るのは困難だが単純な動きなら三十枚は同時に動かせられるそうだ。

 

 

「今日の訓練で空山君の“本気”を引き出してみせる!!でなきゃ、恵里と対話できないから!!」

 

 

そう力強く告げる谷口の瞳には、王都で同行を願い出た以上、否、それと比べるのもおこがましい程の不退転と覚悟の意志が宿っている。

 

谷口が大迷宮の失敗を真剣に受け止め、本気で自身の願いを叶えようと突き進んでいるのが一目で分かる。昨日も訓練が終わった後は事前に設置していたニフテリーザの映像記録を食い入るように見つめ、反省点と改善点、天舞谷口に付与された魔法を改めてハジメに確認して紙に書いていたのだから。

無論、谷口だけではない。

 

 

「“残華”!!」

 

 

八重樫が居合で四皇空雲を振るい、迫り来る魔力矢を叩き落としていく。

アタランテも三射同時の魔力矢を次々と放ち、再び八重樫に魔力矢の群れが襲いかかる。

だが、八重樫が四皇空雲をすぐさま納刀すると、再生魔法により斬撃が再生され、迫っていた魔力矢が再び叩き落とされていく。

 

 

「“飛蒼華刃”!!」

 

 

八重樫、流れるように再び居合の構えから抜刀。蒼い焔の飛ぶ斬撃がアタランテへと向かっていく。こちらも良い調子である。

 

 

「YAHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

 

……ジークリンデの氷魔法で氷塊に閉じ込められた坂上が雄叫びと共に氷を粉微塵に粉砕して脱出したのは無視だ。

ちなみに、坂上は氷塊に閉じ込められる直前で“神鉄”で完全凍結を回避し、アーティファクトも利用した八重衝撃で氷塊を粉砕したのである。

 

大迷宮を攻略し、坂上の脳筋ぶりが悪化した気がしたのは気のせいだと……信じたい。

そして、ある意味一番の問題児である天之河は……

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

フィアにいいようにやられていた。聖剣の出力は大幅に上がっているが、フィアはお得意の幻影を基点とした搦め手戦法で互角以上、いや、ほとんど一方的に攻撃を繰り出しているのだ。

幻影による障害物で剣筋を遮られたり、分身による波状攻撃や意識外からの不意討ちに、天之河の表情は本当に苦虫を噛み潰したような表情だ。

 

表情から何て小賢しく、卑怯な手ばかり使うんだというのが簡単に読み取れる。そんな思考をする暇があるなら、どうすればフィアに勝てるのか考えるべきなんだが、今の天之河は苛立っているせいか、その思考が浮かんでいないようである。

 

脳筋ですら、どうすれば一撃を食らわせられるかと考えたのに…………その方法が地面をアーティファクトの力も合わせて全力で殴りつけ、瓦礫と衝撃波をぶちかますという荒業をぶちかましたが。

明らかに周りとの差が開けていっている天之河の姿をソウジは流し見た後、再び谷口へと迫っていくのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――夕方。

 

 

「今日の訓練はこれで終了だ。各自、反省点を見つけ改善するように。今回も映像はあるから見る見ないは個々の判断に任せる」

 

「……わ、わかったわ」

 

「……おう」

 

「う、うん……」

 

「……………………ああ」

 

 

ソウジのシメの言葉に、四皇空雲を杖代わりに立つ八重樫、震えながらも両足で立っている坂上と谷口は頷き、その場でへたりこんでいる天之河は長い沈黙から頷く。

ソウジは真っ先に映像を貰いに来た谷口に今日の訓練映像を渡してからその場で解散し、夕食までは用意された自室で寛いでいく。

 

 

「……ふぅ」

 

「今日もお疲れ様でした、ソウジ様」

 

 

その自室で、ソウジはジークリンデの膝を枕にしてソファで横になっていたが。

こうなった原因はある意味、フィアにある。フィアがさも当然のようにソウジにアプローチを仕掛けようとして、アタランテが何故か露骨に阻止しにかかったのだ。そのままアタランテとフィアは追いかけっこに突入。残されたソウジとジークリンデはせっかくだからと二人きりでゆったりとすることにしたのである。

 

 

「「…………」」

 

 

穏やかな沈黙が室内に漂う中、ソウジは前から気になっていたことをせっかくの機会だからという感じでジークリンデに問いかけることにした。

 

 

「……なぁ、ジーク。どうしてオレに好意を寄せるんだ?」

 

 

正直に言ってしまえば、ジークリンデが自身に好意を抱く理由が全く浮かばない。そんなソウジの疑問にジークリンデは穏やかな笑みで告げた。

 

 

「ソウジ様は優しい方だからですよ。あの時、ソウジ様は譲歩してくれたではありませんか」

 

「……あれはお前の横やりが面倒だからそうした方がマシだと判断しただけだ。優しさからじゃない」

 

「もちろん、分かってます。そして、打算だけではないことも」

 

「……甘いだけだと思うが?」

 

「甘さと優しさは紙一重、です」

 

 

あくまで“優しさ”だと断言するジークリンデにソウジは思わず苦笑してしまう。

 

 

「……オレもハジメ……いや、シアに毒されたのかな……」

 

「?ソウジ様?」

 

 

ソウジの呟きに首を傾げるジークリンデに、ソウジは困ったような情けないような……何とも微妙な笑顔を浮かべてジークリンデを見つめる。

 

 

「……どうやら、オレの中でジークはただの“大切”ではなくなっているみたいなんだ。もちろん“一番の特別”はアタランテだが、お前もオレの“家族”に紹介したいくらいには想えてしまったようだ」

 

「それって……」

 

 

ジークリンデの歓喜とも呼べる呟きに、ソウジは優しい笑みを浮かべ、観念したように告げた。

 

 

「ああ。ジーク、お前もオレの“特別”だ。そのきっかけがハジメとシアの関係というのが少し情けない気がするがな」

 

「きっかけは何でもいいですよ」

 

 

ジークリンデは笑みを浮かべ、自身の顔をソウジの顔へと近づける。

そして―――

 

 

「「…………」」

 

 

接吻。互いの存在を確かめるように静かに重ね合わせ続ける。

穏やかな時間はもう暫し続いていった。

……室内にいた二人の存在に気づかぬまま。

 

 

―――二日後、ソウジ達はフェルニルに乗ってフェアベルゲンを旅立った。

次の目的地は魔国ガーランドにある【シュネー雪原】にある大迷宮【氷雪洞窟】だ。

 

 

 




「結局、シズシズにとって二人はどういう人なの?」

「南雲君は“強い人”。空山君は……“優しい人”ね……って、何でニヤニヤしているのよ!?」

ガールズトークで周りから生暖かい視線を向けられた雫の図。

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