【シュネー雪原】は一言で言えば“極寒”だった。吹雪が猛烈に吹き荒れ、何の対策も施さなければ瞬く間に凍死してしまうだろう。
その地にある大きな大地の割れ目が幾条にも広がっている場所、【氷雪洞窟】に続く場所でもある【氷雪の峡谷】では―――
「快適ですねぇ」
「鈴の結界も中々のものじゃな。アーティファクトの恩恵を抜きにしての」
「……ん。悪くない」
ソウジ達は快適に峡谷内を歩いていた。
その理由の一つは、ハジメが【グリューエン大火山】の経験から作り上げた、雪の結晶をモチーフにしたペンダント型アーティファクト“エアゾーン”によって快適な空間を作り上げているからだ。
もっともティオは雪だるま型、八重樫と谷口は町で買ったペンダントに付与して作った程度、天之河と坂上は唯の石ころに付与しただけであったが。
ティオの“エアゾーン”の形状が雪だるま型なのは、大樹での黒い悪魔との戦いの時に顕現したらしい“スーパーティオさん”を呼び起こす為に敢えてハジメがそうしたのだ。……残念ながら無駄に終わったが。
そして、あまりの扱いの差に八重樫と谷口は石ころでないだけマシと互いに慰め合っていた。ちなみに市販のペンダントだった理由は、ハジメが錬成の参考に購入したものをソウジが取り出したからだが。
もう一つの快適な理由は、谷口が張った障壁で吹き付ける暴風を威力を散らせて微風として流されているからだ。
「本当にそうね。障壁のエレベーターも快適だったし」
八重樫がユエの言葉に同意するように呟く。
谷底へ降り立つ際、谷口は鍛練の成果を見せる為に移動する障壁を展開し、初めて見る雪に興奮して一人谷底へと落ちていったシア、さっさと飛び降りたハジメ、ソウジ、ユエ、アタランテを除く他のメンバーを乗せて谷底へと降り立ったのだ。谷口に空力ブーツが支給されなかった最大の理由は、移動手段を既に確立していたからである。
そんな中、羅針盤を持って先頭を歩いていたハジメが突如立ち止まる。その前方には、行き止まりの先に二等辺三角形のような綺麗な形の縦割れがあった。
「……彼処か?」
ソウジの質問に、ハジメは羅針盤を確かめながら答えた。
「ああ。羅針盤の針もその感覚もあれが【氷雪洞窟】の入口だとわかる……それより、来るぞ!!」
突如としてハジメから警告の声が上がる。理由は洞窟の暗がりの奥に複数の気配を捉えたからである。魔王組は自然体だが、勇者組には緊張が走り抜ける。
直後。
「「「「「ギギギギギギィ!!」」」」」
五体の魔物が飛び出して来た。見た目は体長三メートルはあるビッグフットだ。
流石異世界と思いながら、ソウジはドンナーを抜きかけたハジメ同様、絶天空山を抜こうとしたが、それを八重樫が制した。
「空山君。南雲君。悪いけどここは私達だけでやらせてちょうだいっ!」
「おうよ!特訓の成果を見せてやるぜ!!」
「うん!絶対、負けないよ!」
「あ、ああ!」
八重樫の言葉に坂上と谷口も前に出て、天之河も遅れて前に出る。確かに新アーティファクトの実戦経験と景気づけには丁度いいと判断し、勇者組以外のメンバーは壁際に退避する。香織だけは心配そうに見つめていたが。
「“起きなさい、四皇空雲”!!」
ソウジ達が見守る前で、四皇空雲を起動状態にした八重樫が初撃を繰り出した。
「“飛天”!!」
無詠唱で放たれた不可視の飛ぶ斬撃がビッグフット達に迫る。その斬撃をビッグフット達は忍者のように散開して回避する。無論、これは想定の範囲内である。
「鈴っ!」
「了解!二体は任せて」
谷口は八重樫に力強く返す。前衛三人がそれぞれ散開したビッグフット一体一体に急迫するのを横目に、残りのビッグフットに向かって谷口は魔法を発動させる。
「いくよ―――“聖絶・重”!!」
魔法名を告げた途端、ビッグフットの一体が燦然と輝く球状の障壁に閉じ込められる。閉じ込められたビッグフットは障壁に攻撃を仕掛けていくもびくともしない。
残ったもう一体のビッグフットが頭上から谷口に襲いかかるも、谷口は開いていた片方の天舞谷口を閉じ、光刃を展開させる。そして、自身に迫っていたビッグフットの豪腕と凶爪を最小限の動きでかわし、同時に豪腕が降り下ろされる位置に光刃を添えた。
その結果、降り下ろされたビッグフットの腕は綺麗に両断された。
「ギィイイイイイイイイッ!?」
腕を両断されたビッグフットは驚愕からか、それとも激痛からか雄叫びを上げる。分解付与の光刃なので、触れただけでも斬れるのだ。
ビッグフットは警戒心から飛び下がり、距離を開けるも谷口は容赦なく追撃する。
「荒れろ、“聖絶・
再び開かれた天舞谷口を向けられたそのビッグフットを中心に球状の障壁が展開される。閉じ込められたビッグフットは残った腕で障壁を破壊しよとするも、障壁内部の中心から風が吹き始める。その風はやがて乱れ吹く嵐の刃となり、ビッグフットに容赦なく襲いかかった。
“聖絶・鼬”。“嵐陣”が付与された“聖絶”であり、注がれる魔力量に応じて嵐の威力が上がる攻防一体の魔法である。
「――圧殺」
谷口が止めと言わんばかりに両方の天舞谷口を閉じる。すると、それぞれのビッグフットを閉じ込めていた障壁が縮小していき、まるで握り潰すように中のビッグフットごと小さくなっていく。そして、障壁が音を立てて壊れると同時に盛大な血飛沫が上がり、二体のビッグフットはこの世から消え去った。
「……鈴がやっておいてなんだけど、すごくエグいよね、これ……」
あまりにも凄惨な光景となった事に谷口は若干遠い目となる。天舞谷口によって可能となった障壁による圧殺戦法。対屍兵用に谷口が自ら思いついた手段なのだが……予想以上の凄惨な光景に精神が削れたようである。
谷口のその後ろ姿を、内心を察した香織は微妙な表情で見つめる。それでも、二体のビッグフットを一人で仕留めたことは快挙であることには変わらない。谷口は見事にバグキャラの領域に足を踏み入れたようである。
そんな中、前衛組もしっかりと奮闘していた。
「ハァアッ!!」
八重樫が無拍子からの高速移動でビッグフットの背後をとり、駆け抜けながらビッグフットを切り裂いていく。
背中を斬られたビッグフットは固有魔法で氷を大量に出現させ、ミサイルのように飛ばしていくも四皇空雲の新機能―――重力魔法による引き寄せ“引天”と引き離し“離天”で難なく捌かれてしまう。
攻撃を返されたたビッグフットは、返された攻撃を何とか回避し、能力で作った氷の道を滑っていく。その姿はスピードスケート選手を彷彿とさせる。
残りの二体も同様の移動手段で八重樫達に迫っていくも、八重樫の傍らに来た天之河が衝撃波が付与された天翔閃―――“天翔閃・震”を放って一網打尽にしようとする。だが、ビッグフット達はトリプルアクセルを彷彿とさせる動きでその一撃を回避した。
そして、ビッグフット達は着地と同時に流れるように片足の爪で斬撃を放つ。八重樫と天之河はその蹴りを防ぎながらバックステップで距離をとった。
「うおらあっ!!」
その瞬間、坂上は右足を掲げ、地面へと叩きつける。途端、バトルブーツから発生した強力な衝撃が地面に幾条もの亀裂を走らせ、轟音を響かせながらビッグフット達が作った氷ごと地面を隆起させる。足場を崩されたビッグフット達は見事に足を取られ、無様に転がって地面に床をつく。
「喰らい、やがれっ!!」
坂上はチャンスとばかりに上半身を弓なりに引き、ビッグフットの一体に向かって遠距離から正拳突きを放つ。すると、拳から竜巻のような衝撃波が飛び、ビッグフットの一体を容赦なく抉り飛ばした。
今の一撃は籠手のアーティファクトに元々あった機能に“嵐陣”を追加してより強力となった遠当ての攻撃だ。
「穿て、“天翔閃・螺旋”!!」
「下がれ、“飛閃”」
天之河も螺旋のように回転して突き進む光輝く斬撃―――“嵐陣”が付与された天翔閃を放ち、八重樫も空間切断の飛ぶ斬撃―――空間魔法が付与された“飛天”を放ち、残りのビッグフットの息の根を止めた。
見事なまでの完勝ではあるのだが、天之河達はどこかすっきりしない微妙な表情だ。そんな一同にソウジが声を掛けた。
「どうした?完勝した割には随分反応が薄いな?」
「その、なんていうか……」
「何で最初がこんなふざけた敵なんだよ……」
「ここまで上手くいくと逆に違和感を感じちまうっつうか……」
「今の実力にちょっと、ね……」
……約一名以外、ソウジが施した
最後の大迷宮【氷雪洞窟】の攻略が始まる。
「一応、手っ取り早い強化方法はノインツェーンの肉体に乗り換えることだが……どうする?」
「…………やめておきます。髪色や髪型を変えても、他の人達にカオリンと間違えられたくないので」
「……そうね。香織に間違えられたくないわね。下手したら身代わりといった形で悪用されそうだし」
ソウジの提案に首を振った谷口と雫の図。脳筋と勇者()はもちろん除外。
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