魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


類似してると連鎖で思い出す

ヴァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!

 

 

洞窟内に不快極まりない呻き声が木霊する。大口を開けて歯を剥き出しにして突進してくるフロストゾンビ達は、まんまバイオハザードだ。

 

 

「ひぃいいっ!?“聖絶・爆”ぅ!!」

 

 

リアルバイオハザードに谷口はビビりながらもバリアバーストを放つ。通路全体に展開された障壁にフロストゾンビ達は見事にぶつかり、次の瞬間、盛大な爆発音と共に吹き飛び粉微塵となった。フロストゾンビ達は、芯まで凍っていたようで、爆散した肉片もまるで氷の破片のようだ。

 

それとほぼ同時に、他のメンバーも攻撃を放つ。ハジメのドンナー・シュラークが火を吹き、ソウジの蒼炎の斬撃が飛び、ユエが蒼き龍を、アタランテは爆散する魔力矢を、シアは炸裂スラッグ弾を、ティオはブレスを、ジークリンデは風魔法を放つ。香織も銀羽を飛ばし、フィアも“幻創”のロケットランチャーを放つ。八重樫も蒼炎の斬撃を、天之河は光輝く斬撃を、坂上は拳から衝撃波を放つ。

 

絶大な破壊力を秘めたそれらの攻撃は、フロストゾンビ達を容易く粉砕したが、次の瞬間、散らばった破片や周囲の氷の壁を取り込んで寸分違わずに再生した。

 

 

「……なぁ、ハジメ」

 

「……なんだ?ソウジ」

 

 

その光景を無表情で見ていたソウジの呼び掛けに、同じく無表情となっていたハジメが応じる。おそらく、思っていることは同じだろう。

 

 

「コイツら、ライセンの甲冑騎士を彷彿とさせないか?」

 

「奇遇だな、俺もだ」

 

「ソウジとハジメもか。私も同じことを考えていた」

 

「……ん。本当に奇遇」

 

「そうですねぇ。奇遇ですねぇ」

 

「「「「「アハハハハハハハハハハ。………………」」」」」

 

 

ユエ、アタランテ、シアも会話に加わり、五人は壊れたような笑い声を上げる。そして……

 

 

「「「「「ミレディイイイイイイイイイイイイ―――ッ!!!!」」」」」

 

 

連鎖的に思い出した【ライセン大迷宮】での神経を逆撫でする出来事に、五人は一斉に怒りの咆哮を上げた。

 

 

「は、ハジメくん!?どうして急に大声を上げたの!?」

 

「ご主人様達が今までにないくらい、怒りを露にしておるの……」

 

「そういえば、【ライセン大迷宮】では遠隔操作かつ、周りの壁や欠片で修繕するゴーレムの軍団がいたという話がありましたね……」

 

「加えて、その大迷宮の罠……いえ、罠ごとに用意されていた煽り文句に散々苛つかされたとも」

 

「……本当にその大迷宮で何が起きたのよ……」

 

 

ソウジ達の反応に他のメンバーの雰囲気が微妙となる中、こめかみに青筋を浮かべたソウジは、同じく青筋を浮かべながら羅針盤に意識を向けているハジメに問い掛けた。

 

 

「どうだ?」

 

「……この近くにこいつらを動かしている魔石はない。ここから五百メートル以上離れた先にあるようだ」

 

「なら、まずはそこを目指すべきだな」

 

 

ハジメが四辻の一角を見据えながら告げた報告に、ソウジは右の絶天空山を頭上に掲げ、刀身に圧倒的な蒼い光を瞬く間に宿していく。

 

 

「“蒼牙號天翔”」

 

 

袈裟で振り下ろされ、放たれるは砲撃と言うべき、圧倒的な熱を有した蒼き光の斬撃。その唸りを伴った空間をも切り裂く斬撃はハジメが示した四辻の一角の通路を呑み込まんばかりに通過していき、通路にいたフロストゾンビ達も斬撃に呑まれて瞬く間に蒸発した。

 

“蒼牙號天翔”は“蒼牙天翔”に“嵐陣”と“震天”を加えた一撃だ。その威力と貫通力は昇華魔法の強化もあって、聖剣の錆落としをした後の“神威”に匹敵する程だ。

その超威力の斬撃ですっきりとした通路をハジメとソウジはチャンスとばかりに駆け抜けていく。アタランテ達もハジメとソウジに続くように追随し、勇者組も我に返って急いで後を追いかけていく。

無論、蒸発したフロストゾンビ達はまるで地面から生えるように再生していくも―――

 

バシュウウウウウウウウッ!!

ビュガァアアアアアアアッ!!

 

ハジメが構えたオルカンからの無数のロケットランチャーとソウジが絶天空山から放つ、“嵐陣”と重力魔法の複合によって前方に竜巻を飛ばす技―――“龍咆(りゅうほう)”で前方のフロストゾンビ達を再度粉砕していく。続くアタランテ達もそれぞれの攻撃手段で再生を始めていた周りのフロストゾンビ達を再生前に粉砕して駆け抜けていく。

 

当然、駆け抜けていれば通り過ぎた後のフロストゾンビ達は妨害を受けずに再生できる。なので、他の通路に居たフロストゾンビ達も合わさって、大量のフロストゾンビが呻き声を上げながら迫ってきていた。

 

 

「ふぇえええ~、リアルバイオハザードはやだよぉ~」

 

 

谷口は泣き言を洩らしながら、縦九十センチ、横六十センチの輝く障壁に一人乗ってハジメとソウジの後ろを追いかける。この障壁は天舞谷口に組み込まれている複数の魔法を複合させて作った、移動向けの障壁―――“聖絶・空板(そらいた)”だ。重力魔法も付与して作っているので、逆さまになっても落ちる心配はない。

 

 

「ちょっと鈴!?一人だけ逃げ……ひぃいいい!?“雷華”ぁッ!?」

 

「逃げてないよ!ただちょっと、周りより早く移動してるだけだもん!!“天絶・時爆”ぅ!!」

 

「鈴ちゃん!粉砕するなら全部粉砕してぇ!半端だと半身だけで蠢くから恐……きゃあああ!?腕を千切って投げてきたぁ!?“分解”ぃ!!」

 

「ひぃいいい!香織さん、ちゃんと狙って下さいですぅ!!今の腕にシッポ触られたじゃないですかぁ!!」

 

「う~む、若いのぅ。ただの魔物でああまで騒げるとは……」

 

 

完全に恐怖心を抱いて騒いでいるシア達。そんなシア達をティオは肩越しに見ながら、しみじみとした様子で呟く。そんなティオに、平然としていたフィアがいつも通りの表情で話しかけた。

 

 

「あら?随分と年寄り臭い発言ですね?てっきり、『ご主人様の前であのゾンビ共に身体を嬲られてみたいものじゃ……ハァハァ』と宣ってあの輪に加わると思っていたのですが」

 

「ふぉ!?酷くないかえ!?いや、その考えはちょこーとだけあったのは事実じゃが……」

 

「「「「…………」」」」

 

 

ティオの変態発言に、ユエとアタランテ、ジークリンデの三人がティオに冷めた眼差しを向ける。フィアは笑顔のままだ。その視線に、ティオは身体を厭らしくくねらせるも周りはスルーする。

 

 

「しかし、動揺しなかった女性メンバーの中では私が年少ですね。他の方々は三桁代ですし」

 

「……地味に心にきますね」

 

「……私は永遠の十七歳」

 

「同じく私も永遠の十七歳だ」

 

 

おもいっきり年齢をサバ読んだユエとアタランテにハジメとソウジが疑惑の目を向けた瞬間、互いの“一番の特別”から名状しがたい眼差しが突き刺さった。フロストゾンビ等モノともしないハジメとソウジだったが、その眼差しに一瞬で折れた。

 

 

「……ユエは確かに永遠の十七歳だったな」

 

「……ああ。アタランテは永遠の十七歳だ」

 

「見事なまでの尻の敷かれっぷりじゃの……」

 

「……ですね」

 

 

ティオは呆れ顔となり、ジークリンデは困ったように笑みを浮かべる。あまりにも場違いな光景に、天之河と坂上互いに顔を見合せ、微妙な表情となった。

ソウジ達が駆け抜け、フロストゾンビ達が追いかけること五分。ソウジ達は東京ドームと同じくらいの広さがある、ドーム状の大きな空間に出た。

 

 

「見つけたぞ。ここからなら十分に狙える」

 

 

ハジメは“宝物庫”からシュラーゲンを取り出し、氷壁の奥に埋まっている魔石に狙いを定める。昇華魔法で強化された現在のシュラーゲンの威力は、ミレディ・ゴーレムのアザンチウム装甲を難なく貫ける程だ。

当然、敵も黙って殺られるわけもなく、天井の氷壁からフロストイーグルと呼ぶべき氷で出来た大鷲を大量に出現させ、豪雨の如く落下し始めていく。

 

そのフロストイーグルの群れをソウジは“蒼牙爪・烈波”で容赦なく溶かし、ハジメへの妨害を防いでいく。

その隙にハジメがシュラーゲンの引き金を引き、魔石に向かって紅い閃光を放つも、氷壁の中の魔石は突如動いてシュラーゲンの一撃をかわした。

 

 

「チッ……凍らされる前のオアシスバチュラムと同じように動きやがった」

 

「そのようじゃの。だとすれば、周囲の氷全ては相手の攻撃手段と見るべきじゃな」

 

 

ティオが周りに警告した直後、氷壁から今度は二足歩行の狼が、雄叫びを上げながら大量に生み出されたのだ。フロストワーウルフと呼ぶべき体長二メートルほどの氷の狼は赤黒く光る目をソウジ達に向けている。

後方の入り口からもフロストゾンビが溢れ出る中、魔石が埋まった氷壁に変化が訪れる。

 

ビキビキッ!バキッ!

 

魔石が埋まった氷壁は周囲の氷を取り込みながら、せり出して体積を増やしていく。いち早く形作られた顎門を開いて凄まじい衝撃波を伴った咆哮を上げるも、ユエの空間断絶型防御障壁で難なく防ぐ。

その間に、その魔物が完全に形を整えて姿を現す。見た目はアブソドと呼ばれた六足亀によく似ているが、当然体は全て氷で構成され、甲羅には剣山の如き氷柱が突き立っている。体長も優に二十メートルは超えている。

 

 

「どうやら、あれが最初の試練のようだな。魔石の破壊が先か、こちらが魔物にやられるのが先かという、な……つうわけで逝ってこい、天之河」

 

「え?」

 

 

流れと展開から、てっきり殺気を膨らませていたハジメとソウジがフロストタートルと呼ぶべき大亀に挑むものだと思っていた天之河は、名指ししたソウジに間の抜けた表情と声で返してしまう。そんな天之河に、ソウジは呆れた眼差しを向ける。

 

 

「え?じゃないだろ。このままオレらが一掃したら付いて来た意味がないだろ。周りの魔物共はオレ達がやるから、お前らであれを倒してみせろ。出来なきゃ、オレがさっさと殺るからな?」

 

 

ソウジの最もな意見と挑発に、天之河は決意の炎を宿して力強く頷いた。

 

 

「大丈夫だ。俺だってやれる!!絶対に俺の力で倒して見せる!!行くぞ!龍太郎、雫、鈴!!」

 

「おお!!」

 

「援護するわ」

 

「防御は任せて!!」

 

 

天之河の号令に八重樫達は威勢良く応え、揃ってフロストタートルと対峙する。

【氷雪洞窟】の最初の試練の火口が、ここに切って落とされた。

 

 

 




「まだ追いかけて来るですぅ!?」

「まだ着かないのぉ!?」

「顔が飛んできたぁ!?“旋桜(つむじざくら)”ぁ!!」

「“分解分解分解”ぃいいいっ!!!」

フロストゾンビ達に向かってオーバーキル攻撃を時々仕掛ける苦労人とストーカーの図。

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