魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


劣等感

「行くぞ!―――“天翔閃・螺旋”!!」

 

 

天之河がフロストタートル目掛けて回転する光輝く斬撃を放つ。その斬撃は一直線に駆け抜け、射線上にいた魔物達を吹き飛ばし、フロストタートルへの進撃ルートを作り上げた。

同時にその斬撃はフロストタートルの頭部に直撃し、穿ったような痕をフロストタートルの頭部の一部に刻み込む。

 

 

「クワァアアアンッ!!」

 

 

頭部の一部を粉砕されたフロストタートルは怒りの咆哮を上げ、こちらへと向かってくる天之河達に射殺すような視線を向ける。

そして、口を大きく開き、氷雪のブレスを吐き出した。

 

ゴォオオオオオオオオオッ!!

 

螺旋を描き、細かい氷片を紛らわせた竜巻のような砲撃。呑み込まれれば、一瞬にして凍てつくか、氷片に刻まれるかのどちらかとなる攻撃を―――

 

 

「銀氷の世界は我が盟友なり―――“聖絶・白皇(はくおう)”!!」

 

 

谷口が周囲の冷気を取り込んで強化する“聖絶”―――“聖絶・白皇”を展開する。直後、全面に展開された輝く障壁に氷雪の砲撃が衝突するも、氷雪の砲撃は突破するどころか逆に吸収されており、突破することは不可能だ。

谷口が障壁で防いでいる間に天之河達は作戦会議をする。

 

 

「魔石がある限り無限に再生できるなら時間はかけられない。まずは魔石を氷の中から引き摺り出す必要があるわ」

 

「それなら、一撃であの巨体を砕かないと駄目だよね。消耗戦になると鈴達が圧倒的に不利だから」

 

「この場合、破壊力があるのは俺と光輝だな」

 

「龍太郎はあれに近づかないといけないし、周りの魔物達が妨害するでしょうから困難ね。ここは……」

 

「俺の“神威”、だな。最大威力は発動まで三十秒かかる」

 

「なら、光輝が“神威“を放つまで守りゃいいんだな」

 

 

八重樫の言葉に、視線を送られていた天之河が切り札と発動時間を伝えながら頷く。あのフロストタートルの巨体を砕いて魔石を破壊するには相当の火力が必要であるのは明白だからである。

 

坂上も高火力の攻撃を持っているが、それは至近距離でないといけない上に、最大威力を発揮するには少しの溜めが必要な為、今回の役割にはあまり向いていない。その為、錆落としされた聖剣で威力も数段上昇している天之河の“神威”が一番適していた。

 

 

「皆、砲撃が弱まってきたよ!」

 

「よし、砲撃が途切れた瞬間に散開するぞ。鈴は俺の傍にいてくれ」

 

「了解!特大のをよろしくね!!」

 

 

谷口の言葉とほぼ同時に、砲撃が終わりを告げた。

 

 

「雫!龍太郎!」

 

「ええ!」

 

「おうよっ!」

 

 

天之河の号令に八重樫と坂上は景気良く応え、彼らは一斉に散開する。

八重樫は、地を這うような低い姿勢で飛び出し、フロストタートルを守護するように構えていたフロストワーウルフ達に肉薄していく。

 

 

「“飛閃”!!」

 

 

抜刀から放たれるは空間ごと切り裂く不可視の飛ぶ斬撃。その斬撃は射線上のフロストワーウルフ達を切り裂き、その先にいたフロストタートルの足の一本を両断した。

 

 

「“閃華”!“閃華”!!」

 

 

八重樫は“縮地”を使って滑るようにフロストタートルの下へと潜り込み、空間切断の斬撃を連続で放ち、片側のフロストタートルの足を二本続けて両断し、股下を滑り抜けていく。

 

 

「クルァアアア!?」

 

 

チンッ!と小気味いい納刀音を響かせた瞬間、三本の足が斜めにずり落ち、フロストタートルの悲鳴と共に、その巨体が傾く。

バランスを崩されたフロストタートルは、長く首を伸ばし、背後を睨み付けようと―――

 

 

「お前の相手はこっちだぁ!!」

 

 

した瞬間、上空から坂上が落下し、アーティファクトの籠手に包まれた拳を、隕石の如き猛烈な勢いでフロストタートルの頭部に叩き付け、轟音と共に粉砕した。

籠手の元々の機能と重力魔法のコンボで粉砕された頭部はすぐさま再生するも―――

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」

 

 

坂上は怒涛の勢いで二重同時衝撃を繰り出す二つの拳を交互に叩き込み、片っ端から再生する頭部を粉々に粉砕していく。

そんな坂上の背後から数体のフロストイーグルが強襲しようとするも、それも叶わない。

 

 

「“天絶・連爆”!!」

 

 

“聖絶・空板”で上空に滞空している谷口が連続爆破のバリアバーストでフロストイーグル達を吹き飛ばしたからだ。

フロストタートルは何とか体を再生させようとするも、足は再生した瞬間に両断され、頭部は再生する間もなく粉砕され続け、配下の魔物達もバリアバーストの妨害により介入できない。

完全に動きを封じられたフロストタートル。そんなフロストタートルに高火力の一撃が叩き込まれんとしていた。

 

 

「雫!龍太郎!下がれ!行くぞ―――“神威”!!」

 

 

意識を集中させ、最大威力で発動()()()()()()()()()()()()()()()を証明するように螺旋を描いて集束する恒星の如き莫大な光を纏う聖剣を、谷口の隣にいた天之河は突きの形で後方へと引き絞る。

そして、障壁の足場を粉砕する勢いで踏み込み、フロストタートルに向かって光の剣を突き出した。

 

ドォオオオオオオオオオオッ!!!

 

放たれるは大気がうねり、軋みを上げる程の絶大な威力を有した直径五メートルはある光の砲撃。その砲撃を眼下にいたフロストタートルは背中の甲羅を円錐状に変形させて耐えようと試みる。

 

 

「クワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!」

 

 

“神威”が円錐状の甲羅に直撃した瞬間、空間全体が鳴動し、凄まじい衝撃音が響き渡る。同時にフロストタートルもどこか焦燥感の滲んだ絶叫を上げ、赤黒い眼を輝かせて周囲の氷を凄まじい勢いで吸収し、消失していく甲羅を再生していく。

 

 

「このまま消えてくれぇ!!俺は、俺にはっ!!力が必要なんだぁあああああああ!!!」

 

 

天之河が必死な形相で雄叫びを上げる。この最大の攻撃を耐えられたら、自分の全力が今尚、大迷宮の魔物には及ばないという証になってしまうからだ。

 

 

「おぉおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

ハジメとソウジの再会から、少しづつ溜まりゆく黒くドロドロしたものを、これ以上溢れさせないために、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……これ以上、()()()()()()()()()()()()()、何としても()()()()でフロストタートルを消滅させたい天之河は雄叫びを上げ続ける。

 

 

「……光輝くん」

 

 

傍らの谷口はそんな天之河の表情に僅かに怯えたような表情となったが、当の本人は当然それには気づかなかった。

やがて、フロストタートルの体にヒビが入り、フロストタートルの巨体を見事に貫いて破壊した。

 

 

「やった……はぁ、はぁ……倒したぞ……俺が……」

 

 

フロストタートルの瞳から光が消え、崩壊していく光景を見た天之河は激しく肩で息をしながら、障壁の足場に膝をつく。谷口が先程の不安を奥底に封じ込めて心配そうに口を開こうとした瞬間―――

 

ボバッ!

 

そんな音と共に、魔石を掴んだフロストイーグルが、フロストタートルの残骸が散らばるクレーターから飛び出した。

 

 

「そ、そんな、まだ破壊しきれて……くそっ!」

 

 

天之河は悔しそうに歯噛みし、聖剣を構えて立ち上がろうとするも、魔力枯渇からくる虚脱感からまだ満足に動けそうにない。そんな天之河を谷口が押し留めようとするも、天之河は耳に届いていないのか、憑かれたように呟きを繰り返すだけだ。

 

 

「俺だってやれる……俺がやるんだ……南雲や空山なんかより、俺が……正しいのは……俺で……間違っているのは……」

 

 

明らかに様子がおかしいと感じられる天之河は、使()()()()()()()手札を切ろうとする。

 

 

「限界と……」

 

「光輝くんってば!」

 

 

谷口が怒声を上げる。元々、天之河の攻撃で魔石の守りを裸にすることが狙いなのだ。信用云々の話ではなく、相手が逃げた場合を踏まえてのだ。もちろん、天之河の一撃で仕留められれば万々歳だが、これは()()()()()()()()()()()()なのだ。

 

 

「“爪閃”!“焦波”!!」

 

 

なので、勇者組で最もスピードに優れていた八重樫が魔石を取り込もうとしていたフロストイーグルを切り裂き、剥き出しとなった魔石に衝撃波を放つ鞘を叩きつけて、魔石を粉砕するのであった。

 

 

「…………」

 

 

魔石が粉砕され、周りの魔物達の姿が崩れ落ちる中、天之河は呆然とした表情で見つめる。谷口が障壁を操作して地面に着陸させると、坂上が上機嫌で天之河の背中を叩いた。

 

 

「はっはっはっはっ!!やったなぁ!俺達の勝ちだぜ!!」

 

「え?あ、龍太郎……」

 

「なに湿気た面してんだよ。勝ったんだからもっと喜べって!」

 

「……そうだな。俺……達が勝ったんだよな。大迷宮の化け物に」

 

「おうよ!マジで南雲と空山に感謝しねぇとな!!」

 

「……ああ」

 

 

坂上の底なしの笑顔に、天之河は幾分か気分が晴れるも、黒くモヤモヤした感情は未だ燻っている。そんな天之河に八重樫が声を掛ける。

 

 

「お疲れ様、光輝。凄い威力の“神威”だったわよ」

 

「……雫。……雫こそ最後のフォローは見事だったよ」

 

「?そうかしら?それも光輝の“神威”のおかげよ」

 

「だよね!光輝くんの“神威”は凄い一撃だったよね!!」

 

「……あれくらいは、な」

 

 

天之河の様子に若干の違和感を覚えながらも折角の戦勝に水を差すまいとした八重樫とそんな八重樫に便乗する谷口の称賛の言葉に、天之河は苦笑いして受け取る。……モヤモヤとした感情に気づかないふりをして。

 

 

「おめでとさん。大迷宮の魔物と問題なく戦えたようでなりよりだ」

 

 

そんな天之河達に、絶天空山を納刀しながら近寄ってきたソウジが称賛の言葉を送る。そんなソウジに天之河達が珍獣を見るような眼差しを向ける。その視線を受けたソウジの眉がピクリッと動いたことで八重樫が慌てて答えた。

 

 

「ええ、ありがとう。南雲君のアーティファクトと空山君の特訓のおかげね」

 

「それもお前達の気概の結果だ。オレとハジメはお膳立てをした程度だ」

 

「そうかしら?ここまで上手くいくと逆に怖いくらいだわ」

 

「人間、やる気になれば意外と何でもできるぞ。それはお前達も実感しているだろ?」

 

 

若干遠い目となったソウジに、八重樫は例の経験を思い出しているのだろうと察し、少し困ったように小さく笑みを浮かべる。

 

 

「そういえば、空山。俺達に倒させて良かったのか?」

 

 

ソウジと八重樫の割り込むようにソウジに質問してきた天之河に、ソウジは何てことのないような表情を向ける。

 

 

「攻略判定のことか?それならコンセプト的に大丈夫だと思っているが?」

 

「それは、どういう……」

 

「強力な魔物と戦うだけならオルクスでも出来るからな。コンセプトが被っているとは思えないし、これは“前座”の可能性が高いんだよ」

 

 

ソウジの推察に、ハジメ達も頷いて肯定する。

 

 

「だな。ただ倒すだけなら大して難しくないからな」

 

「じゃの。ここから先が、【氷雪洞窟】の本番じゃろうて」

 

「今までも最初の方は実力を試すパターンがほとんどだったからな」

 

「まぁ、周りの魔物を最低でも一人三桁は倒しましたから大丈夫でしょう」

 

「うん。不合格ってことはないと思うよ」

 

「そもそも、露払いをしていたのですから大丈夫と思いますよ」

 

「そうですね。問題はないはずですぅ」

 

「……ん。問題ない」

 

 

それぞれ大丈夫だと口にする魔王一向。余裕綽々である。

 

 

「…………」

 

 

そんな経験の“差”に、天之河の心に暗く嫌なものが再び沸き上がってくるが、顔に出さず、奥底に沈黙したまま、納得顔を見せる。

 

そんな天之河に、八重樫と谷口は不安を感じるも、フロストタートルが現れた氷壁に出現した大きなアーチを描く穴に向かって行ったソウジ達の後を追う為、その考えは頭の隅に追いやった。

そして、歩くこと三十分。長い通路の先にあったのは、冗談のように広大な迷路であった。

 

 

 




「せっかくだから少し遊ぶか―――喰らいな!!」

「まさにゲームの必殺技だな……オレも人のことは言えないけど」

円月輪とドンナー・シュラークに“遊び”で追加していたビー○サーベルモドキでクロ○リ○リ○ンするハジメの図。

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