魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


やつの影

ソウジ達のいる通路の出口から階下に繋がる階段がある。その階段を降りた先にはアーチ状の入口が設けられており、その先はとてつもなく広大なアスレチックパーク等でよく見る迷路作りの場所であった。

 

 

「おいおい。こんな馬鹿でかい迷路を通れってか?うざってぇなぁ」

 

「しょうがないだろう、龍太郎。これも―――」

 

「―――そうだ!このまま空を跳んでいけばいいじゃねぇか!」

 

 

天之河の宥めを遮るように妙案と言わんばかりに告げた坂上は、そのまま“空力”を使って飛び出してしまう。どうやら少し調子に乗ってしまっているようである。

 

 

「馬鹿っ!戻って来なさい!!」

 

「龍太郎くん!!」

 

 

八重樫と谷口が焦りの表情を浮かべて静止の声をかけ、天之河も咄嗟に坂上を引き止めようと手を伸ばすも、時、既に遅し。坂上はそのまま大迷路の境界線上空に入ってしまう。

 

ヴォン!

 

 

「ぬわっ!?」

 

 

坂上が大迷路の上空に入った瞬間、空気がたわむような音が響き、同時に坂上の周囲の空間が揺らぎ、坂上の姿が掻き消えてしまった。

 

 

「龍太郎っ!?」

 

「ああ、もうっ!」

 

「ど、どうしよう!」

 

 

八重樫達が焦燥を露にするが、腕を組んでいるハジメとソウジは魔眼石からの情報に集中して全く意に介していなかった。

そして、魔力の反応を辿って天井からいつの間にかせり出ていた六角柱の氷塊に視線を向けると、先ほどと同じ空間のたわみが発生し、その氷塊の中に坂上が現れた。

 

 

「あそこだな」

 

「え?」

 

「なに?」

 

「どこだ!」

 

「あの天井からせり出た氷塊の中だ」

 

 

ハジメの呟きに八重樫達は反応し、ソウジが人差し指で指し示すと、八重樫達は標本のようになっている坂上に絶句した。

一方の坂上は脱出を試みているようで、既に氷塊からヒビが入り始めている。そんな坂上にダメ押しとばかりに、周囲の天井から鋭い切っ先を持った氷柱が無数に生えてきた。

 

 

「や、やばい……」

 

「このパターンだと……」

 

「は、早くなんとかしないとっ」

 

 

当然、その氷柱が坂上を狙って出現したのは明白だった為、八重樫達は顔面蒼白になる。そんな八重樫達に、ソウジは呆れたような表情を向ける。

 

 

「放っておいて大丈夫だろ。今の坂上なら、あの程度は問題ない」

 

「「「……あ」」」

 

 

ソウジのその言葉に八重樫達は思い至ったような表情となる。今の坂上は“神鉄”という並外れた防御障壁を展開できる上に、昇華魔法によりその堅牢さはノイントを穿ったパイルバンカーの杭に匹敵する程となっている。あの氷柱程度でやられはしないだろう。

 

 

「……ここは反省を促す為に敢えて手は出さないでおくわ」

 

「……そうだね。あれがこっちに来た場合に備えて障壁は展開しておくね。後、回収用も」

 

「…………」

 

 

危険がないと分かった途端、坂上への対応が塩対応となる。約一名は複雑な表情となっていたが。

そうこう話し合っている内に、坂上は六角柱の氷塊を内側から粉砕して自力で脱出。途端、無数の氷柱も坂上に目掛けて射出されるも、両腕を交差させた坂上は“神鉄”で逆に氷柱を砕きながら落下していく。

そして、ガトリングガンの如き氷柱の群れを耐えきり、谷口の障壁に回収されて戻ってきた坂上は……

 

 

「いやー、失敗しちまったぜ。まさかあんなトラップがあるなんてな」

 

「「「「…………」」」」

 

 

……爽やかな笑顔でそんなことをのたまった。そんな坂上の姿に、一同はじっとりとした視線をソウジに向ける。坂上の脳筋を悪化させたソウジは視線を明後日の方向に向けて無視している。

 

そして、坂上には無思慮、無謀を行ったことに対する八重樫と谷口の説教が十分も続き、ハジメから“次やったら、宝物庫を使った公開ストリップショー”を強硬すると脅されたことで坂上は二度と浅慮な真似はしないと頑なに誓った。幼馴染み達の露骨な拒絶反応と一目惚れした相手には罰ゲーム扱いされるという、多大な精神ダメージと共に。

そんな訳で、漸く大迷路に挑むのだが……

 

 

「……壁を壊して一直線にゴールに向かう手も無理のようだな」

 

 

「……上空の強制転移も人間に限らず例の氷塊に転移させられるみたいだな」

 

 

速攻でシュラーゲンで氷壁を破壊したハジメと、氷の剣を上空に投げ飛ばして上空の防止機構を確認するソウジに周りから呆れた視線が向けられるが、二人は当然スルー。今度は羅針盤を頼りに攻略を試みる。

その結果。

 

 

「本当に羅針盤は便利だな。これがあればあんな迷宮なんざ……」

 

「言うなハジメ。オレも同じことを思っているんだからな」

 

「うぅ、本当にそうですねぇ」

 

「だからこそハルツィナに預けたのだろうな。簡単に迷宮を攻略できないようにな」

 

「……ん。激しく同意」

 

 

迷うことなく進めていた。ハジメ、ソウジ、ユエ、アタランテ、シアはミレディへの不満を口にしながら。

そんな冒険の思い出を共有できないことにティオ、ジークリンデ、香織、フィア、そしてもう一人は少し残念そうな表情をしながら、羅針盤を持つハジメの先導で大迷路を進んでいく。

 

氷壁からのトラップや魔物の強襲を捌きながら進んでいると、通路のど真ん中で可愛らしい小ウサギ達が身を寄せあったり、地面を転がったり、仰向けになっていたりと戯れていた。

 

 

「わあ、ウサちゃんだぁ」

 

 

ここが大迷宮であることを忘れて、谷口は目を輝かせて小ウサギ達を見つめる。八重樫もだらしなく涎を垂れ流しており、シアと香織もほっこりとした表情だ。ユエ達も頬を綻ばせている。

そんな小ウサギの群れの一匹がソウジの足下に近寄って見上げ―――

 

 

「失せろ、エセウサギ」

 

 

容赦なく蹴り飛ばされた。

蹴り飛ばされた小ウサギは氷片をばら蒔きながら地面を固い音を響かせてバウンドしていく。

 

 

「ウサちゃあああああああああああああああんっ!?」

 

 

まさかの暴挙に谷口が絶叫を上げるがソウジは当然無視。あの小ウサギ達は体が氷でできており、体毛に見えるのは霜だということを見抜いていた故での暴挙(一応、周りに気を使った)だが……

 

 

「「「…………」」」

 

 

その光景に八重樫は真っ白。シアと香織も固まった表情で小ウサギならぬ蹴り飛ばされたフロストウサギを見つめていた。

 

 

「「「「「キュウ!」」」」」

 

 

フロストウサギ達はそれが引き金となったのか、何故か蹴り飛ばされたフロストウサギも含めた全匹でテレビ戦隊を彷彿とさせるポーズを決める。一見すれば和む光景だが、そのフロストウサギ達は周囲の氷を取り込んで姿形を変えていき、全長三メートルはある、二足歩行のムキムキマッチョな体をした世紀末フロストウサギ達へと変わった。

 

 

「「「「――――――」」」」

 

 

世紀末フロストウサギに変わるのを目の当たりにしたシア、香織、八重樫、谷口が白目を向いて口から出してはいけないモノを出している。相当ショックだったようである。ユエ達も心底嫌なものを見た表情だ。

 

 

「キュウ」

 

 

しかも、顔と鳴き声は可愛いらしいままだ。ボディビルダーポーズと合わさって、それが余計に少女達の心にダメージを与える。

 

 

「「……ゴフッ」」

 

 

あまりのショックから、八重樫と谷口は仰向けに倒れる。シアと香織は口から白い物体を出したまま、両手で顔を覆って蹲る。これが現実だと、認めたくないと言わんばかりに。

 

 

「取り敢えず、死ね」

 

 

ドパァンッ!

 

ハジメは至って冷静にドンナーで世紀末フロストウサギの魔石を撃ち抜き、世紀末フロストウサギの一匹(?)を粉砕した。

 

 

「お前らもぼうっとするな。オレ達が全部倒していいのか?」

 

 

ソウジが絶天空山で居合を放ち、魔石ごと世紀末フロストウサギを両断しながら天之河達に問い掛ける。

 

 

「お、おう……」

 

「そ、そうだ、な……」

 

「ある意味汚物ですし、早めに除去しましょうか」

 

 

現実に復帰した坂上と天之河は何とも微妙な表情で構え、フィアも至って冷静に大鎌を構える。そして、拳と斬撃が炸裂する。更に、雷の龍と蛇の如き紅の槍、黒き極光と風の刃も炸裂し、世紀末フロストウサギはこの場から消え去った。

 

 

「……本当にミレディの影が多いな」

 

「ああ、全くだ」

 

 

入口のビッグフットしかり、最初の試練しかり、さっきの世紀末フロストウサギしかり……

ところどころでウザい表情をしたミレディの顔が幻視されるのだ。ハジメと、ハジメの言葉に同意したソウジの言葉にユエとアタランテもうんうんと頷いている。

 

 

「この世界のウサちゃんは夢も希望もないんだね……」

 

「鈴。壊れてないで戻ってきて。……気持ちは痛いほどわかるけど」

 

 

世紀末フロストウサギの残骸を遠い目で見つめる復活した谷口に、同じく復活した八重樫は肩を揺すって引き戻そうとする。……八重樫も瞳からハイライトが消えているが。

 

香織も辛うじて復活して世紀末フロストウサギの残骸を見つめるが、シアだけは未だ口から出てはいけないものが出て来ている。

そんなシアをハジメは苦笑しながら元気付けにいき、その流れで“夜”の一部がシアの口から暴露された。

 

 

「もう大丈夫ですよぉ!ハジメさんのあの凄いのと比べたら平気ですぅ!!」

 

「……ハジメ、あれをやったの?……ハジメのケダモノ」

 

「俺がケダモノなら、ユエは猛獣使いだな」

 

「ハジメのあれは分からぬが……ソウジのあれは凄かったな」

 

「ええ。ソウジ様の“あれ”は私も思わず昇天するかと思いましたよ」

 

「“あれ”とはなんじゃえジーク?包み隠さず申してみよ。妾のおしっ!?」

 

「……クラルス様?」

 

「!?簡易“震天”によるお尻への攻撃と名字呼びのダブルコンボじゃと!?流石、空間魔法に一番適性があるジークじゃ!!いかん、濡れて―――」

 

「―――眠ってください」

 

「ぁあ―――ッ!?」

 

 

……大迷路の攻略は続く。

 

 

 




「私、ウサちゃんに希望を抱かないことにするよ……ハウリアさん達やさっきのウサちゃんに……」

「おぉらっしゃぁあああああああああああっ!!!!―――ですぅ」

「今のシアさんに、ね……」

「…………」

マッチョシアに死んだ目を向ける谷口の図。※雫は思考停止しました。

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