魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


誘導される攻撃

大迷路の東よりにある小部屋くらいの開けた空間。その空間にて。

 

 

「ソウジ様?時と場所くらいはしっかりと弁えてください。アタランテ様も同様です」

 

「「……はい」」

 

 

ソウジとアタランテは現在、冷たい眼差しのジークリンデの前で正座をさせられていた。

 

その理由は、囁き声により異常に精神をすり減らした勇者パーティーを休ませるために、大迷路の分岐点近くにちょうど小部屋があったので小休止することにしたのだが、囁かれる度に、愛情パラメーターが上昇するカップルが愛情を確かめようとしたので、ジークリンデがティオを諌める時の表情と雰囲気を宿して二人に小言を告げて阻止したのである。

 

ちなみに向こう側では、同じ理由でハジメがシアに間接技を決められて、ユエと香織はキャットファイトしている最中である。

 

 

「うむ。ジークも遠慮が無くなってきておるのぉ。良い傾向じゃて。……ハァハァ……」

 

「最後の荒い息使いで台無しですね、お尻の快感を欲する駄竜様」

 

 

本当に相変わらずのティオの呟きに、フィアがにこやかに毒を吐く。内心では夜這い計画を綿密に立てているが。

 

 

「…………」

 

「シズシズ、大丈夫?」

 

 

そんな中、気が付けばソウジ達のやり取りを、フィアが用意した紅茶を手にボーと眺めている八重樫に、同じく紅茶を飲んでいた谷口が気遣わしげに声を掛ける。谷口も囁き声によって精神を磨り減らしているが、普段は上手く自分の悩みを隠して後回しにしている八重樫があらかさまに顔に出して懊脳していたので、見ていられなかったのだ。

 

 

「……え?私は、大丈夫よ。それより鈴の方こそ大丈夫?」

 

 

その八重樫はやはりと言うべきか、直ぐに微笑み返して、逆に谷口の心配を始めてしまう。確かに、谷口も余り顔色は良くないが……()()()()()()()()()()()()()、谷口の精神は自身が思っているよりも余裕があった。

 

 

「私も大丈夫だよ。シズシズも、余り無理をしないでね?」

 

 

なので、谷口は困ったような笑みを浮かべながら、大切な友人を気遣うのだった。

 

 

「なぁ、光輝……」

 

「何だ、龍太郎」

 

「……さっさとこんな気持ち悪い場所、脱出してぇよな。本当に鬱陶しくて仕方ないよな」

 

「……そうだな」

 

 

一方で、紅茶に映る自分の顔を覗いている天之河の雰囲気が一番危うかった。口数は異様に少なく、勇者パーティーで一番精神が安定している坂上が心配して声を掛けるも、必要最小限の返事しか返していない。

 

そして、その眼差しに宿る負の感情が刻一刻と強く、色濃くなっており、その眼はハジメとソウジに向いている。特にソウジに眼が向いている時は憎しみさえ滲み出ていた。

 

 

「さて、どうじゃ?多少はマシになったかの?」

 

 

休憩を始めて既に一時間。その間、勇者パーティーに対して魂魄魔法による精神の安定化を図っていたティオが八重樫達に声を掛ける。

 

 

「ええ。ありがとうティオさん。頭の中がクリアになった気がするわ。フィアさんも紅茶、ありがとうございました」

 

「うん。体も軽くなった気がするよ。後、紅茶、美味しかったです」

 

「おう。おかげでスッキリした気分だぜ」

 

 

囁き声は、あくまでも唯の声なので、懊脳そのものは八重樫達自身が内に溜め込んでしまったもの。なので、魂魄魔法でも、あくまで気分をリフレッシュする程度のものだが、休憩前と比べれば、随分と顔色が良くなっている。フィアがリラックス効果が期待できるブレンドの紅茶を飲んだこともリフレッシュに一役買っているだろう。

だが……

 

 

「ああ。ありがとう、ティオさん。フィアさん。おかげで楽になったよ」

 

 

天之河だけは薄らと微笑んで礼を述べていたが、声色には重さが含まれており、表情にもどこか影が差していた。

 

 

「礼には及びませんよ」

 

「そうじゃな。ご主人様よ。後、どのくらいじゃ?」

 

「直線なら後一キロもないな。ここじゃあ、休むのもままならないから、後は一気に行くべきだな」

 

 

ハジメはそう言って、羅針盤を片手に立ち上がる。合わせてソウジ達も立ち上がる。先程までの雰囲気は微塵もないので、空気をリフレッシュするための冗談だったのだろう……多分。

八重樫達は、やや腰を重そうにしながらも立ち上がり、一同は再びミラーハウスのような通路を進んでいく。

 

囁き声は、相変わらず、自らの直視したくないものを連想させる言葉を囁いてくる。散発的に襲い掛かるフロスト系の魔物や嫌がらせのようなトラップが襲いかかるが、ソウジ達がフォローしながら表面上は問題なく進んでいく。

 

 

「くそっ………………うわぁああああああああっ!?」

 

 

そんな中、苛立ちをぶつけるように氷壁に拳を打ち付けた天之河が、突如奇声を上げて氷壁から飛び退いていた。

 

 

「光輝!?どうしたの!?」

 

「大丈夫か、光輝!?」

 

「……い、今、壁に映った俺が笑ったんだ。別の誰かみたいに……」

 

 

突然の奇声に誰もが天之河に顔を向ける中、明らかに動揺を露にした天之河が氷壁に目を向けながら、奇声を上げた理由を話す。

 

 

「見間違いじゃないのね?」

 

 

八重樫は確認の為に警戒心と共に氷壁に視線を向けるも、当の天之河は苛立ちを露に八重樫に顔を向けていた。

 

 

「……信じていないのか?」

 

「え?別に疑っていないわよ?」

 

「……空山だったら、すんなり信じるんだろう?」

 

「?本当に何を言っているのよ?疑っていないといっているでしょ?」

 

 

そんな八重樫と天之河を他所に、ソウジは魔眼石で氷壁を調べていくも、やはり仕掛を見つけることは出来なかった。ハジメに顔を向けるも、ハジメも無言で頭を振ったので同様の結果のようだ。

 

 

「今のところ、注意しておくしかないな。全員、気を抜くなよ?」

 

 

溜め息を吐きながらのハジメの号令に、全員が頷いて歩みを再開していく。

その後、怪奇現象も起こることなく、一行は遂に、通路の先に巨大な空間を発見した。部屋の奥には窪みない、相変わらずの意匠が凝っている巨大な門がある。

 

 

「ふぅ、ようやくゴールか。だが……」

 

「絶対、何かあるよなぁ……」

 

「ん……」

 

「今までのパターンからして、何かしらの仕掛けがあるのだろうな……」

 

 

経験上、ゴール手前の空間で何もないということはなかったので、一行は警戒心を露にする。ハジメとソウジも魔眼石や感知能力をフルに使って索敵するも……

 

 

「……相変わらず、反応がないな」

 

「やっぱり、気をつけながら進むしかないか」

 

 

やはり、何も探知できなかったので、ハジメとソウジは警戒しながら先陣を切る。アタランテ達も後に続く。

そして、案の定、部屋の中央まで進んだ時にそれは起こった。

 

 

「あ?……太陽?」

 

 

突如、頭上に光が降り注ぎ、頭上を見上げてみれば、確かに“太陽”と呼んでいい光の塊がある。同時にしゅういの全てが煌めいている。いわゆる、ダイヤモンドダストだ。

だが……

 

 

「おい、ハジメ。こいつは……」

 

「ああ、分かってる。全員、防御を固めろ!!」

 

 

明らかに自然界のダイヤモンドダストに比べると様子がおかしく、“ヒュベリオン”や“ユミル”、“クロスビット”や“紅雪”を開発したハジメとソウジだからこそ、あれはレーザー兵器のようなものだと感づく。

そして、それはユエとアタランテ、谷口が反射的に“聖絶”を展開した瞬間に証明された。

 

ビッーーーーーーーーー!!

 

そんな音と共に、放たれた閃光が縦横無尽に駆け巡っていく。宙に浮く氷片から放たれる閃光の軌跡は、完全にランダム仕様のようで、氷片の回転と移動に合わせて氷壁や地面にその軌跡を描いていく。

 

それだけでなく、頭上の雪煙までソウジ達のいる空間に降り始めていく。このままでは、【ハルツィナ樹海】のように視界が閉ざされてしまう。

故にソウジ達は強行突破を決断し、シールド○ットのように展開し直した“聖絶”に守られながら出口の門まで進もうとするも―――

 

ズドンッ!!

 

やはり、そう甘くはなく、上空の雪煙から大型自動車くらいはある氷塊が複数落ちてきた。ご丁寧に、氷塊の中には赤黒い結晶がある。

 

 

「チッ、本命か」

 

 

ハジメが舌打ちした直後、それに呼応するかのように氷塊は一気に形を変え、体長五メートル、片手にハルバート、もう片手にはタワーシールドを持った人型の存在となった。

その数、全部で十三体。

 

 

「さっさと蹴散らすぞ」

 

 

ソウジはそう言って、フロストゴーレムの一体に向かって、居合で“蒼牙爪”を放とうとする。

 

 

―――妬ましい

 

 

再び聞こえてきた囁き声に、ソウジは嫌な予感を覚え、咄嗟に“瞬光II”を発動する。スローモーションとなった視界に映ったのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()だった。

 

 

「チッ―――!」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ソウジは舌打ちしながら、全神経を集中させて攻撃をフロストゴーレムに修正する。

 

直後、一回転してフロストゴーレムに向かって放たれる蒼き焔の飛ぶ斬撃。その斬撃はフロストゴーレムが構えたタワーシールドで受け止められ、深々と斬線を刻みながらもその斬撃は防がれてしまった。

ハジメも同様に銃弾をタワーシールドを構えたフロストゴーレムに叩き込んだが、その表情はあまり優れていない。

 

 

「……ハジメ、気付いたか?」

 

「……ああ」

 

 

()()()()()()()()()()()()ハジメとソウジは互いに顔を見合わせ、同じ考えに至っていることを互いに察する。

その直後、ソウジに光輝く斬撃と衝撃が迫り、ハジメには竜巻を伴った衝撃波が迫って来ていた。

ソウジはその一撃を“爆砕撃”で吹き飛ばし、ハジメは紅い魔力の衝撃をぶつけて軌道を逸らすことで難を逃れる。

 

 

「「…………」」

 

「……香織、いい度胸」

 

「雫様?一体何故、私に攻撃を……」

 

 

どうやら襲撃を受けたのはハジメとソウジだけではなく、ユエとジークリンデも()()から攻撃されたようだ。

その襲撃者達は……

 

 

「ち、違うんだ空山!俺は、そんなつもりはなくて……気がついたら……」

 

「あ、ああ!俺も南雲を攻撃する気はなかったんだっ!信じてくれ!」

 

「そ、そうなの!本当に気がついたらユエに……」

 

「ごめんなさい、ジークリンデさん!私も敵を斬るつもりだったのに……どうして……」

 

 

天之河、坂上、香織、八重樫は必死に弁明していた。やはり、無意識の内に体が勝手に動いて標的を変更してしまったようだ。

 

 

「……チッ、()()()()か」

 

「?ご主人様よ。やっぱりとはどういうことじゃ?」

 

 

ハジメの呟きに、ブレスを放ってフロストゴーレム達を牽制しているティオが疑問を浮かべてハジメに問い掛ける。その問いに、ハジメは面倒くさそうな表情で語っていく。

 

 

「俺もソウジに攻撃しそうになったんだよ。“瞬光”で全神経を集中させて狙いは修正できたがな」

 

「オレも同様だ。攻撃の瞬間に囁き声が聞こえてきたから、おそらく妬んでいる相手に誘導されたんだろう」

 

「成る程。ソウジの最初の動きが妙に不自然で固く感じられたのはそのせいだったのか」

 

「……だとしたら厄介。無意識領域に干渉されると抵抗も解除も難しい」

 

 

魔法での洗脳ではなく、あくまで単純な意識誘導、それも無意識への干渉となると医学的な要素が強いために、流石にユエでも難しいようだ。ハジメとソウジのように、最後まで意識して攻撃を繰り出せば何とかなるかもしれないが、それは実質不可能だ。

その間にも、雪煙はどんどん地上に向かって降りて行く。故に、ソウジは声を張り上げて告げた。

 

 

「味方を攻撃したヤツ全員、遠距離攻撃無しで襲ってきたゴーレムを倒せ!!」

 

 

これが大迷宮が用意した試練である以上、この雪煙に覆われても誘導された人物の遠距離攻撃は確実に味方に向かってしまうだろう。

狙われたのはハジメ、ソウジ、ユエ、ジークリンデの四人で、このメンバーならフレンドリーファイヤくらいならどうとでも出来るが、攻撃があらぬ方向へ向かった時の隙と、攻撃を放った人物の心理的負担は大き過ぎる。

 

故にソウジはその言葉を放った。遠距離攻撃が使えない程度で、お前達は遅れをとりはしないのだと。

そうして雪煙によって視界が閉ざされ、アタランテ達の気配も感知できなくなった。

 

 

「さて、こっちもさっさと終わらせるか」

 

 

ソウジはそう言って二刀流に切り替え、一気に駆け出していった。

 

 

 




「攻撃対象の変更……地味に厄介だな」

「ゴメンね、ユエ!さっきと同じでわざとじゃないの!!」

「アタランテさん!?その私の胸を狙う重力矢、絶対わざとですよねぇ!?」

「……香織、本当にいいど、ぎゃあああああああ~ッ!!」

胸を執拗に加重する魔力矢に狙われるシアと、魔力を分解されながら筋○バスターを全力でかけられているユエの図。

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