魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


定まる意志

―――本当は気が付いていたくせに

 

 

それが、【氷雪洞窟】を攻略している時から、ずっと鈴の耳に囁かれていた言葉だ。そして、現在、全身を白一色に染めた赤黒い瞳をした自分に正面から投げつけられている言葉でもある。

 

その言葉の通り、鈴は薄々気づいていたのだ。恵里の性質に。だが、気づいていながら、演技の笑顔を作っていた自分の心を守るために、盲目的に恵里を信じて違和感を放置していた。

その結果―――

 

 

『その結果があの王都の悲劇に繋がった。二人のクラスメイトが死に、メルドさんを含めた多くの王城に居た人達が死に、南雲くん達がいなければ香織も死んで、みんな殺されていた。本当なら、恵里の本性に薄々察していた鈴だけが止められた筈だった。だけど、鈴は我が身可愛さに現実から目を逸らした。自覚できない程の心の奥底に封じ込めてしまった。いつも通り、作りものの笑顔を張り付けて……』

 

「…………」

 

 

鈴は無言のまま、白い鈴の周囲にバリアバーストを放つ。だが、白い鈴を守る“聖絶・白皇”にはヒビ一つ、かすり傷一つ付かない。

戦闘が始まってからずっと、鈴はバリアバーストを放ち、白い鈴は強固な結界で防ぎ、言葉の刃を放つ。ずっとこの繰り返しだ。

 

 

『親友だと公言しておきながら、恵里の歪さに気付こうと……いや、気付いていながら何もしなかった。相手の心に踏み込んで、自分の笑顔が演技だとバレるのが怖くて……何もしなかった』

 

「…………」

 

 

鈴が笑顔を張り付けるようになったのは、もっと両親に愛されたかった鈴がお手伝いのおばさんの“取り敢えず、笑っとけ”という適当なアドバイスで、心を押し殺して笑顔を作ったのが始まりだ。

 

その笑顔が、両親に幸せな顔を見ることができるようになり、常に周りに誰かがいるようになったことから、鈴は笑顔を張り付けるようになった。

だけど……

 

 

『笑顔さえ張り付けていればいいと思った?広く浅い関係ばかりで、本当に心を通わせたことなんてないくせに。それで一人じゃないなんて思うなんて……恵里の言う通り、馬鹿丸出しだよね?』

 

「…………」

 

『もう一度、恵里に会ってどうするの?どうせ問答無用で殺意と嘲笑を向けられると思っているくせに。会って何が言いたいのか、何がしたいのかもわかっていないくせに』

 

「…………」

 

 

白い鈴は容赦なく、目を背けていたこと、罪悪感、後悔、()()()()()()()()気持ちを鈴の心に突き立てる。

心を容赦なく切り裂かれ、嬲られた鈴は限界……の筈だった。

 

 

『これだけ言っても、全然強化されないね。()は最初から黙ったままで、否定も肯定もしてないよね。否定すれば、鈴は強くなれるのに……』

 

「やっぱり、そういうルールなんだね。それなら、君は強くならないよ」

 

『……そうだね。君は最初から、目を逸らさずに心を定め始めていた。()の言葉は、追い詰めるどころか、逆に後押ししちゃったんだね』

 

 

瞳に強い意志の光を宿す鈴の姿に、白い鈴はやれやれといったように頭を振るう。そんな白い鈴に、鈴は凛とした声色で口を開いた。

 

 

「うん。君の言ったことは事実だよ。恵里の歪さに薄々気付いていながら目を逸らしたことも、そのせいで多くの人が死んだことも、自分可愛さに逃げていたことも。だけど、それももう終わり。【ハルツィナ樹海】で夢を見た時から、鈴がどれだけ大切なことから目を逸らし、龍太郎くんのあの言葉で、辛くても見据えないといけないことが分かったから」

 

『……都合のいい夢だったね』

 

 

白い鈴が嗤い、鈴も本心からの笑みを浮かべる。

 

 

「ううん。あの夢は、有り得た未来だったんだよ。鈴が、現実から目を逸らさずに受け止めていれば……恵里の心に踏み込んでいれば」

 

 

そして―――

 

 

「ただ笑えばいいんじゃない。誰かと心を通わせたいのなら、まずは自分が心を開かないきゃいけなかったんだよ。だから、梅子さん(お手伝いさん)は“取り敢えず、笑っとけ”って言ったんだよ」

 

 

その意味を履き違えて、仮面の笑顔を作り、見せかけの幸せを享受していた。例え、この世界に召喚されなくても、いずれ破綻していただろう。

 

 

「だけど、一つだけ君の間違いを指摘させてもらうよ」

 

『……?』

 

 

鈴の言葉に、白い鈴は首を傾げる。白い鈴は間違いなく鈴の本心の一部。告げた言葉に間違いはない。だが、否定にも関わらず、白い鈴は全く強化されない。

 

 

「鈴は恵里に会って……まずは謝りたい。恵里が鈴を利用していたように、鈴も恵里を利用していたことを」

 

『…………』

 

「そして……恵里がどうして光輝くんを好きになったのか……恵里はどんな人生を歩いてきたのか……恵里自身から聞いて……本当の友達に、なりたい」

 

 

鈴のその言葉は、己を誤魔化すものではない。己の心と真っ直ぐに向き合い、白い鈴の罵りを受けながら出した、偽りのない本心の言葉だ。

 

 

『……力が下がった。その想いは、本物なんだね』

 

「そうだよ。だから、鈴は、君を越えて先へと向かう!望んだ未来を、手繰り寄せるために!!」

 

 

鈴は決意を言葉に乗せて宣言し、天舞谷口を扇ぐ。

 

 

「数多を束ねて砕け―――“聖絶・削撃ノ杭”!!」

 

 

鈴が詠唱すると、白い鈴の頭上に大量の障壁が長さが二メートル、四方六十センチはある角材のような形をした杭として作り出される。

“天絶・削撃ノ杭”―――天舞谷口に組み込まれた魔法を複合させ、攻撃に転化させた一点突破の攻性結界魔法である。

 

 

『これは……』

 

「これが君を追い詰める鈴の切り札!この技で―――その結界を貫く!!」

 

 

鈴の宣告と同時に、杭の如き結界が、重力魔法よって猛烈な勢いで白い鈴の頭上へと落下していく。当然、白い鈴が張った“聖絶・白皇”で轟音と共に受け止められる。しかし、次の瞬間、白い鈴の障壁に触れた鈴の障壁が再び轟音を響かせる共に爆発した。

 

杭の如き障壁は爆発を続けていく。しかし、その杭の長さは変わらない。再生魔法と魔素集束、冷気集束と変換回復で障壁を杭の尻へと瞬時に形成して生み出しているからだ。

杭打ち機の如く白い鈴の結界を破壊せんとする障壁は少しづつヒビを入れ、白い鈴の障壁に穴を開け始めていく。どれ程強固な障壁でも、一ヵ所だけを攻撃し続ければ耐えきれはしない。

 

 

『甘いよ!―――“聖絶・白皇陣”!!』

 

 

白い鈴は両手の白い天舞谷口を振るい、“聖絶・白皇”に“天絶”の特性も加えた障壁―――“聖絶・白皇陣”を形成して守りを固める。

同時に、最初の一枚が“聖絶・削撃ノ杭”によって破壊されて穴が開き、二枚目の障壁に激突する。

 

“聖絶・削撃ノ杭”は爆破と形成を繰り返し、白い鈴の“聖絶・白皇陣”を少しづつ喰い破り、確実に白い鈴へと迫っていく。だが、形成が間に合わなくなっているのか、杭の長さは少しずつ短くなっていっている。

ここが、正念場だ。

 

 

「ぁああああああああああああああああっ!!!」

 

『ふぅうううううううううううううううっ!!!』

 

 

互いに裂帛の咆哮を上げ、発動している結界に全力を注ぐ。杭は破壊と形成速度を上げ、白い鈴を守る障壁は周囲の冷気を取り込んで修復速度を上げていく。だが、白い鈴は力が減少しており、思うように修復速度が上げられず杭の進撃を止められていない。

 

自身を守る結界が残り一枚となった時点で、白い鈴はこのまま結界が破られると即座に判断し、白い天舞谷口に付与されている魂魄魔法を結界に後付けする。対象を選定して任意で遮られるようして、自身は前へと飛び出し、すり抜けるように結界の外へと出る。

 

鈴は杭に全身全霊を注ぎ、爆破によって煙が充満していることから、白い鈴の脱出には気づけず、白い鈴が外に出た瞬間に発動するバリアバーストの餌食になる―――筈だった。

 

 

『―――え?』

 

 

白い鈴が結界の外に出て早々に目に映ったのは、光刃を展開した天舞谷口を両手で構えて白い鈴へと猛烈な勢いで迫ってくる鈴の姿だった。

その予想していなかった光景に、白い鈴は反応が遅れ―――胸に光刃が綺麗に突き刺さった。

 

 

『……()が自分から近づくなんてね。あれはこの為の布石だったんだね?』

 

「……うん。逆なら、鈴もそうすると思ったから」

 

『それでも、障壁を簡易な鎧にしてからバリアバーストで自身を吹き飛ばして迫るなんて……本当に危ない真似をするよね?』

 

「そうだね。だけど、鈴の全てを賭けなきゃ、きっと恵里には届かないと思うから」

 

『…………』

 

「また迷うかもしれない。手は届かないかもしれない。それでも、鈴は手を伸ばし続けるよ。恵里と、本当に分かり合うために」

 

『……そっか』

 

 

白い鈴はとても優しげな笑みを浮かべ、鈴の頭を撫でる。そのまま、白い鈴は満足げな表情で揺らめき、消滅した。

 

それを確認した鈴は光刃を解除し、崩れ落ちるようにその場に倒れ込んだ。魔力を枯渇寸前まで消費し、鎧のように展開した障壁を纏ったとはいえ、自身の身体にバリアバーストをぶつけたのだ。限界を迎えても何らおかしくはない。

 

 

(本当は進むべきなんだけど……少しだけ、休んで……いいよね……)

 

 

朦朧とする意識の中、鈴は内心でそう呟いてから、意識を闇へと落とすのであった。

 

 

 




「恵里から色々と聞くよ。好きな食べ物や嫌いな食べ物、使っているシャンプーやリンス、好みの音楽や天気、布団の色まで……」

『それはストーカーだよ()!!』

一皮(?)向けた谷口の図。

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