魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


予想外

騒動も一先ず収まり、天之河の部屋に新しく出てきた通路をソウジ達は進んでいく。その道中で、ユエは改めて自分の幽閉の疑惑について語っていた。

 

 

「……もしかしたら、あの男……叔父は私を神から守る為に彼処に閉じ込めたのかもしれない……父様も母様も、私を見ているようで見ていなかった感じで……この“神子”の天職も今となってはすごく怪しい……」

 

 

本当なら、ハジメにに合流した時点でタイミングを見て話すつもりだったのだが、あの大馬鹿野郎のせいで中断してしまっていた。それで改めて、ユエは記憶違いの話を話したのだが……

 

 

「何ていうか、物凄く今更感のある話だな」

 

 

当のハジメは、呆れたような表情であった。

 

 

「……もしかして、気付いてた?」

 

「そりゃあ、な」

 

 

目をぱちくりさせるユエに、ハジメは何てことのないように肩を竦める。その意見に同意するように、ソウジも会話に加わっていく。

 

 

「ユエの“再生”は魔力が枯渇したら自動発動しないなら、やりようなんていくらでもあっただろ?なのに殺し切れずに幽閉は疑惑があるからな。アタランテがもたらした、クソ神が自身に耐えられる肉体を欲しているという情報はそれにぴったりと当てはまったんだ」

 

「これも推測の域を出ないし、ユエにとっても辛い記憶だから無理矢理記憶をほじくり返す気もなかったし……単純に俺が何とかすればいいだけだからな。ユエがどんな存在だろうとも、俺の結論は変わらない。ユエに手を出した瞬間、そいつを完封なきまでに叩き潰してやる」

 

「だな。もし、クソ野郎がアタランテを我が物顔で好き勝手するようなら……塵屑になるまで叩き斬ってやる」

 

 

ユエの身体で好き勝手し、アタランテを人形にして弄ぶ場面を幻視してか、非常に据わった眼差しで物騒なことを呟くハジメとソウジ。本当に、いつも通りである。

だが、ユエとアタランテにとっては魅力的であり、熱い眼差しを互いの愛しい人に向け、そのまま流れるように……

 

 

「……む?」

 

「……香織、何のつもり?」

 

 

……の前に、アタランテは八重樫に、ユエは香織に両肩をガシッと掴まれてキスを阻止されていた。当然、アタランテとユエは妨害したそれぞれの人物にジト目を送る。

 

 

「ユ~エ~?何自然とハジメくんとキスをしようとしていたのかなぁ?」

 

「……恋人同士なら当然。……そういえば今の香織はノイントボディ。……フッ、もし香織が神に操られたら、私が介錯してあげる。安心して。香織の分までハジメを幸せにするから」

 

「さすがにひどいよ!?それにハジメくんへの愛の力でそんなものははね飛ばすから!!ユエこそ乗っ取られたら、私が分解するからね!」

 

「……フッ。香織には六十年早い」

 

「ムキィイイイ―――ッ!!!」

 

「ムムム……ッ!」

 

 

ユエと香織はキャットファイトに突入。本当に“喧嘩するほど仲がいい”が当てはまる二人である。

対してアタランテと八重樫の方は……

 

 

「え、えっと……ほら、まだ最深部まで到達してないし、そ、それに、まだ終わったと決まったわけじゃないから、ね?」

 

 

視線をキョトキョトと彷徨わせて吃りながらも妨害した理由を説明する八重樫。どうやら意図的ではなくついやってしまったという感じである。

 

 

「だ、だから、そういうのは後にした方がいいんじゃないかしら?」

 

「……本音は?」

 

「羨まし……じゃなくて。私も……でもなくて。ゴホンッ!TPOを弁えましょうということよ。うん」

 

「さっきオレの頬にキスしてきたのにか?」

 

 

視線を泳がせながら、全く誤魔化せていない誤魔化しをアタランテに向かって告げる八重樫に、ソウジは呆れたように指摘する。途端、八重樫は頬を瞬く間に鮮やかな紅葉色に染めていく。

 

 

「うっ。あれは、だって……私だけしたことないし……寂しいし……」

 

「どうせでしたら、唇を奪えばよろしかったのでは?」

 

「う、奪うだなんて……はしたないわよフィア。それに、そういうのは、もっとちゃんとしたシチュエーションで、お互いの合意の上で……出来れば空山君の方から……そっちの方が凄く嬉しいし……」

 

 

普段の八重樫とは別の意味で違う姿に、ソウジは思わず珍獣を見るような目を向けてしまう。周りが積極的なだけに、この反応はあまりにも新鮮すぎた。現に、ハジメもソウジと似たような眼差しを八重樫に向けているのだから相当である。

 

 

「……なんという乙女力だ。これは私の負けだ」

 

 

アタランテが戦慄を滲ませる声色で呟き、ジークリンデとフィアもアタランテの呟きにウンウンと頷く。ユエもコクコクと頷いており、香織に至ってはドヤ顔だ。

ちなみに……

 

 

「……ウプッ」

 

「龍太郎くん、吐こうとしないで。吐きたい気持ちはわかるけど。というか、鈴も吐きたい」

 

 

坂上と谷口は、砂糖を大量に投入したかのような桃色空間を前に、吐糖寸前に陥っているのであった。

そんな感じで、警戒はしつつも甘く軽い空気の雰囲気で先へ進むこと十分。一行は遂に行き止まりに到着した。行き止まりの氷壁には七角形の頂点に各大迷宮の紋章があしらわれた魔法陣が刻まれている。

 

 

「漸くゴールか?」

 

「大方、神代魔法の魔法陣がある解放者の住処へ転移する魔法陣だろうな」

 

 

そんな他愛ない会話をしながら、魔法陣に近づいたことで形成された光の膜に飛び込むのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……やっぱりあれがゴールだったか」

 

「全員いるし、いかにもな神殿もあるし間違いないだろ」

 

 

視界を染め上げた光が晴れると、そこは幾本もの太い円柱形の氷柱に支えられた綺麗な四角形で、純水で出来ているような透き通った氷で構成されている広い空間だった。

更に、地面には大量の湧水によって水に溢れかえっている。この空間はそれほど低温でないことが窺える。

そして、対面には巨大な氷の神殿がある。間違いなく、あれが解放者の住処だろう。

 

 

「……エアゾーンを外しても、涼しいと感じる程度の寒さだな。ここが最深部と見て間違いないな」

 

 

エアゾーンを外して気温を確認したハジメの呟きに、谷口が急に涙を滲ませ始めた。

 

 

「……攻略……したんだ……ぐすっ」

 

 

……どうやら、谷口は本当に攻略出来たか不安だったようである。それでも、己を奮い立たせて彼女は此処まで来た。それが一つの形として報われたのだから、こうなるのは当然だろう。

香織も貰い泣きしそうな表情で優しく谷口の肩に手を置き、坂上も前回よりも確かな手応えを感じてか、笑いながらも目元少し光っていた。

 

 

「……やったわね」

 

「おうよ。大分苦戦しちまったが、やり遂げたぜ」

 

「その苦戦は自業自得よ。毎回、後先考えずの突貫をするからでしょ。もう少し頭を使いなさい。頭を」

 

「いやぁ、ははっ。結果オーライでいいだろ。うん」

 

 

八重樫のツッコミに、坂上は言葉とは裏腹にバツが悪そうに目を逸らしている。

 

 

「それじゃあ、そろそろ“変成魔法”を頂きに行くぞ。オレとハジメとユエは“概念魔法”があるから気を引き締めないとな」

 

「ああ」

 

「……ん」

 

 

ソウジの言葉にハジメとユエは勿論、他のメンバーも素直に頷く。攻略が認められたどうかは神代魔法の修得ではっきりする上に、ハジメ、ソウジ、ユエに至っては最後の神代魔法なのだ。変成魔法を取得すれば、概念魔法に至り、帰還手段を手にすることが出来る。

 

気を引き締めた一同は、羅針盤を持つハジメを先頭に氷の神殿へと歩み始めていく。

雪の結晶を模した“解放者”の紋章が刻まれている両開きの扉を開けた先にある神殿の内部は、【オルクス大迷宮】のオスカーの隠れ家に良く似ており、氷壁もひんやりしている程度のものだ。何らかの防寒措置が取られていることが窺える。

 

 

「魔法陣がある場所は……」

 

 

ハジメが手元の羅針盤で確認しながら進み、一同はハジメの先導の下、ついに神代魔法取得の為の魔法陣が刻まれている部屋へと辿り着く。

そして魔法陣内で脳内を精査され―――気絶している大馬鹿を除く一同は“変成魔法”の修得に成功した。

 

 

「やった……」

 

「魔人族の件でとっくに分かっていたが、魔物の使役と強化、そして魔物を生み出す魔法だな」

 

「ええ、そうね。だけど、この魔法をどう活かすかは私達次第―――」

 

 

谷口、坂上、八重樫は変成魔法について語り合うも、それは遮られることとなる。

何故なら―――

 

 

「ぐぅ!?がぁああっ!!」

 

「うぐっ!?ぬぁああっ!!」

 

「……っ、うぅううううっ!!」

 

 

ハジメ、ソウジ、ユエの三人が突如、激しい頭痛を堪えるかのように頭を抱えてながら膝をつき、苦悶に満ちた悲鳴を上げたからだ。

 

 

「ハジメさん!?ユエさん!?ソウジさん!?」

 

「空山君!?南雲君!?ユエ!?」

 

「ソウジ!!」

 

 

シアと八重樫が驚愕の声を上げ、アタランテが慌ててソウジに寄り添う。

直後。

 

 

「っぁ……」

 

「ぅっ……」

 

「……んっ」

 

 

正体不明の苦痛から解放されたのか、脂汗を大量に浮かべたハジメとソウジとユエはガクッと体から力が抜ける。ソウジは寄り添ったアタランテが支え、ハジメは診察しようと駆け寄っていた香織に、ユエはすぐそばにいたシアに支えられる。

 

 

「ハジメくん、大丈夫!?」

 

「無事ですか!?ユエさん!!」

 

 

香織とシアの呼び掛けに、ハジメとユエはうっすらと笑みを浮かべた後、そのまま気絶してしまう。

 

 

「……わ、悪い……少し……おち……る……」

 

 

息遣いが荒くなっているソウジも、心配げに見つめるアタランテにそれだけ告げ、そのままハジメとユエと同じく気絶してしまった。

 

 

「ご主人様達が気絶するとは……一体何が起こったのかのぉ」

 

「可能性としては、概念魔法に関することでしょうが……今はソウジ様達を休ませるべきですね」

 

 

一番あり得る可能性を告げたフィアの言葉に、一同は揃って頷き、気絶した彼らを休ませるために魔法陣が刻まれた部屋を後にするのであった。

 

 

 




「そういえば、アリアさんにも伝えないと。彼女も空山君のことが……」

「不安にならずとも大丈夫ですよ。お嬢様なら笑って受け入れてくれますよ」

「そう……」

「ただ……」

「?」

「あの負けい……皇帝陛下の撃退に手を貸すように言われるかもしれないですね。ちょっかいを出されると鬱陶しい上に、雫様も狙われていますしね」

「……すっかり忘れてたわ」

「ですから、カム様から頂いた、皇帝陛下の秘密部屋の爆破装置をお渡ししておきますね♪いざとなれば、これで脅して下さい」

「…………」

フィアから押し込み式の端末を渡され、非常に困った表情となる雫の図。

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