てな訳でどうぞ
「うーん……」
氷の邸宅のリビングルームで用紙とボールペン(ハジメ製)を手に、鈴は考えるように視線を天井に向けていた。
「鈴ちゃん。考え事?」
そんな鈴の様子に香織が率直に尋ねると、鈴は香織の方に顔を向けた。
「うん。頑張って手に入れた変成魔法についてね。変成魔法を応用すれば、鈴も南雲くん達のように魔力を直接操れるかもって。でも、実際は無理かなぁっと」
鈴はどうやら変成魔法の使い方について考えていたようだ。いや、そっちに考えを向けていると言うべきだろう。体を休めるだけの状況だと、色々な事を考えてしまう為に、余計な事を考えないように手に入れた変成魔法について考えているのだ。
「確かに理屈上は可能だと思うけど……」
「うん。今ある知識でやったら鈴の体はボロボロになるんだよね。それに、全然使い慣れてないからどっちにしても駄目なんだけど」
「神代時代は固有魔法を使える人間もいたからな。発想自体は悪くはないだろう」
「聞けば聞くほど、本当に今とは比べ物にならないわね……」
アタランテの言葉に雫は何とも言えない表情で呟く。ソウジ達から聞いた神代魔法の本当の定義なら、確かに鈴が言ったように、魔力を直接操作できる体にすることは理屈の上では可能だろう。だが、現在の知識と技量でそれを実行すれば間違いなく失敗する。時間的にも現実的ではないだろう。
「今のところはセオリー通りに使ってみるよ。魔物は……たぶん、樹海にいる魔物になるかな。樹海には南雲くんのゲートホールが設置されてるから」
「俺は……魔物を従えて戦えそうな気がしないんだよな。なんというか、性に合わないというか……」
「龍太郎……まぁ、私も似たような感じね。だから、空山君と南雲君にお願いして四皇空雲に私が考えた構想を加えてもらおうと思ってるわ」
なので、鈴は刻まれた知識通りの使い方を、龍太郎は頭を捻って考え、雫はソウジとハジメに頼んで四皇空雲の更なる強化を頼むことを考えるのであった。
「……大丈夫かな、光輝のやつ」
「うん……それに恵里のことも……」
だが、それでも余計な事を考えてしまう。ここで考えても解決する問題ではないと分かっていても、それでも考えてしまうのだ。
「鈴ちゃん、龍太郎くん……大丈夫だよ。光輝くんの問題は光輝くん自身がどうにかしなきゃいけないけど、出来る範囲で力になればいいよ。恵里のことは……取り敢えず突撃すればいいよ!考えても疲れるだけだしね」
「カ、カオリン……すっかり南雲くんに影響されてるね」
「違うわよ、鈴。香織は昔からこうよ。決断の九割は突撃なのよ」
「あっ、確かに。あの時もカオリンは突撃していたね」
「納得しないでよ、鈴ちゃん。雫ちゃんも酷いよ。それじゃあ、私がまるで龍太郎くんと同じみたいじゃない……」
「おい、香織。然り気無く罵倒してないか?俺と同じだと“酷い”のかよ?」
渋い表情で龍太郎は文句を言うも、誰も気にしない。香織の励ましを受けた鈴は、両手で自身の頬を叩いて気合いを入れ直した。
「うん!そうだね!ここであれこれ考えても仕方ないよね!」
「うん!いざとなったら私が手当たり次第に分解して、その隙に逃げればいいしね!」
さらりと物騒なことを言い放った香織だが、鈴達は香織が自分達と一緒に行くような物言いに気を取られていた。
「え……カオリンも一緒に来てくれるの?」
「もちろんだよ。鈴ちゃんと雫ちゃんを放っておけないし」
「でも、南雲くんは……」
「それも雫ちゃんと同じだよ。少しの間離れるくらいなら平気だし、今私に出来ることは鈴ちゃん達を守ることだと思うから」
「うぅ……ええ子や、ホンマにカオリンはええ子やな~」
真面目に返すには少々照れ臭かった為、冗談めかして感謝を告げる鈴。香織は関西弁だったことに首を傾げたが。
「香織がいるならそちらは大丈夫じゃな。……ふむ、妾とジークは一度里に帰って挨拶をしておこうかの。任務のこともあるわけじゃし」
「……そうですね。本当に報告しなければなりません。アドゥル様に、本当に、お辛い報告をしなければならないのが、本当に!心苦しいですが!!」
断腸の思いで告げるジークリンデに、その場にいる皆が同情の眼差しを送る。竜人族の姫君が甚振られて悦ぶ変態になりました!等、そんな報告をしなければならないジークリンデの心労は計り知れない。同時に、出ていった時とはまるで別人のようになってしまったティオを見た竜人族の皆さんは、泣き崩れるであろうことも……想像に難くない。
「私はお嬢様をお迎えした後、旦那様方に挨拶になりますね。シア様は?」
「私ももう一度父様達に挨拶しようと思います。ゲートホールが設置されてますから直ぐにでも行けますね」
「ゲートホールをくぐって早々、アルテナさんが飛びかかってきそうですね。『お帰りなさいシアさん!さあ、わたくしで遊んでくださいませ!』という発言と共に」
「……もの凄く行きたくなくなったですぅ」
フィアのあまりにもあり得る指摘に、シアは心底嫌そうな表情となる。
「あれに比べ、記録体でのリューティリスさんは本当に優雅でしたね。高貴な雰囲気が滲み出ているというか……試練の内容は最悪でしたが」
「…………」
しれっとアルテナをあれ呼ばわりしてリューティリスの記録体を思い出すシアだが、アタランテが神妙な面持ちで何かを考え……否、思い出してしまっていた。
「?どうしたのアタランテ?そんな難しそうな顔をして」
雫が訝しげにアタランテに話しかけると、アタランテは神妙な面持ちのまま口を開いた。
「いや……そのリューティリスだが……リューティリスがメイルをお姉様と呼び、顔を赤めてハァハァしていたような気がしていたと思い出してな……」
「「「「「「「「…………」」」」」」」」
いやいや、まさかそんな筈は。
ウザいミレディとドSのメイルに続いてまさかそんな。
「そして……リューティリスが天職で仕向けた黒いあやつらを焼却し、リューティリスをメイルへと吹き飛ばした後……ヤツは『申し訳ありませんお姉様!お友達を犠牲にし、お姉様の足を引っ張ってしまったわたくしに、どうかその鞭で
「「「「「「完全に変態だ!!」」」」」」
リューティリス・ハルツィナ。
まさかの黒い悪魔が友達&ドMの変態という事実にシア達は叫んだ。
この瞬間、リューティリスに抱いていた最初のイメージがガラガラと音を立てて崩れ始めた。
「う、嘘です……まさかそんな……」
「あの記録映像を見た限りじゃ、そんな欠片は微塵も……」
彼女達は知らない。あれが何十回も取り直した結果だということを。更に残念なことに、表面こそマトモだったが内心は残念なままであったことを。
「きっとアタランテの記憶違いよ。だって、あれが友達だなんて普通はあり得ないわよ。変態の方もきっとそうよ」
「だが、当時、国の女王だったリューティリスは『我が無二の親友よ!わたくしとお姉様の為に今こそ戦うのです!!』と叫んでいたり……メイルは心底嫌そうな表情で足にすがり付いていたリューティリスを見ていた気が……」
「そ、それに……アルテナさんを見る限り全部は否定出来ないんじゃ……」
「「「「「「「…………」」」」」」」
雫は死んだ瞳で記憶違いと言うも、アタランテの更なる情報と鈴の指摘で全員が黙りとなる。
まさか、メルジーネの大迷宮がハルツィナの大迷宮から凄く遠い場所にあるのは……
「……あの時の同情と尊敬を返しやがれですぅ」
シアが怨嗟の声を洩らした。脳筋と変態以外はウンウンと頷いている。本当にあの時の気持ちを返して欲しい気分であった。
ちなみに、夢の世界でソウジにぶっ飛ばされた後―――
『まさか最後にこんな仕打ちを……ありがとうございます』
ロクでもない方法でクリアされて絶句した後―――
『あんな方法でクリアされるなんて……わたくしもその罵声とお仕置きを受けたいですわ……同士と一緒に……』
スライムコールを受けた後―――
『スライム化は試練以外で出来ないんですよ……わたくしだってスライムになってお姉様にお仕置きされたかったのに……』
ソウジ達が攻略して帰った後―――
『……最後はわたくし“で”ストレス発散してよかったのですよ?……最初の二人の少年の無視は良かったです……これは放置プレイなのでしょうか?……わたくしもお姉様にあんな風に……ハァハァ』
記録体のリューティリスはハァハァしていた。記録体ですら、本当に救いようのないドMである。
と、その時、おもむろにリビングルームの扉が音を立てて開いた。
「ここにいたのか……」
「あら、光輝。目が覚めたのね」
入ってきたのは光輝だった。目が覚めて他のメンバーを探していたようだ。
「体調はどう?」
先ほどまでの重い(笑)空気は霧散し、雫が微笑みながら光輝に体調を尋ねる。微笑みの中に探りと警戒を隠して。
「大丈夫だ。ごめん、心配かけた」
対して光輝は雫と同じように微笑み返して大丈夫だと告げた。影が差しているように見える表情で。
香織達も光輝の無事を喜び、そのことに光輝はもう一度微笑むと、誰かを探すように部屋の中に視線を巡らせていく。そんな光輝に、アタランテが普段通りの表情で答えた。
「ソウジなら、今はハジメとユエと共に別の部屋に籠っている。だから、この場にはいない」
「っ……そうか。……色々、迷惑かけたから、一言、謝ろうと思ったんだが……」
どうやら、あの時のように暴走はしないようである。落ち着いていると言うより、落ち込んでいるというべき精神状態ではあるが。
「ソウジ様も特に気にしてないと思われますよ?しっかりと反省し、暴れなければ何も求めないでしょう」
「ジークリンデ、さん。……そうかもしれないけど、やはり、ね」
歯切れ悪く苦み走った表情をする光輝。実際、光輝の暴走は面倒くさいものではあったが、それ以上でもそれ以下でもない。ソウジにとっては文字通り、子供の癇癪でしかなかった。
殺意をもって向かって来たのは確かだが、自身の行動原理を優先して雫達を悲しませるのは今のソウジにとっては愚かな行動だ。だからこそ、ソウジは最初から無力化する方向で動いた。
「その様子だと正気に戻ったようね。それとも、まだ私達が洗脳されていると思っているのかしら?」
故に、雫は少し厳しい眼差しと声色で尋ねた。少なくとも、二度の暴走を許す気は雫にはなかった。
「っ……」
「目を逸らさないで」
「……あぁ。……もうそんなことは思ってないよ。あの時は、本当にどうかしてたんだ……」
影の差した表情ながら、しっかりと見返して答えた光輝を、雫はジッと見つめる。おそらく、本心では納得していないが、無理矢理納得させているのだろう。
そんな心情が、眼から滲み出ていた。
「……そう。ならいいわ」
だが、雫は敢えてそのことは指摘せずに、一応の納得を見せて引き下がった。
その後、光輝が気絶してからのことを説明していく。
一通り説明し終えた雫は、光輝が暴走することになった原因でもある自身の気持ちを伝えた。本当は光輝から尋ねるのを待つつもりだったが、光輝の様子から、このまま聞かない可能性が高いと感じたからだ。
「……光輝。私ね、空山君のことが好きになったわ。彼に、一人の女として見て欲しいと思ってる」
「っ……」
雫のその言葉に、光輝の表情が一瞬歪んだ。あれが幻、見間違いだと誤魔化そうとしていたが、雫の言葉でキッパリと否定されてしまった。
「つまり、これからは空山について行くってことか?空山には本命がいるのに?……雫、考え―――」
「光輝。私は意見を求めているわけじゃないわ。今のはただの報告よ。幼馴染みだから」
「…………」
遮るようにキッパリと言い切った雫の物言いに、光輝は苦虫を噛み潰したような表情で押し黙った。それとなく、周りに視線を巡らせるも、誰もが雫の気持ちを尊重していた。
自分の味方がおらず、再び沸き上がった黒い感情のままに、光輝は皮肉な言葉を放った。
「……ははっ、皆、あいつらの味方だな。人を躊躇いもなく簡単に殺して、簡単に人を……世界を見捨てる最低な奴らなのに……」
「光輝!」
雫が声を上げるも光輝は止まらない。そして、言ってはならない言葉を発してしまう。
「こんなことなら、あの時、橋から落ちるのは俺だったら良かッ!?」
その言葉は香織によって物理的に止められた。パシンッ!と派手な音が立ち、香織の張り手が光輝の頬に炸裂した。
「……光輝くん。光輝くんのことは大切な幼馴染みだと思ってる。……だから……嫌わせないで」
「……か、おり」
厳しいながらも、どこか悲しそうな表情の香織の言葉に、光輝は叩かれた頬に手を添えて呆然と香織を見つめる。そんな光輝に、雫が瞳を閉じた表情で口を開いた。
「……光輝。今の言葉は聞かなかったことにしとくわ。……だから、二度と口にしないで頂戴」
「……し、ずく」
感情を押し殺した固い声。もし香織が止めなかったら、雫が物理的に止めていたであろうことは想像に難くない。あの事件でもっとも心を痛めたのは香織だが、雫も同様に心を痛めていたのだ。
そんな幼馴染みの少女二人の様子に、光輝が何か言わなければと口を開きかけた―――その時。
ゴゥ!!
そんな豪風の風圧にも似た絶大な魔力の波動による衝撃が駆け抜けるのであった。
「まさか女性の解放者全員、性格に難があるなんて……」
「マトモな女性は誰一人いなかったと……」
「……人のこと言えないよね?」
「ですねぇ。ティオさんとアルテナはドMの変態ですし……」
「ユエはロリババアなエロ吸血姫だし」
(お嬢様も似たり寄ったりですね……フフッ)
「リリィだけはお願いだからマトモでいてね……」
祈るように手を組む香織、雫、谷口の図。
「……くしゅんっ!」
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