魔王の剣   作:厄介な猫さん

158 / 171
アニメ三期が近づき、再燃して執筆。
てな訳でどうぞ。


二人の始まり

突如、駆け抜けた豪風の風圧にも似た絶大な魔力の波動。“衝撃変換”など一切されていない、体内の魔力が反応してしまう程の莫大な量の魔力が、部屋の壁を通過して広がったのだ。

 

 

「これは……!」

 

 

明らかに尋常ではない事態。その出所がソウジ達のいる部屋であったことから、呟いたシアよりも先にアタランテが部屋から飛び出していく。それに一拍遅れてシアが続き、我に返った一同も慌てたように二人の後を追う。

ソウジ達がいる三人が籠っている部屋に近づけば近づくほど、駆け抜ける魔力の波動は密度を増していく。まるで台風の直撃を受けているかのように荒れ狂う廊下をどうにか進み、三人のいる部屋の前へと辿り着いた。

部屋の扉はアタランテが開けたのか既に開いており、遅れてきた一同も吹き荒れる魔力から顔を庇いながら部屋に入ると、部屋の中では紅と蒼、金色の魔力が螺旋の奔流となって吹き荒れていた。

 

 

「アタランテさん、これは……」

 

「私にも分からない。だが、異常事態ではないようだ」

 

 

荒れ狂う魔力の嵐から顔を庇いながらシアの質問に答えるアタランテ。そのアタランテの言葉通り、その嵐の中心となっているハジメ、ユエ、ソウジの三人は、膝立ちになりながらも互いに手を繋いで円陣を組んでおり、その中央には青白い光を放つ拳大の結晶と幾つかの鉱石が置かれている。

その三人は極限まで集中しているからか、アタランテ達が部屋に入ってきたことに微塵も気付いていない。顔には大量の汗が流れており、今この瞬間も帰還のためのアーティファクトの作製に全力であることを示していた。

 

 

「……大丈夫なら、出た方が良さそうね」

 

「ええ。邪魔にならない為にも、一度退室すべきかと」

 

「そうじゃな。それで失敗などしたら……お仕置きされてしまうのじゃ」

 

「嬉しそうに言わないでください、ティオ様」

 

 

ジークリンデに耳を掴まれ、悦ぶティオをスルーしつつ、アタランテ達は三人の邪魔をしないようにそっと扉に向かって後退する。

その中で、光輝だけはジッと三人を見つめていた。いや、見つめていたのはハジメとソウジだけだったかもしれない。瞳には感情の色が見えず、まるで激情を押さえ込んでいるかのような危うさがある。

 

 

「光輝」

 

 

そんな光輝に雫が呼びかけるも、光輝は答えない。逆に、彼らに向かって一歩踏み出そうとしていた。

 

 

「光輝!」

 

 

雫が咄嗟に光輝の腕を掴む。ポニーテールを靡かせながら真剣な眼差しで光輝を真っ直ぐ見据えると、光輝はまるで怯えたように動揺を露にし、踏み出しかけた一歩を逆に後退らせた。

その瞬間、一同の眼前にどこかの風景が映り始めた。

 

 

「!これは……!?」

 

「え、映像?」

 

「いや、これはおそらく記憶だ」

 

 

シアと香織の疑問に、アタランテがそう答える。紅と蒼、それぞれの魔力光から映し出される映像は、確かに記憶とうう表現が適切かもしれない。

 

 

「何だか、オルクスみたい……」

 

「確かに、緑光石の明かりで照らされる巨大な洞窟と言えば【オルクス大迷宮】じゃの。つまり……」

 

「これはソウジ様とハジメ様、お二人が“奈落”……真の【オルクス大迷宮】での記憶なのでしょうね」

 

 

ティオの考察を引き継ぐようにフィアが憶測を口にする。

 

 

「じゃあ、紅い魔力から流れる映像が南雲で、蒼い魔力から流れる映像が空山の記憶……なのか?」

 

「……うん、そうだと思う。左半分が真っ暗なのは、ソウジくんの記憶で間違いないと思う。あの時、瓦礫が左目に直撃していたから」

 

 

香織がそう呟く通り、左半分が真っ暗となっている映像はソウジの記憶だ。そこでふと、鈴は気付く。

 

 

「あれ……どうしてお互いの姿が映っていないの?二人は一緒に落ちた筈だよね?」

 

「そういえば……以前聞いた話では、再会したのはユエと出会った時と言っていたな」

 

「え?じゃあ、二人ははぐれてしまっていたの?ユエと出会うまでずっと?」

 

 

今の今まで、ソウジとハジメが共に行動していたと思っていた雫は、震える声でアタランテに尋ねる。もちろん、アタランテ自身も話を詳しく聞いたわけでもないし、シアを除く一同が勘違いしていたのも無理はない。何故なら、不幸自慢をする気がなく、詳しく話す気もなかった二人が多くを語らなかったことが原因だ。だからこそ、互いに孤立していたという事実は寝耳に水だったのだ。

 

そして、雫は王都でのソウジの言葉―――折り返しまで()()()()()()を振るっていたという話を思い出していた。よくよく考えれば、ハジメがいれば氷の刀を作る必要がない。拳銃を作り出したハジメなら、構造が銃と比べて難しくない刀を作り出すことは、そこまで難しいことではない。どうして今まで気付かなかったのかと、雫は自己嫌悪に陥りそうになった。

そんな事実が明らかになり、映像から流れてくる不安、焦り、安否……それらの感情が次に流れる映像の衝撃を加速させた。

 

 

「あっ」

 

 

誰が声を上げたかは分からない。だが、流れている映像―――ハジメが蹴りウサギからの体当たりで左腕が粉砕され、ソウジが氷牛の冷凍光線で右足が凍らされたからだ。

 

 

「そんな……あのお二人が……手も足も出ないだなんて……」

 

「これが、私達が知っていた二人よ。戦う力なんて、ないも同然だった……」

 

 

シアが信じられないと呟き、雫が当時の無力感からか唇を噛み締めながら言葉を零す。

ソウジの映像が氷牛の目を捉えた瞬間、伝わってくる恐怖が一層強く感じられる。彼らも氷牛の目―――敵を見る目ではなく、食料か玩具を見る目だったことから、思わず身を強張らせてしまったからだ。

もちろん、それだけで終わりはしない。

 

 

「お、おい……南雲の映像のあれ……」

 

「あれって……空山くんの足……だよね……?」

 

 

龍太郎と鈴が震える声で呟いた言葉通り、ハジメの映像に新たに出てきた爪熊は氷に覆われた何かをくわえていたからだ。氷で見えづらいが、ソウジが着ていた服の一部であることが窺えた。

当然、ハジメの映像からも疑問と恐怖が流れ込んでくる。その間、ソウジの映像からはがむしゃらに逃げ続ける映像が流れている。そして、ソウジが倒れるのとハジメの左腕が奪われるのは同時だった。

 

 

「ここで、ソウジ様は右足を失ったのですね……」

 

「それをあの魔物がくわえてご主人様の前に現れたと……」

 

 

左目だけでなく右足を失ったソウジと、目の前で自分の左腕を食べられたハジメは、それでも死の恐怖から逃げようと死に物狂いで穴の中へと逃げていく。

 

 

「ソウジ……」

 

「ハジメ、さん……」

 

 

アタランテとシアは涙を流し、香織、ジークリンデ、雫、鈴は手で口元を覆っている。ティオも映像を見る目は厳しいものであり、フィアも表情こそ何時も通りだが、薄らと殺気を放っている。

そして、二人は互いに神結晶へと到達し、その場に蹲る。ハジメは孤独感と友の死、ソウジは大きなハンデを背負って。

 

助けを求める感情と、すべてを諦めた感情。神水によって死ぬこともできず、飢餓と幻肢痛に襲われる日々。しかし、それを真っ先に破ったのはソウジだった。

理不尽な家族との別れ。それを受け入れることを拒絶したソウジは、次第に思考を諦感から殺意へと変えていく。ハジメも次第に生への渇望と、理不尽と邪魔をする者への殺意に心を染めていく。

 

ソウジは鞘を持っていた剣で半分に斬ると、服の裾から切り取った布を使って即席の義足を作り上げ、歩行の練習を始めていく。時折映る水面から映るソウジの顔付きは、左目を覆うように巻かれた布も相まって、別人のものになっていた。

ハジメの方も生への渇望と殺意によって活力を取り戻し、錬成を駆使して二尾狼を狩り、ソウジも不意討ちで三つ目猫を狩る。

 

そして―――奈落の化物が別々の場所で産声を上げた。

どちらも魔物の肉を食らい、崩壊しそうな身体を神水で強引に繋ぎ止め、それでも止まらない激痛に耐えて生き足掻こうとする映像に、誰もが呑まれてしまう。

その映像を前に光輝は目を逸らし、龍太郎は暗い表情で顔を俯け、鈴は泣き出しそうになりながらも必死に堪えていた。

 

 

「俺たちは、本当に恵まれていたんだな……」

 

「うん……本当に、自分が恥ずかしいよ……」

 

 

どちらもハンデを負った孤独な戦いであり、ユエと出会うまでは本当に己の力だけで進んでいたのだと、龍太郎と鈴は痛感する。そして、心のどこかで互いに協力したからこそ乗り越えられていたんだと、そう思っていた自分自身を強く恥じていた。

そして、今と同じ姿となったソウジとハジメは、新たな力を手に進んでいく。ハジメは見つけた鉱石で新たな武器を作る為に何度も試行錯誤し、ソウジは鍛練してより強くなるために。

そうして、互いに仇敵と呼べる魔物を激戦の末に倒した二人は、それぞれの渇望を強く認識する。

 

 

―――帰りたい

 

 

その想いに呼応するように、部屋を満たす魔力が脈動する。魔力が更に跳ね上がるが、それらは三人を中心に渦巻く奔流へと吸い込まれるように集束していく。

 

 

―――帰りたい

 

 

紅と蒼の魔力が燦然と輝き、紅の魔力に寄り添うように支えている金色の魔力が手を取り合うように蒼の魔力を支えていく。それらの魔力流はゆったりと三人の周囲を回り始め、煌めく銀河の如く光を放っていく。

 

 

―――帰りたいんだ

 

 

静かに、されど決して揺らがないと理解させられる強烈な意志が込められた想いが染み渡るように見守る一同へと伝わる。それは、まさに極限の意志。

故郷に帰りたい。家族の下に帰りたい。細やかな違いはあれど、元の世界に必ず帰るという強い決意の元、ハジメとソウジは迷宮の深部を目指して進んでいく。

 

映像を映していた魔力光はそこで、三人の周囲を周回する魔力の渦へと加わった。

映像を見終わったアタランテ、シア、ジークリンデ、ティオ、香織、フィア、雫は涙を流し、同時に、絶望から再び立ち上がった想い人の強さに誇らしさを感じて微笑んでいた。

龍太郎と鈴は、二人の本当の“強さ”に圧倒されつつも、自分たちの願いに応えて真剣に鍛え、装備を整えてくれた事に深く感謝していた。

 

そして光輝は……その圧倒的な道程に言葉を失っていた。

光輝は今の今まで、ハジメとソウジは奈落に落ちたことで簡単に力を手に入れ、好き勝手している奴らだと本気で思っていた。以前、雫に凄まじい経験と壮絶な覚悟と決意の果てに得た力だと説明されたが、実感も感じず、本気で考えることもなく、無意識なご都合解釈で卑怯な力と思っていたのだ。

だが、思いがけず知ってしまった二人の道程は、そのご都合解釈を吹き飛ばすくらい、凄まじいものだった。

 

 

(……帰りたい……か)

 

 

心の中で呟く光輝。周りに求められるまま、勇者として世界を救うと公言していた自分と、極限の果てに、純粋で強烈な想いで帰郷を望むハジメとソウジ。その“想い”の差が、ソウジへの完封なき敗北に繋がっている気がして……

 

 

(ち、違う……俺は間違ってない。南雲の……空山の想いは……わかったけど……でも、だからって……俺から何かも奪って、いいわけ……)

 

 

過った自己否定の感情を振り払おうとする光輝。そんな光輝を他所に、三人の中央にある結晶体と鉱物に変化が現れる。

澄み渡った紅と蒼の魔力を中心として、三色の魔力が包み込む結晶体と鉱物は、ハジメの錬成によって徐々に形を変え、あるいは融合して魔力を取り込んでいく。

 

それは徐々に鍵の形を取っていき、紅と蒼の二色が幻想的に交ざりあった水晶に金の意匠があしらわれたアンティークキーとして仕上がっていく。

そして、完全に形が創られた直後、今まで微動だにしなかった三人の目が薄らと開く。その瞳は、三人にしか見えない何かを見つめているかのようだ。

そんな異様であり、同時に神秘的でもある雰囲気に、誰かのゴクリと生唾を呑み込む音が響く。次の瞬間、今度は三人の唇が動いた。

 

 

「「「―――“望んだ場所への扉を開く”」」」

 

 

刹那、恒星の如き眩い光の奔流が三人を中心に噴き上がるのであった。

 

 

 




「氷の刀……失った武器の代用とはいえ……」

「さすがソウジだな」

「ええ。少しの刃こぼれで済ませるとは、お見事ですね」

「それに満足せず、更に腕を磨くべく鍛練する姿は感服いたします」

「この経験が、空山君の剣の綺麗さに繋がっているのよね。私もいつか……」

「シズシズ?さらっとトンでもないこと言ってない?」


雫のバグキャラ化のフラグを察知する谷口(ブーメラン)の図。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。