魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ。


本拠地への招待

待ち構えていたフリード達を前に、一同は既に臨戦態勢に入っている。多くはその数の多さから緊張、もしくは警戒の面持ちだが、ハジメとソウジは剣呑に目を細めている。

フリードとマキアス、中村は余裕からか口調と態度に余裕がある。魔物の大群だけでなく、数百体の“真の神の使徒”が後ろにいるから当然かもしれないが。

 

しかし、そんな数の暴力はハジメとソウジの二人には通用しない。以前は一対一で激戦を繰り広げたが、現在は昇華魔法によって能力が底上げされている。もはや一人だけなら“限界突破”なしで仕留められる可能性が高く、多数相手でも十分に対処可能だと踏んでいる。

 

ハジメとソウジは、アタランテたちに一瞬の目配せを行う。そして、先手必勝とばかりに殺気を放とうとした矢先、フリードが機先を制するように再び口を開いた。

 

 

「逸るな。今は、貴様等と殺し合いに耽るつもりはない」

 

「本当は今すぐにでも地に這い蹲らせ、許しを請わしたいところだ。だが、今はアルヴ様から承った命を忠実にこなすことが重要だ」

 

「へぇ?神の忠犬どもは、どんなご褒美(命令)を貰ったんだ?頭に雪を積もらせる程なんだろ?」

 

「……寛大なるアルヴ様は、貴様等の厚顔無恥な言動にも目を瞑り、居城へと招いて下さっている。我等は、その迎えだ」

 

「アルヴ様に拝見できるなど、君たちにはあり得ない程の幸運だ。その事実に、感動に打ち震えたまえ」

 

 

ハジメの皮肉げな問いかけに、殊更無表情になりながら抑制のない声音で告げたフリードとマキアス。色々な意味でツッコミどころ満載の言い分に、アタランテ達は訝しそうな眼差しを向ける中、ハジメとソウジはより一層、目を細めていた。

 

 

“わざわざ招待ってことは……”

 

“十中八九、ユエが狙いだな。クソッタレ”

 

 

念話でやり取りをしているハジメとソウジは表情には微塵も出さず、内心で悪態を突く。ユエの能力は王都の大暴れの時に結構割れてしまっている。そこに容姿も加われば、アルヴと繋がっているであろうエヒトが勘づいても何ら不思議ではない。

それでも、一つ疑問が残る。

 

 

「アルヴはお前らの神だろ。その神が何で城にいるんだよ?」

 

「アルヴ様は確かに神―――エヒト様の眷属であらせられるが、同時に我等魔人族の王―――魔王様でもある。神界よりこの汚れた地上へ顕現なされ、長きに渡り、偉大なる目的のために我等魔人族を導いて下さっていたのだ」

 

 

ソウジの疑問に対するマキアスの返答に、ハジメとソウジはつい憐れに思えてしまった。

迷宮の攻略者なら、この世界の神であるエヒトのクソ振りは知っている筈だ。例の住処にも手記のような書物があったから間違いない。口ぶりからして、最近になって知ったのだとしても、アルヴがエヒトの眷属と知ったなら普通は騙されたと激怒する筈だ。それが微塵もないということは……正常な判断が出来ないほど、フリードとマキアスは魅了されてしまったのだろう。

 

 

「ホント、どうして気づかないんだろうな」

 

「大方、少しずつ認識を変えられたんだろ。最初は敵対しているようなことをほざいてたし」

 

 

ハジメの小声の呟きに対し、同じく小声でソウジが返す。フリードは最初、アルヴと敵対する異教徒は滅びるべしと宣言していた。実際、“解放者”情報ではエヒトのことしか語られていなかったし、アルヴは名前すら出ていなかった。後に現れた、邪悪なる神たるエヒトを打倒せんとする“神”……その認識を抱いたとしても、何ら不思議ではない。

 

エヒトが自身に牙を向けかねない者を生み出す大迷宮に対して不干渉だったのは、フリードやマキアスのように、簡単に手込めに出来る算段があったからではないか。もしくは、その程度で自分が負ける筈がないという絶対の自信からか。

どちらにせよ、自身の遊戯を楽しむための刺激程度の認識に代わりないが。

 

 

「なにか言ったか?」

 

「いや、別に?」

 

「強いて言うなら、随分立派な魔王様だと褒めていたくらいだ」

 

「「…………」」

 

 

耳聡く気がついたフリードが尋ねたが、ハジメとソウジは軽口で煙に撒く。皮肉で返されたことに、フリードとマキアスは無言で苛立ちを露にしたが。

 

 

「ちょっと。ペチャクチャ喋ってないでさっさと済ませてよ。ボクは、早く光輝くんとあま~い時間を過ごしたいんだからさぁ」

 

「……もちろんだ」

 

「……分かっている」

 

 

中村が面倒そうに用事を済ませろと口にすると、フリードとマキアスは不機嫌な面持ちになりながらも、気を取り直すように襟元を正す。そして、再び口を開こうとしたところで、今度は谷口が声を上げた。

 

 

「恵里……その姿……」

 

「ん?この姿が気になるの、鈴?能天気のわりに―――」

 

「すっごく似合ってないよ」

 

 

その瞬間、ピシリッと空気が凍った。香織と八重樫は「え?そこなの!?」と視線でツッコミを入れ、ソウジ達は最初の言葉がそれかと半ば呆れ、天之河と坂上はどうしたらいいのかと視線を泳がせている。

そして、似合っていないと告げられた中村本人は……

 

 

「はあっ!?似合ってないってどういう意味かな!?」

 

「だって、違和感バリバリで微妙だし。最初に会ったら、鈴も利用していたことを謝るつもりだったのに、あまりにも不似合いだったからつい。それに、髪の色も灰色だから中途半端感が余計に……」

 

 

当然の反応と言うべきか、烈火の如く怒りを露にしていた。中村にとってはどうでもいい相手とはいえ、面と向かって似合わないと言われたのは相当頭に来たようだ。対する谷口は大迷宮を攻略したからなのか、妙にストレートな発言をかましている。微妙な見た目なのには思わず同意しそうだったが。

 

 

「おバカな鈴に何が分かるのかなぁ!?この新しい力は、ボクと光輝くんと二人だけで甘く生きるのを邪魔するクソッタレ共を簡単に掃除できる素晴らしい力なんだよ!こんな風にね!!」

 

 

中村は更に怒りを募らせながらそう叫ぶと、灰色の翼の羽を弾丸の如く谷口へと放つ。ピンポイントで迫る幾つもの灰羽を、谷口は瞬時に障壁を展開して防御態勢に入る。灰羽は谷口の展開した障壁を突破できずに受け止められるも、地面に命中した箇所は一瞬で分解してしまった。

 

 

「今のは、カオリンと同じ分解……?」

 

「まさか、香織みたいに……いえ、能力だけ付与されたの?」

 

 

中村がノイント達と同じ“分解”を使えた事実に、谷口と八重樫は驚きを禁じ得ない。何かしらの方法で肉体はそのままに、“真の神の使徒”の力を得た事実に……

 

 

「光輝のためだけにそこまで……何て、何て立派なの!恵里!!」

 

「雫ちゃん!?どうして褒めてるの!?」

 

 

八重樫は苦渋の表情で称賛した。その事実に香織が驚いてツッコミを入れるも、谷口がどこか生暖かい眼差しで香織の肩に手を置いた。

 

 

「カオリン……鏡見て言お?」

 

「鈴ちゃんまで!?」

 

「「…………」」

 

「光輝くん!?龍太郎くんも!?何で気まずそうに顔を背けてるの!?」

 

 

まさかの味方ゼロに香織はショックを受ける。実際、中村を否定すれば香織も同時に否定する事になるので称賛するしかないのだが。香織は経緯が経緯とはいえ、ノイントボディへの乗り換えに対し、中村は自らの身体を強化したのだ。むしろ、中村の方がマトモに見えるくらいだ。

その中村はと言うと、分解付与の攻撃が防がれたことで露骨に舌打ちしていた。

 

 

「……な~んで、平然と受け止められたのかな?これもそこの化け物二人の仕業なのかな?」

 

 

中村は忌々しそうにハジメとソウジを睨み付ける。強ち間違いではないが、厳密にはアップ・ザーゲの恩恵だ。

そのハジメとソウジは、既に相棒たる武器を構えて戦闘態勢だ。中村の対処は谷口たちに丸投げし、自分たちはフリードとマキアス、後ろの連中をぶっ殺そうと踏み出そうとした瞬間、両者の間に鏡のようなものが割って入った。

空間魔法“仙鏡”―――遠くに離れた場所の光景を空間に投影するだけの魔法だが、問題はその“仙境”に投影された光景だった。

 

 

「……クソが」

 

「……チッ」

 

 

その光景にハジメが汚い言葉を吐き、ソウジも苛立ちを露に盛大に舌打ちする。アタランテたちも苦虫を百匹は噛み潰したような表情になっている。何故なら、その映像には、赤黒い魔力光で包まれた檻の中に捕らわれた、王都に残ったクラスメイト達と愛子先生、リリアーナがいたからだ。その隣にある別の檻の中には、どこぞのヤンキーのように座っているアリアもいた。

 

 

「チッ、本物か……」

 

 

“導越の羅針盤”で愛子先生達の居場所を確認したハジメが忌々しそうに呟く。その言葉であれが偽物ではなく、紛れもない本物だと察したソウジ達は苦い表情となる。

 

 

「ほぅ、随分と面白い物を持っているな、白髪の少年」

 

「探査用のアーティファクト……にしては過剰な意味で不相応な力を感じるな。どちらにせよ、彼らの所在は確かめられたようだな?」

 

 

今までの鬱憤を晴らすかのように、たっぷりと優越感を乗せるフリードとマキアス。その態度にソウジはイラッとしながらも、問いかける。

 

 

「歌姫だけ随分と厳重だな。先生達には枷なんぞ付けてないのにな」

 

「「…………」」

 

 

ソウジの質問にフリードとマキアスは答えない。映像の中のアリアに大した外傷がなく、手足に魔力封じの枷をはめられており、檻を蹴る様子もなく大人しくしている。彼女の性格からして、徹底抗戦していてもおかしくないのだが……

ソウジはそこで彼女の両親が人質にされたのではないかと考え、ハジメの手から問答無用で羅針盤を引ったくり、リート夫妻の居場所を確認する。羅針盤が指し示す場所は帝国……彼女の両親が人質ではない。

 

 

「まさか……」

 

 

ソウジはそう呟くと同時に、羅針盤で探りを入れた瞬間―――

 

世界から、音が消えた。

 

そう錯覚させるほどに、常軌を逸した殺意がソウジから放たれたのだ。それも相応の強者の部類ゆえであり、それ以外―――魔物の大半は自己防衛からか意識をシャットアウトして地に落ちている。

ソウジは無言のまま、珍しく息を呑んでいるハジメに羅針盤を投げ返すと―――

 

三つの飛ぶ斬撃がフリード、マキアス、中村の首を掠めるように素通りしていった。本当は真っ二つにしたいところであったが、安全と万が一を考慮して()()に留めることにした。それくらいの理性は残しているつもりだ。

 

 

「……そういうことか」

 

 

羅針盤を投げ返されたハジメは、ソウジがここまで激怒する理由に行き着き、それが正解だと証明されたことで同様の怒りを露にしていた。ハジメも怒りを露にしたことで、アタランテ、ユエ、シア、ティオ、ジークリンデ、香織もその可能性に気付き、フィアは「もしや……」と呟き、剣呑に目を細めていく。

 

その理由―――“導越の羅針盤”によって示されたミュウとレミアの居場所がエリセンではなく、先程と同じ南大陸の一点だったからだ。つまり、フリード達はミュウとレミアを先に人質にして愛子先生達を捕らえたのだと容易に想像が着いた。アリアもミュウの姿は知らずとも存在自体は把握していたし、面識のあった永山たちがいたから、十分に有効だったのだろう。

もちろん、ミュウとレミアの安全のために打てる手は思い付く限り打っていたが……それらを全部掻い潜って誘拐できる人物は一人しかいない。

 

ハジメは鬼気レベルの殺意を込めて中村を睨み付ける。首筋に薄らとできた傷を押さえていた中村は、その殺意をぶつけられたことで呼吸を乱していく。

どちらにせよ、今取れる手は一つしかない。ソウジは鬼気レベルの殺意を放ったまま、未だ硬直するフリードとマキアスに向かって口を開いた。

 

 

「……いいだろう。招待は受けてやる」

 

「な、なに?」

 

「聞こえなかったのか?招待は受けてやると言ったんだ。分かったら、さっさと案内しろ」

 

「っ……ふん、最初からそう言えばいいのだ」

 

 

徐々に鬼気を収めていくソウジに、幾ばくか余裕を取り戻したフリードが嘲笑を浮かべる。その瞬間、ソウジから鬼気が再び放たれた。

 

 

「勘違いするな。あくまで招待を受けるだけだ。調子に乗ってあれこれ要求するなら……次は確実に首を飛ばすぞ」

 

「……正気か?僕たちに逆らえば、あの醜い魚モドキどもは―――」

 

 

従わないなら、ミュウとレミアに危害を加えると伝えようとしたマキアスに、ソウジは絶天空山に蒼い光を一瞬で宿して切っ先を向ける。その間に“真の神の使徒”の一体が割って入るも、ソウジは構わずに言葉を発する。

 

 

「まだ理解できていないのか?お前らの切ったカードは諸刃の剣だ。二人がいるからこそ、お前らの首は繋がったままなんだ。その事実を、精々胸に刻んでおけ」

 

「その時はお前らだけじゃない。魔人という種族そのものを滅ぼしてやる。だから……自分たちの立場を正確に把握しておけ」

 

「「―――っ」」

 

 

どこまでも強気なソウジと会話に加わったハジメの態度と物言いに、フリードとマキアスは思わず息を呑んで後退りしてしまう。自分たちが圧倒的優位な筈にも関わらず、その優位性を揺るがすような“何か”を感じ取ってしまったからだ。

もちろん、ハジメとソウジも余裕があるわけではない。ここまで用意周到に進めたということは、何が何でもユエの肉体を手に入れようとしているのは明白だ。保険を用意したとはいえ、それを全面的に頼りにするのは傲りと危険が過ぎる上、向こうがどんな策を用意しているかも分からない。

 

それに、ソウジにはもう一つ懸念事項がある。それは、あの映像の中に遠藤の姿が見えなかったことだ。

単に見つけられなかっただけか、運よく捕まっていないのか……少々気にはなるが、下手に指摘すれば状況が知らない内に悪化するだけだ。

 

ハジメは最初の羅針盤での確認でさすがに何処にいるのか把握しているだろうが……本当に把握しているのか、不安になる。何せ、影の薄さがカンストしている遠藤だから、羅針盤でも捕捉できなかった……というオチが本気であり得そうだからだ。

そんな脅しにフリードとマキアスは歯噛みしながらも、敬愛するアルヴ様からの指示は彼らの招待だけだったこともあり、二人の言外の要求を辛うじて呑み込むのだった。

 

 

 




「……なるほど。失敗作が関与していましたか」

「どちらにせよ関係ありません。もはやイレギュラー二人は私達の敵では―――」

~~~ソウジが鬼気を放ってから、三人に斬撃を飛ばした後~~~

(何で誰も動かなかったのですか!!)

(貴女だって動けなかったでしょう!!誰ですか!モブおじさんたる謎のアーティファクトがなければ、一対一でも勝てると告げたのは!!)

(あれは問答無用で分解すればいいだけです!!)

(それは失敗作のせいで不可能になっているとお忘れですか!?)

(失敗作の存在は今知ったばかりでしょう!?)

(こうなったな数の暴力です!!いざとなれば、数の暴力でイレギュラー二人を取り押さえましょう!!)

(((((((異議なし!!)))))))

ソウジの動きに反応できず、内心で余裕がなくなっている使徒達の図。
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