魔王の剣   作:厄介な猫さん

162 / 171
てな訳でどうぞ。


魔王は徹底的―――

フリードとマキアスが配下の魔物達を変成魔法で叩き起こし、ソウジたちは無言で見つめる中……

 

 

「光輝く~ん、化け物二人に睨まれた―――」

 

シュバッ

 

「恵里、どうして光輝くんのことがそんなに好きなの?」

 

「……光輝くん、これからボクと―――」

 

ズイッ

 

「恵里の“ボク”ってキャラ作りなの?だとしたら、その姿同様に似合ってないよ」

 

「…………久しぶりだから色々お話―――」

 

ニュッ

 

「鈴も恵里と色々話したいよ。そのために、ここまで来たんだから」

 

「本当に鬱陶しいよ!!」

 

 

意図的に無視しても全くめげることなく、ガッツリ間に入ってくる谷口に中村はついにキレ、おもいっきり叩こうとするも障壁ですんなり防御され、失敗に終わる。

中村と谷口に挟まれている形になっている天之河はどうしたものかと狼狽え、香織と八重樫、坂上の三人は逞しくなったとどこか悟った顔をしていた。どうやらソウジの魔改造レベルの鍛練と大迷宮攻略によって、谷口は見事に精神も成長したようである。その結果が空気を読まない割り込みだが。

 

 

(……ソウジ、本当に良かったのか?ミュウとレミアが人質にされているとはいえ)

 

(良くはないが他に手がない。空間移動の対策は間違いなく取っているだろうからな)

 

 

念話でちゃっかり会話しているソウジとアタランテは、現状の最悪さを改めて認識していた。

移動そのものはクリスタルキーと羅針盤があれば可能だ。だが、それだとどうしてもタイムラグが生じてしまい、空間魔法の存在を認知しているフリードたちがその隙を逃す筈がない。クラスメイトとアリアならスペックなどで抵抗できるだろうが、自力で抵抗できないミュウとレミアが人質である以上、万が一も考慮すれば敵の懐に潜るしか方法がない。

 

しかし、それはとてつもない綱渡りであることも理解している。ユエだけを招待しなかったのは、向こうもまだ確信を持てていないからだろうが、それでも万全の準備は施している筈だ。

 

 

「……さぁ、我等が主の元へ案内しよう」

 

 

どうやらフリードが空間魔法で魔王城へのゲートを開いたようだ。繋がった空間の向こう側は城の上階にある外部分のようだ。直通でない辺り、城内には転移防止の結界が張られているかもしれない。

 

 

「一応告げておくが……アルヴ様と謁見して早々に暴れようと思わないことだ。そのような愚かな真似をすれば、あの半端な生物共は物言わぬ骸になるぞ」

 

「「…………」」

 

 

マキアスの脅し同然の忠告に、ハジメとソウジは無言で睨み付ける。そんな二人の反応にマキアスはもちろん、フリードも嘲笑するように笑みを浮かべる。

完全にやり口が小物のそれだが、これ以上のやり取りは時間の無駄とハジメとソウジはゲートを潜ろうと……

 

 

「待て、お前たちが先に潜るな」

 

「潜るのは僕たちと使徒様たちだ。そこは絶対に譲らないぞ」

 

 

して、フリードとマキアスがこめかみに青筋を浮かべながら引き留め、そのまま先にゲートを潜って行った。

真の神の使徒達も次々とゲートを潜る中、その内の一体がハジメとソウジに向き直った。

 

 

「私の名は“アハト”と申します。貴方たち、イレギュラー二人とノイント、ノインツェーンの戦闘データは既に解析済みです。そこの失敗作が関与していようと、二度も我等に勝てるなどとは思わないことです」

 

 

まるで敵愾心、あるいは憎悪に似た何かを瞳に宿しながらそう告げるアハト。自分たちに負けたことが相当悔しかったような感じだが、一々汲み取る気は二人にない。

ハジメとソウジは、“宝物庫”の中の替えの効かないものはこっそりと土の中に置いていき、ゲートを潜って敵の本拠地へと足を踏み入れる。ゲート先であったテラスは学校の屋上くらいの大きさとあって、全員が足を踏み入れても余裕があった。と言っても、その大半は空を飛んでいるが。

 

そうして、フリードとマキアスの案内の下、ソウジたちは使徒十体に囲まれる形で謁見の間へと向かっていく。中村が天之河にベッタリとくっつき、谷口たちのことは完全に無視して色々話している。谷口は状況的に見守ることにしたのか無言で中村を見つめ、八重樫と坂上は警戒心たっぷりの眼差しを向けている。天之河は人質関係から無理に振りほどこうとせず、されるがままである。

 

そうして謁見の間へと辿り着く。逸る気持ちを抑えて空の玉座の傍へと近づくと、見た通りの光景が広がっていた。

ソウジたちの姿を確認したクラスメイト、愛子先生にリリアーナは驚いたように大きく息を呑み、アリアは半分予測できていたのかバツが悪い顔となった。

当然、ミュウとレミアもソウジたちの姿に驚き……

 

 

「パパぁ!お兄ちゃん!」

 

「あなた!!」

 

 

レミアの爆弾発言に全てを持って行かれた。ハジメの名を呼ぼうとした愛子先生とリリアーナがどこぞのコントの如くズッコケ、園部を始めとしたクラスメイトたちは「あなた!?」と先程とは別の意味で驚いている。アリアは探る目付きでハジメとソウジを睨んでいる。

 

 

「あなたって……!?まさか、南雲が人妻に手を出したってこと!?」

 

「不健全!不健全ですよ!南雲さん!!」

 

「人妻にまで手を出すなんて……南雲くん!後で先生からお話があります!!」

 

 

園部が意図せず大正解を当ててしまったことで、リリアーナと愛子先生が捕らわれの身であることも忘れてハジメを責め立てる。アリアはソウジの反応から、レミアの発言がハジメに対してと確信して引き下がったが。

ハジメは愛子先生とリリアーナの文句に耳を貸さず、ミュウとレミアに大丈夫だと話しかける中、ソウジはアリアに向かって話しかけた。

 

 

「随分と厳重だな、歌姫。何れだけ大暴れしたんだ?」

 

「へっ、決まってんだろ。魂魄魔法で土下座させた“ピー”共の頭蓋骨を陥没させるくらいだ」

 

 

素の口調でソウジに返したアリアに対し、ハジメハーレムズと勇者パーティーは「……誰?」と未確認生物に出会ったの如く目を見開いている。ハジメも思わずアリアの方に顔を向けてしまうくらいだ。

 

 

「いつの時代も、いいものだね。親子の絆というものは。もっとも、私の場合、姪と叔父という関係から来るものだけどね」

 

 

ハジメとミュウ、レミアのやり取りに対し、どこか懐かしむかのような声が玉座の背後から響く。玉座の背後の壁がスライドして開くと、そこから出てきたのは金髪に紅眼の美丈夫の男だった。

こいつが魔王……ソウジが目を細めてそう思っていると、ハジメの傍らにいるユエが愕然としたように声を震わせた。

 

 

「……う、そ……どう、して……」

 

「やぁ、久しぶりだね、アレーティア。相変わらず、君は小さく可愛らしい」

 

 

ユエをアレーティアと呼ぶ美丈夫の男。そして、ユエの動揺っぷり。ハジメとソウジはまさかと当たりを付ける中、それはユエの口から証明された。

 

 

「……叔父、さま……」

 

 

ユエのその呟きに、ソウジは表情に出さずとも内心で盛大に舌打ちした。あれが本当にユエのかつて叔父かどうかは別として、向こうが確信したのは間違いない。

 

 

“ハジメ”

 

“ああ、もちろんだ”

 

 

念話で短いやり取りをしてすぐ、二人は瞬時に得物を抜いて魔王に向けて構える。フリードとマキアス、アハトを始めとした神の使徒たちが二人を制圧しようと動こうとした瞬間、魔王が彼らに対して手を翳した。

途端、壊れた人形のようにその場に倒れるフリードたち。中村もついでに倒れたことに天之河たちが唖然とする中、その魔王は一つ息を吐くと金色の障壁を展開させた。

 

 

「盗聴と監視を誤魔化すための結界だよ。外にいる使徒達は、私が用意した別の声と光景しか見えない。だから、武器を収めて話を聞いてくれないかな?南雲ハジメ君に、空山ソウジ君」

 

「聞く必要があるのか?」

 

「ユエにあんな酷い仕打ちをしたのにか?」

 

「君たちの警戒心はもっともだ。だから、単刀直入に言おう。私、ガーランド魔王国の現魔王にして、元吸血鬼の国アヴァタール王国の宰相―――ディンリード・ガルディア・ウェスペリティリオ・アヴァタールは……神に反逆する者だ」

 

 

目の前の男は自身を“神に反逆する者”と威厳を以て発せられたが、ハジメとソウジは当然の如く信じていない。

 

 

“話、聞かず、斬る、?”

 

“今、様子、見。件、知らない、体、通す”

 

“了”

 

 

念話でのやり取りは盗聴される危険性が浮上したことから、密かに練習していた、指のタッピングによるやり取りに切り替える。例のスパイ道具の延長で練習したものだが、ユエたちの冷めた眼差しにもめげずに練習した介が本当にあった。

そのタッピングで問答無用で斬るかと問いかけるソウジに対し、ユエの動揺ぶりから強硬策は危険と判断したハジメが様子見すべきだと返す。ソウジも反対意見を出すことなく賛同するも、互いに得物は構えたままだ。

 

そのユエは今まで見たことないほどに興奮しており、叔父を名乗った男に感情任せに言葉をぶつけている。無理もない。自身を酷い目に合わせた男にがいきなり目の前に現れたのだ。動揺しない方がおかしい。

下手をすれば、致命的な情報を向こうに与えるかもしれないが……その時はその時でしかない。

 

叔父と名乗る男は自身が変成魔法と生成魔法を習得していたこと。適性が高かった変成魔法によって自身の寿命を引き延ばしたことで、今もこうして生きていると説明する。

ユエが“五天龍”を放ちながら厳しく色々と質問するも、祭壇に張られた結界に守られている叔父と名乗った男は一つ一つ返していく。

 

アルヴは確かにエヒトの眷属神だが、かつての彼女―――ヌルのように疑問を抱き、今は反逆の意思を抱いていると。

自分とアルヴはエヒトへの反逆の目的で結託し、この身体の中には二つの魂が宿っていると。

ユエを幽閉したのは、ハジメとソウジと同じ理由でエヒトに目を付けられ、反逆のための切り札として隠したのだと。

 

 

「アレーティア、共に神を打倒しよう。かつて外敵と背中合わせで戦ったように。君は昔より遥かに強くなり、これだけの神代魔法の使い手も揃っている。かつて、エヒト神の近くにいたヌルも一緒なら、きっと届くはずだ」

 

 

叔父と名乗った男は微笑みを浮かべてユエに近寄っていく。途中から攻撃の手を止めたユエは動揺しながらも自身の最愛―――ハジメに顔を向けた。

 

 

「……ハジメ」

 

「ああ。任せろ」

 

 

ユエの呼び掛けにハジメは頷くと―――

 

ドパンッ!

 

何の躊躇いもなく、ドンナーで()()()の眉間を撃ち抜いた。

 

 

「「「「「「「「……え?」」」」」」」」

 

 

予想外の光景に周りが困惑する中、ハジメはダメ押しとばかりにドンナー・シュラークをアルヴに向けて連続で放っていく。それに続くように、ソウジが絶天空山から放った斬撃で倒れている使徒達を次々と斬り飛ばしていく。

 

 

「…………」

 

「ソウジ?」

 

 

どこか難しい顔をするソウジに、ヤークトにつがえた魔力矢をフリードとマキアスに向けていたアタランテが問いかける。アタランテの問いかけに、ソウジは難しい顔のまま答えた。

 

 

「……斬った感触に妙な違和感があった。もしかしたら、偽物かもしれん」

 

「そうか。だが、念のために吹き飛ばしておこう」

 

 

アタランテはそう告げ、魔力矢をフリードとマキアスに放とうと……

 

 

「ちょっ!?いきなり何してるんですかぁ!?」

 

「いくら何でも謎すぎるよ!ハジメくん!!早く再生魔法を……」

 

「カオリン急いで!超急いでぇ!!」

 

「空山君も何で止めないの!?アタランテさんも当然の如く参加しないで!!」

 

「な、南雲……お前、ついにやらかしやがったな……!」

 

 

そこで漸く現実に復帰し、シアを筆頭に大慌てで止めに入った。ティオとジークリンデは唖然としていたが、すぐに違和感に気付いたのか、目を細めていく。フィアは微動だにせず、こう言う時に真っ先に騒ぐ天之河が何故か中村の前に立っている。

そんな大騒ぎする一同であったが、一番動揺すべきユエが何故か落ち着いていることに違和感を覚えた。

 

 

「……ハジメ、やっぱり」

 

「ああ。こいつは偽物だ。少なくとも、魂は一つの上に、蜘蛛の糸のように侵食しているかのような状態だ」

 

 

叔父と名乗る男を偽物と断言するハジメ。ユエも哀しげながらもどこか納得したような表情をしている。そんな困惑する彼らだったが、ソウジが放った言葉で疑惑は一気に吹き飛んだ。

 

 

「お前らもいい加減に気付け。あのクソが自身の存在に耐えられる肉体を欲していたのは知っているだろ」

 

「「「「「……あ」」」」」

 

 

そこでシアたちは、そう言えばそうだった!!と今さらになって思い出すと、アルヴの説明は穴だらけであることに気付く。

ユエの幽閉―――エヒトがユエの身体を狙っていたなら整合性は取れているが、神を打倒する戦力として隠したと言う、今の話では数々の矛盾点がある。なりより、ディンリードの行動は自身が死んだ後を視野に入れたものだ。存命して戦力を整えていたとするには、無理がありすぎる。

 

 

「そもそも……なにが“私の可愛いアレーティア”だぁ、ボケェ!!“俺の可愛いユエ”に、何我が物顔で近づこうとしてんだ!!粉微塵に吹き飛ばすぞ!!」

 

「ならオレも殺らせてもらうぞ。“オレのアタランテ”を何度も“ヌル”と呼びやがったからな!!」

 

「おう!汚物は徹底的に―――消毒だぁ!!」

 

 

ハジメは言葉(本音)アルヴ(汚物)に向かって告げると、“宝物庫”からメツェライとオルカンを取り出し、オルカンをソウジに渡すと自身はメツェライから容赦なく死の弾幕を放ち、新たに取り出した九機のクロスビットによる爆撃も追加される。ソウジも手渡されたオルカンからミサイルを放ちつつ、取り出した紅雪二十本を某種に出てくるド○グーンのように動かし、熱線を次々と放っていく。

まさかの嫉妬発言と過剰すぎる攻撃にシアたちは軽く引いているが、ユエとアタランテはイヤンイヤンと嬉しそうに身体をくねらせている。

 

ユエも叔父の登場に動揺していたが、憶測からの問いかけは一切しなかった。動揺しながらも、決断はハジメに全部任せて情報を引き抜くだけに留めていた。

……叔父の疑惑があった時点での会話の中、“五天龍”をしつこく放ったのは、怒りをある程度発散させ、頭を冷やす為だったのだろう。きっと。

 

 

「……嫉妬するハジメ、可愛い」

 

「ユエも辛い中、よく耐えたな」

 

「……ん」

 

 

ひとしきりアルヴをぶちのめしてスッキリしたのか、互いにイチャイチャし始めるハジメとユエ。ソウジとアタランテも無言で抱き締め合うから、桃色空間は相乗効果で広がっていく。

そんな四人の桃色空間に水を差すかのように、パチパチと拍手が鳴り響くのだった。

 

 

 




「……あの魔物、凄くマズイ。ドラゴンだからめっちゃヤバい」

「(パタパタ)」

「……え?毒で眠らせるの?あのドラゴン、全身氷なんだけど、効くの?」

「(ビシッ!)」

「魔石に染み込む毒だから、見つからなければ問題ない……?」

裏で魔物と共に頑張る○○卿の図。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。