てな訳でどうぞ。
激しい戦いが辺りで繰り広げられる中、既に“限界突破”を発動させたソウジは、次々と迫る神の使徒を斬り飛ばしていた。
「クソッ!無駄に数だけ揃えやがって!木偶人形共が!!」
使徒が振るう大剣ごと両断し、迫る魔法の嵐も紅雪も駆使して悉く無効化していくが、数の暴力のせいで思うように動けずにいる。ユエを閉じ込めている光の柱に“閃牙”や“蒼閃牙”、“龍咆”を隙を見て放っているが、どれも傷一つ付けられずにいた。
「コイツでどうだぁああああああああっ!!!」
その中で、フリーとなり“限界突破”を使用したハジメが遊びで作り、お蔵入りであったロマン武器“ドリルアーム”で壁の破壊にかかる。削岩用の形状をしたアザンチウム製のドリルは、ジェットスラスターモドキの加速も加わって大量の火花を散らしていく。
しかし、それも真横に展開されたゲートから放たれた“震天”によって中断を余儀なくされる。
「何でテメェが空間魔法を使える!?テメェは彼処にいなかっただろうが!!」
飛び退くことで逃れたハジメは、ゲートを展開していたマキアスに向かって当然の疑問を吼える。それに対し、マキアスは優越感をたっぷりと乗せた笑みで答えた。
「僕は変成魔法を様々なアプローチで使っていてね。その内の一つ―――“生物が持つ情報と知識の転写”でフリードの合意の下、空間魔法の知識の会得に成功したのさ。転写側の負担が大き過ぎるから、僕だけしか試していないけどね」
事実上の大迷宮攻略以外からの神代魔法の習得に、ハジメと会話を拾っていたソウジは忌々しそうに顔を歪める。しかし、幸か不幸か、神代魔法の習得者は未だ二人だけだ。自分たちの知らない神代魔法の使い手がいないだけ、まだマシかもしれない。
誰もが切迫する状況に焦る中、ユエが唐突に口を開いた。
「エヒトの名において命ずる―――“何もせず、動くな”」
その瞬間、ハジメとソウジ、アタランテ以外の戦いの動きが一斉に止まる。それだけではない。障壁も、幻影も、身体強化も、魔法も、自ら解いたように消え去ったのだ。
シアたちは不意の拘束―――アリアがやってのけた強制命令を受けたような感じだが、アルヴたちは勝敗は決したといった感じだ。そして、それをやってのけた張本人は……醜悪な雰囲気を纏っていた。
「ほぉ?我が“神言”が通用せぬとは……さすがはイレギュラーと我が肉体の元候補、といったところか?」
ユエ―――否、エヒトが興味深そうに呟くと、囲っていた白銀の光を消し去る。その瞬間、ソウジが動いた。
「“無崩”!」
ソウジは魂魄魔法の真髄の応用―――“望んだ対象を斬る”一閃でエヒトの魂
ギィイイイイインッ!!
振るわれた絶天空山がユエの身体をすり抜けたにも関わらず、甲高い金属音のような音が響き渡る。対するエヒトは……嘲るように笑っていた。
「ふむ。我だけを斬ろうとしたようだが……実に甘いな。神たる我に、そのような児戯が通じるとでも思ったか?“天灼の刃”、“四方の震天”」
エヒトは嘲笑するように告げると、グレンツェンを再度取り出したハジメの頭上に無数の雷の刃が出現し、ソウジの周囲の空間がグリャリと歪む。その瞬間、エヒトが放った魔法が牙を向いた。
あまりに早い展開速度に、ハジメは大盾を取り出し、ソウジは自身を囲うように四本の氷の大剣を形成、瞬時に“金剛”を付与して即席の盾にする。そして、互いに“金剛”を張って耐えようとしたが、魔法が炸裂した瞬間、今までとは比べものにならない威力が二人に襲いかかった。
「ハジメさん!」
「ソウジ様!」
盾が粉々に砕け散り、武器も破壊され、血を流しながら吹き飛んでいったハジメとソウジの姿に、シアと“竜化”が解けたジークリンデが悲痛な声を上げる。身体はまるで標本にでもなったかのようにピクリとも動かせず、駆けつけることもできない。
「“お前ら、う―――」
「エヒトの名において命ずる。“喋るな”」
「~~~ッ!?」
ならばとアリアが命令を上書きしようと声を上げようとするも、それより早くエヒトの“神言”によって声を封じられてしまう。
そんなエヒトに向け、アタランテが矢継ぎ早に魔法を乗せた矢を放っていた。
「やれやれ、随分と反抗的だな?八百年前と違い、創造主たる我に手を上げるとは―――“断絶の障壁”」
エヒトは呆れたように呟きながら、三つの障壁を展開する。一つは自身の正面へ、残りの二つはハジメとソウジを遮るように左右へと。
「創造主だと?私を失敗作と捨て、愉悦目的で意図的に生かしておきながら、今さら主人気取りか?相変わらず変わっていないな」
アタランテは不快感を隠すことなく、次々と魔法を乗せた矢を放っていく。炎に雷、超重力に空間爆破と多種多様な魔法が矢から解放されるも、正面の障壁はその悉くを遮っていく。
「我が作り出した人形だ。その我が好きにして、一体何の問題がある?やはり、感情を得たことで思考回路に致命的な欠陥が生じたか」
どこまでも自身の玩具としか見ないエヒトに、シアたちの不快感が募っていく。ハジメとソウジは目の前の障壁を破壊しようと攻撃を叩き込んでいくが、ユエを閉じ込めた光同様に傷一つ付く様子がない。
「しかし、とうの昔に活動を停止しているかと思っていたが、我から魔力が供給されていないにも拘わらず、今も尚問題なく活動できている上に、イレギュラー共と行動を共にしていたとはな。そして、偽装でもない身体能力の低下……なるほど、
エヒトが語った事実に、アタランテは思わず目を見開いて動きを止めてしまう。しかし、それもすぐに不敵な笑みへと変わった。
「そうだったのか。だとしたら行幸だな。私の固有魔法は、お前の支配から逃れられる力があると証明されたのだからな」
「何を勘違いしている?その程度で我を出し抜けると思っているのか?どうやら、知能まで犠牲にしたようだな」
「私が勘違いしているなら、それは貴様譲りだろう。不愉快極まりないがな」
「本当に口が減らなくなったな。人間でいうところの“親”である我に、そんな口を聞いていいのか?」
「貴様のような親など、死んでもゴメンだ。貴様に唯一感謝することがあるとすれば、ソウジと出会えたことだ」
「イレギュラーの一人に相当肩入れしているな。あのイレギュラーも、お前のことが大層お気に入りのようだしな。フム……」
その瞬間、エヒトは醜悪な笑みを浮かべる。まるで面白い余興を思い付いたかのように。
「お前たちは我の“神言”をはね除けた程度で希望を見出だしているかもしれぬが、あの程度が我の本気と思ったか?」
「……どういう意味だ?」
アタランテの問い掛けに、エヒトは歪な笑みと共に告げた。
「エヒトルジュエの名において命ずる。“ヌルよ、全機能を
その瞬間、アタランテの瞳から光が消え、翠翼を散らしながら地面へと落下していく。魔法も全て霧散し、まるで糸が切れる、もしくは壊れた人形のように動かなくなったアタランテにが床に落ち、正面の障壁を消したエヒトが嘲笑するようにアタランテへと近寄っていく。
「お前の肉体は我が作り出したものだ。我がその気になれば、こうして機能を容易く停止させられる。自我が芽生えようと、魂なき人形が機能をすべて停止させた今、お前の自我はもはやどこにも存在しない。いや、ただの肉塊に言っても無駄か」
エヒトが馬鹿にするように語りながらアタランテの顔を踏みつけ、道端の石ころのように蹴り飛ばす。その瞬間、右の障壁が轟音と共に破壊され、その破壊の元凶たる斬撃が左の障壁も同様に粉砕させた。
「ほぉ?自力で我が障壁を破壊したか。イレギュラーは常に予想外のことをしてくれる」
どこまでも余裕を崩さない―――いや、まるで目論見通りだと暗に告げるエヒトが視線を向ける先には、異質なまでの殺気と殺意を放つ、目が虚ろとなったソウジがいた。手に握る絶天空山は半ばで折れているが、どこかドス黒さを感じさせる蒼い魔力を纏っており、尋常ではない雰囲気を放っている。誰がどう見ても、今のソウジは明らかに普通ではなかった。
「…………」
ソウジは無言の能面のまま―――エヒトに向け、一切の躊躇も躊躇いもなく、
「“五天龍”」
エヒトはユエの魔法―――“五天龍”を本人の数十倍の威力と規模でソウジに向かって放つも、五つの龍はその斬撃にあっさり斬り飛ばされ、そのままエヒトを滅ぼさんと迫っていく。
エヒトは軽く動いて躱すも、その範囲にいた使徒と魔物、魔人族たちはその一太刀で血飛沫を上げて絶命してしまう。その凶悪な斬撃を前にしても、エヒトは余裕を崩さなかった。
「中々に凶悪だな。この肉体の主ごと葬ることも厭わない、
エヒトはそう言って、もう一人のイレギュラー―――ハジメへと顔を向ける。そのハジメは額とこめかみに青筋をくっきりと浮かべ、射殺さんばかりにエヒトを睨み付けていた。
「テメェ……!」
この一連の流れで、ハジメはエヒトの狙いに気付いていた。エヒトは意図的にソウジを怒らせ、ユエの肉体を盾に自分たちを戦わせようとしていることに。
「我を睨む暇があるのか?早くあのイレギュラーを止めねば、お前の最愛が殺されるぞ?」
エヒトが嫌味たらしくそう告げる間にも、ソウジはゆったりとした動作で折れた刀を振り上げている。再びあの斬撃を放つと察したハジメは、業腹ではあったがソウジを止めに入った。
「待てソウジ!本気でユエごと殺すつもりか!?」
ハジメの問い掛けに対し―――
「…………」
ソウジは、無言。否、あの斬撃をハジメに飛ばしてきた。微塵の躊躇もなく、自身の邪魔する敵を殺さんとせん斬撃。その斬撃を辛うじて避けたハジメは、殺気を放ってソウジを睨み付ける。
―――邪魔する敵は、殺す
完全に憎悪と殺意に呑まれ、瞳でそう告げてくるソウジ。正常な判断すら出来なくなっていると悟ったハジメは、覚悟を決めた。
「……上等だ。ユエを殺そうってんなら、いくらお前でも容赦しないぞ」
ハジメはドンナー・シュラークを構え、ソウジの手足に向けて全力のレールガンを放つ。それに対し、ソウジは虚無の瞳のまま、絶天空山の鞘でその全てを弾き飛ばす。
「うぉわっ!?」
軌道が変わったレールガンが通過、もしくは貫通するも、ソウジは全く意に介さずにハジメに滅殺の斬撃を飛ばす。もちろんその斬撃を食らうつもりは毛頭ないハジメは躱し、全てのクロスビットの銃口をソウジに向ける。だが、クロスビットは火を吹くよりも早く、ソウジによって全て両断された。
「空山君!」
「「ソウジ様!」」
八重樫にジークリンデ、フィアが静止の意味合いでソウジに呼び掛けるも、ソウジは彼女たちに一瞥もしない。エヒトによって喋れなくされているアリアも視線で訴えかけているが、当然の如く見向きもしなかった。
「ガン無視かよ。周りが見えなさすぎだ、馬鹿野郎」
ハジメは両断されて爆発したクロスビットを目眩ましに、オルカンからロケットランチャーを放つ。しかし、それも悉く斬られることで空中で爆発し、本命のポーラと円月輪も顔を覗かせた瞬間に真っ二つに両断されてしまう。その状況でも、ハジメは冷静にソウジを分析していた。
(オールレンジ兵器の紅雪を一切使ってこねぇ……待機状態でもなく床に散らばっている辺り、思考自体が狭まっているのか?)
自分よりも脳の処理能力が上のソウジが紅雪を微塵も使ってこないことから、今のソウジは
そう思考している間に、ロケットランチャーにポーラ、円月輪を全て斬り飛ばしたソウジが急接近。その殺意が乗った刃をハジメに向けて振り下ろす。
反応が遅れたハジメは咄嗟に集中強化した“金剛”を使い、義手で受け止めつつ下がろうとするも……
「がぁあああああああああああああっ!?」
その防御も義手も紙の如く容易く斬り裂き、ハジメの身体に容赦なく斬線を刻み込んだ。
「ハジメさん!!」
「ハジメくん!!」
「ご主人様!!」
明らかに尋常ではない悲鳴を上げるハジメの姿に、シア、香織、ティオが焦燥を露にするも、エヒトの“神言”から抜け出せない為、駆け寄ることも、助けに向かうこともできない。
そして、その斬撃を受けたハジメはと言うと、今にも飛びそうな意識を必死に保っていた。
(クソ……!薄々分かっていたが、こいつはただの斬撃じゃない……概念魔法―――間違いなく“敵を必ず殺す”という概念が籠った、滅殺の斬撃だ。でなきゃ、かすっただけでこうなる筈がねぇ)
ハジメは僅かでも逃れる為に義手を盾にしただけで、馬鹿正直に受け止めるつもりはなかった。実際、義手を盾にして下がらなければ、かすり傷程度では済まなかっただろう。にも拘わらず、かすり傷程度で派手に血が噴き出し、意識まで飛びかけているのだから、マトモに食らえば確実に死ぬのが容易に想像できた。
そんな蹲るハジメに、祭壇に腰掛けていたエヒトが愉悦に
「どうした、イレギュラーよ。その程度で根を上げて終わりか?ここで貴様が終われば、お前の愛しいこやつがアレに殺されるのだぞ?それが嫌なら、早くアレを止めてみせよ」
いけしゃあしゃあとそんな事を言ってのけるエヒトに、“神言”で動けない者たちは怒りを露に睨み付けるも、その元凶は微塵にも気を止めない。アルヴにフリード、マキアスに中村もこの光景を愉快そうに見守っているから、余計に腹立たしく感じられる。
「―――クソガァアアアアアアアアアアッ!!!」
相手の掌の上で踊らされている屈辱と、それでもユエを守るという強い意思から、ハジメは“限界突破”の最終派生“覇潰”に目覚める。ステータスが更に上昇したハジメは、その不意討ちを持ってソウジの顔面を殴り飛ばす。
視線がエヒトに向いていたことと、急激に上昇したステータスから僅かに反応が遅れ、ソウジはその拳をマトモに受けて盛大に壁へと激突する。
轟音と共に舞い上がる土煙。一瞬の静寂が訪れるも、その土煙を掻き分けるように、幽鬼のようにソウジが血を流しながら姿を現す。バンダナが外れ、左目の魔眼石が露となっているが、右の瞳は変わらず虚ろなままだ。
“豪腕”に“魔衝波”、“縮地”による加速も加わった全力の一撃にも拘わらず、ソウジは気絶どころか正気にすら戻らなかった。
―――コロス
先程よりも色濃く、ねっとりとした殺意がハジメに向けられると同時に、ソウジの姿が消える。ハジメは本能的に横へと跳び跳ねるも、そんな回避は無意味と言わんばかりに、光速の余波がハジメの左肩を斬り裂いた。
「ァアアアアアアアアアアアッ!!!」
再度、魂が斬り刻まれるかのように駆け抜ける激痛。一度ならず二度も食らってしまったハジメは、そのまま吹き飛ばされてしまい、無様に地面を転がっていく。
その凶悪な一撃を重皇突の動きで放ったソウジは、巻き込まれる形で壁のシミ同然で絶命した使徒と魔物に構うことなく、さらに刀身がボロボロとなった絶天空山を引き抜き、起き上がれずにいるハジメへと近寄っていく。
ハジメは起き上がれないながらも、“宝物庫”から安全ピンを置いてくる形で手榴弾をいくつもソウジの周りに取り出し、容赦なく爆破の嵐を食らわせる。
そんな爆発を防御もせずにマトモに受けたソウジはボロボロになりながらも、虚ろな瞳を変えることなかった。逆にますます殺意が高まっていき、ボロボロの絶天空山を振りかぶるように構えていく。
ハジメが殺される―――皆の脳裏に最悪な光景が描かれる中、そのソウジを後ろから羽交い締めにした人物がいた。
「空山!あんた、本気で南雲を殺すつもりなの!?」
「―――園部!?」
ソウジを羽交い締めにした人物―――園部優香にハジメは驚きを隠せずに声を上げる。実は、エヒトの“神言”は
しかし、ハジメが殺されかねず、香織たちも動けないという状況が、園部を無謀とも呼べる行動を取らせることとなった。そして、その代償はすぐに支払わされることとなる。
―――オマエモ、テキカ
「―――ッ」
濃密な殺意を向けられ、園部は恐怖から身体を硬直させてしまう。直後、園部の脇腹にソウジの肘打ちが炸裂した。
「―――カハッ!」
尋常ではない衝撃を受け、凄まじい痛みと共に園部はその場に蹲り、口から血を吐き出す。ソウジは無表情に、そんな園部を殺そうと―――
「うぅおおおおおおおおっ!!」
して、またしても邪魔が入り、今度はタックルによって中断させられる。そのタックルを仕掛けた人物は……
「「「「「「「遠藤(くん)!?」」」」」」」
まさかの遠藤だった。どこにいたのか、いつからいたのか、様々な疑問が沸き上がる一同。そんな彼らの前で、遠藤は微動だにしなかったソウジに掴み上げられていた。
「ぐっ……ぅ……」
そして、背負い投げをするように背中から叩きつけられ、遠藤は床を陥没させて沈められる。まるで全身の骨が折れたかのような衝撃に遠藤は意識が飛びかけるも、それでも気力を振り絞り、木の蔓が巻き付いた左手でソウジの左足を掴む。
ソウジは能面の表情のまま遠藤の手を蹴り払うと、確実に息の根を止めようと絶天空山を振り上げようとする。
しかし、それはまたしても止められてしまう。それを止めたのは―――この中で一番幼いミュウであった。
「身体だけじゃなく、魔法も使えないだなんて……」
「こんなもの、気合いでぇぇぇ……!!」
「ハジメニウムの補充でぇぇぇ……!!」
「先生たちよ!妾を痛ぶってくれ!!その痛みを利用して……!!」
「……エヒトルジュエの名において命ずる。“力むな”、“嗅ぐな”、“感じるな”」
「「「!?」」」
“神言”からの脱出に失敗するシア、香織、ティオの図。