魔王の剣   作:厄介な猫さん

169 / 171
てな訳でどうぞ。


オルクスの一時

工房の一室でハジメ、ソウジ、香織は時間がないという問題の解消に取り掛かっている。何せ、大侵攻は四日後。全員にハジメ製アーティファクトを装備させるだけでなく、大規模殲滅兵器も多数製造するのだ。その為、数日で万全を期すには時間の確保は必須だった。

 

 

「じゃ、さっきと同じく頼むぞ。ソウジ、香織」

 

 

ハジメの言葉にソウジは頷くと昇華魔法を香織に向かって発動。真髄に近づいたことで強化能力が上がったソウジの昇華魔法は、香織の全情報を数段階で引き上げる。

 

 

「“刹破”」

 

 

ソウジのアシストで熟練度も含めて一時的に強化された香織は、時間を引き伸ばす再生魔法“刹破”を使う。元より適性が高く、使徒スペックの香織の再生魔法は周囲の時に干渉し始め、時の流れを緩やかにしていく。それをハジメが生成魔法によって部屋の中央に用意した水晶柱へと付与していく。

 

少しして、香織の“刹破”は無事に水晶柱へと付与され、“アワークリスタル(仮)”が完成した。

このアワークリスタル(仮)は工房内限定ではあるが、時間を引き伸ばすことができるのだ。十五倍に引き伸ばした為、工房内の一時間は外では四分ほどとなる。つまり、外での一時間は十五時間、一日が十五日となる。これでアーティファクトの大量生産の時間問題が大分解消されたのである。

 

もちろん、ユエとアタランテがいる部屋にもアワークリスタル(仮)は設置済みだ。これで調整時間が短縮され、終わり次第ハジメのサポートに回ることができる。労働を強いるブラック企業や締め切りに迫られる作家さんには、喉から手が出るほど欲しいアーティファクトだ。

 

 

「これは本当に便利だな。ハジメ、今から外に大きめの部屋を作ってから、同じのを設置してくれないか?」

 

「……さすがに厳しいな。サイズや強度、材質を加味すると数時間はかかるな。効果の方も薄まるだろうし、今の路線で通した方がいいだろ」

 

「そうか。同じ方法が使えれば、万々歳だったんだが」

 

 

鍛練目的のアワークリスタル(仮)部屋の追加要求を、ハジメは様々な観点から現実的ではないと言って断りを入れる。ソウジも元々出来れば儲けもの程度に留めていたので、すんなりと引き下がる。今あるアワークリスタル(仮)部屋の有効活用法を考えつつ。

 

 

「じゃあ、早速始めるぞ。場合によってはお前を呼ぶから気に止めておいてくれ」

 

「ああ」

 

 

ソウジはハジメにそう返すと、香織と共に工房の外へと出る。香織はハジメのサポートに、ソウジは園部と遠藤の鍛え上げに回る。そして、ハジメは錬成師の技能をフルに使って、アーティファクトの大量生産を始めるのであった。

 

 


 

 

「あ~、結構疲れたな。ここでリフレッシュしたら、再開するけどな」

 

「本当にお疲れだな。この中じゃ一番働いているから当然だろうが」

 

「……空山もだけど、南雲は本当に何でもアリだよな」

 

 

大浴場で湯船でくつろぐハジメとソウジに、全身筋肉痛になりかけた遠藤はボソリと呟く。その筋肉痛も香織の治癒魔法で解消されたが。そして、遠藤は現在進行形で感じている疑問を二人に投げ掛けた。

 

 

「後さ、何で水着着用なの?風呂に水着着用って、少しおかしくないか?」

 

 

そう。遠藤だけでなく、ハジメとソウジも水着着用なのだ。風呂に入るのに何故水着着用なのか、その遠藤の疑問はすぐに解消された。

 

 

「遠藤、例え男女に分けてもユエは当然のように入ってくる。その瞬間、お前は俺から目潰しの洗礼を受けることになる」

 

「酷くない!?俺、何もしてないのに!?」

 

「それが嫌ならボッチ風呂にするか?アタランテたちも入ってくるだろうから、オレもお前にハジメと同じ対応をせざぬを得ないからな」

 

「一人寂しくはさすがに嫌だろ?だから水着着用にしたんだ。もちろん、エロい目で見たら目潰しだ」

 

「……素直に喜べない」

 

 

一人寂しく風呂に入る哀しさを想像してか、それとも隣合わせの理不尽からか、遠藤は落ち込むように湯船へと沈んでいく。脱衣場の方が少々騒がしいが、いつもの事だろうとハジメとソウジはスルーしていく。ちなみにアバドンもお湯が入った桶の中で寛いでいる。

少しして、女性陣が大浴場へと足を踏み入れた。

 

 

「――――」

 

「……は?」

 

 

大浴場に入ってきたメンバーを前に、ハジメは時が止まったように動きが止まり、ソウジは理解が追い付つかずにマヌケな表情となる。

アタランテは分かる。ミュウは分かる。フィアも分かる。香織とレミアも、その二人の陰に隠れている園部も分かる。しかし、見事なプロモーションの金髪の大人の女性は誰なのか。ソウジはその女性に誰かの面影が……

 

 

「ぐぁあああっ!?」

 

「目が、目がぁあああああっ!?」

 

 

その瞬間、ソウジの右目に激痛が走り、魔眼石にも同様の痛みが走って視界が封じられる。遠藤も同様に叫ぶ辺り、同じ目潰しの洗礼を受けたようである。

突然の目潰しであったが、下手人が誰なのかは容易に想像がつく。ソウジは痛みを堪えるように目を覆いながら、その下手人に対して問い質した。

 

 

「ハジメ!何故急に目潰しをした!?」

 

「……大人なユエをマジマジと見たお前らが悪い」

 

 

ハジメのその返答に、ソウジと遠藤は二重の意味で驚く。あの大人の金髪女性がユエであったこともそうだが、ユエが大人の姿になったことにもだ。

ユエの容姿は固有魔法の“再生”の弊害から、幼さが残る少女の姿で止まってしまっている。そのユエがどうやって大人の姿になったのかと疑問に思っていると、その答えはユエ本人からもたらされた。

 

 

「……ヤツから奪った知識と変成魔法で肉体を成長させた」

 

「ユエが大人の姿になった時、大騒ぎだったもん。大人の魅力がこう……」

 

 

香織の背後に薄らと般若さんが顔を出しているが、視界が一時的に麻痺したソウジと遠藤は気付けない。最も、般若さんに怯えを見せたのは園部くらいで、レミアは困ったように笑みを浮かべ、残りはいつも通りだったが。

 

 

「……念のために聞くが、水着は着てるよな?」

 

「……ん。優花が煩いから、仕方なく」

 

「私のせい!?」

 

 

不当なユエの言い分に園部が反応するが、ハジメスキーのユエ様には通用しない。むしろ、隙あらば水着を脱ぎ捨ててハジメを誘惑するだろう。そこは香織がニコニコ顔で牽制を掛けてるので、大乱闘に発展する心配はないだろう。

 

 

「その大人モードは、ハジメと楽しむだけのものなのか?」

 

「無論それだけじゃない。強力な自己強力魔法の負荷の軽減も兼ねている」

 

 

第一目標がハジメとのお楽しみでありつつも、それ以外の用法もあるようだ。その辺りは信用していいだろう。

 

 

「大丈夫か、ソウジ?」

 

「ああ。もう少ししたら見えるようになる。予想外の災難だった」

 

 

そんな一悶着がありつつも、回復目的で誰もがゆったりとする中、遠藤はふと浮上した疑問を口にした。

 

 

「そういえば、南雲と空山って何時から仲良くなったんだ?」

 

 

遠藤のその疑問に、香織と園部がそう言えばと確かにと、同意するようにハジメとソウジを見やる。アタランテたちも興味があると言いたげに視線を向ける中、口火を切ったのはソウジだった。

 

 

「中学の時だな。きっかけはハジメがゲームの店舗特典狙いで書店に来た時だな」

 

「そうそう。そのゲームの店舗特典……アクリルスタンドやファンブック、書き下ろしポスター目的で買いに行ったら、その店でソウジが働いていたんだからな。そこから色々話すようになったな」

 

「ああ、限定品欲しさに店舗に足を運んだパターンなのか。限定品って、謎の魅力があるんだよな」

 

 

何ともらしい二人の出会いに、香織と園部は苦笑する。その辺りの知識が薄いユエたちも、遠藤の呟きで理解したようで、香織たち同様に苦笑している。

 

 

「で、その関係は高校に入っても続いたな。同じ高校だったのは悪くないと思ったし、平穏ながらも新しい生活を期待したもんだ。……その平穏な生活は一気に遠ざかったけど。主に香織によって」

 

「だな。香織が何度も俺に話しかけてきたから、色々と大変にはなったな。当時は本当に何で話しかけるのか疑問だったし、書店でもある時からしょっちゅう顔を合わせる羽目になったし」

 

「そっちはオレが原因だな。オレがお前が買いそうな漫画やゲームの発売日を教えて、エンカウントしやすくしたんだ」

 

「あれはお前のせいだったのか!」

 

 

ソウジのまさかの行いに、ハジメがこめかみに青筋を浮かべながら睨み付ける。あれで購入の心理的ハードルが上がったハジメとしては、今すぐ殴り飛ばしたい気分だったからだ。もちろん、ソウジにも言い分はある。

 

 

「だって、オタク勉強目的で18禁コーナーに突撃したんだぞ?本当の理由も理由だから、鉢合わせしやすくした方がずっといいと当時は考えたんだよ」

 

「……まさか、八重樫も一緒だったのか?」

 

「ああ。当時巻き込まれた八重樫は、この世の終わりみたいな顔をしたぞ」

 

 

その瞬間、八重樫への同情が場を支配した。親友が18禁コーナーに突撃し、クラスメイトにそれを目撃されたら堪ったものではないだろう。本当に苦労人は昔から苦労人のようである。

 

 

「ま、それも毎回偶然と香織が言い張るから、進展はゼロだったけど」

 

「……香織はムッツリスケベの負けヒロイン」

 

「違うもん!あれはオタク文化の勉強のために買いに行っただけだもん!!それと、まだ負けてないから!!」

 

「……お膳立てされたにも関わらず、ハジメの心を射抜けなかった時点でヘタレの負け犬」

 

「ムキィーッ!!」

 

 

ユエと香織がギャーギャー騒いでいるが、ソウジは構わず話を続けていく。実際、ユエが言った通り、お膳立てされたチャンスを活かせなかった時点でヘタレだろう。

 

 

「ちなみに、そこで香織がハジメに淡い恋心を抱いていると確信したな。元々、世話好きからじゃないと気付いてたし」

 

「あら、そうなのですか?今のお話では、以前から気付く要素がなさそうなのですが」

 

 

レミアが当然の疑問を口にし、ミュウと園部、遠藤も同意するように頷く。それはハジメも同じだったようで、視線で訴えかけている。ソウジは肩を竦めつつ、その理由を話し出した。

 

 

「もちろん、オレも最初は厚意からだと思ってたさ。何せ、入学当時から話題になっていたし、当初は無縁とも思っていたしな。ところが蓋を開ければ、香織がハジメに積極的に話しかけて来たんだ。ハジメも初対面だとも言ってたし、どこにも接点がなかったからな」

 

「確かにそうよね。プライベートでも積極的に話しかける光景を見てなかったら、普通は厚意と思うよね。理由は不明だったけど」

 

 

香織が厚意ではなく、好意で話しかけていたと気付いていた一人である園部が同意するように頷く。

実際は香織が一方的に知っていたのだが、そんな事は当時は八重樫以外、誰も知る由もなかった。加えて、ハジメの学校での態度は不真面目そのもの。授業中は寝てばかりの上、指摘されても基本は笑って誤魔化しているのだ。故に、ハジメを心配して話しかけていると誰もが考えるのは当然だった。

 

 

「けど、香織の反応を見ている内に厚意からとは次第に思えなくなったんだ。終始適当な対応をされたら、普通は諦めたり見切りを付け始めるのに、香織からはそういった反応が一切なかった。むしろ、会話の糸口を探っているように見え始めたんだ。少し脱線すれば、あの阿呆のヤバさに気付いたのはそれがキッカケだったな」

 

「阿呆……子供のように周りに散々迷惑をかけた挙げ句、カップに水を入れるかの如く簡単に洗脳された、名前ばかりのなんちゃって勇者様のことですか?」

 

「ああ。アイツがオレにハジメの不真面目さに文句を言ってきてな。そこで香織のことも引き合いに出したから、逆に聞いたんだ。香織が困っているとお前に相談したのかって。そしたらアイツ、何て言ったと思う?『そんなこと、聞かなくても分かる。俺は香織の幼馴染みだからな』だぞ。確認もせず、さも当然のように断言するから、思わず耳を疑ったくらいだ」

 

「みゅ~……ちゃんとお話しないとダメなのがよくわかるの」

 

 

ミュウのその言葉に、周りがその通りだと深く頷く。香織本人でさえ、困ったように笑みを浮かべる始末だ。普通は気になって問い掛けるのに、思い込みによる自己完結……それも謎の自信からだから、呆れられるのは当然だった。

 

このやり取りにより、天之河に物事を自分の都合の良いように解釈する悪癖があることにソウジは気付いた。それをやんわりと指摘すると、訳も分からないのに論点をすり替えるという、無自覚さまで露見させたのだから手に負えない。

 

 

「それからもオレに筋違いの進言をしていたし、オレの軽口程度の発言からハジメに辟易していると解釈するし……善意一色だったから、本当にうんざりしたな。八重樫との友人関係もその辺りから始まったし」

 

「八重樫との関係はそれが始まりだったのか。後、下手したらお前も天之河から前々から嫌われてそうだな」

 

「そうだ、じゃなく奥底では嫌ってただろ。でなきゃ、致命的な一線を越えるレベルでオレを殺そうと暴走しないだろ。オレも人のことは言えないけど」

 

「お前のあの暴走は、突然目覚めた技能による弊害が大きかったしノーカンだろ。あの阿呆とは根本から違う」

 

 

大切と宣いながら、その大切を傷つける。自身の行動の矛盾を全部相手が悪いと決めつけ、その責を背負おうとしない。そんな行動を、()()憎悪から起こすとは考えにくかったからだ。

 

ソウジは魔王城の暴走からあまり強く言えないと自虐するも、一番被害を受けたハジメがフォローする。実際、ソウジの暴走はミュウとハジメの言葉で止まったので、八重樫の言葉でさえ止まらなかった天之河とは大違いだろう。

 

 

「大分話が脱線したが、そんなカースト上位と下位だから、風当たりがキツくなったな。ハジメは申し訳なさそうにしてたけど、友人関係は続けてたしな」

 

「……その状況で、よく南雲と接せたよな。普通、巻き添えになりたくないと距離を置きそうなのに」

 

「ハジメ自身が人様に迷惑かけてないのに距離を取るとか、おかしいだろ。多少は改善して欲しいと思ったが、それとこれとは別問題だしな」

 

 

遠藤の呟きにソウジがさも当然のように返すと、誰もが呆れたような笑みを浮かべる。その笑みを向けられたソウジは、何かを誤魔化すように咳払いした。

 

 

「ま、ハジメとの関わり合いは大体こんな感じだな。ハジメも当初からスライムメンタルだったし、今じゃメタ○スライムメンタルだな」

 

「おい、メタ○スライムメンタルってなんだ?妙な造語を作るな」

 

「鋼メンタルにしなかったのは、性格の豹変からだ。スライムなら、ボヨンと弾けてノーダメ同然だからな」

 

 

その光景を想像してか、何名かからブフッ!と笑い声が洩れる。その瞬間、ハジメが勢いよく湯船から立ち上がった。

 

 

「よし、ソウジ。今から外で殴り合うぞ。その認識をこの拳で是正してやる」

 

「この程度でキレるなよ。無駄に体力を使うなよ」

 

「そうかそうか……ツンデレのソウジくんは俺に負けるのが怖いのか」

 

「オーケー。お望み通り買ってやる。遠藤、お前が立会人をしろ」

 

「ええ!?」

 

 

ハジメとソウジは互いに睨み合いながら、湯船から出て脱衣場へと向かっていく。ズルズルと遠藤を引き摺って。

そして、いつもの服に着替え終え、外の広場に出たハジメとソウジは……

 

 

「くたばれやオラァ!!」

 

「それはこっちの台詞だゴラァ!!」

 

 

割と全力の組手に興じていた。強引に連れて来られた遠藤は、ポツンと膝を折って座っている。見る人が見れば、圧倒的なボッチである。

 

 

「……俺、ここにいる意味があるのかな?」

 

ポンポン

 

 

そんな遠藤を、一緒に着いてきたアバドンが慰めるように叩くのであった。

 

 

 




「……ところで優花。ハジメのことをどう思ってる?」

「へ!?べ、別に南雲のことなんて、何とも思ってないし!!」

「そのわりには、顔が真っ赤だがな」

「これは俗に言う“ツンデレ”ですね。それも素直になれず、拗らせるタイプの」

「確かにこれはツンデレだね。ソウジくんや雫ちゃんとはまた違った……」

「アンタら~~……!!」

ヒュヒュヒュヒュンッ

「と、頭皮スレスレ……」

「まさか幻影を見破られるとは……私もまだまだですね」

「……流石ソウジだ。短時間でここまで鍛え上げたからな」

「今のはたぶん、違うんじゃないかな……?」

羞恥パワーで、氷の短剣の瞬間形成と精密な同時投げを成し遂げた園部の図。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。