てな訳でどうぞ。
「……このサングラス、マジで凄いな。周りがスローモーションにぃいいいいいっ!?」
「その程度で慢心するな!お前の動きも同様にスローモーションになっているんだからな!!常に不測を頭の隅に入れ、最小限の動きで避けるよう意識しろ!回避と防御は、時として最大の攻撃への足掛かりとなるからな!!」
稲妻の如く振われる星天空山を間一髪で躱した遠藤に、ソウジは厳しく指摘しながら装備の慣らしを続けていく。本当に慣らしの模擬戦なのか疑わしくなるレベルだが。
「空山!マジで刀を振るってるよな!?致命傷レベルで振るっているよな!?斬られたら俺、死ぬんだけど!?模擬戦なのに、死が間近に迫ってるんだけど!?」
「そこも問題ない!再生魔法の応用で、斬ると同時に再生するようになっている!だから、幾ら斬られても肉体は一切傷つかず問題はない!!」
「痛みがガッツリ残るだろ!それ!!」
「当然だ!“喰らっても問題ない”などと無意識の弛みを抱かせない為の措置だ!痛いのが嫌なら、気を抜かずに挑め!!」
「分かったよ!コンチクショウ!!」
一刀だけとはいえ、一切の躊躇なく放たれる斬閃を遠藤は小太刀も駆使して涙目で躱し捌いていく。モイツレヴィッヒ・ギフトから木製の矢が三矢放たれるも、ソウジは星天空山を振るって容易く叩き落とす。振り切ったタイミングで熱線が迫るが、そちらは“金剛”で防いで対処した。
「今のは悪くなかったぞ!本番では毒煙で姿を眩ませればより効果的になるぞ!!」
「う、うっす!」
相変わらずのスパルタ式で遠藤を鍛え上げる中、ゲートホールからフィアと
「戻ったか」
「はい。ハジメ様のご要望である素材はしっかり入手して参りました」
模擬戦を一時中断したソウジの言葉にフィアが一礼して答える。シアが合流する数時間前に、フェアベルゲンでの用事を終わらせた坂上と谷口が合流した。雫も新機能を搭載した四皇空雲の慣らしの為に合流し、一時的に助手役をバトンタッチしたフィアと共に真の【オルクス大迷宮】に潜っていたのだ。
真の【オルクス大迷宮】の下層の魔物は強力ではあるが、現在の四人の実力なら十分に通用するとソウジは判断して行かせたのである。
実際、実力が元からあったフィアと雫は言わずもがな。坂上もある程度は遅れを取らないし、谷口も十八番の結界で厭らしい妨害・阻害を敢行して向こうの実力を発揮しづらくしているのだ。本当に魔改造は恐ろしいものである。
「雫もお疲れさん。四皇空雲の新機能はどうだ?」
「ええ。新しい機能も私の要望通りよ、ソウジ。とは言っても、南雲君の新アーティファクトなしだと、数本が限度だけどね」
いつの間にか互いに名前呼びとなっているソウジと雫だが、そうなったのにはもちろん理由がある。
雫に連絡を入れ、クリスタルキーで直接迎えに行った際、ちょうど一緒にいたガハルドに絡まれたのだ。主に雫に手を出したことに対して。
もちろんソウジから手を出したわけもなく、むしろ雫自身から近寄って来たので筋違いもいい所だ。何時もなら取り合う必要もないので無視をしてもよかったのだが、何度もしつこく口説かれたであろう雫の心情を汲み取り、どこか疲れていた表情をしていた雫の肩を抱き寄せ、こう告げたのだ。
『皇帝。これ以上雫に言い寄るなら、今すぐ裸族にして漢女の仲間入りのチョンパをするぞ』
星天空山の鯉口を切り、名前呼びと抱き寄せのダブルコンボを見せつけたソウジに、ガハルドは悔しそうに叫びながら地団駄を踏み、見守っていたアリアは地面を転げ回って大爆笑。雫は想い人のまさかの対応に、顔を林檎のように真っ赤にさせることとなった。
ちなみにアリアも口説かれたが、即効で地面へと(物理的に)沈めたので問題は起きていない。その分、過激な手段に打って出ない雫に募る羽目となったが。
「で、お前たちの方もどうだ?」
「応!バッチリだぜ!!」
坂上はドヤ顔のような笑みを浮かべ、“宝物庫II”から幾つもの魔石を取り出す。坂上は無事に“天魔転変”用の魔石を手に入れることができたようだ。
「念のために言っておくが、油断はするなよ?向こうも強化されているだろうし、単純な火力なら天之河が上なんだからな」
「お、応。もちろんだ」
ソウジの念押しに、坂上は少し吃りながら頷く。どうやら若干浮かれていたようである。その浮かれを察知したソウジは、鋭い目付きと共に怒声を放った。
「準備で浮かれていたな、この有頂天の筋肉ダルマ風情が!!大迷宮で自分の力が通用した程度で自惚れるとはいいご身分だな!!やはり、まだ“ピー”から脱却できないウジ虫のようだな!!」
「Sir,Not,Sir!!」
「違うと言うならばどうする!?自分の口で言ってみろ!!」
「初心忘れるべからず!!ひたすら鍛練あるのみ!!YAHAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
坂上は血走った目で雄叫びを上げると、その場で“天魔転変”の練習を始めていった。
「……変わりすぎじゃね?見た目じゃなくて中身が」
「…………違うわ。変わったんじゃなくて悪化したのよ。脳筋が相乗レベルで」
坂上の豹変振りにボソッと呟いた遠藤に、微妙に長い間から頭痛を堪えるように額に手を当てた雫が溜め息を吐く。ソウジとしては本当に恐ろしいのはハート○ン方式なのだが、雫たちにはそうは見えなかったようだ。
そして、変成魔法で魔物を従えに行っていた谷口は……何故か憔悴したような表情をしていた。
「谷口は魔物を従えなれなかったのか?」
「ううん。従えるには従えられたよ。けど……」
谷口は暗い表情のまま、オルクスでの成果を報告していく。
蝶、ムカデ、蛾、蟻、蜂、蟷螂、蜘蛛、飛蝗、蜻蛉、テントウ……とにかく昆虫系の魔物
「……虫に好かれる体質なのか?」
「そんな体質なら最悪だよ!!」
「ですが、有効ではありますよ。鈴様が従えた大群を前に、彼女らも現実逃避から思考が止まるかと」
「それってドン引きされているよね?対話したいのに、ドン引きだなんて……」
「それは今更だろ。アイツの反応からして、ウザい奴にランクアップしているだろうしな」
「それでも、だよ!」
確かに絵面的にはドン引きする光景ではあるが、神の使徒やマキアスの《キライマスシリーズ》はともかく、フリードが生み出した魔物や中村の傀儡兵になら十分に頼もしい戦力となるだろう。後、雪原の時に散々割り込んでいたので心象は悪化しているだろうから、本当に今更である。
「だからわざわざ上層に赴いて、モフモフを従えたのか?そこの蹴り兎と三つ目猫を」
ソウジがビシッと指差す先には、真のオルクス一層に生息している蹴り兎と三つ目猫がいた。一層故に実力が低いので、削れに削れたメンタルの回復目的で従えたのかと考えはしたが、自分で口にしてすぐにあり得ないと考え直した。
「……いや、待て。時間的に考えても下層から上層に赴けないし、クリスタルキーも今はハジメが持っている。そいつらはどこから出てきたんだ?」
「……オルクスの八十層台よ。この子たち、あまりに通常の魔物とかけ離れているのよ」
「かけ離れているだと?どういう意味だ」
ソウジが雫に問いかけると、それより早く蹴り兎と三つ目猫がソウジにがばちょ!といった感じで飛びついた。ソウジは鷲掴みにして止めると、「きゅ!もきゅ!!」「にゃ!にゃにゃ!!」とどちらも敵対心ゼロで鳴き声を上げている。
ソウジはこの二匹を従えたであろう谷口に通訳の意味合いを込めて視線を送ると、正確に読み取った谷口は二匹の意思を伝えた。
「えっとね、ウサちゃんは『旦那、お会いできて嬉しいわ!』で……ネコちゃんは『師匠、やっとお会いでけたで!ホンマに感激の極みや!』って」
「……なぜ関西弁?」
「鈴も知らないよ」
どちらも明確な自我を持っていることにソウジは敢えてスルーしつつ、谷口たちから事の経緯を詳しく聞く。
最初はなるべく強力な魔物が欲しいと追いかけ回していたが、先に話した通り昆虫系の魔物しか従えることが出来なかった。始めこそ流せていたのだが、どこまでやっても昆虫系だけだったので、モフモフ目当てで八十層台へと移動した。
モフモフ目当てでランクを下げたにも関わらず、従えられるのは昆虫系。谷口の気分は落下の一途だった。綺麗な見た目で大量に従えた、様々な効果の鱗粉を操る蝶と体が異様に硬いテントウを心の慰めとして帰還しようとして、蹴り兎と三つ目猫に出会ったのだ。
蹴り兎と三つ目猫は、上階の階段から警戒心たっぷりで物陰から物陰へとシュバッ!シュバババッ!と人間臭い動きで移動し、谷口たちに気付いて動きを止めた。本来は階層を移動しない魔物が下に向かうという異常行動に雫たちは警戒したが、警戒されている二匹は何故か喜ぶように両前足でタッチし合うと、そろそろと近寄ってきたのだ。
殺意も威圧感も皆無。それどころか友好的にすら見えるその二匹に雫、坂上は困惑。フィアもどう対応すべきか悩んでいるところで、谷口は我に返ったように二匹の前に躍り出たのだ。
「第一印象から決めてました!鈴のウサギとネコになって下さい!」
モフモフに加え、友好的な仕草をする二匹の魔物に完全にノックアウトされた谷口は土下座する勢いで頭を下げ、両手を前に差し出した。昆虫ばかりでモフモフに飢えていた谷口には、蹴り兎と三つ目猫の人間臭い仕草は強烈だったのである。
そんな谷口の告白のような申し出に、二匹は面食らったように仰け反り、互いに困惑したように顔を見合わせる。そんなどこまでも人間臭い魔物二匹に、谷口は鼻息荒くセールストークを開始する。
衣食住確保。一日四食昼寝付き、週休二日の有給有り!自由時間も応相談!今なら特性魔石のオマケ付き!ステータスもアップします!と。
完全に悪徳セールスマンのセールストークであることに雫と坂上は苦笑いしていたが、どちらもステータスアップに反応し、「そこ、kwsk!!」と言ったように前のめりで鳴き声を上げたのだ。
その結果、雇用契約(?)という形で蹴り兎と三つ目猫を従えることができた。そして、二匹の事情を知る為に変成魔法で意思疏通を図ったら、意外な事実が判明した。
なんと、この二匹はハジメとソウジが容量オーバーで垂れ流しとなっていた神水を口にしていたのだ。蹴り兎はハジメの、三つ目猫はソウジの激戦を目の当たりにし、新たな王の誕生に最大限の警戒心と恐怖心を抱いたとのこと。
一層は爪熊と氷牛が互いに睨み合う形で主が二体という珍しい状況であったが、ハジメとソウジが倒したことで序列に変化が生じたのだ。二匹は序列争いに終止符が打たれるのかと考えていたのだが、その当人たちはあっさりとこの階層から出ていってしまった。
それで主がいなくなった巣穴―――見つけていた隠れ家に残っていた神水を飲み干したことで、クリアになった思考と自然と沸き上がる魔力、気配の察知能力が格段に上がったのだ。今まで感じたことのない感覚を前に、二匹は更なる神水を求めて他の魔物を倒しながら動き回り、蹴り兎は爪熊に、三つ目猫は氷牛とかち合ってしまったとのこと。
どちらも思考がクリアとなっていたことで、半ばヤケクソとなって戦いを挑み、死闘の末に相手を下した。死線を潜り抜け、派生技能に目覚めたからだ。その事実に、鍛えれば強くなれると理解した二匹は階層を下りることを決意した。
その決意の元、階段前で二匹は遭遇した。互いにただならぬ気配を察知し、激闘を繰り広げた。三次元の超機動からの蹴り、焔の爪による辻斬り、弾丸並みの体当たり、熱線の連射……互角の闘いを繰り広げたその結果、二匹は好敵手だと認識して意気投合し、旅は道連れと言わんばかりに一緒に行くようになったとのこと。
そうして競い合うように強敵と戦い続け、道中のおこぼれの神水を早い者勝ちで飲み続けた結果、どちらも自力で八十層にまで降りれる実力と成人並みの思考力を得たとのことである。
ちなみに三つ目猫のソウジの呼称が師匠なのは、どちらを王様呼びにするかで蹴り兎が勝利した結果だそうだ。
「……どこのラノベの王道展開だ」
「きゅう!」
「にゃ!」
すべての事情を聞いたソウジの第一声がこれだった。同時にこうも思った。神水を飲んだ魔物の言動はおかしくなるのかと。
実際、アバドンも上澄み程度とはいえ、神水をもらったのだ。同じく話を聞いていた遠藤も似たり寄ったりな表情だ。
「ちなみにですが、八十、九十層台で溢れ落ちていた神水を回収しました。本当に少量で、回復効果の見込みはありませんが……」
「「「!!」」」
フィアの意図的な爆弾発言により、蹴り兎、三つ目猫、アバドンの三竦みの戦いの火蓋が切って落とされ―――
「きゅ……」(ぷるぷる)
「にゅ……」(ぷるぷる)
「……ッ!」(ガッツポーズ)
―――る前に、アバドンの麻痺毒で二匹は即倒されたのであった。
「神水は残り十本弱か……」
「例の知識で神水は自然魔力の長期の熟成だと解ったが、生産は実質不可能だな」
「再生魔法と大量の魔力を注げばワンチャンあるか?」
「ないだろうな。あれは純度百パーセントが大前提みたいだし。できても神結晶だけだろ。例えるなら自家製ラーメンのスープだな」
「スゲェ分かりやすい例えだな」
神水=ラーメンのスープ扱いするソウジの図。