てな訳でどうぞ
「ハ、ハイベリア……」
シアが震える声で上空を旋回しているワイバーンモドキを見上げて呟く。そのハイベリアは全部で十五匹はいる。
「ここで止めてくれソウジ。ここからハイベリアを狙い射つ」
アタランテが運転をやめるように言ってきたので、ソウジはアタランテの実力を確かめる為にも彼女の言葉に素直に従い、バイクをその場で停止させる。ハジメはソウジがバイクを停めた事に最初は訝しんだが、アタランテが弓を構えたのを見て理由を察し、そのまま先へと進んでいく。
器用にバイクのシートに立ち、翠色に発光する矢をつがえ、何の躊躇いもなくその矢を放つ。放たれた矢は寸分も狂わず兎人族の一人に襲いかかろうとしたハイベリアの頭部を射抜き、射抜いたその瞬間、爆発と共に頭部を吹き飛ばした。
「マジかよ……」
ソウジはそう呟くも、アタランテは次々と矢を放ち、先程と同じく寸分の狂いもなくハイベリアの頭部を射抜き、爆散させていく。ハジメもシアを囮として投げ飛ばし、その光景に硬直するハイベリア達の頭部をドンナーで撃ち抜き瞬殺する。結果、ハジメは六匹、アタランテは九匹のハイベリアを瞬殺するという光景が出来上がった。ハジメの討伐数がアタランテより劣ったのは後ろにいたシアが小刻みに飛び跳ね、地味に狙いを妨害したからである。
今回何もしなかったソウジは、先程アタランテが使っていた矢に対する疑問を解消する為に話しかける。
「アタランテ。さっき使っていた矢はなんだ?刺さった瞬間に爆発するとかどういう仕組みなんだ?」
「この矢は私の魔力で構成された矢だ。さらにこの矢に魔法を載せて放つ事もできる。その分魔力も消費するし、載せられる魔法にも限りはあるが中々便利だぞ」
「……そんだけ強いのに何で逃げていたんだよ?」
「あの無駄乳ウサギがダイヘドアの群れを連れて私にしがみついてきたのだ。気配を隠して獲物を待っていたのにも関わらず、何の迷いもなく此方に来て飛び付き、離れろと言っても全く離れなくてな……」
「つまり、押し問答している内に距離を詰められて逃げる羽目になったと」
「その通りだ。逃げながらも追ってくるダイヘドア達を魔法で始末していたのだがな……」
シアの足の引っ張り具合にソウジとアタランテはウンザリしつつ、合流するために再びバイクを走らせた。
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ハジメ達と合流したソウジとアタランテは、ハウリアの族長でありシアの父親であるカムのお礼をそこそこに、ウサミミ四十二人を連れて峡谷の出口を目指していく。
当然、数多の魔物が絶好の獲物だとこぞって襲ってくるのだが。
ドパンッ!シュッ!ジュッ!
ハジメのドンナーが、アタランテの矢が、ソウジの不知火からの熱線が襲ってくる魔物の頭部を吹き飛ばしていく。
この峡谷で不知火が使えているのには勿論理由がある。
不知火には“吸熱”、“変換回復”を付加した鉱石と神結晶が取り付けられており、一回起動すれば基本は使用者の魔力は消費せずに済むようになる。その不知火を本来の二十倍近い魔力を使う事で、この峡谷内での使用を可能にしているのである。
「魔法への適性はユエと同じ全属性かよ……」
「ああ。これは私だけでなく他の人形達も同様だ。だが、保有する固有魔法は“分解”という文字通り魔力でさえ分解する魔法だがな」
「聞けば聞く程厄介な奴らだな。事前に情報が得られるだけ有難いけどな」
勿論その間もアタランテから情報を聞き出しており、参加しているハジメもアタランテからもたらされる情報に溜め息を吐いている。あの矢についても当然共有しており、それを聞いたハジメの第一声は「基本弾切れ無しとか……チートだろ」であった。……某黒猫ガンマンのようにレールガンぶっぱなせる時点でハジメも十分チートなのだが、それは呑み込む事にした。
その間もシアがハジメからゴム弾の制裁を受けたり、それをカム達が娘の門出のように祝ったりと、ハウリア族の常識のズレを感じたりしながら、一行はついにライセン大峡谷から脱出できる場所へと辿り着いた。
ハジメとソウジは何となく遠くを眺めていると、シアが不安そうに話しかけてくる。
「帝国兵はまだいるんでしょうか?」
「どうなんだろうな?」
「全滅したと諦めて帰った可能性もあるんだろうが……」
「その、もし、まだ帝国兵がいたら……どうするんですか?」
「?どうするってなにが?」
「相手は魔物ではなく帝国兵……人間族です。お二人は同族と敵対できるんですか?」
「迷惑ウサギ、お前には未来が見えていたんじゃないのか?」
「確かに、二人が帝国兵と相対する未来が見えましたが…………同族と敵対して本当にいいのかと……」
「それがどうした?」
「え?」
ハジメがアッサリと言ってのけた言葉に、シアは呆けた顔になる。そんなシアにソウジが若干呆れるように言葉を紡いでいく。
「オレ達は樹海の案内でお前らを雇ったんだ。だから報酬の為にお前らを守る必要がある。それを邪魔する敵には容赦はしない。それだけだ」
「だから報酬を受け取るまでは邪魔する敵からお前らを守る。それだけのことだ」
「な、なるほど……」
なんともらしい考えに、シアは苦笑いしながら納得する。カムもそのギブ&テイクな考えに快活に笑いながら案内は任せてくれと言い、一行は階段を登っていく。階段を登り切った崖の上には……
「まじで生き残ってやがったか。隊長の命令で仕方なく残ってたが、いい土産ができそうだ」
三十人近い帝国兵がたむろしていた。近くには大型の馬車数台と野営後がある。帝国兵達は喜色の表情を浮かべ、その中の小隊長らしき人物が自身の腰巾着らしき兵士を連れて此方にへと近づいてくる。
「誰だお前ら?兎人族……じゃねぇよな?」
「ああ、人間だ」
「小隊長、もしかしたらコイツら、奴隷商の奴らかもしれないですね」
「そうかもな。まぁ、どっちにしろ、そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」
勝手な推測で結論を出し、こちらに従うのは当たり前と信じきった様子で、そう命令してくる。
当然、彼らの答えは決まっている。
「断る」
「……今、何て言った?」
「ハジメは断ると言った。分かったらさっさと国に帰れ。邪魔するというのなら、今日がお前達の命日になるぞ」
「……口の聞き方には気をつけろ。俺達が誰だかわからない程頭が悪いのか?」
「十分に理解している。お前達以下と思われるのは心外だし、命が惜しいならソウジの言う通りさっさと国に帰ることを薦める」
ハジメとソウジのその言葉に、小隊長と隣にいる腰巾着の兵士の表情が消える。周囲の兵士達も剣呑な雰囲気で二人を睨んでいる。だが、ユエとアタランテを見つけた事で小隊長と隣の兵士が再び下碑た笑みを浮かべる。
「よぉ~くわかった。てめぇらが世間知らずの糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやるよ。てめぇらの四肢を切り落とした後でそっちの嬢ちゃん達を目の前で犯してやるよ」
「小隊長!俺はあちらの女性を犯していいですか!?」
「構わねぇぜ。俺はそっちの金髪の嬢ちゃんを犯すからよぉ。犯した後は奴隷商に売ってやるから安心しな」
「…………」
「……つまり敵ってことでいいのか?」
二人の下碑た会話にソウジは無言、ハジメは最後の言葉を投げかけた。
「あぁん!?」
「まだ状況が理解できてねぇのか!?てめぇらは、震えながら―――」
ドパンッ!ズバッ!
小隊長と腰巾着の兵士が苛立ちと共に剣を抜き、ハジメとソウジを斬ろうとした瞬間、一発の破裂音と一つの風切り音と共に、小隊長の頭部が砕け散り、その腰巾着の兵士も左右真っ二つに両断されて地面にへと沈んでいった。
突然の出来事に呆然としていると、追い討ちをかけるようにハジメが一発分にしか聞こえない程の早撃ちで六人の帝国兵の頭を吹き飛ばし、ソウジも“爆縮地”で帝国兵達の間を駆け抜け、すれ違い様に首と胴体を両断していく。
ここで漸く、帝国兵達は我に返り、半ばパニックになりながらも武器を構え、前衛、後衛へと別れていく。
しかし、時は既に遅く、後衛はハジメが作成した、金属片入りの“手榴弾”によって大半が死亡、残りも頭部を撃ち抜かれて全滅する。前衛もソウジの目にも止まらぬ剣速によって首を斬られ、物言わぬ骸にへと成り下がる。瞬く間に三十人近くいた帝国兵は一人だけ残して全滅した。
「人間相手なら近づいて斬るだけで十分だな」
「だな。俺も“纏雷”使わなくても十分対処できたし」
ハジメとソウジの飄々としたセリフに、意図的に生かされた兵士はへたり込んだまま、怯えた視線を惨劇を作り出した張本人達へと向ける。そんな戦意喪失した兵士にハジメはドンナーで肩をトントンと叩きながら近づいていく。
ハジメはその兵士に他の兎人族の行方を聞いた後、相手の命乞いを無視して引き金を引き、命を刈り取った。
「あ、あの……さっきの人は見逃しても……」
「はぁ?」
「警告したにも関わらずに襲ってきた奴らに、何で慈悲を与えないといけないんだ?」
シアがおずおずとハジメに意見するも、ハジメの呆れを多分に含んだ視線とソウジの指摘に言葉を詰まらせてしまう。
「……ソウジの言う通り。それに、一度、剣を抜いた者が、相手の方が強かったからといって見逃してもらおうなんて都合が良すぎる事、通りはしない」
「守られているだけの人物が結果に文句を言うのも筋が通らないだろう」
ユエのきつい言葉とアタランテの呆れを多分に含んだ言葉に、兎人族全員、バツの悪い表情となる。
「すまない二人とも。貴殿方に含むところがあるわけではないのだ。我々はこういう争いに慣れておらんのでな……気にさわったのなら申し訳ない」
カムが代表してハジメとソウジに謝罪するが、謝罪を受けた二人は特に気にしていない様に手をヒラヒラと振るだけだった。
そして、無傷の馬車と馬を使って一同は樹海にへと進路を取った。
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