魔王の剣   作:厄介な猫さん

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大丈夫かなぁ····?
てな訳でどうぞ


樹海探索

「それでは、ハジメ殿、ユエ殿、ソウジ殿、アタランテ殿、中に入ったら貴殿方を中心にして進みますが、万が一はぐれると厄介ですから、決して我らから離れないで下さい。それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいですな?」

 

 

「ああ。そこが本当の迷宮と関係してそうだからな」

 

 

カムの注意と行き先の確認にハジメは頷きながら肯定する。ハジメとソウジは最初は【ハルツィナ樹海】そのものが大迷宮と考えていたが、亜人達は簡単に樹海を移動出来ている時点で大迷宮の目的から大きく逸脱してしまっている。なので【オルクス大迷宮】のように真の迷宮の入り口が樹海の中にあると考え、カムに樹海の事を聞き、“大樹”が怪しいと踏んだのである。

 

 

「それでは気配を消してもらえますかな。我々はお尋ね者なので他の者達に見つかると厄介ですので」

 

「ああ、承知している」

 

「オレとハジメ、ユエは大丈夫だし、アタランテも気配を消せるような事を言っていたから大丈夫だろ」

 

 

周囲の兎人族が一同を囲ったのを確認したカムの言葉に、ハジメは了承し、ソウジもそう言って、共に“気配遮断”を使う。ユエも奈落で培った方法で気配を薄くし、アタランテもハジメとソウジ、二人と同じレベルで気配を消していく。

 

 

「ッ!?…………ハジメ殿、ソウジ殿、アタランテ殿、出来ればユエ殿くらいにしてもらえますかな?そのレベルで気配を殺されては我々でも見失いかねませんので」

 

 

カムがハジメとソウジ、アタランテのハイレベルな隠密に驚愕しながら、ユエと同じレベルに落として欲しいとお願いする。兎人族は全体的なスペックが低い分、聴覚による索敵や気配を断つ隠密行動が高い。奈落で鍛えたユエ並に秀でているのだが、三人はそれを凌駕しているのだ。そのユエは……

 

 

「…………」

 

 

……膝を折っていじけていた。ハジメとソウジは兎も角、アタランテに負けた事が些かショックだったようだ。

その後、ユエはハジメが抱擁した事で何とか持ち直し、一行は道ならぬ道を突き進んでいくのだが……

 

 

「“風刃”」

 

 

ユエが樹海のある方向に向かって手をかざし、風の刃を飛ばす。その風の刃はそのまま突き進み、そこに隠れていた四本腕の猿を上下に両断する。

先制攻撃に驚き、隠れていた残り二匹の四本猿も一行に襲いかかるが、ユエによってあっさりと始末される。

 

 

「あ~、ユエ。張り切るのはいいんだが……そんなにアイツに劣った事が悔しかったのか?」

 

「…………」

 

 

ハジメの指摘にユエはスッと目を逸らす辺り、結構堪えていたようである。アタランテは全属性の魔法に適性を持ち、複合魔法の技能もあるため、自分のポジションを奪われると思ったのだろう。

 

 

「大丈夫だユエ。話を聞いた限り、広範囲の上級魔法の行使には結構時間が要るようだからな。それに俺にとってはユエに勝るヤツは存在しない」

 

「ハジメ……」

 

 

ハジメのその言葉にユエは機嫌を直し、またしても二人の世界を形成する。

 

 

「……あの二人は何時もああなのか?」

 

「恋人同士だからよく見る光景だ。直ぐに『ああ、またやっているのか』と慣れるさ」

 

「妙に言葉に重みがあるな……」

 

 

その後も襲いくる魔物をユエが先制で攻撃し、別方向からの魔物もハジメの義手から発射されるニードルガン、ソウジの“飛爪”、アタランテも魔法を使って静かに片付けていく。その光景をシアは複雑そうに見ている。

そんな感じで数時間進んでいると、今までにない無数の気配に囲まれていく。今までの魔物とは比べ物にならない気配に、一行はその正体を確かめる為に足を止める。そして、その正体を掴んだカム達は苦虫を噛み潰し、シアは青ざめ、ハジメとソウジ、ユエとアタランテは面倒そうな表情になる。

 

 

「お前達……何故人間といる!」

 

 

一行の前に現れたのは虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人達だったからだ。

 

 

「白い髪の兎人族……貴様ら、報告にあったハウリア族だな!?長年、同胞を騙し続けて忌み子を匿うだけでなく、人間族まで招き入れるとは!全員この場で処刑する!総員か―――」

 

 

ドパンッ!!ズバババババッ!!

 

一行の前に現れた虎の亜人の一人が問答無用で攻撃命令を下そうとした瞬間、ハジメがドンナーでその亜人の頬を掠めるように発砲し、ソウジも幾つもの“飛爪”を、地面を削り続けるように隠れている亜人達のすぐ近くに飛ばす。そのまま二人は、魔力を直接放出して相手に物理的な圧力を加える固有魔法―――“威圧”を使い、口を開く。

 

 

「今の攻撃は、刹那の間に連続で繰り出せる。今オレ達を囲んでいるヤツらの居場所も全て把握している」

 

「コイツらの命は俺らが保証している。殺るというのなら容赦はしない」

 

 

ハジメとソウジはそう言いながら殺意を放ち始めた事で、虎の亜人は冷や汗を大量に流し始める。

 

 

「だが、この場を引くなら追いもしない。だから選べ。敵対して無意味に全滅するか、大人しく家に帰るか、な」

 

「……その前に、一つ聞きたい……何が目的だ?」

 

 

虎の亜人から絞り出されるように出てきた質問に、ソウジがあっさりと答える。

 

 

「樹海の深部、大樹の下へ行くことだ。そこに本当の大迷宮の入口がある可能性が高いからだ。ハウリアはその案内のために雇った」

 

「……何を言っている?この樹海そのものが大迷宮の筈だ」

 

「いや、それはおかしい」

 

 

虎の亜人は困惑しながらソウジにそう言ったが、ハジメの妙に自信のある否定に訝しげな表情となる。それに構わずハジメは続けていく。

 

 

「大迷宮は“解放者”達が残した試練だ。なのに亜人族は簡単に深部へいけるんだろ?それだと試練として成立していない。だから、樹海そのものが大迷宮ってのはおかしいんだよ」

 

「……つまり、お前達は国や同胞に危害を加えるつもりはないのだな?」

 

「ああ」

 

「なら私はお前達が大樹の下へ行くくらいは構わないと判断する。だが、これは部下の命を守るための私の独断。本国の指示を仰ぎたい。お前達の話も長老方なら知っているかもしれん。本当に含むところがないなら伝令を見逃し、私達とこの場で待機しろ」

 

「……曲解せずにちゃんと伝えろよ?」

 

 

許可があった方が都合が良さそうだったため、ハジメ達は虎の亜人の譲歩案を呑み、この場で待機する事にした。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

伝令が去ってから一時間くらいが経った頃、一同の前に初老の森人族が二人の森人族を引き連れて現れた。

 

 

「私はアルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている者だ。話は既に聞いているが、その前に聞いておきたい。“解放者”という言葉、どこで知った?」

 

 

アルフレリックの探るような質問にハジメは証拠として宝物庫に閉まってあったオスカーの指輪を取り出す。

 

 

「!この紋章はまさしく……」

 

 

アルフレリックは指輪を見て驚愕の声を洩らし、納得がいくと、自分の名で滞在を許すと言ってきた。最初はそのまま大樹へ向かうから断ろうとするも、アルフレリックからもたらされた言葉で一変する。

 

 

「大樹の周囲の霧は特に濃く、亜人族ですら方角を見失う。一定周期で霧が弱まるが、次に行けるようになるのは今から十日後だ。……亜人族なら誰でも知っているはずだが……」

 

 

まさかの事実にハジメとソウジはカムに顔を向けると、当の本人は今思い出したという表情をしていた。

その後、ハウリア族同士で責任の擦り付け合いをし、全員ユエの“嵐帝”の餌食となった。

 

 

 

 




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