てな訳でどうぞ
「これからお前達には、戦闘訓練を受けてもらおうと思う」
フェアベルゲンから追い出され、一先ず大樹の近くに拠点を作って一息ついた時の、ハジメの第一声がこれだった。
拠点はハジメがパクったフェアドレン水晶を使って結界を張っただけのものだが……
「え、えっと……戦闘訓練というのは…………」
「そのままの意味だ。この十日間はここで足止めだからな。なら時間を有効活用して、お前達の軟弱で脆弱な負け犬根性を叩き直して、一端の戦闘技能者に育て上げてやる」
「ど、どうしてそのようなことを……」
「忘れたのか残念ウサギ。オレらとお前達の約束は案内が終わるまで。その後のことをちゃんと考えているのか?」
ソウジの言葉にハウリア族全員顔を見合わせ、ぶるぶると首を振る。
「悪意や害意に逃げるしかできないお前達は隠れ家さえ失ったんだ。このままいけば全滅は必定……それでいいのか?」
「……そんなの、いいわけがありません!」
シアが絞るように零した言葉に、カムを始め、ハウリア族は触発されたように顔を上げ始める。
「そうだ。ならどうする?」
「答えは簡単だ。強くなればいい。かつての仲間から“足手まとい”とされた俺達のようにな」
「え?足手まとい?ハジメさんとソウジさんが?」
ハジメの“足手まとい”という言葉にシアが反応し、信じられない思いで聞き返す。
「ああ。かつての俺達はステータスも技能も平凡極まりない、殆ど一般人のようなもの。俺は非戦闘職で、ソウジは幾ら鍛えても魔力が一切上がらない、完全なお荷物だった」
「だが、奈落の底に落ち、生きるか死ぬかの瀬戸際で己の全てをかけて戦い続け、気がつけばこうなっていた」
ハジメとソウジの告白にハウリア族全員に悪寒が走る。自分達以下の状態でライセンの魔物以上の化け物を相手にした事に戦慄していた。何故なら、自分達なら絶望に押し潰され、諦感と共に死を受け入れたであろう状況を、二人は諦めずに挑んだからだ。
「あくまで決めるのはお前達だ。無理強いはしない」
「その時は今度こそ全滅するだけだ。約束が果たされた後は助ける気は毛頭ないからな」
辺りに沈黙が漂い始める中、シアは決然とした表情のまま、はっきりと告げる。
「やります。私に戦い方を教えてください!弱いままはもう嫌です!」
娘の不退転の覚悟を目にしたハウリア族は次第に決然とした表情へと変え、カムが代表して一歩前へ踏み出す。
「ハジメ殿、ソウジ殿……宜しく頼みます」
「わかった。だが勘違いするなよ?あくまでお前達自身の意志で強くなるんだ」
「優しく論する気はないし、期間は十日だ……死に物狂いでやれ」
その言葉に、ハウリア族は皆、覚悟を宿した表情で頷いた。
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ハウリア族の訓練にあたって、ハジメは錬成の練習で作っていたナイフ、小太刀等の刃物を渡していく。初日は武器を持たせて基本的な動きをソウジが中心となって教えるというものにした。
いきなり実戦をやらせるのは無謀すぎるし、最低限の動きを覚える必要がある。彼らに教えるのは、かつて八重樫から教わった“剣術の基礎”と、奈落での戦闘で得た“合理的な動き”のみであり、後は実戦経験を積ませて奇襲と連携に特化した集団戦法を身に付けさせるという方針だ。
シアは魔力の直接操作が出来るので、ユエとアタランテを専属コーチとして特訓させる事にしている。シアの悲鳴が聞こえるが特訓は順調のようである。
だが、翌日の実戦を織り混ぜた戦闘訓練。ソウジは額に青筋を浮かべてイライラしながら訓練光景を見守っていた。イライラしている理由は……
ザシュッ!
「ああ、どうか罪深い私を許してくれぇ~」
「族長!罪深いのは我らも同じです!!」
「そうです!いつか裁かれる時が来るとしても、今は立ってください!!」
「……そうだな。死んでしまった彼(ネズミのような魔物)のためにも、私達は立ち止まらずに進もう!」
……魔物を殺すたびにこのような三文芝居がハウリア族から展開されているからである。
ちなみにハジメは現在、席を外しており、向こうの方でハウリア族に支給する本格的な武器とアタランテ専用の弓を作っている。……聞こえて来る三文芝居の声に青筋を立てて苛立ってはいるが。
ソウジは苛立ちを募らせながらも、訓練はまだ始まったばかりだと己に言い聞かせつつ、必死に我慢しながら三文芝居は止めろと注意し続ける。何度目か分からない三文芝居に注意していると、ハウリア族の少年、パルがその場で尻餅をついた。
「?どうした?何に足を取られた?」
一見、足を取られるものがないにも関わらず尻餅をついたことにソウジは訝しみながら、パルに近づいていく。
「あ、うん。危うくお花さんを踏みそうになったから……この辺は綺麗なお花さんが多いから潰さないようにするのが大変なんだ~」
パルの返答に周囲のハウリア族は微笑ましげな顔をするも、ソウジはゆっくりと顔を俯き、表情を隠す。
「……まさかさっきから全員、妙なタイミングで移動したりしていたのは……その“お花さん”が原因か?」
「いえいえ。花だけでなく、虫達にも気を遣いますな。何とか踏まないよう注意してますが……」
「そうかそうか。ハハハハハハ…………」
ソウジは顔を上げて、にっこりと笑顔を見せ……
ドゴンッ!!
試作型宝物庫から取り出した大剣で、パルの近くにあった花を叩き潰した。
「お、お花さぁーん!」
パルの悲痛な声を無視し、ソウジはオスカーがかつて作った大剣―――“
「よ~くわかったよ。お前達は根っからの甘ちゃんで、真っ先に着手すべきはそこからだったという事がな」
「ソ、ソウジ殿?」
カムはドン引きしながら、恐る恐るソウジに話しかけると……
シュシュシュシュシュッ!
返ってきたのは数本の氷の短剣による投擲だった。当たるか当たらないかのすれすれの距離を氷の短剣が通過したことでカムはガクガクと身体を震わせていく。周りのハウリア族も青ざめるのをよそに、ソウジは宣言した。
「聞けぇッ!!お前達は薄汚い“ピッー”共だ!この先、“ピッー”されたくなかったら、死に物狂いで訓練に挑め!!今後、花だの虫だの、そんな存在に僅かにでも気を逸らしてみろ!連帯責任でお前達全員“ピッー”してやる!!わかったか!?」
あまりにも汚い言葉にハウリア族は硬直してしまう。そんな彼等に、ソウジは再び竜殺剣を地面に叩きつけた。
ドゴォオオオオオンッ!
「何時までぼうっとしている!?早く魔物を殺しにいけ!!この“ピッー”共がぁ!!!」
ソウジのあまりの剣幕に、ハウリア族は蜘蛛の子を散らすように樹海へと散っていく。
「ソウジ兄ちゃん!何でこんな事をするの!?」
パルはソウジに抗議するも、ソウジは情け容赦なく氷の短剣を投げ飛ばし、周囲の花を散らしていく。
その行動にパルは泣きながらとある方向―――ハジメがいる方へと向かって走って行った。
少しして……
ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!
――ハ、ハジメ兄ちゃんまで!?――
――いいかクソガキ。お前が無駄口を叩く、花に気を使う、愛でる、何もしなくても周囲の花を散らしていく。それが嫌なら、ソウジの言う通り一体でも多く魔物を殺してこい!!――
――う……うわーんッ!!――
銃声と共に、そんな声が聞こえてきた。
それ以降―――
「なんだその振り方は!?そんな“ピッー”な振り方で敵を殺せると思っているのか!?」
「動きが遅い!!そんな動きじゃいつまでも薄汚い“ピッー”のままだぞ!!」
「反応が遅れているぞ!!そんなんじゃあっという間に“ピッー”されるぞ!!」
「そんなへっぴり腰で“ピッー”から脱却できると思ってるなら、お前は一生役立たずの“ピッー”だッ!!」
「いつまで泣いている!?泣いている暇があるなら一体でも多く魔物を殺せ!!」
「構えが甘い!!そんな構えでは“ピッー”にすら当たらないぞ!!」
「踏み込みが甘い!!そんな“ピッー”にも劣る踏み込みは通用しないぞ!!」
「倒れている暇があるなら、立ち上がってさっさとやれ!」
「「わかったか!?この“ピッー”で“ピッー”の“ピッー”野郎共が!!!!」」
「「「「「「「うわぁあああああああああああああああ―――ッ!!!!!!!!!」」」」」」」
樹海の中に“ピッー”を入れないと行けない用語、悲鳴と怒号が飛び交い続けた。
ちなみに、このハー○マン方式の訓練期間中でソウジは“剣術”の派生技能、“投剣術”、“短剣術”、“多剣術”、魔力を付加する“付加強化”に、“凍鎧”の派生技能、“高速形成”、“イメージ補強力上昇”、“高速魔力回復”の派生技能、“魔素集束”を得た。
日常でのシアの特訓
「·····ぺったんこ(ボソッ)」
「········(ズ~ン······)」
「·········(ムカッ)」
「ちょっ!?タンマ!タンマですぅ!!」
―――矢の雨霰から逃げ続けるシアの図
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