魔王の剣   作:厄介な猫さん

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魔改造のノリは結構乗ってしまう
てな訳でどうぞ


加減を間違えた結果

「ボス、教官。言われた通りきっちり狩って来やしたぜ」

 

「こちらはこの牙と爪を持って来やした、ボス」

 

「見てください教官。俺達のチームはハイベリアを狩って来やした」

 

 

訓練開始から九日目。

ハジメとソウジは、ハウリア族を各チームに分け、一チーム一体魔物を狩り、狩った証としてその魔物の部位を剥いで持ってこいと言う課題を出していたのだが、帰ってきた彼らが持ってくるそれは、どう見てもその十倍近い数を狩ってきた魔物の部位の数なのだ。

 

 

「一つでいいと言った筈だが……」

 

「ええ、そうなんですがね?ボス。狩っている途中でお仲間がわらわら出てきたんですよ?しかも生意気にも殺意をぶつけてきたもので……その結果がこれなんですよ」

 

 

カムはハジメを“ボス”と呼び、好戦的な笑みを浮かべながら説明する。

 

 

「そうなんですよ。魔物のくせに随分と生意気な奴らでした」

 

「ウザイ奴らだったけど……いい声で泣いてくれたわ、うふふ」

 

「教官仕込みの剣捌きで、一体残らずバラバラに刻んでやりましたよ?」

 

「最初の一体が切り刻まれ、バラバラにされた時、そいつのお仲間が硬直する様は傑作でしたね」

 

 

カム以外からも発せられる不穏な発言のオンパレード。以前の平和的な彼等からは想像できない程、ワイルドで好戦的な態度になっていた。男女子供、老人を問わず全員がだ。ちなみにソウジは“教官”と呼ばれている。

 

 

“大分マシになったが……少しやり過ぎたか?”

 

“時間が経てば落ち着くと思うが……”

 

 

自分達がしたこととはいえ、全員が軍人もかくやという雰囲気に、少しやり過ぎたかもしれないと、念話で話し合うハジメとソウジ。そんな二人にお構い無く、パルが二人の前まで歩み寄り、惚れ惚れするような敬礼をしてみせた。

 

 

「ボス!教官!報告したいことがあります!発言の許可を!!」

 

「お、おう?何だ?」

 

「はっ!課題の途中、大樹へのルートに完全武装した熊人族の集団を発見しました。おそらく我々に対する待ち伏せかと愚考します!」

 

「あ~、やっぱり来たか。しかも目的を前にして叩き潰そうとは……いい性格してるな」

 

「熊人族というのは随分と思慮が足りない連中のようだな」

 

「……ボス、教官。発言、宜しいでしょうか?」

 

 

待ち伏せしている連中の短気ぶりに、ハジメとソウジが若干呆れていると、カムが一歩踏み出して発言の許可を申請する。

 

 

「許可する」

 

「感謝します教官。その待ち伏せしている連中の相手を我らハウリア族に任せてもらえないでしょうか?我らの力、奴らに何処まで通じるか試してみたい所存であります。なに、そうそう無様は見せませんよ」

 

 

カムの言葉に周囲のハウリア族、全員同じように好戦的な表情を浮かべていく。

 

 

「……出来るんだな?」

 

「肯定であります!ボス!!」

 

 

最後の確認をハジメがし、パルが元気よく返事を返した。ハジメとソウジは、一度、瞑目し深呼吸をする。そして、すぐにカッと目を見開いた。

 

 

「聞け!ハウリア族の諸君!今日を以て、お前達は糞蛆虫を卒業する!!」

 

「お前達はもう淘汰されるだけの無価値な存在ではない!力を以て理不尽を粉砕し、知恵を以て敵意を捩じ伏せられる最高の戦士だ!!」

 

「だから私怨に駆られた“ピッー”な熊共に、自分達の存在と、奴らがお前達の踏み台に過ぎないことを唯の“ピッー”野郎どもに教えてやれ!」

 

「奴らの屍血山河を築き、ハウリア族が生まれ変わった生誕の証を、この樹海の全てに証明してやれ!!」

 

「「「「「「「「「「Sir、yes、sir!!」」」」」」」」」」

 

「答えろ諸君!お前達の望みは何だ!」

 

「「「「「「「「「「殺せ!!殺せ!!殺せ!!」」」」」」」」」」

 

「敵はどうする!」

 

「「「「「「「「「「殺せ!!殺せ!!殺せ!!」」」」」」」」」」

 

「そうだ!敵を殺し、自らの手で生存の権利を獲得しろ!」

 

「「「「「「「「「「Aye、aye、sir!!!」」」」」」」」」」

 

「いい気迫だ!命令は一つ!サーチ&デストロイだ!行け!!」

 

「「「「「「「「「「YAHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」

 

 

ハジメとソウジの号令に凄まじい気迫を以て返し、霧の中へと消えていくハウリア族達。

 

 

「“必滅のバルトフェルド”……行くぜ!!」

 

 

バルトフェルド―――パルもクロスボウを持って霧の中へと消えていく。

彼等を散々煽り、見送ったハジメとソウジはこう思った。

“やっぱり、ちょっとやり過ぎた”と。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

レギン・バントンは熊人族最大の一族である、バントン族の次期族長との噂も高い実力者だ。ジン・バントンの右腕的な存在の彼は他のバントン族同様、ジンに対し、心酔にも近い感情を抱いていた。

だからこそ、ジンの再起不能となった知らせをタチの悪い冗談と思ったし、変わり果てたジンの姿を見た時は凄まじい怒りと憎しみを覚えた。そして、長老達から一切の事情を聞き、全てを知ったレギンは、熊人族の全てに事実を伝え、報復へと乗り出した。

長老衆や他の一族の説得、ジンが彼方の忠告を無視した結果だったこともあり、全ての熊人族を駆り立てられず、集まったのはバントン族の若者を中心にジンを特に慕っていた者達だけだった。だが、四十人以上が集まり、卑怯な手段でジンを倒したに違いないと勝手に解釈していた彼らは、襲撃地点を仇の目的である大樹の近くにした。

万全に構えていれば、最強種である熊人族たる自分たちに負ける理由はない。そう息巻いていたのだが……

 

 

「どうした!?もっと気合いを入れろや!」

 

「そんな力任せの振り方が通じると思っているのかよ!?」

 

「汚物は消毒だぁ!!」

 

 

万全に構えていたにも関わらず、熊人族が亜人族の底辺と評価されている兎人族に蹂躙されているという、あり得ない光景が出来上がっていた。

 

 

「ちくしょう!何なんだコイツら!?」

 

「こんなの兎人族じゃないだろ!!」

 

 

動揺を露に叫びを上げる熊人族。彼らは奇襲しようとした相手に逆に奇襲され、格下のはずの兎人族の有り得ない強さ、正確無比に何処からともなく飛来する矢と石、認識を狂わせる巧みな気配の断ち方、高度な連携、捉えて仕掛けても攻撃をいなされ、逆に切り裂かれる巧みな剣捌き、そして何より嬉々として刃を振るう狂的な表情と哄笑!その全てが熊人族に激しい動揺を与えていた。

兎人族は他の亜人族に比べて低スペックだが、危機察知能力と隠蔽能力は群を抜いており、生来の性分が、この能力の暗殺者としての利点を潰していた。

だが、ハジメとソウジが施したハー○マン方式とソウジがハウリア族全員を相手にした打ち込み(という名の蹂躙劇)の特訓により、彼らの心と技は完全な戦闘者のそれとなった。

加えてハジメが作成したタウル鉱石製の小太刀や投擲ナイフ、奈落の底の蜘蛛型の魔物から採取した糸を使ったクロスボウとスリングショットを支給された事で、さらに戦闘能力が飛躍的に向上したのだ。

中でも抜きん出ているのは……

 

 

「一撃必倒!狙い撃つぜ!」

 

「我が剣の錆びとなるが良い!」

 

 

クロスボウを構えて狙い撃っているパル……バルトフェルドと、小太刀二刀流で熊人族を切り裂いている族長のカムであった。

 

 

「レギン殿!ここは一時撤退をッ!?」

 

「殿は私ガッ!?」

 

 

部下の一人が一時撤退を進言した直後、クロスボウの矢がその部下のこめかみを正確無比に貫き、殿を買って出ようとした熊人族も、背後から四肢の腱を斬られ、地面に沈んでいく。

 

 

「どうした!?“ピッー”野郎共!!」

 

「その“ピッー”は飾りか!?」

 

「随分と雑な構えだな!!そんなんじゃ“ピッー”が泣くぞ!!」

 

「そんな武器を悪戯に痛める使い方しか出来ないなら、お前達の“ピッー”を武器にした方がまだマシだな!!」

 

「戦闘最強種と豪語しておきながらこの程度か!?所詮お前らは“ピッー”以下の存在だったということか!この根性無しめ!!」

 

 

浴びせられる罵声。次々と討ち取られていく熊人族。熊人族の中には既に心が折れ、頭を抱えて震えている者までいる。

 

 

「何か言い残すことはあるかね?最強種どの?」

 

 

小太刀二刀流を逆手に構え、実にあくどい表情で歩みながら皮肉げな言葉を投げかける上半身裸のカム。熊人族の誰もが満身創痍となるなか、漸く頭が冷えたレギンはこちら側の敗北を悟り、部下を存命させるためカムに話しかける。

 

 

「……俺はどうなってもいい。兎人族····いや、ハウリア族の長よ。全ては同族を強引に駆り立てた俺の責任。だから、俺が無理矢理連れて来た部下達だけは見逃して欲しい。この通りだ」

 

 

レギンはそう言い、武器を手放し、土下座に近い形で頭を下げる。

 

 

「断る」

 

 

だが、カムは無慈悲にレギンの言葉を切って捨てる。

 

 

「お前達は敵だ。“敵は殺す”……それがボスと教官の教え。何より……」

 

 

カムは絶望に染まるレギンの顔を見ながら小太刀を振り上げ、周りのハウリア族も笑みを浮かべ、武器を構えていく。

 

 

「お前達をなぶるのは、楽しいのでなぁ!!ヒャッハハハハハハハハハハハハハ―――ッ!!」

 

 

カムが哄笑と共に合図を出し、蹂躙劇を再開しようとした瞬間、弾丸と氷のナイフがカムの頬を掠め、中断させられる。

 

 

「……一体どういうおつもりですかな?」

 

 

カムは責めるような目付きで、止めに入った張本人―――ハジメとソウジを睨み付ける。

 

 

「いやぁ~、悪い悪い。見間違えて撃ってしまったよ」

 

「思わず帝国兵がここに来たのかと思ったが、よく見るとお前達だったか。随分と奴らの顔に似ていたな」

 

 

ハジメとソウジのその言葉に、カムを初め、ハウリア族全員の表情が強張る。自分達の家族を奪った帝国兵と同じ顔だと言われた事は彼等の狂気を吹き飛ばすには十分だった。

 

 

「……ボ、ボス……教官……私達、は……一体……」

 

「初めての対人戦だ。今気づいたなら大丈夫だろ」

 

「それとドサクサに紛れて逃げようとするな熊野郎共。逃げようとした瞬間、容赦なく殺すぞ」

 

 

こっそり逃げようとしていたレギン達にハジメが釘を刺し、それでも逃げようと周囲を探っていたので、ソウジと二人がかりの“威圧”で黙らせる。

 

 

「さて、熊野郎共。今ならお前達を生かして返してやってもいい」

 

「その代わり、フェアベルゲンに帰ったら長老達にこう言っとけ。“貸一つ”とな」

 

「!!」

 

 

二人の思惑を察して息を呑むレギン。要するに二人は襲撃者の命を救う見返りに何時か借りを返せという事だ。

自国に不利な要素を持ち帰らなければならない上に、八割以上を討ち取られての帰還となれば、確実に生き恥を晒す事になる。

無論、ハジメとソウジは慈悲からではなく、フェアベルゲンに迷宮絡みで用が出来た場合の保険を打つという、打算的な考えからだ。

 

 

「それと、今回の事はしっかり周知させておけよ?お前自身の責任とハウリアに惨敗した事実をな」

 

 

ソウジの物言いにレギンはますます頭を悩ませていく。

 

 

「決断は早くしろよ?さっさと決めないと、五秒毎ごとに一人ずつ殺していく」

 

 

だが、ハジメの容赦ない追い討ちしたでレギンは意を決して返答する。

 

 

「わ、わかった……」

 

「そうかそうか。しっかり伝言を伝えろよ?」

 

「もし、取立てに行ったとき惚けでもしたら……」

 

 

ハジメとソウジはにこやかな笑顔でレギンの肩に、それぞれの手を乗せ……

 

 

「「その日が、フェアベルゲンの最後だと思え」」

 

「……!」

 

 

全身から強烈な殺意と鋭い睨みをレギンにへとぶつけた。

レギンはコクコクと頷き、ハウリア族によって心が折られた部下達を連れて帰って行った。その場に残されたのはハジメとソウジ、ハウリア族の皆である。

 

 

「ボス、教官。すいませんでした。我々が未熟なばかりに……」

 

 

カム達はハジメとソウジに頭を下げて謝るも、当の本人達はバツの悪い表情であった。

 

 

「あー……それについてなんだが……」

 

「今回は俺達の失敗だった。短期間で鍛え上げるためとはいえ、歯止めは考えておくべきだった。スマン」

 

「最低でも殺しは楽しむな、手段として扱えと、釘を指しておくべきだった……完全にオレらのミスだ。すまなかった」

 

 

ハジメとソウジが今回の事を素直に謝る。カム達は二人の素直な謝罪にポカンとし……

 

 

「ボスに教官!?正気ですか!?」

 

「まさか頭を打ったのですか!?」

 

「メディーーック!メディーーック!」

 

「しっかりして下さい!!ボス!!教官!!」

 

 

失礼きわまりない反応で返された。

当然の事ながら二人は激怒し、ブートキャンプを再び再開。終わる頃にはハウリア族は全員、屍のように地面に倒れ伏すこととなった。

 

 

 




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