魔王の剣   作:厄介な猫さん

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来年のアニメはどこまでやるのかなぁ···?
てな訳でどうぞ


大樹と志願するウサギ

ハウリア族にお仕置きのブートキャンプを終えた翌日。大樹へと行ける日だ。

カム達に大樹の周辺の霧を確認させに行き、ハジメは自身が使う製作中の近距離高威力武器の作成、ソウジは炎凍空山を振るい、鍛練に励みながら拠点で待機していると、特訓を終えた上機嫌のシアと、シアとは反対に不機嫌なユエ、若干呆れた顔をしたアタランテが戻ってきた。

 

 

「戻ったか。アタランテ、ハジメから支給された弓の使い心地はどうだった?」

 

 

ソウジは炎凍空山を鞘に仕舞いながら、アタランテにハジメお手製の変形弓―――“ヤークト”の感想を聞く。

ヤークトは収納時はジャマダハルのような形状であり、魔力操作のギミックで短弓、長弓と長さを変える事ができる。

収納形態時でも近接武器としても使え、タウル鉱石を主素材に使っている。タウル鉱石には“風爪”も付加されているからその切れ味は折り紙付きだ。具体的な形状の例を上げるなら、某明星に登場するオッサンの主武装に近い形といえば分かり易いだろう。

 

 

「ああ。中々使い易かった。弓の長さも変えられるし、近接武器としても扱い易い。感謝するぞハジメ」

 

「そう言って貰えるなら作った甲斐があったってもんだ」

 

 

アタランテのお礼に、ハジメは何て事はない感じで軽く返す。ハジメの初期案は双剣と弓の合体機構を考えていたが、弦を繋げたり外したりする辺りの問題を解決出来なかった為、この形に落ち着いたのだ。

ハジメが最初、双剣にしようとしたのは、アタランテ以外の人形達は双大剣を武器として扱っており、アタランテもその武器の扱いを五割程トレースしていると言っていたからだ。ちなみに他の人形達もアタランテの戦闘経験は共有していたが、自分達には不要なものと判断していたそうだ。双大剣による近接戦闘能力に、上級魔法による広範囲高威力攻撃。加えて魔力さえ分解する固有魔法によるオールレンジ性。これだけ揃っていれば中、遠距離武器の弓は逆にお荷物だと判断したのだろう。

 

 

「ハジメさん!聞いて下さい!私―――」

 

「ボス!教官!大樹周辺の霧が弱まって来ました!」

 

 

そんなやり取りを無視し、シアがハジメに何か言おうとした矢先、確認に行って来ていたカムが報告しながら帰って来た。

 

 

「……父様?その顔と口調は……?」

 

 

久々に見た父親の変わり様にシアが困惑していると、(シア)に気づいたカムがいい笑顔で説明する。

 

 

「ん?シアか?私だけではない。ハウリア族全員、ボスと教官によって生まれ変わったのだ」

 

 

カムがそう説明した直後、続々とワイルドな雰囲気を纏ったハウリア達が帰ってくる。そのあまりの変わり様にシアは焦燥を露にハジメに問い質す。

 

 

「ちょ、ちょっとハジメさん!?どうなっているんです!?父様達に一体何がっ!?」

 

「……訓練の賜物だ……」

 

「いやいや、何をどうすればこんな有り様になるんですかっ!?完全に別人ですよ!?」

 

「まさか、“魅了”でもしたのか……?」

 

「魔法なんざ使っていない、というかそんな魔法は使えない。単に罵倒して性根を叩き直しただけだ……危うく外道にしてしまうところだったが……」

 

「外道にってなんです!?本当に一体何をしていたんですか!?」

 

「……闇系魔法を使わず、洗脳……流石、人には出来ないことを平然とやってのける」

 

「お前達とヤツが同類に見えてきたのだが……イヤ、愉悦でやったことでないだけマシなのか……?」

 

「アタランテ。二人はソイツとは違……う……?」

 

 

若干引きながら告げたアタランテの言葉に、ユエは怒りを露に先程の言葉を撤回させようとするが、アタランテから以前聞いた、人形達を使って国のトップを洗脳、惨劇を作り出す行為と、ハジメとソウジのハウリア族に施した訓練の結果を鑑みて、疑問の言葉へと変わってしまう。

 

 

「ユエ。お願いだからはっきりと否定してくれ。地味に傷つく」

 

「私達は洗脳などされていない。ボスと教官のおかげでこの世の八割は暴力で解決できるという真理に目覚めただけだ」

 

「族長の言う通りです!!この“必滅のバルトフェルド”も証言します、シアの姉御!!」

 

「その通りです!!むしろ、我々が帝国兵どもと危うく同類になるところをボスと教官が止めに入って、正気に戻してくれたのです!!」

 

「うわ~んッ!!優しかった父様達は、もう死んでしまったんですぅ~!!!それと必滅ってなんですか!?しかも私が知らない間に堕ちる寸前だったんですか!?」

 

 

変わり果てた家族にシアは泣きべそを掻いてへたり込む。流石に見かねたのかユエがポンポンとシアの頭を撫で、アタランテもシアの肩に手を置いて慰めた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

シアの豹変した家族との再会した騒動が落ち着いた後、一行は大樹に向かって進んでいた。先頭はカムとシアであり、二人は話し合いながらも周囲をしっかりと警戒している。他のハウリア達も周囲に散らばって索敵をしている。そんな中、ハジメとソウジはユエとアタランテにシアの事を聞いていた。

 

 

「それで?シアについてはどうだった?」

 

「……魔法の適性はハジメと変わらない」

 

「だが、身体強化に特化しているな。具体的な例を上げるなら、強化していないお前達の六割くらいだ」

 

「最大値でそれか?」

 

「ん……でも、鍛錬しだいでまだ上がりそう」

 

「おぉう。化物レベルだな、そりゃ」

 

 

シアの化物ぶりに内心唖然とするハジメとソウジ。シアの現時点での本気の身体強化時のステータスはおよそ六千という事であり、本気で強化したご都合勇者の二倍の力だ。まさに“化物レベル”である。

 

 

「……だから、シアを……」

 

「ユエ?」

 

「……何でもない」

 

 

ユエは口ごもりながら何かを言いかけたが、嫌そうな顔で何でもないと言った。

 

 

「皆さ~ん。大樹が見えてきましたよ~!」

 

 

シアの呼び声が聞こえ、ソウジ達は顔をそちらの方にへと向け、深い霧の中を抜けると―――

 

 

「……なんだこりゃ」

 

「枯れてんじゃねぇか……」

 

 

そこにあったのは巨大ではあるが、見事に枯れていた大樹であった。

カム曰く、この大樹はフェアベルゲン建国前から枯れているそうで、周囲の霧の性質と、朽ちず、枯れたままでいることからいつしか神聖視されるようになったとのこと。そんな解説をききながら大樹の根元にある石板に歩み寄る。

その石板には七角形とその頂点の位置に七つの文様が刻まれており、ユエが見つけた石板の裏側にある表の文様に対応するような窪みに、オルクスの指輪を嵌めて見ると。

 

“四つの証”

 

“再生の力”

 

“紡がれた絆の道標”

 

“全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう”

 

石板が淡く輝き、そのような文字が浮かび上がった。

 

 

「四つの証は……他の迷宮の証?」

 

「再生は神代魔法のことだろうな」

 

「紡がれた絆の道標は何だ?」

 

「文の順番からして証と魔法の後に示すもののようだが……」

 

「どっちにしろ、今すぐ攻略は無理ってことか……面倒だが、他の迷宮から当たるしかないか……」

 

「いや、先に必要な情報が得られただけ恩の字だろ。後半になって出戻りよりはまだマシだろ?」

 

「……それもそうだな」

 

 

ソウジの言葉にハジメはものは考えようと割り切り、ハウリア族に集合をかける。

 

 

「今聞いた通り、俺達は他の大迷宮を目指す。約束もこれで完了。今のお前達ならこの樹海で十分に生きていける。そういうわけで、ここでお別れだ」

 

 

ハジメは契約完了の意を伝え、別れを言った直後、カムが一歩前に出る。

 

 

「……ボス、教官。お願いがあります。我々もお供に付いていかせて下さい!これは一族の総意です!!」

 

「断る」

 

 

カムの言葉にソウジが即座に断った。

 

 

「ああ。俺もソウジと同意見だ」

 

「何故です!?」

 

「足手まとい。以上」

 

「しかしっ!!シアはボスに付いていくのに、どうして我々は駄目なのですかッ!?」

 

「「は?」」

 

 

カムから出てきた言葉にハジメとソウジは目を丸くし、すぐに訝しげな目となりシアへと顔を向ける。カムの発言から茫然としていたシアは二人の視線で我に返り、一世一代のチャンスとばかりにハジメの眼前にまで前に進み、強張った顔で想いを告げる。

 

 

「ハジメさん!私をあなた達の旅に連れて行って下さい!お願いします!!」

 

「当然断る」

 

「やっぱり即答!?どうしてなんですか!?」

 

「どうしてって、何で連れて行かなければならない?今なら一族の迷惑にもならないし、大抵の敵はどうとでもなる。わざわざ危険だらけの旅に付いていく必要は微塵もないだろ」

 

「そ、それは、そのぉ……」

 

 

ハジメの詰問にシアがモジモジしているのを尻目に、ソウジはこちらの問題を何とかしようとカム達の方に再び顔を向ける。

 

 

「教官!我々は既にボスと教官の部下です!!部下である我々が付いていくのは当然と言える筈です!!ですからどうかご再考を!!」

 

「何度言われようとお前達の同行を許すつもりは微塵もない」

 

「ならば、許可を得ずとも勝手に付いて行きます!!我々は部下なのですから!!」

 

 

全く折れないカム達にソウジは溜め息と共に呆れていき、仕方がないので条件を出すことにする。

 

 

「ならここで鍛錬することを命ずる。次来た時、使えるようなら部下として考えてやる」

 

「……その言葉に嘘はありませんな?嘘なら、人間族の町でボスと教官の名前を連呼しつつ、新興宗教の教祖のごとく祭り上げますからな?」

 

「な、なんつぅタチの悪い……」

 

「そりゃ、お二方の部下を自負してますから」

 

 

まさかの黒歴史生産攻撃を予告した部下達?に、ソウジは頬を引きつらせる。

 

 

「では教官。ボスと共にシアのことは頼みますぞ?」

 

「だから何でアイツを連れて行かなきゃならん」

 

「シアはボスに惚れ込んでますからな。その証としてユエ殿との賭けに勝ち、同行の口添えを約束させたのですからな」

 

 

カムから発せられた言葉に、一体どういうことかとソウジは再び訝しげな表情となる。その答えをアタランテがもたらす。

 

 

「アイツがユエに賭けを持ち出してな。ユエにちょっとでも一撃を与えたら、同行を許可する。味方になって説得するというな」

 

「それでアイツは賭けに勝ち、ユエを味方につけたと……何でそこまでして同行したいんだよ?」

 

「ハジメの事が好きになってしまったと言っていたな。そして皆と一緒に居たいと」

 

「……物好きなウサギだな」

 

 

ソウジは嘆息と共に、シアの本気に負けた気分となり、同行に口を出す気を無くした。

その後、ハジメも呆れながらシアの同行を認める事となり、ソウジはハジメからハウリアからの黒歴史予告について文句を言われる羽目になった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ハジメから黒歴史予告の文句が終わった後、樹海の境界でカム達に見送りを受けた五人はバイクに乗って平原を疾走していた。組分け位置取りも以前乗せた配置である。

 

 

「確か次の目的地はライセンの迷宮だったな?」

 

「ああ。シュネー雪原は魔人国の領土だし、グリューエンの大火山を目指すなら、ライセンを通り抜けなきゃならんし、アタランテはその場所を知っているんだろ?」

 

「ああ。伊達に彼処で暮らしていないからな。ダミーの可能性が高かったから中には一度も潜ってないが……」

 

「話を聞いた限り、オレ達も疑ったからなぁ……」

 

 

ライセン大迷宮と思しき場所はアタランテが知っている。だが、当の本人はそこは偽物と考えており、シアを除く話を聞いたソウジ達もダミーの可能性を疑った。理由は……

 

“おいでませ!ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪”

 

という何とも軽すぎる、壁に直接刻まれた看板があったからだそうだ。オスカーの手記にも“ミレディ”の名前は出ていたが、あまりにも胡散臭すぎる。

だが、他に手がかりもないので一先ずそこへ行ってみる事にしようと微妙な気分で決めた。

 

 

「けど、その前にこの先にある筈の町に行って食料やら資金やらを調達しておきたいからな。後、お前のそのボロ布の服も何とかしないとな」

 

 

アタランテの服はボロボロの布で最低限の体裁を保っているような服だ。一応ソウジ自身の予備の上着を貸して羽織らせてはいるが、ずっとこのままというのは色々と面倒なのだ。具体的には周りから白い目で見られるという光景が出来上がるという面倒が。

だから、町に着き、素材を換金して資金を得た後、ユエにアタランテの服を見繕ってもらうよう頼んだのだ。こういうのは女性に頼むに限る。

 

 

「だから、一人旅で盗賊に襲われて身ぐるみを剥がされた哀れな奴と説明するからよろしく」

 

「……不本意だが了承した」

 

 

アタランテは不機嫌になりながらも、そうした方が都合が良いという事も理解していたので渋々ながら了承する。

 

 

「その首輪、付けないで!ユエさん!ソウジさん!アタランテさん!お願いですから助けて下さ~い!」

 

 

シアに首輪を付けられる光景を無視して……

そんな風に騒ぎながらバイクを数時間走らせ、日が暮れるという頃に、前方に町が見えてくる。

ハジメ、ソウジ、ユエは“戻ってきた”という思いから、アタランテは感情を得て初めて見る“外の世界”から、頬が綻んでいた。

 

 

「あのぉ~、この首輪取ってくれませんか?自分で外せないですが……」

 

 

……そんな中、ウサギは空気となっていた。

 

 

 




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