てな訳でどうぞ
あの日から二週間が経過した。
ソウジのステータスは平均の上、剣術を習ったことなど一度もない。当初はメルド団長に剣術を教えて貰おうかと考えたが、本人は何かと多忙な為こちらの都合でこれ以上束縛する訳にはいかない。どうしようかと考えていた矢先、幼い頃から剣術を学んでいた八重樫が自ら名乗りを上げ、買ってでてくれたのだ。
そんなわけで、ソウジは現在、マンツーマンで八重樫に剣術の手解きを受けているのだが······
「―――てぇッ!!」
「ほら、早く立って構えなさい」
木剣の一撃をマトモに受け、その場で尻餅をついて頭をおさえるソウジに、八重樫は早く立つように促してくる。
「分かってるてーの……あと、ちょっと試したいもんがあるけどいいか?」
「かまわないわよ」
八重樫から了承を得たソウジは頭をおさえたまま立ち上がり、○○剣の牙○の構えをとっていく。そのまま“爆縮地”を使い、その勢いを生かした突きを放つも。
「甘いッ!」
八重樫はいとも簡単に捌き、再びソウジの頭に木剣を叩き落とした―――
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「やっぱりこれを主軸にするのは無謀過ぎるか?」
「そうね。そんなオタク技で挑むのは無謀ね。不意討ちならともかく」
八重樫の最もな指摘に溜め息を洩らしながら、ソウジは自身のプレートを見る。
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空山ソウジ 17歳 男 レベル:4
天職:剣士
筋力:24
体力:16
耐性:10
敏捷:34
魔力:4
耐魔:8
技能:剣術・縮地(+爆縮地)・言語理解
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これが二週間の成果である。“縮地”を使い続けた結果、“爆縮地”という派生技能が付いたのだが、それを活かせているとは正直言い難い。
辻斬りできればいいのだが、そんな技量はソウジにはないのでこういった突撃戦法しか今のところは使いようがない。
その後も八重樫指導の元、木剣の素振りをしていく。
ちなみに魔法の適性はあるにはあったが、魔力が少ない為、“火玉”を数発放ってガス欠で倒れたので実践には一向に向いていない。剣の切れ味を上げる魔法“絶断”も試しに使ってみたが、発動した瞬間にガス欠で倒れたので意味が全くなかった。“爆縮地”も連続で三回使えば当然倒れるし、しかも魔力が上がっていないのもそれに拍車を掛けている。
そんな地力で戦争に参加しなければならないことにソウジは内心ウンザリしつつも、少しでも戦力になるため自主的に特訓をし、剣を振るい続けている。
「やあ、精が出てるね空山。雫もお疲れ様」
「どうも……伸びは相変わらず悪いけどな」
いつの間にかこの場に来ていた天之河が話しかけてきたので、ソウジは嘆息と共にそう返す。
いくら戦闘系の天職とはいえ、ステータスが平凡ではキツすぎる。南雲のような非戦系なら別の選択も可能だが、戦闘系だから逆にそれ以外の選択が選べない。
そして、時間を割いてつき合ってくれている八重樫に少しでも応えようと、少しでも戦えるようになるように、こうして特訓しているのだ。
ちなみに八重樫曰く筋はかなり良いそうで、もし早くから学んでいれば今頃全国クラスの腕前になる程だそうだ。その実感は全く無いが。
「ひょっとして時間なのかしら?」
「ああ。そろそろ訓練の時間だからその事を伝えにね」
八重樫の言葉に天之河は頷きながら肯定する。
ソウジは八重樫と天之河、途中で合流した白崎と坂上と共に訓練施設へと向かっていく。
訓練施設に到着―――の直前である現場の光景が目に映ったソウジは“縮地”を使ってその現場―――小悪党四人組が南雲もリンチしている現場へと急行する。
「何をやっているんだ?」
「ああ?特訓だよ、とっ・く・ん。南雲のためにな」
檜山の肩を掴んで厳しい声で詰問するソウジに、ソウジの顔を見た檜山はゲスな笑みでそう答える。近藤、中野、斎藤も同様な笑みを浮かべている。
「そうだ空山。お前の「何やってるの!?」―――ッ!?」
ソウジも南雲同様にリンチしようとした檜山達は、遅れてやって来た白崎、八重樫、天之河、坂上に萎縮し、身勝手な弁明をしながらそそくさと退散する。
白崎は南雲の治療をしながら何時もされていたのかと問うと、南雲はそんな事無いと弁明する。白崎は納得できなさそうな顔に、南雲は笑顔を見せて再度「大丈夫」という意思を伝える。
「だが、南雲も空山のようにもっと努力するべきだ。聞けば、訓練の無い時間は図書館で本を読んでるそうじゃないか。もう少し真面目に「――天之河」―――空山?」
天之河の南雲への忠告をソウジは遮り、厳しい目で天之河を睨みつける。
「どうして南雲が図書館で本を読んでいるかちゃんと考えて言っているのか?南雲は思うように成長できず足を引っ張ると実感しながら、それでも皆の力になろうと知識と知恵で皆に貢献しようと考えて本を読んでいるんだ。それを不真面目?もっと努力すべき?この話を聞いてもそう思うのか?」
南雲はこの二週間で自身の役たたずぶりを痛感し、その上魔法の適性も無かったのだ。それでも南雲は自身に出来る事を必死に探し続けている。
いくら悪意が無いとはいえ、友人の頑張りをそんな風に解釈されるのは、言っても無駄と分かっていながらもソウジは黙っていられなかった。
それに対し天之河は……
「だが、弱さを言い訳にすべきではないし、知識が役に立つとも限らないだろう?それに檜山達もそんな南雲をどうにかしようとしただけかもしれないだろ?」
「……チッ」
予想通り、天之河のふざけた返答にソウジは苛立ちを露に舌打ちしそのまま先に訓練施設へと向かっていく。
チラリ、と後ろを向くと八重樫がこちらに向かって頭を下げていたのでソウジは手をヒラヒラと振って返した。
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訓練が終了した後は、いつもなら夕食まで自由時間であり、その間は南雲と一緒に図書館で本を読んでこの世界について勉強しているのだが、伝える事があるとメルド団長に引き止められた。
「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く!」
メルド団長から告げられた危険地帯への遠征に、ソウジは遠い目をした。
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