魔王の剣   作:厄介な猫さん

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これは都合がよすぎかなぁ·····?
てな訳でどうぞ


関係変化?

ライセンの大迷宮に潜ってから一週間が経過した。

この一週間の間、スタート地点に戻されること七回、致死性トラップが十四回、全く意味のない嫌がらせが百六十九回と、散々な目に合い続けていた。早々に死にはしないが精神をごっそりと削り続けられ、四日目辺りから全員、もうどうでもいいやぁ~みたいな投げやりな心境になった。

その甲斐もあって、構造変化には一定のパターンがあることがわかり、現在は休息を取っている。ユエとシアはハジメに寄り添い、アタランテはソウジの隣で寝ていた。

 

 

「相変わらず、寝ている間の気配は感じとれないな……」

 

 

見張り役で起きているソウジは、安らいで眠っているアタランテを見てそんなことを呟く。アタランテは“適応力”によって、寝ている間は自動で気配を遮断する技能を有しているそうだ。最初の頃は強張ったような寝顔だったが、今は真逆の安心しきった寝顔だ。おそらく今は大丈夫だという安心感から安らげているのだろう。

 

 

「最初は情報源の肉壁として連れてきたのに、今や頼れる仲間か……」

 

 

この迷宮ではアタランテによく助けられている。防御魔法を使って迫り来るトラップを防いだり、飛行能力を使って運んだりと大盤振る舞いである。

 

 

「そういえば、この世界を見て回った後、どうするんだ……?」

 

 

ここに来て思い至った疑問を口にすると、アタランテが身動ぎし、目を覚ました。

 

 

「ん……」

 

「起きたかアタランテ」

 

「ああ……」

 

 

数少ない言葉のやり取り。ソウジとアタランテの間に沈黙が漂い始めるが、ソウジは先ほど気になったことをせっかくなので聞いてみることにした。

 

 

「なぁ、アタランテ。オレ達が元の世界に帰ったら、お前はそも後どうするつもりだ?」

 

「···お前達が帰った後は再びこの峡谷で暮らす。一人だけであやつらに太刀打ちできるとは思っていないからな。そう、考えてはいたが……」

 

 

アタランテは顔を俯け、消え入りそうな声で吐露し始める。

 

 

「今は元の生活に戻るのが堪らなく嫌なんだ。頭に来たりもするが、新鮮で、輝かしく、温かく感じられる今の生活を手放すのがすごく嫌なんだ。だけど、お前達が帰った後で今の生活は送れはしない。いずれあいつらに見つかって再び追われるのは目に見えている。もしくは私が幸せなタイミングで襲撃するかのどちらかだ。だから大人しく元の生活に戻るか、死を覚悟してこの生活を続けるかのどちらかなんだ……」

 

 

同行直前だったなら、「ふ~ん。あっそ」で流していただろうが、三週間近くも一緒だと自然に情というものが出てきてしまう。だから、ソウジの口から自然とその言葉が口に出た。

 

 

「なら、一緒にくればいいだろ」

 

「……は?」

 

 

ソウジの言葉が理解出来ないのか、呆けた顔をしてこちらを見るアタランテに、ソウジは構わず言葉を紡いでいく。

 

 

「ユエと、どうせシアも一緒に来るんだ。だったら今さら一人、二人増えたところで変わらない。向こうの世界は色々制限ができるから住みにくいかもしれないが、料理も美味いし、娯楽もあるから退屈はしない筈だ」

 

「……いいのか?」

 

「ああ。帰ってからの面倒ごとはあるがそんなもん今さらだし、そこんとこは帰ってから考えればいいだろ」

 

 

口調こそ連れ出しの時と同じだが、そこには打算がなく、“情”から出てきた言葉に、アタランテの顔は自然と微笑んだ顔となる。

 

 

「……そうか。なら遠慮なくその言葉に甘えさせてもらうとしよう」

 

「ついでにオレの家族にも紹介してやる。この世界で出会った仲間としてな」

 

 

その瞬間、アタランテの顔が何故か一気に真っ赤となった。

 

 

「か、家族に紹介だと……!?ユエから聞いた話では、家族への紹介はそういった話だということ。つまり……いやいや、仲間として紹介すると言っていからそんな意味ではないだろう!そうなんだろう!?」

 

「……いきなり何を言ってんだ?」

 

 

見事なまでに動揺しまくっているアタランテに、ソウジが冷めた目をしていると。

 

 

「「…………(ニヤニヤ)」」

 

 

いつの間にか起きていたハジメとユエがニヤニヤした顔でこちらを見ていた。

 

 

「……何時から見ていた?」

 

「アタランテが元の生活に戻るという辺りから」

 

「……ん。美味しくいただきました」

 

 

ほとんど最初から見ていた事にソウジは青筋を浮かべ、アタランテは両手で顔を覆って隠す。

 

 

「こ……これが恥ずかしいという感情なのか……?」

 

「……大丈夫。それは誰もが通る道だから」

 

「~~~~~~~ッ!!!」

 

 

ユエの言葉が止めになったのか、声にならない声で呻き声を上げ始めるアタランテ。

 

 

「まるでプロポーズみたいだな、ソウジくん?」

 

「喧嘩を売ってるのか?上等だ。今すぐ買ってやる。表に出ろ」

 

 

不敵な顔でからかうハジメに、ソウジはこめかみに青筋を浮かべたまま、腰の刀に手をかけてハジメを睨み付けるも。

 

 

「むにゃ……ハジメしゃん、大胆ですぅ~、お外でなんてぇ~…………」

 

「「「「…………」」」」

 

 

未だ夢の世界にいるシアの寝言で、空気が死んだ。アタランテの照れ顔は引っ込み、ソウジとユエはジト目、ハジメは笑顔でシアの鼻と口を塞いだ。

 

 

「ん~、ん?……んーー!!んんーーー!!ぷはっ!はぁ、はぁ、な、何をするんですか!」

 

 

ぜはぜはと荒い呼吸をしながらシアは猛然と抗議するも。

 

 

「黙れ変態ウサギ。お前のせいでせっかくの場が白けたんだぞ。むしろKY変態ウサギだな」

 

「……KYって、なに?」

 

「空気が読めない、KYはその略称だ」

 

「……成る程。語呂がいい」

 

「ちょ、ちょっと!?何で起きて早々、そんな事を言われるんです!?私の知らない間に何があったんですかぁ!?」

 

「自分の頭で考えろ。この残念ウサギが」

 

「それよりもお腹が空いた。だからご飯を作れ」

 

「本当に何なんですかぁ。ちくせう」

 

 

ハジメ、ソウジ、ユエの三人から散々罵倒され、アタランテから食事を催促されたシアは、少々やさぐれた様子で料理を作り始める。

作り出された料理を平らげた後、五人は再び迷宮攻略を開始した。嫌らしい数々のトラップ(金だらい、巨大ミミズのような魔物、謎の白い液体、等)とウザイ文(子供騙しの罠に~とか、この子と熱い抱擁を~とか、発情しちゃった~、等)にうんざりしながら……

 

 

 




日常バージョン

「それにオレらの世界にも美味い飯はあるし」

「どんなご飯があるのだ!?」

「寿司にラーメン、カレーに豚の角煮、ビーフシチューやピザ、後、おでんに中華まんとか·····」

「聞いただけでも美味しそうだな!フフフ····」

(·····長い尻尾があったら絶対振っているだろうな)

だらしない顔でヨダレを垂らすアタランテの図

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