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てな訳でどうぞ
戦いが終わり、荒い息を立てるシアにハジメが優しげな眼差しで称賛の言葉を投げ掛ける。
「シア、最後のは見事だった。見直したぞ」
ハジメのその言葉と眼差しにシアは信じられないものを見た顔となる。
「これはひょっとして夢ですか?ハジメさんが凄く優しい目を……」
とりあえず、ソウジは自らの頬っぺたをつねっているシアを無視し、肩を貸しているアタランテに話しかける。
「アタランテもお疲れさん。まだ体は重いか?」
「ああ。これを使うのは本当に久しぶりだったからな。もう少しだけ肩を貸してくれ」
ソウジの問いかけに汗を滲ませたままアタランテはそう答える。使徒の擬似的な限界突破は、一般的な限界突破と同じようだが、神から魔力供給を受けていると終始使い続けられるようであり、決別してからは一度も使っていなかったそうだ。
「別に構わないさ。何ならおぶってもいいぞ?」
「……そこまでしなくて大丈夫だ」
ソウジの言葉にアタランテは僅かに顔を赤め、そっぽを向いて断る。ソウジは軽く流し、ユエに頭を撫でられて褒められているシアに視線を向けていると。
「あのぉ~、いい雰囲気で悪いんだけどぉ~、ちょっといいかなぁ~?」
聞き覚えのある声。ソウジ達はハッとしてそちらに目を向けると、ミレディから消えていた筈の目の光がいつの間にか戻っていた。それを見るや否や、ハジメはパイルバンカーの杭を、シアはドリュッケンを、ソウジは竜殺剣を手に、確実にトドメを刺そうと構える。
「ちょっと、ちょっと、大丈夫だってぇ~。核の欠片に残った力で話す時間をとっただけだからぁ~。もう数分も持たないし」
「なら、何の用で話しかけた?“クソ野郎共”を殺してくれっていうなら聞く気はないぞ?」
「もし強制するなら、今すぐ黙らせるぞ?」
ハジメとソウジの機先を制するような言葉に、ミレディは苦笑いめいた雰囲気で答える。
「言わないよ。話したい……というより忠告だね。君達の望みを叶えたいなら、必ず私達全員の神代魔法を手に入れること……それが望みを叶えるのに、必要なことだからね」
「なら他の迷宮の場所も教えろ。失伝してるからほとんどわからねぇんだよ。後、どの迷宮でどの神代魔法が手に入るのかも一緒にな」
「あぁ……迷宮の場所がわからなくなるほどだったんだね……少なくとも八百年以上は経っているから当然か……一度しか言えないからよく聞いてね……」
ミレディはそう言い、大迷宮の場所とそこで得られる神代魔法を教えていく。
「砂漠の中央にある大火山【グリューエン大火山】。そこで得られる神代魔法は“空間魔法”」
あの時砂漠に向かっておけば良かったかな?と一瞬思うが、ミレディの話からして全部獲得しないといけないようなので、あっさりと割り切る。
「西の海の沖合周辺にある【メルジーネ海底遺跡】。そこで得られる神代魔法は“再生魔法”」
樹海とは対極の位置に必要な神代魔法がそこにある事実に、彼らの意地の悪さに内心でうんざりする。
「教会総本山【神山】。そこで得られる神代魔法は“魂魄魔法”」
まさかの敵の本拠地と言える場所に迷宮があったことに、内心でそんなところに作るなよ!とツッコミを入れる。
「東の樹海にある大樹ウーア・アルト【ハルツィナ樹海】。そこで得られるのは“昇華魔法”」
そこは既に把握していたので聞き流して最後の言葉にだけ耳を傾ける。
「最後は大陸南側の東にある大雪原【シュネー雪原】。そこでは“変成魔法”が得られるよ……」
やっぱり魔人領の場所にあったのかと、神山並に面倒くさい場所にあることに再び内心でうんざりする。前者よりかは遥かにマシだが。
「以上だよ……頑張ってね」
「……随分としおらしいな」
「確かに、あのウザったい口調やセリフはどうした?」
「あはは、ごめんね~。あいつらはホントに嫌なヤツらでさ……嫌らしいことばっかりしてくるんだよね……だから少しでも……慣れて……」
「素で煽っていたヤツがそんなこと言って説得力あると思ってんのか?」
「あのウザったい文にアタランテが反応している時点でお前のそれが素であることは確定してるんだよ」
ミレディの言葉を遮り、バッサリと切り捨てるハジメとソウジ。アタランテもウンウンと頷いている。
「あはは、辛辣だな~。ぺったんこちゃんはあの時から本当に厄介だったから、事前に周知させておこうとしてたんだけど……」
ミレディはそう言い、次第に弱くなっている眼光を眉間にシワをよせているアタランテにへと向ける。少しの沈黙の後、ミレディはアタランテに話しかける。
「今の君は
「……ああ、
「……そっか」
二人にしか分からないやり取り。微笑みながらそう答えたアタランテに、ミレディはどこか納得したような雰囲気を出し、アタランテから眼光を外した。そして、体から燐光のような青白い光に包まれ、それは蛍のようなちいさな光となって天へと登っていく。
「……時間だね……君達のこれからも……自由な意志の下に……あらんことを……」
その言葉を最後に、光は天へと消えていった。
「……最初は、根性が捻じ曲がった最悪の人だと思ってたんですけど、違ってたのかもしれませんね……」
どこかしんみりとした雰囲気でシアはそう言うも。
「イヤ、断言する。あれは絶対に素だ」
「同意見だ。あのウザさは絶対に演技じゃない」
「どっちもミレディ・ライセンだが、それとこれとは話は別だ」
「…………」
ハジメとソウジ、アタランテは真っ向からシアの言葉を否定。ミレディにシンパシーを感じていたユエは悩ましげな顔でどうするべきか悩んでいる。ユエ自身はシアの意見に賛同したいが、あのウザさが素である可能性が先のやり取りでも濃厚なため、素直に賛同出来ないのだ。断じてアタランテに放たれた文字の流れ弾からの恨みではない。断じてその恨みからではないのだ!!
そうしていると、いつの間にか壁の一角が光を放っていることにソウジ達は気がつき、その場所を目指そうと浮遊ブロックの一つに飛び乗った途端、その浮遊ブロックがスィーと勝手に動き出し、光る壁に向かって進んでいく。
「「「「…………」」」」
「わわっ、勝手に動いてますよ、これ」
勝手に運んでくれる浮遊ブロックにシアは驚くも、シア以外は嫌そうな表情だ。浮遊ブロックはそのまま光る壁に到達。その奥に隠されていた白い壁で出来た通路を進んでいき、オスカーの隠れ家へ続く扉と同じ、七つの文様が刻まれた壁へと到着する。
壁がスライドし、壁をくぐり抜けた瞬間。
「やっほー。さっきぶりぃいいいいいいいいッ!?」
聞き慣れた声を出した、何となく七○の小人を連想させる小さいゴーレム―――ミレディはユエが発動した中級魔法によって吹き飛ばされた。
「ちょ、ちょっとぉおおおッ!?いきなり魔法は酷いんじゃないかなぁ!?」
「……さっきのは?」
ミレディの文句に構うことなくユエが先程のことを問いただす。ここでは分解作用が働いていないとわかり、さっきより大きめの火球を右手に携えている。
「あれは“演出”だよ!中々よかっ―――」
ズガンッ!
ミレディの言葉を遮るように、すぐ隣で衝撃音が響く。ミレディがブリキのようにギギギッとそちらにニコちゃんマークがついている白い仮面を向けると、シアのドリュッケンが降り下ろされていた。
さすがにやり過ぎたと察したミレディは·······
「……ゴメンね?」
軽すぎる謝罪をした。それを皮切りに、ユエとシア、そして······
「器が小さすぎるよぉ!そこのぺったんこちゃんの胸みたいにぃいいいいいいッ!?」
「死ねッ!!」
ぺったんこ発言で遂にぶちギレたアタランテによる、ミレディ戦・第二ラウンドが開始された。
――――――――――――――――――――――――
第二ラウンドで若干ボロボロになったミレディが神代魔法を授ける魔法陣を起動し、ソウジ達は神代魔法―――“重力魔法”を手に入れた。
「金髪ちゃんとぺっ……緑髪ちゃんの適性はばっちりだね。灰髪くんはそこそこ、白髪くんとウサギちゃんはびっくりするレベルで適性がないね!」
「やかましい。錬成に使えれば十分だ」
「後これ、攻略の証だよ」
ミレディはそう言って上下の楕円を一本の杭が貫いているデザインの指輪を渡す。
「……これだけか?」
「……え?」
「お前の持っているアーティファクト類と感応石みたいな珍しい鉱物類、全部よこせ。攻略の報酬にな」
「……完全に強盗のセリフだよ?」
ハジメの要求にミレディは呆れつつも、大量の鉱物類を虚空から取り出していく。
「お前も宝物庫持ちか。ならそれごと渡せ」
「あ、あのねぇ~。残りは全部迷宮の修繕とか維持管理とかに必要なの。だからこれ以上渡すものはないの」
「知らん。さっさとよこせ」
ソウジは容赦なくミレディに全部渡せと要求し続ける。ミレディは残りは迷宮以外には使えないと説明しても全く変わらず。その上、鉱物類を宝物庫に仕舞ったハジメも参戦し、ミレディは浮遊ブロックを使って天井付近に離脱する。
「君達の価値観、明らかにおかしいよ!何で私がオーちゃんに言われたことを……」
「そのオーちゃんの迷宮で培った価値観だ」
「同じく」
「オーちゃぁーーーん!!……こうなったら、君達を強制的に外に出すからねぇ!」
ミレディはそう言って、いつの間にか天井にぶら下がっていた紐を掴んで、グイッと下に引っ張った。
ガコン!!
聞き慣れたトラップの作動音が響くと同時に、四方の壁からとてつもない勢いで水が流れ込む。そして、部屋の中央にぽっかりと穴が空き、一気にトイレのように流れていく。
「嫌なものは、水に流すに限るネ☆それじゃ、迷宮攻略頑張りなよぉ~」
「いつか絶対破壊してやる!」
「……許さない」
「覚えてろよ!」
「絶対にお前の生前の彫像を全裸で作ってやる!」
「殺ってやるですぅ!」
ソウジ達は捨て台詞を吐きながら、なすすべなく激流に呑まれ穴へと吸い込まれていった。
「ふぅ~、濃い連中だったねぇ~。それにしてもあの子はオーちゃんと同じ錬成師で、ぺったんこちゃんはああなるなんてね……本当に不思議だね……」
ミレディはそう独りごちりる。そして、天井に刺さったナイフとそれにぶら下がる黒い物体を発見する。
「……へっ!?」
黒い物体―――手流弾にミレディは焦りの表情を浮かべ、急いで離脱しようとするも、時すでに遅し。その瞬間、手流弾は爆発し、部屋をボロボロにした。
爆発から何とか生き延びたミレディは、修繕が更に大変になった事で泣きべそを掻くこととなった……
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