てな訳でどうぞ
ミレディによって汚物の如く流されたソウジ達は、激流で満たされた地下トンネルのような場所を猛スピードで流されていた。息継ぎできるような場所もないのでひたすら水中を進んでいると、自分達を追い越していく幾つもの影を視界に捉えた。
目を凝らして見ると、それは魚で、どうやらここは他の川や湖とも繋がっている地下水脈のようだ。魚達は逞しく泳ぎ、どんどんソウジ達を追い越して行く中、その内の一匹が、アタランテの首周りにしがみついて必死に息を止めているシアの顔のすぐ横を並泳していた。
シアはその魚―――おっさん顔の人面魚と目があい、驚愕に目を見開いて、思わず息を吐きそうになる。アタランテの首に回している腕にも力が籠ってしまい、アタランテは緩めるようにとシアの腕を叩く。だが、シアは驚愕のあまり、その人面魚から視線を逸らせず、腕の力も緩められない。アタランテはシアの腕を強引に緩めさそうとした瞬間。
―――何見てんだよ。後、そっちの嬢ちゃんが苦しんでるだろ
舌打ち付きの声がシアとアタランテの頭に響いた。シアはそれが限界で腕の力を強めて盛大に息を吐き出してしまい、アタランテも突然頭に響いた声に加え、首周りの腕の締め付けが強くなったことでシアと同じく息を盛大に吐き出してしまう。
こうして二人は、力なく水中を流されることとなった。
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ブルックの町へ向かう街道の傍にある泉にて。その泉の中央から泡が立ち、一気に水が噴き出し始める。噴き上げる水は激しさを増し、高さ十メートル以上はある水柱へと変わる。
「どぅわぁああああああああーー!!」
「んっーーーーーー!!」
「ぬぁあああああああああーー!!」
「「…………」」
その噴き上がる水柱からソウジ達が飛び出し、岸の近くにへと落下、着水する。
「ゲホッ、ガホッ、~~っ、ひでぇ目にあった。全員無事か?」
「ケホッ、ケホッ……ん、大丈夫」
「ゴホッ……こっちもだ」
何とか水面に上がり、ハジメが全員の安否を確認するも、返ってきたのはユエとソウジだけだった。
「シアとアタランテはどこだ?」
「……!あっち!」
ユエが気付き、指を指した方にハジメとソウジが視線を向けると、そこには顔を水面につけ、プカプカと浮かんで微動だにしないアタランテがいた。
「!!ソウジはアタランテを頼む!俺はシアを!」
アタランテの状態からシアの状況を察したハジメはそれだけ言って水中に潜る。ソウジも急いでアタランテの下まで泳ぎ、担ぎながら岸に上がる。アタランテを仰向けにして寝かせると同時にハジメも意識を失ったシアとともに水面から顔を出し、岸へと上がる。
アタランテとシアはどちらも呼吸と心臓が止まっている。このままでは命に関わってしまう。なのでソウジはアタランテに心肺蘇生を試みる。当然、まうすとぅーまうすになるが一刻を争う事態なので一切躊躇わずに心肺蘇生を繰り返す。シアの方はハジメがやっているようで、ユエの無機質な視線を浴びている以外は問題ないだろう。
そうして人工呼吸を何度も続けていると、アタランテが遂に水を吐き出す。水が気管を塞がないように顔を横を向ける。
「ケホッケホッ……」
「取り敢えずこれで大丈夫か……」
ソウジがそう言ってホッとした瞬間、アタランテの顔が一気に真っ赤に染まり、両手で顔を覆ってソウジから顔を背けた。
「?どうしたんだ?」
「どうしたんだ?ではない!!お前は、わ、わ、わ、私のく、く、唇をあ、あんなに……~~~~~~~ッ!!!!!!」
アタランテはそう言って、羞恥からゴロゴロと地面を転がり始める。実は、アタランテは途中から意識がぼんやりと目覚めており、何度もキスされたことと、ぼんやりとしていたため、最初は処理しきれずに思考停止。水を吐き出した後、思考がクリアになったことで一気に羞恥心が襲いかかってきたのだ。ちなみにシアは強引にハジメの唇を奪い、それを見たユエはめちゃくちゃ不機嫌そうに見た後視線を外し、ソウジ達の方を見てニヤリと笑みを浮かべている。
「何!?何!?何ですか、この状況!?皆さん濡れてますし、あちらの方はあんなに絡みついて……ア、アブノーマルだわっ!!」
「あら?どうしてあなた達がここに?」
突如声がしたのでソウジがそちらに目を向けると、そこには妄想過多な宿娘ソーナに、体をくねらせているクリスタベル。そして、嫉妬の炎を瞳に宿す男の冒険者達とそんな男連中を冷めた目で見ている女冒険者だった。
「店長さんか……どうしてここに?」
「ちょっと店で売る商品の素材を取りに町を出ていたのよぉ~。ソーナちゃんは隣町の親戚のお見舞い、他の子は任務帰りだから一緒にねぇ~」
ソウジはトリップ娘を無視してクリスタベルに話しかける。話しかけられたクリスタベルも丁寧にここにいる理由を答えていく。
「それにしても驚いたわぁ~。帰りの休憩で立ち寄った泉から水柱が噴き出して、そこからあなた達が出てくるなんてねぇ~。お熱い展開もあったしぃ~♪」
「……救命活動で期待されても困るんだが」
「そうなのぉ~?でも、なんの躊躇もなかったわよねぇ~?」
「……」
クリスタベルのその言葉には無言を貫くソウジ。その間にハジメはシアを泉に投げ飛ばし、投げ飛ばされたシアは貞○のように這い上がって来る。
その後、ちょうどブルックの町から一日ほどの場所だとわかり、ソウジ達も町に寄って行くことにした。
その間、顔がいまだに真っ赤のアタランテがクリスタベルとユエに何かを吹き込まれていたようだが、特に気にせず聞き流していた。
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ブルックの町に到着し、再び“マサカの宿”に宿泊したその日の晩……
「そんじゃ、寝るぞ」
「…………」
この前と同じ部屋割りで、同じように寝ようとするソウジとあれ以来、ソウジに対して何処かぎこちなくなっているアタランテ。まぁ数日したら元に戻るだろうとソウジは考え、ベッドに潜る。ここで何時もならアタランテは隣のもうひとつのベッドに潜るのだが、その日は違っていた。
アタランテは意を決したような顔になり、そのままソウジが寝るベッドに潜り込んできたのだ。
「?どうしたんだ急に?」
「……今日からソウジ、お前の隣で寝かせろ……」
「何でだよ?」
意味がわからないといった感じで聞き返すソウジに、アタランテはボソリと理由を口にする。
「お前のことが……す、好きになってしまったのだ……」
「…………」
アタランテの告白に、ソウジは呆けた顔になる。しかし、直ぐに理解し、訝しげな顔に変わる。
「それ、本気で言ってるのか?単に状況に流されただけじゃないのか?」
「確かにそうかもしれない……だが、こんな思いは初めてなのだ……だから……」
アタランテはそう言ってソウジに覆い被さる。
「こんな貧相な身体でも、お前を楽しませられる事で証明しよう……ユエから教わった方法でな」
「ユエェエエエエエエッ!?」
吸血姫の入れ知恵にソウジは堪らず叫び声を上げる。その後は……ソウジはろくに抵抗しなかった、とだけ言っておこう。
ちなみに……
「ごめんなざぁ~い、もうしまぜぇ~ん」
「覗き魔死すべし。慈悲はない」
宿の外、ユエからのお願いで、お邪魔虫を排除するハジメの姿があった。この後、覗き魔は母親に尻叩き百発の刑を食らうこととなった。
ユエとクリスタベルの助言(?)を実行したアタランテさんと、喰われた(意味深)ソウジくんでした
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