てな訳でどうぞ
あれから一週間が経過した。
この一週間の間、ユエ、シア、アタランテを手に入れようと数知れない人物が決闘騒ぎを起こしたが、それをハジメとソウジが尽く撃退していた。
ハジメはユエとシア目当ての連中の、決闘の“け”の部分で発砲、ゴム弾を頭部に食らった挑戦者は三回転ひねりの後、地面とキスする結果で幕を閉じていた。
ソウジの方はアタランテ目当ての連中をハジメ同様、“け”の部分から抜刀、挑戦者の衣服を全て切り裂いて裸族にするというドン引きの所業を敢行していた。
そんなわけで、この町には“スマッシュ・ラヴァーズ・カルテット”、略して“スマ・カル”という実に不名誉なチーム名が浸透してしまう結果となった。名前の由来は“決闘スマッシャー”のハジメとソウジ、最初にこの町に来たとき、相手の股間にキック&ブレイクを実行した“股間スマッシャー”のユエとアタランテからだ。シアは自身の存在の薄さに涙した。
もうお分かりの通り、ソウジとアタランテは付き合うこととなった。その時ユエは「……ん。おめでとう」と素直に祝福。シアは「羨ましいですぅ!!私もハジメさんと……」と、羨ましげにし、ハジメは「肉壁から恋人になったのか……チョロ」と、過去の発言を交えてからかった。その時、ソウジがキレてハジメに斬りかかったのは言うまでもない。
もちろんそれだけではない。重力魔法等を手に入れたことで新しい兵器の試行錯誤、鍛錬に時間を費やしていたのだ。
その結果として、ソウジは新しい技能も手に入れた。剣術の派生技能―――“魔法剣術”と“魔法剣術:限定複合魔法”である。
この“魔法剣術”は、剣を介して扱う魔法に適性補正がかかるという、かなり便利な技能である。“魔法剣術:限定複合魔法”は名称の通りの技能である。
この二つの技能のおかげで、ソウジの以前の試みが成功したり、厨二臭い技を作り出せたのだが、今はいいだろう。
ハジメも、アタランテに協力してもらい、丸三日かかってアタランテの“魔力分解耐性XVI”が付加された腕輪を作り出した。この腕輪を装備すれば多少魔力の消費が上がるがほとんど魔力が分解されなくなり、安定して魔法を使うことが出来るようになる。いずれ来るであろう“神の人形共”に有効なカードの一つになる筈だ。腕輪以外にも、一緒にいたソウジとも協力して、重力魔法を利用した新たな兵器も開発出来たので、そろそろブルックを旅立つつもりだ。なので、ギルドの部屋を無償で貸してくれて世話になったキャサリンに別れの挨拶をしに、ギルドに来ていた。
「そうかい。明日行っちまうのかい……寂しくなるねぇ。あんた達が戻ってから賑やかだったんだけど」
「勘弁してくれよ」
「全くだ。変態が七割を占めているし、オレらにも目的があるしな」
現在、ブルックの町には四大派閥が出来ており、その名前が「ユエちゃんに踏まれ隊」、「アタランテちゃんに蹴られ隊」、「シアちゃんの奴隷になり隊」、「お姉さまと姉妹になり隊」である。それぞれが文字通りの願望を抱え、実現した隊員数で優劣を競っている。特に最後の集団はハジメとソウジを排除しようとしており、一度、ナイフを片手に突っ込んできた少女がいたが……
その少女の末路は、素っ裸で亀甲縛りモドキで縛られ、一番高い建物に吊るし上げられた挙句、“次は殺します”と書かれた張り紙と切り裂いた衣服を引っ付けられて放置されるという結果だった。その所業と淡々と書かれていた張り紙の内容に、その集団の過激な行動がなりを潜めたので正解だったとハジメとソウジは思っている。
「まぁまぁ、活気があったのは事実さね」
「嫌な活気だな。後、目的地関連で依頼があれば受けておくが?」
「そうかい。で、何処に行くんだい?」
「商業都市のフューレンだ」
ソウジが行き先を告げ、キャサリンはフューレン関連の依頼がないか探し始める。
ソウジ達の次の目的地は【グリューエン大火山】だが、その途中に【中立商業都市フューレン】があるので、一度寄ってみようという話なったのだ。グリューエンの次は、再生魔法が手に入る大迷宮【メルジーネ海底遺跡】である。
「なら、ちょうどいいのがあるよ。商隊の護衛依頼だけど……どうだい?」
キャサリンがそう言って依頼書を差し出し、ハジメがそれを受け取る。連れの同伴はいいようである。
「どうすっかな?」
「確かにどうするかね……」
足並みを揃えなければならない依頼なので、意見を求めてユエ達の方に振り返る。
「……急ぐ旅じゃない」
「そうですねぇ~、たまにはいいんじゃないですか?ベテランのノウハウとかもあるかもしれませんし」
「無理をして急ぐ必要もないだろう」
「……確かにそうだな。急がば回れとも言うし」
「確かにな。急いだ結果、苦労する羽目になったから、たまにはいいか……」
ユエ達の意見と、ライセンの迷宮を急ぎ足で挑んだ結果、苦労して失敗だったことを考慮し、依頼を受ける方向で決め、ハジメがキャサリンに依頼を受けると伝える。
「あいよ。先方にはちゃんと伝えとくから、明日の朝一で正面門に行っとくれ。あと、これ」
キャサリンはそう言って一通の手紙を差し出す。それをハジメが疑問顔で受け取る。
「これは?」
「あんた達、色々と厄介なものを抱えてそうだからね。連中が迷惑をかけたお詫びようなものさ。他の町のギルドと揉めた時は、その手紙をお偉いさんに見せな。少しは役に立つ筈だよ」
バッチリとウィンクするキャサリン。本当にこの人はただ者ではなさそうである。
キャサリンに見送られてギルドを立ち去った後、ユエ達からのお願いでクリスタベルの店にも行ったのだが、町を出ると聞いた瞬間、クリスタベルは最後のチャンスとばかりにハジメとソウジを強襲。ハジメは恐怖あまり振動破砕を使おうとし、ユエとシアがそれを必死に止める。その間にソウジがクリスタベルに手刀を脳天に叩き込み、クリスタベルを正座させる。そして、強襲したことを謝らせ、アタランテがそれを見て苦笑いするという珍事があったが……詳しい話は割愛させていただく。
ソーナの方も堂々と風呂場とハジメの部屋に突撃、ぶちギレた母親に引きずられながらも、今度はソウジの部屋に行こうと必死に足掻き、その結果、母親に本物の亀甲縛りをされて一晩中、木馬の上に固定されて宿の玄関に放置されるという事件が起きた話も当然割愛。なぜ、母親が亀甲縛りを知っていたのか、木馬についても割愛である。
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翌日早朝。
正面門にやって来たソウジ達を迎えたのは商隊のまとめ役と他の護衛依頼を受けた冒険者達だった。どうやら自分達が最後だったようで、まとめ役らしき人物と十四人の冒険者が、ソウジ達を見て一斉にざわめいた。
「お、おい、まさか残りの五人は“スマ・カル”なのか!?」
「マジかよ!?」
「なぁ、さっきから手の震えが止まらないんだが?」
「それはお前がアル中だからだろ?」
冒険者の反応に、ハジメとソウジは嫌そうな表情となる。その表情のまま、ハジメが代表として商隊のまとめ役らしき人物に近寄っていく。
「君達が最後の護衛かね?」
「ああ」
ハジメはそう言って懐から依頼書を取り出してまとめ役の男に見せる。男はそれを見て納得したように頷き、自己紹介を始める。
「私の名はモットー・ユンケル。この商隊のリーダーをしている。君達のことはキャサリンさんから大変優秀だと聞いている。道中の護衛は期待させてもらうよ」
「……まぁ、期待は裏切らないさ。俺はハジメだ」
「それは頼もしいな……ところで、そこの兎人族……売るつもりはないかね?それなりの値段を付けさせてもらうが」
モットーはそう言って、値踏みするような視線をシアに向ける。当然ハジメの答えは決まっている。
「そこそこ優秀な商人のようだから答えはわかるだろ?例え、どこぞの神が欲しても手放す気はない……理解したか?」
「……仕方ありませんな。ですが、その気になった時は是非、我がユンケル商会をご贔屓にお願いします」
モットーはそう言って商隊の方へと戻っていく。この色々と“やり過ぎた”言葉でシアがハジメに惚れ直したのは言うまでもない。
「もれなくワイルドで好戦的、暗殺してくるウサギ達がついてきます」
「金の代わりに命を要求するウサギ達が必ずついてきます」
「い、いらない!!」
日常での交渉打ちきり術
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