魔王の剣   作:厄介な猫さん

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·····浮かばない
てな訳でどうぞ


依頼人は虎の尾を踏みかける

ブルックからフューレンまでは馬車で約六日の距離がある。

日の出から出発し、日が沈む前に野営の準備に入る。それを繰り返してはや三日。ソウジ達は隊の後方を預かっているが、特に何もなく実にのどかなものである。

その日も野営の準備に入り、食事の準備をしていく。冒険者の食事関係は本来は自腹であり、任務中は簡易な食事で済ますのが当たり前である。凝った食事の準備はそれだけで荷物が増えて邪魔になるそうだ。何故本来なのかと言うと……

 

 

「カッーーー、うめぇ!シアちゃんの料理、本当に最高だぜ!!」

 

「ガツッガツッ、ゴクンッ、シアちゃん、俺の嫁にならないか!?」

 

「それより町についたら一緒に食事でもどう?もちろん、俺の奢りで!

 

「なら俺はユエちゃんと食事に!」

 

「アタランテちゃんも俺と一緒に食事しないか?」

 

 

冒険者達はうまうまと、シアが調理したシチューモドキを次々と胃に収めていっているからだ。初日の食事で彼らが干し肉や乾パンといった携帯食を食べている横で、ソウジ達は普通に宝物庫から食器と材料を取り出して料理を作り始めたのだ。熱々の美味しい料理を前に全冒険者は涎を滝のように流し、血走った目で凝視するという光景が出来上がり、物凄く居心地が悪くなったシアが、お裾分けを提案したのだ。

野営の食事はシアが受け持っているのでその提案はハジメも断りづらかったが、アタランテが真っ先に反対していた。理由は「私の食べる量が減ってしまう」からという、食欲旺盛な理由からだ。だが、シアに「あんまりごねたら作りませんよ?」と言った途端、百八十度変わってお裾分け賛成の立場に回った。しっかりと胃袋をシアに掴まれているようである。

そんなわけで、冒険者達は食事の時間にこぞって群がり、今では口説くまでに調子に乗ってしまっている。なのでハジメとソウジは冒険者達に“威圧”を発動。一気に黙らせる。

 

 

「……で?」

 

「腹の中のもん、ぶちまけたいヤツはいるか?」

 

「「「「「調子に乗ってすんませんっしたー!!!!」」」」」

 

 

ハジメとソウジの囁くように、されどやたら響く声に、冒険者達は見事なハモリとシンクロした土下座で謝罪する。ブルックでの彼らの所業を知っているので、彼らの中に逆らう意思は皆無なのだ。

 

 

「もう、せっかくの食事の時間ですから少し騒ぐくらいいいじゃないですか。そ、それに、私はハジメさんのものですし?」

 

「そんなことはどうでもいい」

 

「はぅ!?」

 

 

さりげなくハジメにアピールするシアだが、ハジメはばっさりと切り捨てる。ソウジは無視してシチューモドキを食べていく。

そんなハジメにユエが可愛らしく注意し、ユエとシアに串焼き肉を「あ~ん」をされるハジメ。その時ソウジは······

 

 

「……あ、あ~ん……」

 

「…………」

 

 

恥ずかしそうに顔を赤めたアタランテから差し出された串焼き肉を食べていた。その後は互いに「あ~ん」をし、ハジメもユエとシアにねだられ、「あ~ん」をした。

それを見ていた冒険者達は内心で「頼むから爆発して下さい!!」と一致したのは言うまでもない。

それから二日後、フューレンまであと一日という頃に、無粋な襲撃者が現れた。

 

 

「敵襲です!森の中から百以上の魔物がこちらに来ています!!」

 

 

シアの警告に、ソウジ達を除く冒険者達の間に一気に緊張が走る。この道の安全はそれなりに確保されており、魔物の遭遇も多くても四十体くらいなのだが、その倍の魔物の数が迫ってくれば当然だろう。だが……

 

 

「彼の者、常闇に紅き光をもたらさん、古の牢獄を打ち砕き、障碍の尽くを退けん、最強の片割れたるこの力、彼の者と共にありて、天すら呑み込む光となれ、“雷龍”」

 

 

ユエの詠唱(に偽装したハジメとの出会いと未来の詠)で発動した“雷槌”という上級魔法を重力魔法で纏め、任意でコントロールする複合魔法、“雷龍”を発動。ほとんど一瞬で魔物達を全滅させた。

そんなユエ無双の翌日、一行は無事にフューレンに到着した。

フューレンの東門には六つの入場受付があり、そこで持ち込み品のチェックをするそうだ。だが、他の商隊の馬車もあり、列を作って順番待ちの状態である。

その間、馬車の屋根の上でのんびりしているハジメとソウジのもとにモットーがやって来る。何やら話があるモットーにハジメとソウジが屋根から飛び降りて話を聞くと案の定、売買交渉であった。目的は二人の持つアーティファクトである。特に宝物庫は輸送コストの問題が一気に解決するので喉から手が出るほど欲しいだろう。

 

 

「その話はきっちり断った筈だが?」

 

「ああ。何度言われようと答えは同じだ。諦めるんだな」

 

 

実は野営中にモットーがしつこい交渉をしたので、二人で軽い殺気をぶつけてその場は引き下がらせたのだが、やはり諦めきれないのか、懲りずに再び交渉を持ちかけてきたようである。そして、モットーは最悪の一手を指してしまう。

 

 

「しかし、あなた達のアーティファクトは一個人が持つにはあまりにも有用すぎる。その価値を他の者が知ればかなり面倒なことになるでしょうなぁ……例えば、彼女達の身ッ!?」

 

 

モットーが脅すように屋根の上にいる彼女達に狂的な目で視線を向けた瞬間、額と喉元に冷たく固い何かが押し付けられた。壮絶な殺気と共に。馬車の影で、壮絶な殺気もモットーだけに叩きつけられているため、周囲は誰も気づいていない。

 

 

「それは宣戦布告か?」

 

「もしそうなら……わかっているよな?」

 

 

静かで、氷の如き冷たい声音。そして、深い闇のような瞳に感じるハジメの紅い隻眼とソウジの蒼い隻眼。ちょっと配慮すれば面倒事を避けられるならそうするが、その“ちょっと”を越えるなら“遠慮はしない”。二人にはその覚悟を既に持っている。そんな二人にモットーは必死に言葉を捻り出して弁明する。

 

 

「ち、違……い、ま…す。わ、わた…し…は…ただ……そ…うい…う、こ……と…もあ、る……と……それだ、け、を……」

 

「……そうか」

 

「なら、今回はそういうことにしておくか」

 

 

その言葉を聞いたハジメとソウジはそう言って、ドンナーをしまい、峰で押し付けていた炎凍空山を納刀して殺気を解除する。その瞬間、モットーはその場で崩れ落ちる。

 

 

「別に、あんたが何をしようと勝手だし、誰かに言いふらそうとしても構わない」

 

「だが、敵意を持って立ちはだかるなら容赦はしない。国だろうが世界だろうが関係なく、全て血の海に沈めてやる……生き残れると思うなよ?」

 

「……なるほど。実に、割に合わない取引でしたな……欲に目がくらんで“竜の尻を蹴り飛ばす”とは……」

 

 

モットーは青ざめた表情のまま、この世界の諺で自身の行動を自虐する。昔、竜人族の尻を蹴り飛ばして叩き潰された阿呆がいたことから、手を出さなければ無害な相手にわざわざ手を出して返り討ち合う愚か者という意味で伝わっている。

その竜人族は五百年以上前に滅びたとされており、その理由には色々な説があるそうだが、アタランテ曰く「大方、あのクソが裏で手を引いて滅ぼしたんだろうな。愉悦目的で」と顔をしかめて言ったので、改めて連中のクソ振りにうんざりしたのは言うまでもない。

その後、何とか回復したモットーはお詫びとしてユエの“雷龍”が竜とあまり知られない方がいいという忠告と、根っからの商人であると窺わせる、逞しい商売魂を覗かせながら、前列へと戻っていく。

ここでも波乱が待っていそうだと、ハジメとソウジは互いに苦笑して肩を竦めた。

 

 

 




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