てな訳でどうぞ
中立商業都市フューレンは高さ二十メートル、長さ二百キロメートルの外壁で囲まれた大陸一の商業都市である。
フューレンは様々な手続関係の施設が集まる中央区、娯楽施設が集まった観光区、武器防具、家具類などの生産、直売している職人区、あらゆる業種の店が並ぶ商業区と、大きく四つのエリアに分かれている。
その中央区にある冒険者ギルド:フューレン支部内にソウジ達は来ていた。目的は依頼達成の報告とフューレンのガイドブックである。
だが、ガイドブックよりも便利な案内人の存在を教えてもらったので、リシーと名乗った案内人に料金を支払い、共に朝食を取りながら都市の基本事項を聞いている。
「そういうわけなので、一先ず宿をお取りになりたいなら観光区へ行くことをオススメしますわ。中央区の方は仮眠場所という傾向が強いので」
「なるほどな。なら、どこがオススメなんだ?」
「様々な種類の宿が数多くございますので、お客様のご要望次第ですね」
「そうか。なら飯が美味くて風呂あり、責任の所在が明確な場所はあるか?」
ソウジの最初の要望に頷いていたリシーだったが、続いて出た言葉で首を傾げる。
「責任の所在、ですか?」
「ああ、何かしらの争いごとに巻き込まれた時、こちらが完全な被害者だった時、宿内での損害について責任とかな」
「オレ達の連れは目立つからな。観光区はハメを外すヤツも多いだろうし、逞しい商人が強行に出る可能性があるからな。もちろん“出来れば”の範囲内だ」
ハジメとソウジの言葉に、リシーは、朝食をうまうまと食べるユエとシア、皆の倍を食べるアタランテに視線をやり、納得したように頷く。現に今も周囲の視線をかなり集めているから尚更だ。
「それなら警備が厳重な宿でいいのでは?」
「それでもいいが、欲望に目がくらんだヤツは時々、とんでもないことをするからな」
「警備も絶対でないからな。最初から物理的説得を前提にした方がいいんだよ」
「……な、なるほど、それで責任の所在ということですね」
ハジメとソウジの意図を完全に理解したリシーは、やる気に満ちた表情で了承し、他に要望がないかユエ達にも聞く。
「……お風呂は混浴、貸切が必須」
「なら、部屋は二つ。後、食事も部屋で食べられる場所がいい」
「えっと、ベッドが大きい方で」
少し考えて、ユエ達はそれぞれの要望を伝える。自然ととある意図が透けて見える要望にリシーは察し、頬を僅かに赤めながらもすまし顔で了承する。
ちなみに、すぐ近くのテーブルでたむろしていた男連中から嫉妬の視線がハジメとソウジに飛んできたが、普通にスルー。その後も他の区についてリシーから話を聞いていると、不意に強い視線を感じた。
その視線の先を、ハジメとソウジがチラリと辿ると、体重百キロを超えているであろう金髪のブタ男がいた。ブタ男はそのままソウジ達のテーブルに近づき、ニヤついた笑みでユエとシア、アタランテを見やる。そして、ハジメとソウジに気が付くと、随分と傲慢な態度で一方的な要求をする。
「おい、ガキ共。ひゃ、百万ルタやる。その奴隷を、わ、渡せ。それとそっちの二人はわ、私の妾にしてやる」
ブタ男がそう言ってユエとアタランテ触れようとした瞬間、壮絶な殺気が降り注いだ。それにより、ブタ男は情けない悲鳴を上げて尻餅をつき、股間を濡らす。ハジメとソウジの“威圧”の対象外だったリシー以外の範囲内の人物は、青ざめて萎縮している。意識が飛んでいないのは脅しの為に十分に加減していたからだ。
ハジメとソウジは“威圧”を解除してユエ達に移動を促し、ギルドを出ようとするも、大男がソウジ達の進路を塞ぐような位置取りで仁王立ちした。
「れ、レガニド!そのクソガキ共を殺せ!報酬は弾んでやるから、そいつらをなぶり殺せぇ!!女は私のだから傷つけるなぁ!!」
「了解ですぜ……そういうわけだ。わりぃな坊主ども。俺の金のために半殺しになってくれ。嬢ちゃん達の方は……諦めてくれ」
レガニドと呼ばれた全身筋肉の巨漢はそう言うと、腰の長剣を抜かず、拳を構える。周りのヒソヒソ声からレガニドは“黒”の冒険者のようだが関係ない。レガニドから闘気が噴き上がった事で、正当防衛が成立するので半殺しにしようと構えた瞬間、ユエがそれを止めた。
「……待って、私達が相手をする」
「せっかくの機会だ。これを利用して私達でも痛い目に合わせられると示してやる」
「ああ、なるほど。そういう事ですね」
ユエがそう言って間に立ち、アタランテも理由を述べながらユエに続き、ユエの言葉に困惑していたシアも、アタランテの説明で納得の顔をする。
「ガッハハハハ、嬢ちゃん達が相手で痛い目に合わせるだって?中々笑わせてくれるじゃ――」
シュッ!
レガニドの言葉を遮るように、何かが頬を掠め、一筋の傷を刻み付ける。レガニドが咄嗟に後ろを見ると、後ろの壁に金属製の矢が突き刺さっており、改めて前を向くと短弓形態のヤークトを構えたアタランテがいた。あまりの早業にレガニドは冷や汗を掻いて警戒心を一気にはねあげる。ちなみに魔力矢ではなく金属製の矢を使ったのは、ハジメとソウジが頼み込んだ、面倒事を避けるちょっとした配慮の一つであり、護衛任務の前に矢筒と一緒に持たせていたのだ。
それを見たハジメとソウジは苦笑いしながら肩を竦めて一歩後ろに下がる。それを確認すると、ユエとアタランテは目でシアに合図を出す。シアもそれを読み取り、ドリュッケンを構える。
「おいおい、兎人族の嬢ちゃんが相手するのか?雇い主の意向もあるから、大人しくしていて欲しいんだが?」
「腰の長剣は抜かないんですか?手加減しますけど、素手だと危ないですよ?」
「ハッ、大きくでたなぁ。坊っちゃん!わりぃけど、傷の一つや二つは勘弁ですぜ!」
レガニドはアタランテに警戒しながらも、シアとユエには大して気にせずにブタ男に一言断りを入れる。シアは言葉はないと、ドリュッケンを腰だめに構え、レガニドの眼前にまで一気に踏み込む。
「ッ!?」
「やぁ!!」
レガニドは咄嗟に両腕を十字にクロスして防御しようとするが、踏ん張り不可能、スイング速度も速すぎて、後ろに飛んで衝撃を逃がすことも叶わない。結果、生々しい音を響かせながら勢いよく吹き飛ばされ、壁に背中から激突する。
既に満身創痍だが、レガニドは意地で立ち上がってしまい……
「舞い散る花よ、風に抱かれて砕け散れ、“風花”」
ユエが自身のオリジナル魔法大二段、“風爆”と重力魔法の複合魔法“風花”を放ち、レガニドを“空中で踊らせ”、集中的に股間を狙い撃ちにした。サンドバッグから解放されたレガニドはピクリとも動かず、周りの男性陣はこの時、彼女達は鬼姫様だったと戦慄して股間を覆った。
あり得べからずの光景に誰もが硬直するなか、ハジメとソウジはツカツカと歩き、ブタ男の前に立つ。
「く、来るなぁ!わ、私を誰だと思っている!ププギャ!?」
ブタ男の叫びを無視し、ソウジが右足で意識を刈り取らない、絶妙な力加減でブタ男を天井へと蹴りあげる。蹴りあげられ、天井に激突したブタ男はそのまま床に仰向けで落下、今度はハジメがその醜い顔を踏みつける。
「おい、ブタ。二度と視界に入るな。直接・間接問わず関わるな……次はない」
ハジメはそう言って少し足を浮かせ、錬成で靴底からスパイクを出し、勢いよく踏みつけた。
「ぎゃぁああああああああああ!!」
スパイクはブタ男の顔面に突き刺さり無数の穴をあける。ブタ男は痛みで気を失った。
さらに無残な顔となったブタ男を気にも止めず、ハジメとソウジはどこか清々しい表情でユエ達に歩み寄る。ユエ達も微笑んで二人を迎え、そのまま、呆然としているリシーに場所を変えて、説明の続きをお願いする。
リシーはソウジ達にこれ以上関わりたくなかったが、ユエとシア、アタランテが両脇と背中を固めて逃がそうとしない。そんなリシーにとっての救い、ギルド職員が今更ながらにやって来た。
「あの、申し訳ありませんが、あちらで事情聴取を……」
「そうは言っても、あのブタが俺達の連れを奪おうとして、それを断ったら逆上、襲いかかってきて返り討ちにしただけだが?」
「目撃証言も沢山あるし、あんた達も見ていたから必要ない筈だと思うが?」
「分かってはいますが、ギルド内の問題は、当事者双方に話を聞いて公正に判断するのが規則でして……」
「当事者双方ね……あれが目を覚ますまで待てと?」
「被害者のオレ達がか?しかもあの手は自分に都合のいい嘘しか言いそうにないのにか?」
「「……いっそ外に拉致って始末するか」」
ハジメとソウジがボソリと呟いた物騒過ぎるセリフに、ギルド職員は大慌てで止めに入る。そんな現場に凛とした声が掛けられる。
「何をしてるんです?これは、何事ですか?」
「ドット秘書長!いいところに!」
ギルド職員達がドット秘書長と呼んだ、眼鏡をかけた理知的な男性に群がっていく。職員から話を聞き終えたドットは、鋭い視線をソウジ達に向ける。
どうやら、解放は大分先になりそうだ。
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