てな訳でどうぞ
「話は大体聞かせてもらいました。やり過ぎな気もしますが……許容範囲としましょう。取り敢えず、彼らが目を覚まし一応の話を聞くまでは、フューレンに滞在してもらいます。そのため身分証明と連絡先を伺っておきたいのですが……それまで拒否されたりはしないでしょうね?」
話を聞き終えたドットは、これ以上は譲歩しないと言外に言い、ハジメとソウジは肩を竦めて答える。
「ああ、構わない。そっちのブタがまだ文句を言うなら、むしろ連絡して欲しいくらいだ。今度はもっと丁寧に説得するからさ」
「それと連絡先は、まだ滞在先が決まってなくてな……そっちの案内人の勧める宿に泊まるだろうから、彼女に聞いといてくれ」
ハジメとソウジはそんな事を言いながらステータスプレートを見せる。そんな二人にドットは呆れ顔となり、リシーは諦めの表情で肩を落とす。
「ふむ……どちらも“青”ですか。向こうの彼は“黒”なんですが……彼女達のステータスプレートは?」
「いや、彼女達のステータスプレートは今は紛失している」
「再発行するにしても……高いだろ?」
ドットからユエ達のステータスプレートの提出を求められ、さらりと嘘をついて煙に巻こうとする。
「ですが、身元は的確にしなければ、記録を取り、君達が頻繁にギルド内で問題を起こすようなら、立場に関係なくブラックリストに載せることになります。何なら、ギルドで立て替えますが?」
だが、ドットの口ぶりから身分証明はどうしても必要のようである。こちらに配慮しての言葉だが、ユエ達のステータスプレートを作成すれば、隠蔽前の技能欄に固有魔法、神代魔法が表示されてしまう。そうなれば大騒ぎになることは間違いなく、凄まじく面倒なことになる。全部なぎ倒すにしても、まともな滞在が出来なくなるのでどうするか悩んでいると、ユエが助け船を出した。
「……手紙」
「?ああ、あの手紙か……」
ハジメは思い出したようにキャサリンから渡されていた手紙を懐から取り出しドットに渡す。
「代わりになるかわからないが、知り合いのギルド職員から渡された手紙がある。困ったらギルドのお偉いさんに渡せと言われた手紙がな」
「?手紙、ですか?……拝見します」
ドットは訝しみながら手紙受け取り、内容を確認していく。最初は流し読みだったが、途中でギョッとした表情を浮かべ、ハジメ達と手紙の間で視線を何度もさまよわせ、やがて、手紙を丁寧に便箋に入れ直してソウジ達に視線を戻す。
「この手紙が本当なら確かな身分証明になりますが……私一人ではこの手紙が差出人本人なのか少々判断が付きかねます。なので、支部長に確認を取りますので少し別室で待ってもらえますか?十分、十五分くらいで済みますので」
「まぁ、それくらいなら構わないか」
本当にキャサリンは何者なのかとソウジ達が思う中、ハジメが代表して了承した。
リシーにはカフェで待機してもらうようお願いして、応接室で待つこと十分。金髪をオールバックにした鋭い目付きの三十代後半くらいの男性がドットと共に現れる。
「初めまして。冒険者ギルド、フューレン支部支部長イルワ・チャングだ」
イルワは簡潔に自己紹介した後、ソウジ達の名前を確認しながら握手を求める。それにハジメが握手をして応える。
ハジメが手紙の内容をイルワに確認すると、手紙には将来有望、ただしトラブル体質なので、出来れば目にかけてやって欲しいという旨の内容であり、肝心の身分証明も、イルワは“先生”からの手紙だということで問題もないようだ。
シアがその辺が気になって、イルワにキャサリンが何者なのか、おずおずと訪ねると。
「彼女は王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていてね。その後、ギルド経営に関する教育係になったんだ。今、各町に派遣されている支部長の五、六割は私も含めて先生の教え子でね、彼女には頭が上がらないんだ。当時はマドンナ、あるいは憧れのお姉さんのような存在だったよ。その後は結婚して、子供を育てるためにブルックの町のギルド支部に転勤したんだよ。当時は王都そのものが荒れたんだが……本人から聞いてないのかい?」
超大物だった。ユエ達が感心するなか、ハジメは時間の残酷さに、ソウジは女は化けると知っているのでまさか……と、遠い目をしていた。
そんなソウジ達に、イルワはソウジ達の腕を見込んである依頼を持ちかけようとする。当然、ハジメとソウジは即刻で断り、席を立とうとするも、続くイルワの言葉で足を止める。
「話だけでも聞いてくれれば、今回の件は不問とするのだが……」
「「…………」」
言外に、話を聞かないなら面倒な正規手続きで今回の件を処理すると伝えるイルワ。“依頼を受ければ”ではなく“話を聞けば”という辺り、強かさが伺える。
「……流石、大都市のギルド支部長だな。いい性格してるよ」
「カードの切り方がホント上手いな……」
ハジメとソウジはそう言って席へと座り直す。イルワは君達もだと言いながら、北の山脈地帯で調査依頼を受け、予定を過ぎても帰ってこない冒険者一行の一人、クデタ男爵家の三男ウィル・クラウの探索の依頼の話をする。
ハジメとソウジは、自分達は青ランクだから不相応だとイルワに言うも。
「さっき“黒”のレガニドを瞬殺しただろう?それに、ライセン大峡谷内の魔物を余裕で倒せる者なら相応以上だと思うのだが?」
「……手紙か……」
「……いや、ちょっと待て。今、“峡谷内”と“余裕”でと言ったよな?彼女にはそこまで言ってないぞ?」
ライセンの魔物の素材を換金した際、受け取り人のキャサリンには多少話したが、それは“峡谷の入り口付近で、獲物を求めて出てきた魔物を、少し苦戦しながらも倒した”程度にしか話しておらず、イルワが言ったような内容は彼女には教えてはいない。その答えはシアがもたらした。
「すいません。ユエさん達と一緒に、つい話が弾みまして……」
「……裏切り者」
「·······すまなかった」
「お前ら……」
「全員、後でお仕置きな」
原因がユエ達だった事にソウジは顔を右手で覆って呆れ、ハジメはお仕置き宣言をする。そして、イルワは友人の息子だから依頼を受けてもらうよう懇願するも、ハジメとソウジは目的があると言って、依頼を断ろうとする。だが、イルワは報酬の上乗せ、ランクを“黒”への昇格、はてはギルド関連で後ろ盾になると破格すぎる報酬を提示する。
「随分羽振りがいいな。友人の息子にしては入れ込みが過ぎると思うが?」
ハジメが発したその言葉に、イルワは後悔を多分に含んだ表情となる。
「実は……ウィルに今回の依頼を勧めたのは私なんだ。調査も確かな実力のあるパーティーで、実害もなかったから問題ないと思った。ウィルは昔から冒険者に憧れていたんだが……その資質はなかった。だから今回の依頼に同行させて、冒険者は無理だと悟って欲しかったんだ……」
どうやらイルワは相当焦っているようだ。報酬も悪くなかったので、条件付きで了承することにする。
「それなら二つ条件がある。一つはユエ達のステータスプレートの作成。そして、そこに表記される内容は他言無用を確約すること。もう一つはギルド関連に関わらず、アンタのコネクションを全て使って、俺達の要望に応え便宜を図ること」
「この二つが呑めないなら、この話はなしだ。どちらも必要だからな」
「……何を要求する気かな?」
一つ目はまだしも、二つ目に関しては立場から許容するわけにはいかないイルワ。だが、藁にもすがる思いもあり、二つ目の内容を確認する事にする。
「別に無茶なことは言わないさ。オレ達は少々特異な存在だから、これから先、確実に教会連中に目を付けられる。だから、その時に伝手があれば便利だろ?指名手配されても施設の利用を拒まないとか、そういう程度の味方になってくれればいいだけだ」
「指名手配されるのは確実なのかい?個人的に君達の秘密が気になってきたが……」
イルワは暫く考え込み、意を決したようにハジメとソウジに視線を合わせる。
「犯罪に加担する行為や要望には絶対に応えられないから、その度に詳細を聞き、私自らが判断する。できる限り君達の味方にはなるが……これ以上は譲歩できない」
「ああ、それでいい」
「報酬は依頼が達成された後でいい。本人か遺品あたりを持って帰ればいいよな?」
これから先ステータスプレートは何かと必要になるし、作成時の面倒もこれで解決する。だが、いずればれるにしても積極的に根回しされるのは些か面倒だ。なので、依頼達成の後なら悪いようにはしないだろうと考え、ステータスプレートの作成は依頼完了後にした。
イルワもその意図を察して苦笑い。そして、改めて真剣な眼差しで、頭を下げて頼み込む。そんなイルワにソウジ達は実に軽い調子で答える。
「あいよ」
「……ん」
「おうよ」
「ああ」
「はいっ」
その後、支度金や北の山脈地帯の麓にある湖畔の町の紹介状、件の冒険者達が引き受けた調査依頼の資料を受け取り、ソウジ達は部屋を出て行く。そして、カフェの奥に待機していたリシーに案内させ、別れを告げた後(この時彼女は心から安堵していた)、ソウジ達は北を目指す。
場所は湖畔の町、ウルだ。
次回はついに再会
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