てな訳でどうぞ
広大な平原のど真ん中、北へ向けて真っ直ぐに伸びる、整備されていない街道を、黒塗りの装甲に四つの車輪がついた車体―――魔力駆動四輪車“ブリーゼ”は凸凹の道を苦ともせずに爆走している。時速八十キロの速度で運転席にいるのはソウジである。隣の助手席にはアタランテが座り、ハジメ達は後ろの席にいる。
バイクではなく車を使っている理由は、ハジメが探索用のアーティファクトを作成しているからだ。戦闘用ではなかった為半分しか出来上がっていなかったが、ウィルの捜索にあたって必要となるため、車もあったので移動しながら完成させることにしたのだ。シアは若干、風を感じられず不満のようだが、ハジメとイチャイチャしたい欲求が上回ったので一緒に乗っている。
「このペースなら後一日だな。このままノンストップで町まで行くか」
「だな。多分、日が沈む頃に到着するだろうから、一泊してから明朝で捜索だな。丁度必要なものも出来上がったし」
ハジメはそう言って出来上がった数機の鳥型の模型―――“無人偵察機:オルニス”を宝物庫にしまう。このオルニスは感応石に魔力を注ぐと片割れの鉱物に映る景色をもう片方の鉱物に映せる遠透石、重力魔法を生成魔法で鉱物に付加して、宙に浮くようにした鉱物:重力石で作られたアーティファクトだ。
ちなみに、これの攻撃特化型は真っ先に完成している。これを完成させ、実験がてらに使ったハジメとソウジは「完全にガン○ムのファン○ルだな……後悔はないけど」と、ハモって呟いたのは記憶に新しい。
若干、遠い目となった彼らにユエとアタランテが話しかける。
「……積極的?」
「お前達のスタンスからして、随分と珍しいな」
「まぁ、生きていた方が恩を大きく売れるからな。後ろ盾がどれくらい機能するかわからないが保険は多い方がいいだろ?」
「……確かに」
「後、ウルの町は水源が豊かだから稲作、米の生産が盛んのようでな。ブルックの町で一度食べたが、あっちの方が米料理の種類が豊富みたいだからな。早く行って食べたいんだよ」
「ソウジ!!もっと飛ばしてくれ!!少しでも早く食べにいきたい!!」
ハジメの言葉にアタランテが物凄い勢いで食い付き、ソウジに急ぐように急かす。
「落ち着けよ。米は逃げないからな」
ソウジは苦笑しながらアタランテを落ち着かせ、気持ち分速度を上げて、ウルの町を目指していった。
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ウルの町に到着したソウジ達は、この町の一番の高級宿“水妖精の宿”に向かい、オーナーのフォスに軽く事情を説明し、部屋を用意してもらう。その時に米料理について聞いたのだが……
「香辛料を使った料理は材料が不足して今日限り……故に香辛料の料理は一人一つだけ、だと……?」
「はい。ご存知と思いますが、北山脈の異変のせいでここ一ヶ月ほどの採取が滞ってまして……」
ニルシッシル(異世界版カレー)が今日までしか食べられない事からの制限に、アタランテはショックを受けている。
「そんな……」
「まぁ、今回のニルシッシルはしっかり味わって食べるんだな」
「……ああ」
すっかりしょげているアタランテを連れ、ソウジ達は二階へと上り、それぞれの部屋に偽装用の荷物を置いて、一階のレストランへと向かう。
「そんなにしょげるな。そんなに気落ちしてるとせっかくの料理が美味しくなくなるぞ」
「……そうだなソウジ」
「ああ、羨ましいですぅ!私もハジメさんと二人きりの世界を作りたいですぅ!」
「お前は本当に相変わらずだな」
「当然ですぅ!私もユエさん同様にハジメさんの事が大好きなので!!」
「……ん。私もハジメの事が大好き、愛してる」
「……あぁ、俺もだ、ユエ」
「もうっ、そうやって二人の世界を作って……ソウジさんも何か言って下さい!」
「なんでそこでオレに振るんだよ?」
そんな風に和気藹々と会話をしながら歩いていると、一番奥にある部屋のカーテンが突如、勢いよく開かれる。
シャァァァ!!
存外に大きく響いたカーテンの引かれる音に、ソウジ達はギョッとして立ち止まる。カーテンの向こう側にいたのは―――
「南雲君!空山君!」
「あぁ?」
「んぉ?」
「「…………………………先生?」」
担任の畑山先生だった。まさかの人物にハジメとソウジは目を大きく見開き、驚愕して思わず声を揃えて、先生と呟いてしまう。
「……やっぱり南雲君と空山君なんですね?生きて……」
「「いえ、人違いです。では」」
涙目となる畑山先生にハジメとソウジは再びハモってそう言い、宿の出口へと歩き始める。だがそれを、慌てて追いかけて裾口を掴んだ畑山先生によって止められる。
「ちょっと待って下さい!二人は先生のことを先生と呼びましたよね!?」
「いや、あれは方言で“チッコイ”という意味だ」
「聞き間違いだから早く手を離してくれ」
「それはそれで、物凄く失礼ですよ南雲君!空山君もそうですが、その格好……何があったんですか?どうしてここにいるんですか?何故、直ぐに皆のところへ戻らなかったんですか?答えなさい!南雲君!空山君!先生は誤魔化されませんよ!」
畑山先生の怒声がレストランに響き渡り、周りの客から好奇心に輝いた目を向けられる。奥から教会の騎士らしき人とクラスメイト達がやって来る。
クラスメイト達はハジメとソウジの姿を見て、生きていたことと、外見と雰囲気の変貌から驚愕の表情を浮かべていた。特にクラスメイトの内の一人―――園部が一番驚いているようである。
ソウジは取り敢えずこの場を切り抜ける案を考えるも、“逃げる”“人違いで押し通す”“無視する”しか浮かばない。そんな中、ユエとアタランテが、ハジメとソウジを掴む畑山先生の手を強引に振り払った。
「……離れて、二人が困ってる」
「な、何ですかあなた達は?今、先生はお二人と大事な話を……」
「なら、少しは落ち着いたらどうだ」
ユエとアタランテの注意に畑山先生が僅かに怯む。そして、暴走気味だったことを自覚した畑山先生は顔を赤めながらハジメとソウジからそっと距離をとり、背筋を伸ばす。……背伸びした子供のように。
「すいません、取り乱しました。改めて、南雲君と空山君ですよね?」
今度は、静かではあるが確信を持った声音で、真っ直ぐな視線で畑山先生はハジメとソウジに問い直す。そんな畑山先生に、ハジメとソウジは観念したように、二人は深い溜め息と共に肯定した。
「ああ」
「そうだ。久しぶりだ、先生」
「やっぱり、やっぱりお二人なんですね……生きていたんですね……」
再び涙目になる畑山先生に、ハジメとソウジは特に感慨を抱かず肩を竦める。
「まぁな。何とか生き残ってるよ」
「色々あったけどな」
「よかった。本当によかった……」
それ以上の言葉が出ない様子の畑山先生を一瞥し、ハジメとソウジは近くのテーブルに近寄りそのまま座席につく。それを見て、ユエ達も席に着き、ハジメがクラスメイトの後ろで事の成り行きを見守っているフォスを手招きする。畑山先生達は突然の行動にキョトンとしている。
「ええと、いいんですか?多分ですけど……元の世界のお知り合いですよね?」
「別に関係ないだろ。流石に驚いたが、それだけだ」
「元々晩飯食いに来たんだから早く注文するぞ。特にニルシッシルは楽しみなんだからな」
「ああ。想像した通りの味なら嬉しいからな」
「……ハジメの好きな味、知りたい」
「それ以外の料理も食べてみたいからな。ニルシッシルは最後に食べるとして、最初は……」
「すいませぇ~ん、注文お願いしまぁ~す」
最初はおずおずしていたシアも意識を切り替え、困った笑みで寄って来たフォスに注文を始める。勿論、待ったをかける人物が現れる。言わずもがな、畑山先生である。
「なに、物凄く自然に注文してるんですか!?まだ話は終わってませんよ!大体、こちらの女性達はどちら様ですか?」
如何にも「先生、怒ってます!」という顔でその場の全員の気持ちを代弁した言い分を放つ畑山先生。漸く二人が四ヶ月前に“誤爆”と“不運”で亡くなったと聞いた畑山先生の教え子であると察した騎士達や、クラスメイト達も、皆一様に頷いて二人の回答を待つ。
ハジメとソウジは少し面倒そうに眉をしかめるが、答えない限り畑山先生はしつこく食い下がることも予想できるので、仕方なく視線を畑山先生に戻す。
「一日以上ノンストップでここまで来て、腹が減ってるんだ」
「だから飯くらいじっくり食わせてくれ。それと、こいつらは……」
ハジメがそう言って視線をユエ達に向けると、三人は、ソウジ達が話す前に、畑山先生達にとって衝撃的な自己紹介をした。
「……ユエ」
「シアです」
「アタランテだ」
「「ハジメ(さん)の女(ですぅ!)」」
「ソウジの女だ」
「お、女?えっ?えっ?」
衝撃的な発言に畑山先生の情報処理は追いつかず、交互に彼等を見る。畑山先生の後ろにいるクラスメイト達も困惑したように顔を見合わせている。男子側は「まさか!」と言った表情でユエ達を忙しなく交互に見ているが。
ハジメがシアの発言を否定し、シアがファーストキスを奪ったと反論した時点で畑山先生の情報処理が追いつき、“先生の怒り”という特大の雷がその場に落ちる。
「南雲君!女の子のファーストキスを奪った挙げ句、二股なんて!直ぐに帰って来なかったのは、遊び歩いていたからなんですね!?空山君もそうなら……許しません!先生は絶対に許しませんよ!お説教です!南雲君、空山君、そこに直りなさい!!」
完全に面倒なことになったと、ハジメとソウジは深い深い溜め息を吐いた。
「顔を隠して誤魔化そうとしないでください!!」
眼帯とバンダナで顔を隠して誤魔化そうとするハジメとソウジの図
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