てな訳でどうぞ
七大迷宮の一つ、【オルクス大迷宮】に挑むため宿場町【ホルアド】に、メルド団長率いる騎士団員数名と共に到着した一行は、王国直営の宿屋に泊まっていた。
明日から迷宮に挑戦する、そんな深夜で……
「フッ!ハッ!セイッ!」
ソウジは宿の外でサーベルに似た剣で素振りをしていた。ソウジは胸の中の不安から寝付けず、同室の南雲を残し、身体を動かして気を紛らわせようとしていた。
八重樫から教えられた素振りを一通りして息を吐くなか。
「随分と精が出てるわね」
後ろから声がかけられた。誰かと思って後ろを向くと、そこにいたのは八重樫だった。
「不安で眠れなくてな。素振りして気を紛らわしていた所だ」
「そう」
そこで会話が途切れ、ソウジは再び素振りを再開する。
「……この間の事はごめんなさい。光輝も悪気があって言ったわけじゃないのよ」
「……分かってるさ。だけど黙っていられなかった、それだけの話だ。だからお前が謝る必要はねぇよ」
ソウジは素振りを中断し、八重樫の方へと向き直る。
「相変わらずいらん荷物を背負う苦労人だな、お前は。そんなんじゃ早々に老けるぞ」
「喧嘩を売っているのかしら?」
八重樫はこめかみに青筋を浮かべ、にこやかな笑みでソウジを睨みつける。
八重樫はソウジに対してはある程度素で接している。趣味をしられているというのもあるが、本に関しては色々と世話になっていたからだ。
「もっと気楽にしろという話だ。最もこの状況じゃ無理だろうが」
「そうね……」
「異世界に召喚されるわ、あのバカのせいで戦争に……“人殺し”に参加する羽目になるわ、もう散々だからな」
「……やっぱり気づいていたのね」
「ああ、皆を煽動した張本人は微塵もそれに気付いてないようだけどな。悪いがお前から折りを見てあのバカにはっきりと伝えておいてくれよ。俺じゃどうせ笑って受け流すだろうし」
「……了解よ。代わりに一つ質問いいかしら?」
「どうぞ」
「空山君は……怖くないの?」
何に対してかは言わなかったが、大方は察していたので正直に答える。
「そりゃ、怖いさ。実際に出来るかもわからねぇし進んでしたくもねぇ。だけど、こうするしか元の世界に……家族の元へ帰れないからな」
「随分とそれに拘っているわね。よっぽど家族のことが大切なのね」
「ああ……俺にとって、滝川家は大切な·····両親を亡くした俺にとって、本当に大切な『家族』だからな」
「……両親を亡くした?それはどういうこと?」
「…………あー……ここからは他言無用で頼む。変な同情されたくねぇし」
うっかり口を滑らしたソウジはそう前置きして、八重樫に話していく。
「俺の両親は俺が幼い頃に他界していてな。その死因は刃物に刺されたことによる出血死……早い話が強盗殺人だ。ちょうど叔父さんと叔母さんの家で義妹の倖と遊んでいた俺は難を逃れたけどよ」
「……その犯人は?」
予想以上に重い話に八重樫は息を呑みつつも、続きを促す。
「犯人はすぐに逮捕された。その犯人は何件も強盗殺人をしていてな。その犯人には死刑判決が下り、四年前に刑は執行されたそうだ」
ソウジは遠い目をしながら過去を語っていく。
「だけど、当時滝川家に引き取られた俺はショックから相当塞ぎこんでな。そんな俺に皆は俺を元気づけようと必死に構ってくれた。叔父さんと叔母さんは交代で、当時五歳の倖は毎日、俺に付きっきりで構ってくれた。そんな滝川家の暖かさのお陰で、俺は立ち直ったんだ」
「そう……」
「だから、心配している家族の元に早く帰って安心させたい。それが俺の本音だ」
ソウジは最後にそう括り、恥ずかしさからそっぽを向く。
「それを聞くと、君は相当無茶しそうな気がするのだけど?」
「……否定はできないな」
八重樫の呆れに、ソウジは苦笑いで返すしか出来なかった。
八重樫はそんなソウジに嘆息する。
「どうせ言っても聞かないでしょうから、これからも貴方をみっちりと鍛える事にするわ」
「悪いな、ホント」
「別にいいわよ。こういうのは光輝達で慣れているし、“友人”を死なせたくないのもあるしね」
「さすが皆のおか……お姉さんだな」
「空山君?今私のこと、お母さんと言いかけたでしょ?」
八重樫の詰問にソウジは視線を逸らす。
「いいわ。その喧嘩、今すぐ買ってあげるわ。剣を構えなさい」
「俺が悪かった。だからその拳を下げてくれ」
ソウジの謝罪に、八重樫は渋々ながらも拳を下げ、矛をおさめる。
「口約束程度だが、お前を守れる程度には強くなれるよう頑張るから、今の失言は水に流してくれ」
「……ハァ、とりあえず水に流しておいてあげるから、感謝しときなさい。それと、その約束は期待しないでおくわ」
そんな冗談めいた約束を、八重樫は呆れながらも穏やかな笑みを浮かべて受け取った―――
ガバガバだぁ······
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