てな訳でどうぞ
散々、畑山先生が吠えた後、他の客の目もあるとVIP席の方へ案内されたソウジ達。そこで怒涛の質問が投げかけられたが……
Q.橋から落ちた後、どうしたのか?
A.超頑張った
Q.その髪と目はどうしたのか?
A.超頑張った結果
Q.なぜ、直ぐに戻らなかったのか
A.戻る理由がない
と、ハジメとソウジはニルシッシルを食べながら、端折りに端折った答えをおざなりで返すだけ。畑山先生は「真面目に答えなさい!」と頬を膨らませて怒るも、当の本人達は柳に風といった感じでスルー。ユエ達と感想を言い合いながら食事をするだけだった。
「おい!愛子が質問しているのだぞ!真面目に答えろ!」
そんなソウジ達に騎士の一人―――畑山先生専属護衛隊隊長のデビッドが怒りを露に拳をテーブルに叩きつけながら大声で怒鳴る。デビッドを始め、畑山先生についている騎士達は教会が畑山先生を色仕掛けで堕とすために遣わした騎士達なのだが、騎士達の方が逆に畑山先生に堕とされ、先生の信者になっているのだ。
「食事中だぞ?静かにしろよ」
「もうちょい行儀よくしろよな」
だが、そんなデビッドの怒りをハジメとソウジは呆れを含んだ物言いであっさりと流していく。全く相手にされていない事に、デビッドはプライドを傷つけられ顔を真っ赤にする。そして矛先をシアへと変えた。
「行儀だと?薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせているお前達にそっくりそのまま返してやる。せめてその醜い耳を切り落とせば少しは人間らしくなるだろう」
侮蔑をたっぷりと含んだ眼で睨まれたシアは、初めて受けた直接的な差別的言葉の暴力に、シュンと顔を俯かせる。他の騎士達もデビッドと同じような目でシアを見ている。
そんなデビッドに、ユエとアタランテがシアの手を握り、絶対零度の視線をデビッドに向ける。
「何だその眼は?無礼だぞ!神殿騎士に逆らうのか!」
ユエとアタランテに気圧された事と、愛しい畑山先生から非難がましい視線を向けられたことで、デビッドは軽く我を失い、思わず立ち上がる。
「……フン」
「……小さい男」
アタランテから鼻で笑われ、ユエからは嘲られる。完全に男としての器の小ささを嗤われ、デビッドは完全にキレた。
「……異教徒どもめ。そこの獣風情と一緒に地獄へ送ってやる」
無表情で静かに呟き、傍らの剣に手をかけるデビッド。周りの静止も聞かず、僅かに剣を鞘から引き抜いた、その瞬間―――
ドパンッ!!
キィン!
乾いた破裂音と金属音が同時に鳴り響き、同時にデビッドの頭部が弾かれたように後方へ吹き飛んだ。デビッドはそのまま背後の壁に後頭部を強打、白目を向き、刀身を根本から斬られた剣の柄を手放しながらズルズルと崩れ落ちた。
誰もが、今起きたことを正しく認識できず硬直するなか、フォスが大慌てで何があったのかとカーテンを開けて飛び込んできた。そして、目の前の惨状に目を丸くして硬直する。
フォスの登場で畑山先生達は我に返り、破裂音の源へと視線を向けると、座席に座ったまま、白煙が上がっているドンナーを構えたハジメと、同じく座席に座ったまま、炎凍空山を振り上げたソウジの姿があった。種を明かせば、ハジメがドンナーでデビッドの頭をゴム弾で撃ち、ソウジが炎凍空山でデビッドの剣を真っ二つに斬ったのだ。
その詳細は分からぬまでも、原因がハジメとソウジであると察した騎士達は一斉に剣を手にかけて殺気を放つ。その直後、ハジメとソウジが“威圧”を使い、騎士達とは比べ物にならない壮絶な殺気を放ち、立ち上がりかけていた騎士達を強制的に座席へと座らせる。
ハジメはドンナーをゴトッとわざとらしく音を立ててテーブルの上に置き、ソウジも炎凍空山をカチンッとわざとらしく音を立てて納刀する。どちらも威嚇のためである。そして、自分達の立ち位置と彼らに求める立ち位置を明確に宣言する。
「俺達は、あんたらに興味がない。関わりたいとも、関わって欲しいとも思わない。今までの事とかこれからの事をいちいち報告するつもりもない」
「ここに来たのは仕事だからで、それが終わればまた旅に出てお別れだ。あとは互いに不干渉、どこで何をしようと勝手だが、オレ達の邪魔だけはするな。今みたいに敵意を持たれると……つい殺りかねないからな……わかったか?」
その言葉に、二人からのプレッシャーに必死に堪える騎士達は僅かに頷く。それを確認したハジメとソウジは畑山先生達に視線を向ける。畑山先生は何も言わず、否、何も言えずに二人を見つめる。何となく畑山先生の先生としての矜持から了承できないだろうと察し、無理に返事を求めず、ハジメとソウジは“威圧”を解く。クラスメイト達は明らかに怯えているので関わっては来ないだろうと推測する。
凄まじい威圧感から解放され、その場に座り込む彼等に構わず、ハジメはシアに話しかける。
「シア。これが“外”での普通なんだ。気にしてたらキリがないぞ?」
「わかってはいたんですが……やっぱりこの耳は気持ち悪いのでしょうね」
自嘲気味に、自分のウサミミを手で撫でるシアに、ユエとアタランテが慰めるように言う。
「……シアのウサミミは可愛い」
「普通に愛らしく思うぞ」
「……そうでしょうか」
「コイツらは教会やらから洗脳じみた教育を受けているから、忌避感が半端ないだけだ」
「ソウジの言う通りだ。それに、兎人族は愛玩奴隷の需要は一番のようだし、一般的には気持ち悪いとは思われていない筈だ」
「それに、ユエから聞いた話だと、ハジメはシアが寝ている間にお前のウサミミを触っているようだしな」
「そうなんですか、ハジメさん!?」
一気に目を輝かせて問い詰めるシアに、ハジメは非難めいた視線をソウジに向ける。
「……ん。シアのウサミミをモフモフしているハジメの顔は優しげ」
「ユエ!?」
「そんなに私のウサミミが好きだなんて……えへへ」
さっきまでの緊迫感が嘘のような桃色空間に、ほとんどの者が目を白黒とさせている。男子生徒の方は嫉妬の視線を向けているが。
その場の雰囲気が落ち着いた事で騎士の一人―――畑山先生専属護衛隊副隊長のチェイスが謝罪と同時にハジメのドンナーについて問いかける。ハジメが煙に巻こうとした矢先、クラスメイトの男子、玉井の興奮した声で遮られる。
「そ、それ銃だろ!?何でそんなもん持ってんだよ南雲!」
玉井の叫びにチェイスが反応し、その後の玉井の言葉でドンナーが異世界の武器であることを知るチェイス。
「つまり、この武器はこの世界の物ではなく、異世界人によって作成されたもの……作成者は当然……」
「俺だな」
「……あっさりと認めるんですね。南雲君、その武器が持つ意味を……」
「この世界の戦争事情を一変させる……だろ?量産できればな」
ハジメはそのまま、あらかじめ用意していた言葉でバッサリと却下する。しかし、チェイスは諦めずに食い下がる。
「ですが、あなたが協力する事で、お友達や先生の助けにもなるんですよ?ならば……」
「まだ勘違いしてるようだからハッキリと言っておく。オレらにとって、コイツらのほとんどは“同郷”だが“他人”と同じ認識だ。だから興味もないし協力するつもりもない」
「もし、奪おうというなら敵とみなす。その時は……戦争前に滅ぶ覚悟をしろ」
ハジメとソウジの言葉に、全身を悪寒に襲われたチェイスは口をつぐみ、クラスメイト達は顔を暗くして項垂れる。畑山先生が間に割って入り、執り成すも、ハジメとソウジの答えは変わらず、食事を終えた二人は席を立ち、ユエ達もそれに続いて席を立つ。そして、そのまま二階への階段を登って去ってしまう。
残されたクラスメイト達からは何とも言えない空気が流れている。死んだと思っていた二人が生きていたことは素直に嬉しいが、当の本人達は、自分達の事など眼中に、否、他人としか思われていなかった。しかも、以前とは比べ物にならない強者となっており、かつての上から目線で話すなど出来そうもない。
今までのことが負い目となり、誰もがハジメとソウジに対して積極的な態度取れない中……
(……南雲にあの時のお礼、言えなかったなぁ……)
園部はそう思いながら、ハジメ達が去っていった階段を複雑そうに見つめていた……
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